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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
こぼれ話

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18-14.サトゥーの雑貨屋さん

※魔王殺しの称号を得てから紫塔事件までの間にあったこぼれ話です。

※2021/4/1 一部呼称を小説版にあわせて変更しました。


「マしター、お客」

「マしター、来た」

「マしター、早く」


 店の奥にある台所で魔法薬の在庫を生産していると、膝丈くらいのハムスターみたいな蹴鞠鼠(ハム)人の子供店員がオレを呼びに来た。


「分かった。すぐ行くよ」


 作りかけの魔法薬をストレージに収納し、わちゃわちゃとズボンの裾を引っ張るハムっ子達と一緒に売り場に向かう。


「ロロはいないのかい?」

「ロロ、出かけた」

「ロロ、納品(のーひん)

「ロロ、さっき言ってた」


 オレが尋ねたロロは、この雑貨「勇者屋」の店主だ。


「おっ、やっと出てきたね」

「お待たせしました、ノナさん。今日は冒険の準備ですか?」

「この格好をみたら分かるだろ」


 革鎧からはち切れそうな肉体美をした女冒険者(・・・)のノナさんは、この雑貨屋の常連さんだ。


「下級の体力回復薬を五本と迷わずの蝋燭を一〇本、それから保存食を三〇食分頼む。もちろん、高い方だぞ! あの保存食を食ったら、草履の底みたいな干し肉と堅焼きパンなんか喰ってられないからな」

「ずいぶん買い込むんですね。今度は遠出するんですか?」

「ああ、でかい冒険者クランが主催する遠征に参加できたんだ」


 彼女と出会ったとある事件でソロになっていたから心配していたけど、仲間ができたなら少し安心かな。


 彼女が言った商品をカウンター裏の棚から取る振りをしつつ、ストレージから取り出してカウンターの天板に並べる。


 嵩張る保存食はハムっ子達が倉庫に取りに行った。オレとルルの研究成果が詰まった保存食は、この雑貨屋でも売れ筋の商品だ。


「水石の魔力も切れかけているから、充填を頼む。長いこと冒険者やっているが、充填できるなんて知らなかったぜ」

「充填はうちだけのサービスですから」


 彼女の水袋に仕掛けられた水石に、水属性に変換した魔力をチャージした。

 今では核になる欠片さえあれば、いくらでも属性石を作れるけど、そっちは自重している。属性石の価格は冒険者の稼ぎに直結するからね。


「マしター、保存食」

「マしター、運んだ」

「マしター、褒めて」

「皆、偉いぞ」


 保存食を運び終わったハムッ子達を撫でると、手と短い尻尾をパタパタ振りながら喜ぶ。


 ノナさんもハムッ子達の頭を撫でたそうに見ている。

 喜ぶから、遠慮なく撫でてやればいいと思うよ?


「全部で、銅貨三本と十二枚――細かいのは負けて、銅貨三本でいいですよ」

「おう、悪いね!」


 ノナさんが穴あき銅貨百枚を紐で通した一貫銭を三本テーブルの上にのせた。

 この都市では一般人の取引で銀貨や金貨を使うのを禁じられているので、こういった方法でまとめた銅貨が重宝されている。

 高額の取引や貯蓄には宝石が使われているけど、商取引では使いにくいんだよね。


「腰の剣も研ぎましょうか?」

「研ぎくらい自分でやってるぜ」


 そう言いつつも、ノナさんは腰の片手剣を抜いてテーブルの上に置く。

 手入れはされているけど、ちょっと大雑把だ。ここは(・・・)高温多湿の熱帯なので、手入れが甘いとすぐに剣がダメになる。

 その為、ここでは(・・・・)彼女のような金属製の剣を使う者は少数派で、呪術師や死霊術士が鍛えた骨製武具が多数派を占めるのだ。


「ちょっとお借りします」


 最近錬成に成功した特製の砥石を取り出して、ささっと剣を通すようにして研ぐ。


「これで少し斬れるようになりましたよ」


 ノナさんが疑わしそうな目をしていたので、垂らした紙を剣で撫で切るというパフォーマンスをしてみせた。


「うおっ、すげーな! ロロのヤツ、すげー伴侶を見つけやがったもんだぜ。勇者屋が要塞都市(・・・・)アーカティア(・・・・・・)で一番の雑貨屋になるのも時間の問題だな!」


