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たい育  作者: 鈴神楽
1/67

呪いと戦う者達

ついに始まった八百刃のこぼれ話し、第一弾は・・・・・・

 ブースト大陸の農業都市マルマロス 



「ママは仕事しに行って来るからね」

 そう言って、まだ幼い外見の少女が魔獣を動力とする魔動車マドウシャ八進ヤシンから出る。

 その足元には一匹の白い猫が居た。

「あの子達の為にも一生懸命働かないとね」

 少女は、牧場に向かって駆け出すのであった。



「ヤオちゃん、がんばってるね」

 農場の従業員が、一生懸命牛の乳を搾る先程の少女、ヤオ=バーに声をかける。

 ヤオは、笑顔で答える。

「はい。娘達を飢えさせられませんから」

「偉いねー」

 感心した顔をする従業員を農場の主人が睨む。

「人の仕事を感心している暇があったらお前も働け!」

「はい!」

 慌てて自分の仕事に戻っていく、従業員に呆れながらも農場の主人は、ヤオの方を向く。

「でも本当に偉い。その年で四人の赤子を養うなんて。そうそう出来ないぞ」

 ヤオは首を横に振る。

「別に養ってあげてるつもりはないです。だってあの子達が元気で育つ姿を見る度にあちきは大きな力を貰ってますから」

 農場の主人は強く頷く。

「そうだな、子供が健やかに育つ、それが親にとっては一番の力だな」

 農場の主人は、少し離れた所で一人もくもくと働く一人の男を見る。

「テイルもお前と一緒で子持ちだ。やっぱ真面目だよ」

「そうですね」

 ヤオも同意する。



 農場の夜は早い。

 しかし、農場で真面目に働いていた男性、テイルはそんな夜の帳が下りた後も、仮住まいのあばら家で黙々と内職に励んでいた。

 すると、一人のやせ細った少女がやって来て、辛そうな顔をして言う。

「テイル無理しなくても良い。あたしは、どうせ長生き出来ない」

 その一言にもテイルは、淡々と答える。

「何度も言っているだろう。お前の病は俺が治す。お金を貯めて、良い医者にかかればきっと治る」

 少女が首を横に振る。

「駄目、あたしのこれは、呪い。人には治せないよ」

 テイルは机を叩く。

「何故だ! 呪われるべきは俺達の方だって言うのに!」

 その言葉に少女は、微笑んで言う。

「感謝してるよ、テイル」

 テイルは少女に縋る様に泣き続ける。



 テイルは、仕事の合間を使って、本を読んでいた。

「何を調べてるんですか?」

 ヤオが後ろから覗き込み言う。

「なんでもない」

 テイルが本を閉じるがヤオはさっと周りの本を確認して言う。

「呪いを解くのに、元の呪いの種別が明確に解る必要があるよ」

 驚いた顔をするテイル。

「ここにある本は全て呪いに関する童話だからね。専門書を読めないから、それで調べてるんでしょ?」

 ヤオが平然と答えるとテイルが思いつめた様に質問する。

「呪いは解けるのか?」

 ヤオは困った顔をして言う。

「あちきは、専門家じゃないけど、ひとつだけはっきりいえる事はあるよ」

 テイルが自分の方を見たのを確認してヤオが言う。

「解けない呪いは無いんだよ」

 その言葉テイルが言葉を無くす。

「……冗談か?」

 ヤオは笑顔を残して去っていく。



 それから数日は、普通の生活が続いた。

 しかし、破綻の時が来てしまった。

 食事をしていた、農場の主人達の所に使用人の一人がやってくる。

「大変だ。ミルミの奴等の生き残りが町に紛れ込んだ!」

 その場に居た、ヤオ以外の顔に驚きの表情が浮かぶ。

「まさか奴等は全滅した筈だぞ」

 農場の主人の言葉に、報告に来た使用人が慌てて言う。

「本当です! 今町中の人間集めて追い込んでる所です。応援に出ないと!」

 農場の主人も慌てて頷く。

「女子供は隠れてろ! 男達は、全員ミルミの追い込みを手伝え」

 その場に居た殆どの人間が駆け出す中、テイルは一人、呆然として居た。

 その場でゆっくりお茶を飲んでいたヤオが立ち上がる。

「彼女は、無事だよ」

 テイルは、驚くが反射的に聞き返す。

