18-13.ポチの冒険〔3〕
※ポチの冒険はひとまず今回まで
「ウサギ跳びあっぱー!」
「ろーりんぐそばっとー」
ウササの斬り上げ系の片手剣必殺技と、ラビビの回転斬り系必殺技が悪漢達を斬り伏せる。
パンチでもキックでもないのは仕様らしい。
赤煙島の悪徳都市シベで救出するべき人達を運ぶ為の船を調達しに訪れた港で、ポチ達は悪者達に発見されて戦闘に突入していた。
「次々に湧いてくるクマ」
「倒しても倒してもキリがないガウ」
大盾で大人数を相手にするクベアと最前線で大剣を振り回すガウガルが、尽きる事なく現れる悪漢達に辟易した顔を向ける。
戦闘では獣人組に一歩譲るニニンも、支援魔法を使うヒトナや戦う力の無い虜囚代表を護衛しつつ危なげない剣技で悪漢達を排除していた。
「イアイバットー! ランブーなのです!」
シュバババと口で言いながら、ポチが目にもとまらない速さで抜刀術を繰り返して悪漢達を戦闘不能にしていく。
抜いたままの刀で戦った方が確実に速いのだが、ポチはアリサから教えられた「居合い抜刀は最速」という言葉を頑なに信じて戦っていた。
「ウササ!」
「すまねぇ、ラビビ」
連続戦闘のせいで、激しく動く遊撃のウササが敵の攻撃を受けた。
ラビビがフォローして間一髪で危地を脱したが、二人ともすでにスタミナ切れでふらふらだ。
――ぴーぽーぱーぽー。
微かな声とともに、何かの液体が二人にかかる。
「――え?」
「痛みが引いていく。誰かが魔法薬を投げてくれたのかな?」
ウササとラビビが素早く周囲を見回すが、そんなフォローをできそうな余裕がある者は誰もいない。ポチの顔にさえ、疲れが見て取れた。
そんな中、ずしんずしんという大きな音と腹に響く振動が、都市の中心方向から近付いてくる。
家々の向こうに一条の炎が上がり、空を焦がした。
「来た!」
「お頭だ!」
悪漢達の顔に喜色が浮かぶ。
「ヒュドラだ」
「まずいクマ」
「だ、大丈夫ガウ。おいら達には姐さんがいるワン」
反対にウササ達の顔には濃い疲労と焦りがあった。
「あ、あれが災厄……」
「魔王の再来、『災厄』のバフォメェート」
代表が呟き、ニニンが村で聞いた言葉を思い出す。
ヒュドラの背に乗ったバフォメェートが、満を持して戦場に現れた。
さらに、その背後の大通りには、果てが霞んで見えるほど膨大な数の魔物達が続いている。
「……もう、終わりだ」
代表が絶望の呟きとともに地面に膝を突いた。
ニニンやヒトナは一縷の希望にすがってポチを見たが、そのポチさえ刀を取り落とさんばかりに震えていた。
「あ、あんなの無理なのです」
◇
「おいおい、いつまで経っても倒せない強敵がいるっていうから出張ってきたのに、いるのはガキどもだけじゃねぇかよ」
バフォメェートが不満そうに怒鳴る。
「しかも俺様のヒュドラを見て今にも倒れそうなくらい震えているじゃねぇか」
ふらふらなポチを見て勝ち誇る。
「ポチさんでも無理なんて……」
「う、嘘だって言ってよ!」
ニニンが嘆き、ラビビが叫ぶ。
「む、無理なのです。だって、あんなにたくさん食べきれないのですよ?」
「「「――食べ?」」」
ぺんどら達が意表を突かれた顔になった。
「ポチの妖精鞄だとレイトー機能がないから、早く食べないと肉が腐っちゃうのです」
ポチが真剣な顔で言う。
「虚勢を張るのもそこまでだ!」
バフォメェートがヒュドラの上から怒鳴る。
「そんなふらふらな身体で、俺様やドランと戦えると思っていやがるのか?」
ドランというのはヒュドラの名前らしい。
「ちょっとくらいふらふらでもだいじょーびなのです」
そう言いつつも、足下がおぼつかない。
――ぽち。
どこからともなく、牛乳瓶サイズの魔法薬が飛んできた。