 上機嫌で剣を腰の鞘に戻したノナさんが、良い笑顔で店を出て行った。

 それと入れ替わりに、顔が隠れるほど中身の入った紙袋を抱えた少女が店に入ってくる。


「ロロ、おかえり」

「ロロ、ケガない?」

「ロロ、褒めて」


 ハムッ子達がカウンターの跳ね戸をくぐって、わちゃわちゃと少女の下に駆け寄る。


 彼女こそが、この雑貨屋の店主ロロだ。


「おかえり、ロロ。さっきお客さんが来たよ」

「サトゥーさん、ただいま帰りました。ノナさんなら、会いました」


 ロロの持つ紙袋を受け取ってやると、城が傾きそうな美貌が露わになる。


 ルルと遜色のない美貌と言えば、どれほど超越的な容姿か分かるというものだ。

 それもそのはず。彼女の曾祖父は勇者ワタリ――ルルと共通のルーツを持っており、髪の毛が金色という点を除けば、ルルと瓜二つの容貌をしている。


 彼女との出会いはほんの一週間前。


 魔王殺しという称号が広がり、シガ王国の王都を散歩するにも変装が必要な状況に、オレは少し辟易していた。

 人目を気にせずのびのびできる場所を求め、見知らぬ土地を探して見つけたのが、この要塞都市アーカティアだった。



◇◇◇◆◇◆◆◆



「ここが大樹海か……」


 眼下には大樹海という名に相応しい熱帯のジャングルが広がっていた。

 ここはシガ王国から遠く離れた大陸南西に広がる樹海で、ブライナンの森やレプラコーン達のブライブロガ王国などと接する大陸最大の森林地帯だ。


「あの尖塔っぽいのは違うな――」


 マップを確認しつつ、樹海にときおり見つかる遺跡をスルーして、目的地である要塞都市アーカティアを目指して閃駆で移動した。


「――見えた」


 遠くに城壁に覆われた都市を見つけた。

 ここからは誰かに見られそうだから地上を行こう。


 ――KZSSAYAAA。


 咆哮を上げながら幾度も襲ってくる恐竜のような魔物を、サクサクと倒しつつ要塞都市へと向かう。

 都市の目と鼻の先とは思えないほど多すぎる魔物の遭遇エンカウント率だが、それには理由がある。


 それはこの大樹海が迷宮だからだ。


 ここは樹海迷宮と呼ばれる世界でも希なフィールド型ダンジョンであり、オレが向かう要塞都市アーカティアはそのダンジョンの中(・・・・・・・)に存在する。


『ノナ! 左からハナナガだ! トゲ付きもいるぞ!』


 少し離れた場所で、誰かが戦っている。

 マップ情報によると、レベル一〇台の五人だ。


 事前情報で得た知識によると、この迷宮における冒険者というのは、フルー帝国時代に大樹海の果てを目指した冒険家達の末裔で、今は制度化されており、大樹海に隣接する国々で共通の身分として通用するそうだ。


