18-10.勇者ハヤトの物語〔7〕
※今回はチェック時間が取れなかったので誤字多めです。ご了承ください。
※本日2回目の更新です。ご注意ください。
「私をスカウトしたい? ――本気なの?」
風に揺れるストレートの銀髪を払い、彼女――公爵令嬢リーングランデは美貌をゆがめて尋ねてきた。
ここはシガ王国の王都にあるオーユゴック公爵邸のベランダだ。
「ああ、この一年での功績も聞いた」
僅か一年の間に迷宮で「階層の主」を討伐し、爆裂魔法を実用レベルまで使いこなしているそうだ。
「私も聞いたわ。あなたの噂」
トゲのある言葉に、俺の胸が後悔と不甲斐なさで痛む。
「上級魔族と遭遇して、壊滅寸前になったらしいじゃない。仲間も皇女様や神官殿以外は別の人に代わっているのかしら? 私まで使い捨てにされたらたまらないわ」
リーングランデがそう言ってベランダから部屋の中に入った。
俺の後ろでセイナが「ボクも同じだぞー!」と主張していたが、リーングランデは一瞥しただけでスルーしていた。相変わらず、性格は最悪だな。
「俺様は仲間を使い捨てにする気はない」
俺は縮地でリーングランデの前に回り込んだ。
必要スキルポイントが大きすぎて実用レベルまで上げられなかった縮地だが、こんな場面では役に立ってくれる。
「これまでも。――そして、これからもだ」
俺はそう言って、真摯な想いを込めてリーングランデの瞳を見つめる。
「なら、試してあげる。明日までに竜の鱗を取ってきなさい。それができたら、従者の仮契約をしてあげるわ。不服なら、この場から去りなさい。あなたの助けを借りなくても、魔王なんて私が倒してみせるわ」
気の強い女だ。
「待ちなさい。竜の鱗なんて今日明日で手に入るはずがないでしょ!」
「竜の居場所なら教えてあげるわ。シガ王国の中央を分断するフジサン山脈の頂上には護国の聖竜やその眷属達、南東にある黒竜山脈にいけば成竜がいる。他にも迷宮下層の邪竜や中央小国群を徘徊する下級竜なんかも有名よ。スィルガ王国に足を延ばすなら下級竜達が棲む山があるわね」
抗議するメリーエストを挑発するように、リーングランデがシガ王国周辺にいる竜の情報を連ねた。
大した知識量だ。剣術や魔術だけじゃない、彼女の幅広い知識も魅力的だ。
「明日までだな。日没まででいいか?」
「ええ、いいわ」
承諾したリーングランデに「待ってろ」と言い残し、俺は呼び出したジュールベルヌに飛び乗ってフジサン山脈へと向かった。
フジサン山脈の聖竜なら勇者王ヤマトの盟友だし、俺の頼みを聞いてくれると思ったからだ。
もっとも、結論から言うと俺は聖竜に会う事はなかった。
移動中に喧嘩をする二頭の下級竜を見かけたからだ。
「うっひゃー、お宝がいっぱーい」
「あああ、こんなに竜の鱗が!」
斥候セイナはともかくメリーエストが皇女らしさを忘れて満面の笑みを見せるのは初めてかもしれない。
「伝説の竜泉はないようですね」
くんくんと風の匂いを嗅いでいたロレイヤが寂しそうに呟いた。
何か欲しい物でもあったらしい。肩を落とすロレイヤを慰め、俺達は周囲に飛び散った竜の鱗を拾い集めた。
「これなら余裕だね。あの高慢ちきな子が目ん玉飛び出して驚く顔が早く見たいよ」
「……セイナ。さすがにそんな顔はしないと思うぜ?」
ルススが呆れ顔で言う。
「――まずい。皆、回避しろ!」
フィフィが叫んだ。
次の瞬間、空から巨体が降ってきた。
竜達の喧嘩はまだ続いていたらしい。
俺はメリーエストを抱えて瞬動で離れる。
ロレイヤはルススとフィフィが抱えて跳んだようだ。
「皆、無事か!」
俺がそう問うと仲間達から無事を知らせる声があがった。
いや、一人足りない。
「ウィーヤリィ!」
「私は無事。でもちょっとマズい事になった」
ウィーヤリィの視線の先、倒れた木々の向こうに、黒煙を上げる次元潜行船ジュールベルヌがあった。
「ここから走って王都まで行ける?」
「無理だね。ハヤトが全速力で走っても日没までに戻るのは無理」
メリーエストの問いにセイナが地図を広げながら答えた。
