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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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5-幕間5:青年商人と孤児院の子供達

※5/5 サブタイトルを変更しました。
※2/11 誤字修正しました。
 雇い主のお使いで孤児院に行った僕が見たのは、小さな子供達がカードで遊ぶ姿だった。あのカードは僕が作った学習カードと瓜二つだ。でも、絵柄が少し違う。

「ねえ君たち、そのカードはどこで手に入れたんだい?」
「ツイ兄ちゃんが作ったの」
「ちがうよユニ姉がカレシに貰ったんだよ」
「エタイ兄ちゃんが絵を描いたんだ」
「木を削ったのはツイ兄ちゃんだよ?」
「遊び方はユニ姉が教えてくれたもん」

 僕の問いかけに、子供達が口々に答える。そんなに口々に言われても聞き取れないよ。最後は子供達が喧嘩腰で言い合いを始めたので慌てて仲裁した。
 何度か質問してようやく判ったのは、「カードはユニという子が恋人に貰った」「ツイという子が木片や墨や筆などの素材を調達した」「エタイという子が絵を描いた」という事だ。

 学習カードは、試作品も含めて2セット共にあの商人の少年に売ったから、ユニという子の恋人は彼の事だろう。たぶん、あの時に一緒にいた利発そうな女の子がユニなのだろう。
 子供達に文字を教える為と言っていたのは、この孤児院の子だったのか。

 そういえば、子供の一人が気になる事を言っていた。

「遊び方って、なんだい?」

 僕の作ったカードには遊び方なんて無い。文字の面を読んで、裏の絵を見て正しいか確認するだけの品だ。

「こうするの!」
「こう並べてね」
「順番なの」
「文字を当てるとね~」
「自分のになるの」

 子供達が矢継ぎ早に言葉を口にする。「言いたい」という思いが溢れるような勢いだ。僕は子供達の言葉を根気良く聞いて、頭の中で整理する。

 100枚のカードを文字を上にして、「場」にある文字を読み上げて裏面の絵と合えば自分のものにできるらしい。外れたカードは一端「墓場」に積み上げて行って「場」のカードが無くなったら、「墓場」のカードをもう一度「場」に戻して遊びを続けるそうだ。「場」と「墓場」から全部のカードがなくなったら終了で、終わった時に一番カードを沢山持っていた人が「学者」――勝者になるらしい。

「凄い、そんな遊びを思いつくなんて」
「そうだよユニ姉は凄いの~」
「すごいのはアイサだって言ってなかった?」
「ちがうよタリサだよ」
「マイサじゃ無かった?」

 ユニと言う子に会ってみたいな。僕はユニもしくは他の2人に会えないか尋ねてみた。

「ユニ姉はお仕事」
「ツイ兄ちゃんも修行だよね?」
「エタイ兄ちゃんは?」
「お部屋?」
「違うよ、年長さんは今日は畑って言ってた」
「ガボ畑?」
「違うよコマツナって言ってた」
「なら赤屋根の方だね」
「おじちゃん、案内してあげる!」

 お、おじちゃん。僕はまだ20歳なのに。
 子供達の言葉に少し傷つきながらも、彼らに手を引かれるまま付いて行く。





 子供達に連れて行かれた先には、案内してくれた子供達よりも年嵩の10歳くらいの男の子達が、20人ほどで畑仕事をしていた。

 最年長らしい筋肉質の男の子が、子供達に連れられた僕を訝しげに一瞥する。

「やあ、始めまして、商人のネイセンと言うんだ」
「商人様が何の用だ? 作物は領主様の物だから勝手に売れないぞ?」

 彼が「商人」に「様」を付ける時に、どこか皮肉なアクセントを付けたが聞き流す。子供と喧嘩する為に来たわけじゃないからね。

「違うよ、エタイ君に会いたくて、この子達に案内してもらったんだ」
「あそこの木の下で目を回してるのが、エタイだよ。役に立たないから、何か用事なら連れて行っていい。ガキ共はこっちに来い」

