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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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6-6.酒場と噂話

※8/13 誤字修正しました。

 サトゥーです。昔のコンピュータゲームだと酒場はパーティーの編成くらいしかしませんが、TRPGなんかだとシナリオの情報を収集する定番の場所だったりします。
 酔客は口が軽いですからね。





「おまたせ、ナナ」
「はい、マスター」

 う、待たせ過ぎたか。
 フード付きの外套を着せておいたお陰か、変なヤツはまとわり付いていなかったが、かなり退屈させてしまったみたいだ。
 ナナは出てきたオレの腕を取って歩き出す。

「行きましょうマスター」

 歩き出すと腕を組む姿勢になる。えっと、ナナさん? 腕が幸せです。
 帰り際に買ったミーア用の長杖が邪魔だったので反対側の手に持ち替えた。

「どうしたんだい?」
「マスターがお店にいる間に学習しました」

 なんだろう、いやな予感しかしない。

「男女が2人で歩く場合は腕を組む物なのです」

 そう言って、こっちを見るナナの顔は「キリッ」と言う効果音が聞こえてきそうな得意気な顔だ。
 何を学習したのか判ったが、特に腕を振り払う必要もないから、このままで買い物の続きをしよう。
 ナナが誉めて欲しそうな顔をしていたので、空気を読んで誉めておく。少し適当な感じになったがナナは満足そうだ。そして素敵な感触に、オレも満足だ。

 まず、ナナとミーアの服を買おう。

 しかし、この街には中古以外の既製服を売っている店がなかった。新しい服は仕立てるしかないらしい。たしかアリサが服を作れると言っていたので、布などの材料を購入しておく事にした。
 下着なんかは普通に売っていたので2人の分を購入しておいた。この下着はドロワーズというんだっけ? 不思議の国のアリスが穿いている様な感じのヤツだ。

 次は生産用の道具だ。

 職人通りに行って、木工、彫金、革細工、鍛冶の各種工具や木材などの材料を買い付けていく。

 (にかわ)や釘なんかの素材も買ったんだが、釘が意外に高かった。蝶番(ちょうつがい)とかも買いたかったんだが、在庫が無かった。

 鍛冶に必要な炉や金床は、手に入らなかったので購入していない。買っても普通は持ち運べないからな。

 木材は流石に持ち運ぶと目立つので、金だけ払って宿に届けて貰うように頼んでおいた。

「ナナ、もうそろそろ次の店にいかない?」
「マスター、もう少しこのままで」
「楽しい?」
「はい、とても。ふわふわで、ふるふるで……、そう、可愛いのです」

 木材をカンナがけする姿というか、木屑がシュルシュルと出る様子に、ナナが見惚れて動きたがらなかったので、木材加工所で少し時間を喰ってしまった。
 工房のオヤジさんが、一番薄くて長い木屑をくれなかったら夕暮れまでいる事になっていたかもしれない。

 ついでに見かけた工房で、薬を入れるための瓶や容器を購入しておいた。この辺の値段はセーリュー市よりも安かった。燃料になる木材が安いせいかもしれない。

 最後に雑貨屋に寄る。

 魔法屋で、料理関係の本があるかもしれないと教えて貰ったのだ。

 雑貨屋に入ってからキョロキョロしていたナナが、ふらふらと陳列棚の一つに吸い寄せられて行く。

「どうかした?」
「マスター、これは何ですか?」

 そう言ってナナが手に取ったのは、木製のバレッタだ。
 台座には簡単な模様が彫られていて、薄くカットされた石が3つほど嵌めてある。石といっても宝石では無く川原で見かけるような縞模様の石だ。翡翠っぽいので鑑定してみたら緑閃石となっている。何か閃光系の魔法でも使えそうな名前だが、ただの綺麗なだけの石らしい。
 バレッタの相場は銅貨2枚だ。他にも5つほど木製のバレッタがあるが、全て同じ値段だ。