「本当か!」

 ヤオは頷く。

「本人に強い生きる意志があったからね。あちきの魔動車に居るよ」



「ミーサ!」

 八進に入り、昨日の少女、ミーサが無事な姿を確認するなり駆け寄るテイル。

「テイルどうしよう?」

 困惑するミーサ。

 少し落ち着いた様子でテイルが聞き返す。

「どうして町に出たんだ? あれ程外に出るなって言っただろう!」

 怒鳴るテイルに済まなそうに頭を下げるミーサ。

「ごめんなさい。でもどうしても必要な物があったから」

「俺に言えば良かっただろうが!」

 苛立ちに怒鳴るテイルにミーサが顔を赤くして黙ってしまう。

 そこにヤオが来て、テイルの頭を叩き言う。

「あのね、女の子には男性に言いにくい物が必要な時があるの!」

 首を傾げるテイルにヤオは大きな溜息を吐いて言う。

「ミーサちゃん。貴女の欲しがってるものは、そこの棚の中にしまってあるから好きに使って良いよ」

「すいません」

 頭を下げて棚に向かうミーサについていこうとするテイルを抑えるヤオ。

「さっき言った事を忘れたの!」

 怖い顔をするヤオに顔を引きつらせるテイルであった。

「ところで理由くらい聞いて良い、ミルミの里を壊滅させた時に呪いで全滅した筈の傭兵の生き残りが、ミルミの生き残りを保護してるか」

 テイルもミーサも驚いた顔をする。

「どうして知ってるんだ?」

 テイルの質問にヤオは肩を竦ませて言う。

「簡単だよ、ミーサちゃんがミルミの生き残りだって言うのは特徴的な耳を見れば解るよ」

 ミーサはミルミ一族の特徴の耳を慌てて押さえる。

「んで、テイルさんが傭兵だって言うのも体つきを見れば直ぐわかった。そうすると両者の接点なんて、数ヶ月前に周囲の町の人間が金を出し合いミルミの里を傭兵に襲わせた一件しか考えられないでしょ?」

 極々当然の様に言うヤオであった。

 油断無く常に身に着けていたナイフに手を伸ばしながらテイルが言う。

「そこまで知っていて何で俺達を庇う?」

 苦笑するヤオ。

「ただ、ミーサちゃんが生き残ろうと必死に戦ったから手助けしただけだよ」

 その言葉に意外そうな顔をしてテイルが見るとミーサが恥ずかしそうに言う。

「テイルが生き残って欲しいって言ってくれたから」

 強く頷くテイル。

「ありがとう。生き残ってくれて」

「とりあえず、食事にしながら話しをしましょう」

 ヤオの言葉に頷くテイル。



「俺達は邪悪な一族の討伐だと聞いていた」

 テイルは食事が一段落した所で話し始めた。

「しかし違った。ミルミの里の人間は全員善人とは行かないが普通の人間だった」

 悔しげに拳を握り締めるテイルを見ながら悲しげにミーサが続ける。

「ミルミの人間は特殊な魔力があり、死ぬ直前に自分の最後の思いを形にする事が出来るんです」

「正確に言うと、死ぬ際の魂の開放の時に発生する力を形にする能力なんだけどね」

 ヤオがフォローすると驚いた顔をするミーサ。

「どうして知っているんですか?」

「これでもずっと旅してるからね。ミルミの力の問題は、人が死ぬときの思いって負の感情が多いって事。その為、ミルミの人間が死ぬと不幸が訪れると恐れられているね」

 テイルは憤りを抑えられない状態で続ける。

「俺達にはその事実すら教えられなかった。結果、ミルミの人間を殺して、その恨みをかって多くの仲間が死んだ。俺が生き残ったのは本当に偶然だった。たまたまミーサの傍に居たのが幸運だったんだ」

 ミーサを見ながらヤオが納得した。

「なるほど、彼女の両親が、死ぬ直前にミーサちゃんの無事を祈ったって訳だね」

 悲しそうに頷くミーサ。

「しかし、ミーサには呪いもかかった」

 テイルの言葉にヤオは大きな溜息を吐く。

「大体予測はつくよ、馬鹿なミルミの人間が自分ひとりで死にたくないと、ミルミの生き残り全員に死の呪いをかけたって所でしょう?」

 ミーサは答えられず、テイルは頷く。

「ミーサの話しでは両親との願いとぶつかり合い、偶然その力は半減した。しかし、両親のその場を生き残ってくれという願いと違い、道連れにしようとした願いは、その効果が継続されてる」