 男の子に礼を言ってエタイ君の所に向かう。
 小さな子供達は、男の子に捕まって草むしりの助っ人をやらされてしまった。子供達に小さく手を振りながら、僕はエタイ君に話しかける。

「エタイ君、少し話をしてもいいかな?」
「……誰? ですか?」
「始めまして、僕は商人のネイセンと言うんだ」
「はあ、商人さんが、何の……」

 エタイ君は会話が得意では無いようだ。

「実は、君が絵を描いていた学習カードなんだけど」
「面白いでしょ、アレ!」
「うん、あの遊びを考えた子は凄いね」
「みんな夜まで遊んでます」
「喧嘩が起きないかい?」
「喧嘩した子は順番が最後になるから」
「なるほど、いい取り決めだね。でも、学習カードが2セットじゃ順番が回ってくるまで待つのが大変だね」
「いえ、今は4セットです」

 僕は驚きを隠せなかった。蚤の市で「学習カード」を売ってから、まだ8日しか経っていない。1セット書くのに4日しか掛からないなんて!
 製品版のカードの挿絵を頼んだ絵師は、1セット書くのに半月も掛かったのに……。

「君一人で書いたのかい?」
「いいえ」

 その言葉で少し胸を撫で下ろす。何人もで掛かれば短縮できるのも道理だ。
 でも、その考えは、続く言葉で否定された。

「最初の2セットは一人で書きましたけど、あとの1セットは、他の絵の上手い子が手伝ってくれたんです。お陰で1日で完成しました」





「テオ、シュアル、オリオ。この人が話しがあるんだって」

 エタイ君の案内でやってきた小屋には、3人の少年少女がいた。僕は自己紹介もそこそこに本題に入る。

「君達がエタイ君と同じように絵の上手い子かい?」
「そうだよ」
「エタイ兄ほどじゃないです」
「エタイ兄ちゃんに教えて貰ったんだ~」

 僕は子供達にそれぞれ絵を描いてもらってから話を切り出す。

「君達を雇いたい」
「まだ文字はあんまり覚えてないよ?」
「か、体ですか?!」
「おっぱいは、まだちっちゃいけど、お妾さんにしてくれるの?」

 子供達の的外れの回答を否定して、僕は詳しく説明する。
 自分が学習カードの最初の作者で、このカードをセーリュー市だけじゃなく国中に広めたい事、学習カードを沢山作る作業をするために雇いたい事を伝える。

「幾らくれるの? 1セット賤貨1枚くらいくれる?」
「お前、それは欲張りすぎだろ」
「そうだよ、1ヶ月で銅貨何枚になるのさ」
「何枚になるの?」

 子供達の手間賃としてなら仕事にもよるが、1ヶ月に銅貨1~2枚くらいが相場だ。住み込みなら賃金が出ない所の方が普通だ。
 指を折り始めた子供達に答えを教えてあげる。

「月に30セット作れるなら、賤貨30枚、銅貨だと6枚だね」
「4人でなら40セットくらい作れるよね」
「それなら、銅貨8枚だ。一人当たり2枚だね」
「すごいや、ユニ姉ちゃんと同じくらいだ」
「ほんとだ、すごいね」
「でも、そんなに材料あるかな?」
「ツイ兄ちゃんに頼んでもダメかな~?」

 子供達は、盛り上がったり、沈んだり感情の起伏が早い。
 そこまで安い値段で扱き使う気は無いんだけど、最初の内は資金が無いから差額は後で補填しよう。

「もちろん、材料は僕が用意するよ」
「本当?!」
「じゃあ、いっぱい作れるね」
「うん、がんばろ~」

 はしゃぐ子供達と対象にエタイ君だけが浮かない顔をする。

「でも、ユニやツイ兄ちゃんに勝手に決めていいのかな?」
「そうか、カードを持ち込んで遊び方を教えた子とカードを作ろうと言い出した子だね」
「うん」
「働いている店はわかるかい? こちらから出向いて聞いてみるよ。会えなかったら夜中に出直してくるさ」

 僕はユニちゃんとツイ君の勤め先を聞いて孤児院を出る。エタイ君を始めとする子供達には内諾を得る事ができたので、あとは2人の子供達に話を通しに行く。子供達の仲間意識は尊重しないとね。