 ナナの蜂蜜色の髪に飾るには少し地味だ。ここには無いが銀製のバレッタの方が映えると思う。

 ナナは、そのバレッタを飽きることなく見ている。
 その様子を興味深そうに見ていた、雑貨屋の婆さんが売り込んで来た。

「ふぇ、ふぇ、ふぇ、銀製のものや、宝石の嵌ったものもあるから見てみんかね?」
「そうですね、せっかくだから見せてください」

 出してもらった3つの高価なバレッタを、ナナの髪に当ててみる。うん、やはり銀色のが映えるな。

「こりゃまた、めんこい奥さんだねぇ」
「そうですね、たまに見惚れてしまいます」

 たしかにルルやアリサの美少女顔を見慣れていたので気にしていなかったが、ナナやミーアも十分綺麗だ。奥さんじゃないけど、別に社交辞令をいちいち訂正する必要もないだろう。

 そんな会話を気にした様子も無く、ナナはうっとりと最初のバレッタを指で撫でている。
 そんなに気に入ったのか。
 わざわざ奥から品を出してきてくれた婆さんには悪いが、この木製のバレッタを買おう。
 その横に青い色の組紐があったので、お土産に人数分買う。ルルが食事の用意をする時に麻紐で髪を纏めていたので丁度いいだろう。リボンもあったが、やめておいた。前にルルにプレゼントしたけど、着けているのを見た事が無い。たぶん、趣味に合わなかったのだろう。

 さて、肝心の料理の本だが、オレの想像していた本とは違った。どの町のどんな料理が美味しかったとか、どんな素材があるとかの本でレシピ集と言うよりはグルメガイドみたいな本だった。もちろん買ったが、料理の向上には使えそうに無い。

「珍しい料理が食べたいのかね? それならハーブとか漬物はどうだい?」

 そういって婆さんが棚の中から、ヒモで封をした壷や瓶を出してきてくれる。

 大蒜やラッキョウのようなものの油漬け、キャベツや白菜の酢漬け、乾燥させた芥子っぽい黄色い粉末などなど20種類くらい出してきてくれた。

 これだけ出てきたのに梅干はなかった。残念だ。

 甘味系は、定番の蜂蜜の他に、ウギ砂糖という抹茶みたいな見た目の砂糖もあったので購入しておいた。

 さらに、いつの間にか脂身から油を絞るための道具なんかも、言葉巧みに売りつけられていた。婆さん、商売が上手いな。

 運べないほど大量に買ってしまったので、何回かに分けて運ぼうかと思ったんだが、婆さんが奥の部屋から下男っぽい人を呼んで、宿まで運搬するように言いつけてくれた。

 そうだ忘れる所だった。

「リュートを置いてませんか?」
「あるよ」

 そう言って婆さんが、ナナの方を指差す。バレッタの置いてある机に一緒に置かれていた。目の前にあるのに目に入らない事って、良くあるよね。
 ミーアへのお土産に、リュートと予備の弦を買う。なんとなく弦を弾いてみる「ティーン」みたいな音がした。

>「演奏スキルを得た」





「えへへ~ 見てみて、この戦利品!」

 馬車には沢山の食材やオレが買い込んだ木材や道具なんかが、積みあがっている。
 アリサが差し出したのは、深めのザルに入った卵だ。20個くらいある。

「ちょっと高かったけど家鴨の卵ゲットしたのよ~ これで卵料理とか食べれるわ!」
「卵は傷むのが早いから、傷む前に何を作るか考えないとな。どのくらい保つんだっけ?」
「もう冬だし、2~3日は保つんじゃない?」
「唐揚げとかコロッケとか作れそうだな」
「つ、作れるの?」
「レシピが判れば作れそうだけど、材料が漠然としか思い出せないし手順もうろ覚えだ」

 アリサに覚えているか話を振ってみたが、知らないらしい。

「うう、諦めずに自炊しておけば良かった」

 辛うじて卵や小麦粉を使うのは覚えていた。いや、片栗粉だっけ?
 ストレージなら保存が利くから、卵を5つほど貰っておいて、旅の間に試行錯誤してみるか。

 後でリザに教えられたが、卵は数ヶ月は保存できるものらしい。現代の卵って消費期限短くなかったっけ? 異世界だからかは判らないが、長持ちする分に文句は無い。

 その日の夕食は、宿の一階の酒場で食べる事にした。()いていたので、奥の長机を2個くっ付けて座る。ミーアを一番奥まった席に座らせた。後で混んで来た時に、人混みに酔うといけないからな。