 ヤオは、ミーサをじっと見て言う。

「ミーサちゃんにかかってる呪いは単に数人のミルミの人間の物じゃないよ。ミルミ一族全ての負の感情が呪いと化してる。それに対抗できたのは強い親の愛の力だね」

「解るのか?」

 テイルの言葉にヤオが食器などを片付けながら言う。

「見れば解るよ。それよりまだあるの?」

 テイルが首を傾げる。

「何がだ?」

 ヤオはミーサを指差して言う。

「彼女にかかっている呪いは、一族全ての意思だよ。その呪いを解こうとすれば当然、それ相当の危険が有るけど、まだ呪いを解く気が有るの?」

 ミーサが複雑な表情でテイルを見るが、気にした様子も無くテイルが聞き返す。

「無くなる理由が、今の言葉に中にあったのか?」

 微笑むヤオに奥から現れた大柄の熊の様な男性が言う。

「あの子達が目を覚ましました」

「了解、まー色々あるかも知れないけど、先にミルクあげてくる」

 ヤオは、そう言って奥に眠らせている赤ん坊達の所に向かう。残った熊の様な大男にテイルが言う。

「もしかしてお前がヤオの旦那か?」

 慌てて首を横に振る大男。

「とんでもないあの御方の隣に立つ資格など私が持てる物ではありません」

 真剣に恐縮してる様子に呆れた顔をするテイル。



「どうやってこの町を出るかが問題だ」

 戻ってきたヤオは、そう言って悩むテイルを見る。

「あのーあたしが、出て行けばテイルは問題なくここで暮らせるんじゃ?」

 テイルに睨まれるミーサ。

「冗談言ってる場合じゃないんだぞ」

 何もいえなくなるミーサにヤオが苦笑する。

「これに乗って町を出れば気付かれずに町を出れるかもよ?」

 テイルが首を横に振る。

「これ以上お前に迷惑をかけられない」

 ヤオは苦笑して言う。

「どうして?」

 驚いた顔をするテイルにヤオが奥の赤子達を指差して言う。

「あの子達って実はあちきの実の娘じゃないよ」

「そんな解りきった事を言うな」

 憤慨するテイルに眉をひそめるヤオ。

「似てない?」

「似てる似てないって言う以前の問題だ。お前の年で子供を生んで居るなんて方が信じられないぞ」

 テイルの容赦ない言葉に少し落ち込みながらヤオが言う。

「あの子達の国は、周囲の国に畏怖されていた。その為、周囲の国が結託して戦争を仕掛けた。その結果、生き残ったのはあの子達だけだった。それが理由じゃいけない?」

 ミーサが同情の視線を奥に向ける。



 走り出す八進。

 窓から町中を探索する町民を見ながらテイルが言う。

「うまく行きそうだな」

 その時、八進が急ブレーキをかけた。

「どうした!」

「囲まれちゃった」

 ヤオの言葉が示すように町民が八進の周りを囲んでいた。

「無理やり突破する事は可能だよ?」

 ヤオの言葉に戸惑うテイルにミーサが強く首を振って言う。

「あたしの為に、他人を傷つけないで!」

「しかしなー?」

 躊躇するテイルにミーサがはっきり言う。

「あたしの所為で他人が傷ついたら本当の呪いの民になっちゃう!」

 ヤオがテイルの肩を叩いて言う。

「貴方の負けだよ。しっかり護ってあげなよ」

 テイルは、大きく溜息を吐いてから気を取り直し、強い意志がこもった目で言う。

「しっかりついて来いよ」

「はい」

 ミーサが返事すると、テイルとミーサが、八進から飛び出て行く。

 その様子を見ていた大男が言う。

「お助けにならなくて良いのですか?」

 ヤオは困ったって顔をして言う。

「最初っから本当の力で助ける訳にも行かないよ。本当に最後の最後まで我慢しないと。自分の力で出来る限界までやった後じゃないと意味が無いんだよ」



 テイルはミーサを引っ張り走り続けたが、地の利は相手にあった。

「行き止まりかよ」

 舌打ちするテイルに追っ手に加わっていた農場の主人が言う。

「何故だ、君みたいな真面目な青年がそんな呪いの民を庇うんだ!」

「違う!」

 テイルの怒声に怯む町民達。

「こいつ等は普通の人間だ。ただ死ぬ間際に特殊な力を発動するだけだ。なんでそれが許せないんだ!」

 テイルの言葉に町民の一人が反論する。