 彼らは餓狼級の冒険者達らしい。


 翻訳魔法は使っていたが、アーカティア国語という言語スキルが手に入ったので、スキルポイントを割り振って有効化(アクティベート)しておく。


「ザンスがやられた! ノナ、時間を稼げ!」

「無茶、言うな! 軽戦士一人でトゲ付きを押さえられるわけないだろ!」

「うるせぇ! 毛無しの分際で偉そうな事を言うな! お前ら、劣等種は俺達の盾代わりになってりゃいいんだよ!」


 血の臭いとともに冒険者達の気配が近付いてくる。


 ガサガサと背の高い雑草を掻き分けて、狸人と熊人といった獣人の男達が飛び出てきた。


「また毛無しだ」

「丁度いい、こいつも生け贄にしてやれ」


 厭らしい笑みを浮かべた熊人が、白い蛮刀をオレに振り下ろす。

 護身術スキルや回避スキルに頼るまでもなく、蛮刀を持つ手を掴んで投げ飛ばす。


 ――この蛮刀は骨製だ。


 そんな余計な情報を得つつ、悲鳴が上がった方へと向かう。

 生け贄にされた冒険者が危ない。


「くそっ、硬すぎるだろっ。生き残ったら、トビもヒグアもタコ殴りにしてやる」


 良かった生きている。


 女冒険者は血まみれになりながらも、元気に悪態をついて戦いを継続していた。

 しかも、負傷して意識のない蜥蜴人の冒険者を背中に守っている。


「手伝うよ」


 彼女達の言葉で話しかけ、足下に落ちていた剣を拾って魔物の前に出る。


「バ、バカ野郎! 鎧も無しにトゲ付きの前に出るな!」


 トゲ付きと呼ばれたアンキロサウロス似の魔物が、ぐるんと体を大きく回し、遠心力で加速したトゲが生えたコブ付きの尻尾を叩き付けてくる。


 オレはそれを軽くジャンプで躱し、無防備な側面を蹴って裏返し、柔らかそうな腹に拾った剣を突き刺した。

 無駄に頑丈な魔物は心臓を貫かれても、ひっくり返ったまま暴れていたが、もう一匹のハナナガと呼ばれていた魔物の首を切り落とした頃には動きを止めていた。


「ザンス! おい、死ぬな、ザンス!」


 声に振り返ると気を失っていたもう一人の冒険者が、危篤状態になっていた。

 血が喉に詰まって、呼吸が止まっているようだ。


 悠長に詠唱して魔法を使っていたら手遅れになりそうなので、魔法欄から選んだ治癒魔法で二人まとめて回復する。無詠唱を気付かれたら、詐術スキル先生に頑張ってもらおう。


「おおっ? ま、魔法か?」


 女冒険者が驚く背後で、もう一人の冒険者がごほごほと咳をして息を吹き返した。


「大丈夫そうだね。オレはアーカティアに行くんだけど、君達も一緒に来るかい?」

「あ、ああ、もちろん。こっちからお願いしたいくらいだ」


 オレがそう尋ねると女冒険者は即答で同行を承諾した。


「それに今日は樹海の様子がおかしい。トゲ付きやハナナガは『城』の近くにしか出ないはずの魔物なんだ」


 彼女の言う「城」がどこかは分からないが、この辺りで異常事態が起きているという事は分かった。


「幸いロロに依頼された薬草はあるし、すぐにでも戻れるぜ」


 女冒険者は茂みの中に投げ捨てられていた大きな布袋を拾い上げた。


「ノナ、トビ達はどうした?」


 ようやく意識がはっきりしたのか、蜥蜴人の冒険者が女冒険者に声を掛ける。


「あいつらなら、あんたが気絶したのを見て、逃げ出したよ。あたしを囮にしてね」

「仲間を見捨てるとはっ! なんたる愚物!」


 うん、その怒りは正当だと思うけど、そういうのは街に入ってからにしてほしい。


「行こう。他の魔物が来るかもしれない」

「ま、待ってくれ」


 二人を促して歩き出そうとするオレを女冒険者が引き留めた。

 足を止めて理由を尋ねると、売り物になる魔物の部位を回収しないのかと問われた。


 いつもは倒したらすぐにストレージに即収納するから忘れていた。


「別にいいさ。放置しても問題ないだろ?」

「ちょっとだけ待ってくれ。魔核とハナナガの肩角とトゲ付きの尻尾先だけ回収する。どっちも捨てるところがないくらい宝の山だけど、欲をかいて命を落とすバカにはなりたくないからな」