 料理は肉が控えめのスジ肉と根菜の煮物、魚と大根のスープ、野菜炒め、干した果実、ガボの実が原料の平べったいパン、同じくガボの葉と蔓の漬物だ。肉が控えめだが、食べ応えのあるスジ肉は獣娘達に好評だった。
 オレの対面に座っているミーアは、買ってもらったばかりのリュートが気に入ったのか、食事もせずに弦の調律をしている。

「ミーア、御飯食べてからにしなさい」
「ん」

 オレの言葉に頷くが、リュートは放さない。調律は終わったようだが、弾くか食事をするか迷っているようだ。

「あーん」

 そう言ってリュートを奏で始めながら、小さな口をパカッと開ける。ヒナ鳥みたいで可愛かったので、根菜を一口サイズにしてから口に入れてやる。
 懸命に咀嚼しながら曲を弾いている。エルフの曲だろうか、家路を急ぎたくなるような曲だ。
 つんつんと袖を引かれたので、そっちを見るとアリサが口を空けて自分の口をちょいちょいと指差している。

「あ~ん」
「自分で食べろ」
「ミーアだけなんて、ズルくな~い?」

 そう言われては仕方ない。カボの葉の漬物を一口食べさせてやる。すっぱ苦い、独特の味だ。これで、もう一口とか言わないだろう。

「むぐっ」とか「せめて甘い言葉と一緒に頂戴」とか言っていたが、もう一口とは言わなかったので、正解だったのだろう。

「サトゥー、あーん」
「あ~ん?」
「あーん、なのです」

 前を見るとミーアと、その左右に座っていたポチとタマが3人揃って口を空けていた。3人並んでやられると、本当にヒナ鳥みたいだ。一口ずつ、順番に口に入れてやる。
 せっかくなので、恥ずかしそうにこっちを見ていたルルにも「あ~ん」をしてみた。髪を押さえながら、小さく口を空けるのはいいが、目を閉じるのは止めて欲しい、違うものを想像しそうになる。リザも興味がありそうなので「あーん」をしてみたが、コメントは無かった。不快では無いようなので問題ないだろう。

 また、つんつんと袖を引かれる。
 一瞬、アリサかと思ったが反対側だ。そっちを振り向くとナナが「あ~ん」と言って料理を差し出してくる。

 なるほど、ナナは食べれないから、食べさす側に回ったか。

 うむ、小さい子に食べさすのは平気だが、見た目が年頃の美女にされると破壊力が強い。少し照れながら食べさせて貰う。

 オレの態度が気に食わなかったのか、反対側の紫さんから「イチャイチャ禁止」とか「リア充は爆発するべきなのよ」とか言う少し拗ねたような抗議が出たので、それ以上の「あーん」は禁止になった。
 最初に便乗したのは、アリサ、君だよ?

 ミーアも、リザに注意されて食べるのに専念していた。オレよりリザの言葉の方が重いのがちょっとショックだ――少し甘やかしすぎたのかもしれない――そんな子持ちの父親の様な感想を抱いた夕食だった。

 最初に食べ終わったミーアが曲を弾き始める。獣娘とアリサ達は2回目の注文分を食べているところだ。
 始めはゆったりした曲だったんだが、途中から酔客のリクエストで陽気な曲に変わった。ミーアが無表情な顔で淡々と弾く陽気な曲が、酔客にやたら受けている。

 さっきまで、オレ達以外いなかったのに、ミーアが曲を弾き始めてから客が少しずつ増え始め、今は満席だ。酔客のリクエストはアリサが適当に裁いている。食事をしながら器用なものだ。

 そして食事を終えたアリサに率いられたポチとタマが、肩を組んで陽気な曲に合わせて歌い始めた。3人ともフード付きのマントを着たままなので、微妙に怪しい姿だ。聞き覚えのある曲だと思ったら、ミーアが弾いていたのは、旅の間にアリサ達が歌っていたアニソンだったみたいだ。

「楽しい歌だね」
「あの子達の故郷の歌だそうです」

 後ろの席の商人風の男達が話しかけてきたので、杯を重ねながら雑談する。オレが飲んでるのは酒では無く、ただの果汁だ。ここの(エール)は酸味が強いというか、すっぱくて飲めたもんじゃない。
 殆どは単なる雑談だったが、幾つか気になる話が聞けた。抜粋するとこんな感じの話だった。