 僕は、まずユニちゃんの勤める門前宿に向かった。遊び方を発案した少女から説得する方が先だ。カード単体より、あの遊び方の説明書を1枚つけた方が確実に売れる。

「いいですよ」

 宿の娘さんに許可を貰って、仕事中の少女に話しかけると、あっさりした答えが返ってきた。
 予想とは違う子だった。あの利発そうな美少女ではなく、ごく普通の女の子だ。

「あの遊びを考えたのは、あたしじゃありません。アリサって言う友達なんです」
「その子は、どこに行けば会えるかな?」
「迷宮都市に行っちゃいました」
「そうなのか、困ったな」
「大丈夫ですよ、アリサなら『遊びに国境は無いわ』とか変な事を言って許可してくれますよ」

 アリサという少女は豪快な性格のようだ。

 ユニちゃんが、その少女が迷宮都市に着いたら手紙をくれる約束をしたと言っていたので、その返信でこの商売の許可をもらえるように頼んでみる事にした。事後承諾になるが、揉め事にならないように頑張ろう。
 もちろん、勝手に使っても法を犯す事はないんだけど、人の発案したものをタダで利用するのは、商人仲間でもあまりいい顔をされない。普段なら商人ギルドが間を取り持ってくれる。

 返信する時に、ユニちゃんの手紙も一緒に送ってあげると言ったら、諸手を挙げて喜んでいた。





 最後に、ツイ君の勤める木材加工所に向かった。木材を運ぶ関係上、門からすぐの東街にある。

「いいよ」

 丁度、休憩中だったツイ君に話しかけると、ユニちゃんと同じように、あっさりした答えが返ってきた。
 彼は足元の薄く削られた木屑を弄びながら答える。

「元々、ユニが持ち込んだモノだし、俺は自分が遊びたかったから木材を貰って行っただけだよ。孤児院にあるカードを売れって言われたら嫌だけど、新しくカードを作る分には文句はないさ。それに仕事先が見つからなくて困ってたエタイの面倒を見てくれるんだろう? あいつには兵士や人夫なんて無理だからさ」

 意外に責任重大な事になってきたな。

「エタイ少年の事は、悪いようにはしない」
「うん、あいつは絵を描くのが得意だけど、ほっとくと倒れるまで書き続けるから」

 注意してやって欲しいと言うツイ君に頷く。
 1ヶ月に買い取るセット数に上限をつけた方がいいかな。上限無しにしたら、あの子達は倒れるまで作業をしそうだ。

 ツイ君の持つ、カンナで薄く削られた木屑を見ているときに、ある言葉を思い出した。

『次に作るときどんな工夫をするんだい? 需要はあるみたいだから、あとは値段だね。安い素材を探すか、安く量産する方法を探すか、色々試行錯誤するのは楽しいよね』

 僕は木屑を見つめながら言葉を反芻する。

「そうだ、コレだ」

 僕は思わずそう叫んで立ち上がってしまい、木材加工所の親方さん達の視線を集めてしまう。
 でも、自分の思い付きに興奮していた僕は、そんな視線も気にせずに親方さんに話を付けに行く。この時の思い付きが形になるのは半年ほど先の事になる。
 この時、僕は木屑を膠で固めて作った合板をカードの材料にする事を思いついたけど、それを形にするには親方さんやツイ君の努力と経験無しでは達成できなかった。

 木屑を格子状に膠で固めた合板を使った学習カードは、銀貨2枚という値段で、この都市の迷宮に訪れた人のお土産として、広く知られていく事になる。

 でも、それはもう少し先の話。

 しばらくは、木片を加工した普通の学習カードを細々と売っては材料費に回す日々が続く。
 この日の僕は、エタイ君達が、月末に小袋いっぱいの銅貨を見て慌てる姿を思い描くのが精一杯だった。
 最初は3人称で書いてたんですが、上手くいかなかったので1人称に戻しちゃいました。3人称で書くのって難しいですよね~。

 本編と関係の薄い話ばかりですみません。
 次回で幕間はラストです。
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