 二人の冒険者が手際よく素材を回収した。

 魔核の取り出しだけは苦労していたので、少しだけ手伝う。


 素材の回収を終え、要塞都市に向かう。


「若様は貴族なのか?」


 歩いていると、女冒険者が気さくに話しかけてくる。


「ああ、遠くの国の貴族だ」

「なんでまたこんなとこに?」

「ちょっと、地元に居づらくなってね」

「あー、悪い。そうじゃなきゃ、こんな危ない場所に来ないよな」


 女冒険者が思い描いたのと真逆の理由だと思うが、追及されない方がありがたいので、彼女の勘違いを正す事はしなかった。


 話を変えて要塞都市の事を色々と教えてもらう。

 要塞都市を支えているのは、大魔女様と呼ばれる「源泉の主」のようだ。たぶん、この要塞都市には都市核がないのだろう。


「外壁が見えてきた。運がいい。壁塔もあるし、門の近くに出たようだ」


 寡黙な蜥蜴人の冒険者の顔にも、僅かな喜色が浮かんだ。


 少し歩くと門が見えた。

 革鎧と白い骨製の槍を持った門番がいる。


 俺達に気付いたのか、壁塔や壁の上にいる兵士達が警戒するのが見えた。


「よう、ノナ。今日は大物じゃないか」

「残念ながら、あたしらの獲物じゃない。これはこっちの若様のだ」

「へー、見かけないヤツだな」

「若様なら大丈夫だ。あたしらがトゲ付きやハナナガに殺されそうなところを助けてくれたんだ」

「そいつあ凄い――って本当か? 鎧どころか剣すら身につけていないじゃないか?」


 そういえば移動の邪魔になるから妖精剣を腰に下げていなかったっけ。

 オレが口を開く余地もなく女冒険者がオレの活躍をオーバーに語り、「断罪の瞳」持ちの門番からOKが出た事もあって門を通る許可が出た。


「ようこそ、要塞都市アーカティアへ。大魔女様の恩寵あらん事を」


 門番はそう言ってオレを要塞都市へ迎えてくれた。





「若様、素材の換金前にロロの店に寄っていいかな? 薬草の鮮度が落ちないように早く持って行ってやりたいんだ」

「ああ、もちろん」


 別に用事があるわけでもないしね。


 三人でメインストリートから少し離れた裏通りへと向かう。

 この要塞都市は壁にツタを這わした建物が多い。


「あそこがロロの店だよ」


 裏通りの一角に、それなりに大きな店舗があった。

 かなり古い建物だが、店舗の玄関付近は清潔に保たれているようだ。


「おやおや、借金を踏み倒そうって言うざんすか?」


 店舗の中から嫌みったらしい声が聞こえてきた。


「あの声は取り立て屋のバッブスだ!」


 女冒険者の言葉の直後に、少女の悲鳴が聞こえた。


 女冒険者が荷物を蜥蜴人に押しつけて店に飛び込んだ。

 蜥蜴人は背中に担いだ大荷物が邪魔で店の入り口をくぐれないようなので、彼の代わりにオレが女冒険者の後に続く。


「ロロ、いじめるな」

「ロロ、守る」

「ロロ、大切」


 たどたどしい言葉でハムスターのような外見をした子供達が、震える手をいっぱいに広げて床に蹲る人族の少女を守っていた。

 飛び込んだ女冒険者は、取り立て屋の用心棒らしき虎人の大男に組み伏せられている。


 店舗にはもう一人、馬人の錬金術師がいるようだが、扉のすぐ向こうから動く様子がない。


「おやおや、今日は空気の読めない馬鹿が多いざんす」


 キンキラの服を着た嫌味そうな鹿人の男の前に、もう一人の用心棒らしき熊人の大男が前に出た。

 ごきごきと指を鳴らしてオレを威圧しているらしい。


 そんな事よりも、蹲る少女の傍らにポップアップした体力ゲージが減っていた。

 顔を伏せた少女の頬を血が流れている。


「このハンカチで血を拭きなさい」


 オレは魔法薬を染み込ませたハンカチを少女に差し出す。


「あ、ありがとうございます」


 振り返った少女の顔を見て息を呑んだ。


 ――ルル?