それをポチがキャッチする。
「こ、これは! ビーフジャーキー味の栄養剤なのです」
瓶の側面に貼られた牛マークのラベルを見たポチが、躊躇わずに飲み干す。
瞬く間にポチのふらつきが収まり、小さな身体に力がみなぎっていく。
「シャキーンッなのです! ポチは体力全開なのですよ!」
ポチがシュピッのポーズを取る。
「ど、どこから飛んできたんだろう?」
「気にしたら負け~?」
どこからともなく聞こえてきた声に、ニニンやウササは「ああ、やっぱり」とどこか納得顔になった。
「まずはザコのヒトからなのです!」
雪崩を打って襲ってくる魔物軍団を、ポチがサクサクと鎧袖一触で倒していく。
瞬動を繰り返すポチの姿を、誰一人捉えることはできない。
「な、なんだ、このガキは?!」
バフォメェートが焦った声を漏らす。
ヒュドラの火炎も、高速型の魔物達の攻撃でもポチを捉える事ができない。
頼みの綱だったヒュドラも、全ての首が一瞬で切り落とされた。
「これだけが俺様の力だと思うな!」
ヒュドラの血でどろどろになったバフォメェートが、転がるような勢いで桟橋に駆け寄る。
「来い! 海の災厄よ!」
バフォメェートが海に向かって叫ぶ。
海中から伸びた触腕が、包み込むようにしてポチを攻撃した。
「ちょいやー、なのです」
ポチは壁を蹴り、屋根の上を駆けて触腕の雨を避ける。
「あ、あれは!」
「知っているのかニニン!」
「あれはクラーケンの触腕だ! 交易船も海賊船も関係なしに船を沈める最悪の魔物だよ。海で出会ったら、逃げることさえできずに殺される。無敵の化け物だ」
ウササが問い、ニニンが答える。
海中から蛸型海魔が顔を出した。
さっきまで余裕を見せていたポチさえ、その姿に驚きを隠せない。
「そうとも、これで終わりだ! クラーケンに絡め取られて喰われちまえ!」
それを見たバフォメェートが勝ち誇る。
「あれはタコ焼きさんなのです!」
ポチの目がキラキラと輝く。
「……タコ焼き?」
「タコさんの解体は足からなのですよ!」
バフォメェートに答えたのか微妙な答えを返し、ポチが刀の先に長く伸ばした魔刃で、クラーケンの足をスパパパパンと切り落としていく。
「本体は一気にてっぺんまで切り裂くのがコツなのですよ!」
刃を立てたポチがクラーケンの身体を駆け上がり、本体も綺麗に両断する。
「ワタは勿体ないけど、ご主人様がいないと食べちゃだめなのです」
地表にボトボト落ちるクラーケンの内臓を見て、ポチが残念そうに呟く。
こっそり逃げだそうとするバフォメェートだったが、空から降るクラーケンの内臓に押しつぶされて身動きできずにいた。
「こ、こんなところで終わってたまるか!」
爆発が起こり、クラーケンの内臓を吹き飛ばす。
バフォメェート自身も大怪我を負っていたが、それは手持ちの魔法薬で治癒していた。
「今のうちに――なんだ? 足が動かねぇ?」
爆発でできた血煙の中をこっそり逃げだそうとするバフォメェートだったが、足が影にめり込んで動けずにいた。
「見っけ、なのです! ポチからは逃げられないのですよ!」
ポチが血煙を割って現れる。
「悪即ザザーンなのです!」
魔刃を鈍器状に変更したポチの一撃がバフォメェートの意識を刈り取った。
「やった-!」
「さすがは姐さんクマ!」
「姐さんは最強ガウ!」
「……俺もいつかはポチさんくらい強くなる」
ぺんどら達が歓声を上げ、ウササが密かに誓いを立てる。
ラビビはそっとウササの拳に手を重ね。こくりと頷いてみせた。
◇
「悪者達が逃げていくクマ!」
「海賊船が出航しちゃうワン!」
無敵のボスが敗北した事で、悪徳都市シベの悪党達が這々の体で逃げ出す。
海賊達も次々に海賊船の錨を巻き、帆を上げて出港を始める。