「きっと祖先が悪事をしたからそうなったんだ! 滅びて当然の一族なんだ!」

「祖先の事なんて関係ない! こいつがお前等に何をした! ただの被害妄想でお前達はこいつの平穏を壊したんだ!」

 テイルの言葉に罰が悪そうな顔をする町民達だったが、町長らしき男が言う。

「残念だか、危険な物は危険なのだ。それは証明されている」

 その言葉にテイルは察知した、この男こそ、自分達にミルミ一族を滅ぼす様に依頼した主要人物だと。

「何も知らせず俺の仲間を犠牲にしたお前の方が数倍危険だ!」

 町長が驚いた顔をして言う。

「まさか、生き残りが居たのか。だったら尚更解ってると思うが?」

「ああ、解ってるさ! こいつが普通に暮らしてたのも見た。そしてあんな事が起きなければ誰も不幸には、ならなかったって!」

 テイルの言葉を町長は切り捨てる。

「もしもなど意味ない言葉だ。その娘一人、大した事は起こせぬ。呪いの民を増やす前に殺せ!」

 町民達は、詰め寄る。

 テイルは自分にしがみつくミーサを全身で庇う。

「死ね!」「呪いの民が!」「滅びろ!」

 町民達の悪意がミーサの呪いを増幅し、ミーサから開放させた。

 呪いは、ミーサのみならずその場に居た全員に襲い掛かる。

「そんな、こんな訳が……」

 青褪める町長にいつの間にかに傍に居たヤオが言う。

「人を呪えば穴二つ。何かを滅ぼそうというなら、常に自分が滅びる覚悟が必要って意味だよ」

「全ては、この町の発展の為だったんだ! あの一族が近くに居る間は旅人も来ない! この町を更なる発展を迎える為に必要だったんだ!」

 町長の言葉にヤオが肩を竦める。

「反対だよ、こんな豊かな土地に恵まれた場所がいままで狙われなかったのは、一重にミルミ一族の存在があったからだよ。周りの町の人間もミルミ一族って枷を外してこの町を奪おうとしていた。だからこそ、隣接してないのに大金を出したんだよ」

 愕然とする町長から視線を外して、天を覆うような呪いの塊に挑む様に睨むテイルを見る。

「こいつだけは俺が護る!」

 そんなテイルを呪いから護るため、必死に呪いの力を吸収しようとするミーサを確認してヤオは、足元の白い猫に右手を向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙ビャクガ

 ヤオの右掌に『八』が浮かび、白い猫が刀に変化し、それを手にヤオは跳び上がり、一刀の元に呪い切り裂き、消滅させる。

 その様子を見ていた全員が言葉を無くす。

 ヤオが振り返り笑顔で言う。

「ご苦労様、貴方達の戦う意思があちきを呼んだんだよ」

 ヤオは何も答えられないテイル達の横を通りぬけて町長の前に立ち告げる。

「さっき言ったのは真実。これからこの町は争いに巻き込まれるよ。でもこれは貴方達が選んだ戦い。停滞ではなく先に進む道を選んだ以上、他と争うのは必然だよ。もしもそれが正しい戦いならばあちきの助けがあるよ」

 そのまま去っていくヤオを誰も止められなかった。



『この町ともお別れだな?』

 ヤオの足元に居た白い猫、始まりの八百刃獣、白牙のテレパシーにヤオが大きく溜息を吐く。

「せっかくあの子達を育てるのにいい場所だと思ってたんだけどなー」

 そんなヤオの横を一台の二輪魔動車に跨ったテイルとミーサが通り過ぎて行く。

「幸せになれると良いね」

 その言葉に、子供達の世話をしていた大男が熊の姿、八百刃獣の一体、和怒熊ワドユウに戻り言う。

『大丈夫ですよ。あの二人なら』

 頷くヤオ。

『ところで一つ聞いて良いか?』

 ヤオが頷くと白牙が質問を続ける。

『なんで生理用品なんて持っていたんだ? お前は無いだろう』

 顔を真っ赤にするヤオ。

 ヤオは小さい頃に神名者の鍛錬に入り、肉体の成長速度が遅くなった為、生理が来る前に神名者になり、生理とは無縁の存在だった。

『前から疑問だったのだがな、あんな無駄な物を買うくらいなら、もっと他に使い道があるだろうと』

 ヤオの本気の蹴りが白牙に決まった事は言うまでも無い事だろう。

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