 その現実離れした美貌はルルそっくりだった。


「ルル? 私の名前はロロっていいます」


 驚きのあまり、ルルの名前を口走っていたらしい。


「すまない。君がオレの知り合いにそっくりだったんで驚いたんだ」


 違うのは髪の色と、少女のスレンダーすぎる胸元くらいだ。


「どこまで空気が読めないざんすか? そんな不細工な人族に言い寄るなんて、よっぽど同族の女に飢えているざんすね」


 鹿人が顎をしゃくると、熊人の大男が肩を怒らせて殴りかかってきた。

 ハムッ子達がその勢いに怯えて、頭を抱えて尻餅をつく。


 オレは縮地でハムッ子達の前に出て、大男を空気投げの要領でひっくり返し、建物に傷を付けないように加減して組み伏せた。

 護身術スキル先生の前には体格差なんて意味はない。それ以前にレベル差かな?


「た、大した腕前ざんすね。この契約書が見えないざんすか? 大魔女様が作られた正規の契約書ざんすよ?」


 男が見せびらかす契約書には魔法陣が描かれており、なんらかの精神的な拘束術式が篭められているのが分かる。

 まあ、契約書の内容は公正さの欠片も無い酷いものだけどさ。


「借金の証文みたいだけど、まだ期日まで日数があるんじゃないかな?」

「あと三日で銅貨三千本も用意できるわけないざんす」


 ――本?


 単位がいまいち分からない。


「金貨で言うと幾らくらいなんだい?」

「――金貨? 見慣れない顔ざんすけど、マシォークかルインベリアあたりの貴族ざんすか? ここじゃ平民は金貨なんか使わないざんす。レートで言えば金貨230枚あたりざんすかね?」


 なんだ、魔剣一、二本分くらいか。


「このあたりの金貨は持っていないんだけど、サガ帝国の金貨でもいいかな?」


 口を挟む気はなかったのだが、ルルとそっくりな少女が気になったので、少しばかりお節介を焼く事にした。


「空気を読めないうえに、言葉も理解できないざんすか? アーカティアの平民は金や銀での取引を禁止されているざんす。銅貨で払えないなら宝石でも持ってくるざんすね」

「これでいいかな?」


 錬成の実験で作った人工ルビーを取り出す。

 相場スキルによると、このあたりの相場で金貨400枚くらいの価値があるようだ。


「おおっ。――す、少し足りないざんすけど、ま、まあ、このくらいで許してやるざんす」


 鹿人が震える手をルビーに伸ばす。

 動揺を隠そうとしているが、全然隠せていない。


「騙されるな! その宝石なら、もっと高いぞ!」


 大男に組み伏せられながらも、女冒険者が助言してくれる。


「うるさいざんす! 目利きもできない冒険者風情が黙っていろざんす!」


 鹿人が唾を飛ばしながら、必死な口調でまくし立てる。


「早く寄越すざんす」

「証文と交換だ」


 鹿人は証文を叩き付けるように渡したのと同時に、奪うようにしてルビーを掴むと、オレの気が変わるのを怖れて店舗を飛び出していった。大男達も慌てて鹿人を追う。


「あ、あの! 立て替えていただいたお金は頑張って返します! ですから、お店は続けさせてください」


 美少女――ロロがオレの前でぺこりと頭を下げた。


「勝手にやっただけだし、返済はいつでもいいよ」

「ありがと」

「助かた」

「撫でる?」


 ハムッ子達がロロの横にならんで頭を下げる。

 体幹が弱いのか、バランスを崩して前転してしまう子もいた。ちょっと可愛い。


「ロロ、薬草だ」

「ありがとう、ノナさん。怪我は大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫さ」


 ロロが薬草を受け取って、代金を女冒険者に渡す。


「セイコーさん、薬草が来ました! 大魔女様に納品する薬の錬成をお願いします」


 ロロが店舗の奥に声を掛けると、扉のすぐ向こうにいた気弱そうな馬人が現れた。


「そ、そんな薬草が間に合うなんて――」


 馬人が口の中で呟いた言葉を聞き耳スキルが拾った。


「ごめん、ロロ。ボクはウッシャー商会に誘われているんだ。ごめん、もう行かなきゃ!」

「おい、セイコー!」


 女冒険者の制止を振り切り、脱兎のごとき速さで馬人の青年が通りの向こうに消えた。


「そ、そんな……セイコーさんがいなかったら、大魔女様に納めるような品質の魔法薬なんて……」


 ルルそっくりな顔でそんな風に困った表情をされたら、お節介を焼かないわけにはいかない。


「それなら、オレが作ってもいいかな? これでも少しは錬成に自信があるんだ」

「本当ですか! ぜひお願いします!」


 勢いでオレの手を取ったロロが、その事実に気付いて顔を真っ赤にして慌てる一幕があったものの、魔法薬の錬成自体は余裕で期限に間に合った。馬人が残したレシピメモがあったしね。