「このままだと逃げられちゃうクマ!」
クベアが焦り、他の子達も逃亡を阻止する為に周囲を見回す。
「あ、なのです」
真っ先に出港しようとしていた海賊船が、突然炎を上げて轟沈した。
ポチやぺんどら達が見つめる先で、次々と沖合から砲弾が飛んできて海賊船を沈めていく。
「軍艦だ! 沖から艦隊が来るぞ!」
ポチ達に知るすべはなかったが、シェリファード法国を始めとした近隣の海軍がやってきたようだ。
一方的な蹂躙劇はすぐに終わり、海賊退治を終えた軍艦の一つが港に入ってきた。
「軍人のヒトなのです」
勲章を幾つも付けた提督が、多くの水兵達や騎士達に守られて上陸する。
「君が魔王の再来と怖れられた『災厄』のバフォメェートを倒した英雄かな?」
「悪者を倒したのはポチ一人じゃないのです! ウササやラビビやガウ君やクベアやニニンやヒトナが手伝ってくれたから勝てたのですよ!」
提督はバフォメェートを倒したポチを褒め、ポチ達や人質の輸送を担当してくれる事になった。
説明下手なポチに代わって、ニニンやヒトナが交渉したとはいえ、不自然なほどのスムーズさで物事は決定した。
そもそも、バフォメェートが倒されるタイミングが分かっているかのようなタイミングで攻めてきた連合軍、というモノに違和感を覚えるべきなのだが、その事を突っ込む者はいなかった。
知恵が回るニニンやヒトナはポチの保護者によるサポートだと分かっていたし、野生の勘を持つ他のメンバーもなんとなく察していたのだ。
「父ちゃん!」
「よく帰ってきてくれた!」
「姉ちゃん、お帰り」
救出された人達が出迎えてくれた村人達と再会を祝う。
「今日は祭りだ! とっておきの酒や食料を振る舞うぞ!」
「それなら、ポチもお肉を提供するのですよ!」
「恩人にそんな事は――」
ポチが獲物の運搬に使った大型の格納鞄から、魔物の死骸を取り出して次々に積み上げていく。
遠慮しようとした村長が、大量の魔物――食材を見て地面につきそうなほど顎を落とした。
「こりゃあ、すごいね」
「腕によりを掛けてご馳走を作らないとね」
「あんた達! 呆けてないで、解体はあんたらの仕事だよ!」
母は強し。呆けた男達に代わって、女達がポチの出した食材を前に腕まくりする。
「お、おう、任せろ!」
「手伝うクマ」
「解体は得意ワン」
「ポチも手伝うのです! ポチは解体のプロなのですよ!」
村人達と一緒に解体を始め、提督の指示で水兵達も一緒に解体を手伝う。
日が落ちるまでにご馳走は完成し、ポチ達を主賓に村人達や水兵達が肉祭りを始めた。
「いっぱいあるから、遠慮無く食べるのですよ!」
「任せてクマ!」
「食べるのは得意ワン」
「おう、いえす~?」
「タ、タマさん? い、いつの間に……」
ポチ達が楽しそうに肉料理を食べ始める。
中央で肉を焼くたき火の向こうで、提督は黒髪の少年――サトゥーと会話をしていた。
「提督、ご協力感謝します」
「それはこちらのセリフですよ。伯爵閣下がご協力くださったお陰で、赤煙島に棲む赤竜の介入もなく、クラーケンすら操るバフォメェート一家を退治する事ができました」
提督とサトゥーが酒杯を合わせ、勝利の美酒を飲み干す。
「単独で『災厄』のバフォメェートを倒すとは、末恐ろしいお嬢さんですね。さすがは名高きペンドラゴン伯爵の家臣だけはある」
「あの子は家臣というよりは家族のような存在なのです」
サトゥーが優しい瞳でポチ達を見る。
ポチは元気に肉に齧り付き、満点の笑顔で言う。
「やっぱり肉はサイキョーなのです!」
※次回更新は10月末頃の予定です。
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