「隣のムーノ男爵領を通って来たのですが、奴隷を買ってほしいと幾つかの村で持ちかけられて大変でした」
「今年は不作と言う訳でもないのに、どうしたのやら」
「奴隷と言えば、ムーノ男爵の領地から奴隷を持ち出す時に税が掛かるそうですよ。農民が領外に出るのにも税が要るそうです。たしか移民税とか言ってましたかな。わざわざ国境に兵を置いて検問まで作っていましたから」

 商人達は、あやうく奴隷を買い付ける所だったと大げさに身震いしていた。
 たしか旅行記では侯爵だったはずだので聞いてみた。

「お若い方は知りませんか。たしかに20年ほど前まで侯爵領だったのですが、ムーノ侯爵の一族郎党すべてが、死霊の大群に襲われて城も兵士も皆殺しになる事件があったのですよ」
「題名は忘れましたが、なにか本や演劇にもなっていましたな」
「一時は魔王が現れたかと大騒ぎになって、食料品や医薬品の値段が上がって儲けさせてもらいました」

 不謹慎な話だが、利に聡い商人らしい。

「国王陛下が聖騎士達を派遣してくれたお陰で、死者の軍勢が他の領地まで溢れるという事態にならなく収まって、胸を撫で下ろしたのを覚えています」
「ムーノ侯爵の血縁は、他家に嫁いでいた傍系まですべて変死したとかで、今の男爵とは血筋の繋がりは、全く無かったはずですよ。お隣の公爵様の甥か弟が、家名を継いで土地の管理を任されたそうです」

 何か聞き覚えのある話だ。オレの脳裏に(ゼン)の白骨顔が過ぎる。
 主に聞き役に回り、商人達の話に適当に相槌を打ったり酒を勧めたりしながら話を聞く。

「その公爵様の領地でも変な噂がありましたよ。なんでも死体を買う男がいるとか」
「あれは単なる噂話でしょう? 信仰の対象になっている森に、遺体を埋葬する習慣があるとかで、そこまで運ぶ姿が奇異に見えてできた噂と聞きましたよ」
「そうでしたか、魔物や狼のでる街道を、わざわざ何日も掛けて運ぶとは、信仰と言うのは凄いですな」
「我々商人も人のことは言えんがね」

 しかし、「死体を買う男」って、小説のタイトルにでもなりそうな呼び方だ。
 公爵と言えば昼に噂を聞いたな。

「公爵様の領地で武術大会があるそうですが、みなさんはいらっしゃらないのですか?」
「確かに人も集まるんですが、商人も沢山集まりますからね」
「すると他の土地には商人が減ります。その隙間で上手く商売をさせていただこうかと」

 流通に時間のかかる世界だと、色々な儲け方があるようだ。

 いつの間にかミーアの演奏が止んでいる。周りの反応に釣られて沢山弾きすぎたのか、「疲れた」と一言漏らしてオレの膝の上に乗って寝てしまった。わざわざテーブルの下を潜って来なくてもいいと思うんだ。

 オレ達は、それをきっかけに暇乞いをして、部屋に引き上げた。アリサが「お捻りがいっぱいよ~」と言いながら小さな鉢に入った小銭を見せてくれた。ほとんど賤貨だが何枚かは銅貨も混ざっている。酔客のおっちゃん達、なかなか気前がいいな。

 ミーアを部屋に寝かせる。流石に8人部屋は無かったので4人部屋を2つ借りている。オレと獣娘3人の部屋と、アリサ達の部屋だ。部屋割りの時に色々揉めたが押し通した。普通のベッドで横にナナが寝ていたら不埒な事を考えそうで怖い。

 こっそり、夜の街に繰り出そうとしたが、ポチとタマに阻止された。キラキラした目で「一緒に寝るのです」とか言われて両手を拘束されてしまった。黒幕はアリサに違いないが、無邪気に顔を摺り寄せてくる2人を振り払えなかった。

 たまには大人な夜が送りたかったな~。
 色々フラグが仕込まれましたが、次回から再び旅の話です。

 酒場のシーンが無味簡素だったので、「あ~ん」とかを追記していたらいつもの5割増しのボリュームになってしまいました。

 卵が保存食だったという話をうかがったので、ちょっぴり加筆しました(5/11)。
 
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