 この一連の出来事でロロと交流を深めたオレは、用心棒兼店員として要塞都市アーカティアでの日々を楽しむ事となったのだ。



◆◆◆◇◆◇◇◇



「サトゥーさん、お茶を淹れますね」

「それなら、七人分ほど追加してくれないか?」


 オレの言葉と同時に、バタンと店のドアが開いた。


「ただいまー!」

「たらま~」

「たらりまなのです!」


 アリサを始めとした仲間達が元気な声とともに入ってくる。


「ご主人様、ご所望の古竜種の牙を何種類か確保いたしました」

「ありがとう、リザ」


 ここの主流素材なので、扱ってみたかったんだよね。


「幼生体、お土産の魔芽花野菜(イビル・ブロッコリー)だと告げます」

「ナナ、ありがと」

「ナナ、うれしい」

「ナナ、撫でて」


 ナナがボイル済みの巨大ブロッコリーを差し出すと、ハムッ子達が抱えるようにして囓りだした。この子達はこれが大好きみたいなんだよね。


「ん、ブロッコリー美味」


 野菜好きが増えてミーアも嬉しそうだ。


 はぐはぐとひたむきにブロッコリーを囓るハムッ子達を、ナナが優しい目で見守る。


「ロロさん、頼まれていた薬草です」

「ありがとう、ルルさん」


 ルルとロロが並ぶと、本当に双子みたいだ。

 まさに奇跡の共演だね。


「あら? 鄙びた店にしてはずいぶんと人が多いですわね」


 和やかな店内に、友好的とは言いがたい台詞が金髪ツインテールな髪をした少女とともに飛び込んできた。


 どうやら、雑貨店「勇者屋」は今日も賑やかなようだ。


※次回更新は 11/8(日) の予定です。


※2021/4/1 一部呼称を小説版にあわせて変更しました。

・繁魔迷宮 ⇒ 樹海迷宮

・迷宮都市アーカティア ⇒ 要塞都市アーカティア




※2020/11/5 カドカワBOOK公式の5周年記念サイトで、デスマSS「絵本コンテスト」が公開されているので、よろしかったらどうぞ~。


※書籍版「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」の最新21巻は11/10(火)に発売予定です。早売りのお店ではもう少し早いかもしれません。詳しくは活動報告をご覧ください。


※2020/11/6 最速のお店では早くも発売しているようです。

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小説「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」34巻が12/10発売予定!
  著者:愛七ひろ
レーベル:カドカワBOOKS
 発売日:2025年12月10日
ISBN:9784040761992



漫画「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」19巻【通常版】が12/9発売予定!
  漫画:あやめぐむ
  原作:愛七ひろ
 出版社:KADOKAWA
レーベル:ドラゴンコミックスエイジ
 発売日:2025年12月9日
ISBN:9784040761428



漫画「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」19巻【特装版】が12/9発売予定!
  漫画:あやめぐむ
  原作:愛七ひろ
 出版社:KADOKAWA
レーベル:ドラゴンコミックスエイジ
 発売日:2025年12月9日
ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
[一言] ルルにロロ…某反逆の兄弟を思い出す(・o・;)
[一言] 更新ありがとうございます。このほのぼのとした雰囲気を楽しめる幸せをかみしめております。 古竜種の牙ってマジで古竜の牙なんですかね?ここの主流素材とのことですが、亜竜でなく本当に古竜なら宝の…
[一言] あとがき讃江 デスマをテーマにした、二次創作の絵本のコンテストが開催中かと思ったよ。 昨今は、大豆などをベースにしたヴィーガン向けのフェイクミートが話題のようなので、ポチ達対ルル達で利き肉…
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