「直線だったら行けたかもしれないんだけどね。途中は深い森があるし、低いけど山も多い。いくらハヤトでも無理だよ」
「直線なら間に合いそうなんだな?」
「う、うん」
――上等だ。
あの女を仲間にする為なら少しくらいの無茶はやってやる。
俺は無限収納に収納してあった飛翔靴を履いた。
「メリー、初速を稼ぐ。空に浮かんだ俺様を上級の風魔法で吹き飛ばしてくれ」
「そ、そんな! 無茶よ!」
「無茶でもやるんだ。俺様のユニークスキルを信じろ!」
少し逡巡したあと、メリーエストが頷いてくれた。
俺は空に舞い上がり、ユニークスキル「無敵の盾」を発動し、メリーエストに合図する。
次の瞬間、暴風が俺を凄まじい速度と回転で吹き飛ばした。
ユニークスキルを使っていても身体がバラバラになりそうな衝撃だ。
だが、それでも最初のもくろみ通り、いや、それ以上の初速を得られた。
聖盾をグライダー代わりにしながら、飛翔靴で空を蹴って進む。
最初の衝撃で身体は痛むが、まだ「無限再生」は使えない。あれは空中マラソンの後半戦を走り抜く為に温存しなければいけない。
腰のポーチに入れてあった魔法薬を飲み干し、俺はシガ王国の王都めがけて全力で駆けた。
◇
「――まさか本当に取ってくるとはね」
「約束は守れよ」
「分かっているわ。私は嘘はつかない。しばらくはあなたの仲間になってあげる」
リーングランデが上から目線で言う。
「そういえば、ずいぶんボロボロだけど他の子達は?」
「ジュールベルヌを修理したら戻ってくるよ」
俺は竜の鱗を得たときのハプニングを教えた。
「本当に取ってきたの? てっきり王都や周辺都市の商人から買い付けるものだとばかり思っていたわ」
その手があったか!
「ちょっと、まさか思いつかなかったの?」
「いや、そんな方法は誠意に欠けるだろ」
「全く――」
リーングランデが顔に手を当てて唸る。
「――知恵袋の皇女様は何をやってるのよ。本当にあんた達は世話が焼けるわね」
リーングランデが部屋を飛び出したので、俺もそれを追う。
「どこに行くんだ?」
「お祖父様に頼んで迎えの船を出してもらうのよ。ジュールベルヌの構造はよく知らないけれど、整備士もいないのに工場以外で飛空艇が修理できるわけないじゃない」
地球でいうと、無人島に不時着したジェット旅客機を修理して、もう一度飛ばすくらい無茶な感じなのか?
ぷんすかと聞こえてきそうな感じのリーングランデだったが、不思議と感じが悪いとは思えず、どちらかというと近所の世話焼きおばちゃんのような印象を受けた。
◇
最後の最後で色々とトラブルがあったが、リーングランデを従者にし、彼女の伝手で次元潜行船ジュールベルヌの修復を終えた俺達は、「勇者の迷宮」で猛特訓を開始した。
「お嬢! 一人で突っ込むな!」
「あんたの挑発が遅いんでしょ! 私と組みたかったら、もっと精進なさい!」
「この猪女!」
「ドン亀!」
最初こそ、罵り合いみたいな感じだったが、三つほど階層を制覇する頃には少しましになっていた。
「リーン! 右を任せる」
「任せなさい! 中央も私がやろうか?」
「こいつは俺様のだ。喋っているとルススやフィフィに喰われるぞ」
「あははは、喰っちゃうぞ!」
「左を殲滅完了。どっちを手伝う」
「真ん中は俺様のだ!」
リーングランデは名前が長くて呼びにくかったので、すぐにリーン呼びになり、後進のリーンが愛称で呼ばれる事にすねたメリーエストも、すぐにメリー呼びへと変わった。他はウィーヤリィがウィー呼びになった感じだ。
仲間達も俺をハヤトと呼び、頑なにハヤト様呼びをするのはロレイヤだけになった。
俺以外女性ばかりのパーティー編成になってしまったせいか、ちまたでは「ハーレムパーティー」と揶揄されているのだとセイナが教えてくれた。
まあ、ハーレムどころか誰にも手を出す気はないので、気にせずレベル上げを続けている。
「勇者様、また届いていますよ」
「おお! ハニーからか!」
地上に戻るたびに届いているアリサ王女からの手紙が、俺の元気の素だ。
大抵は内政チート関係の話か超絶美少女だという異母姉の話がほとんどだが、彼女らしい淑やかで理知的な文章を読むだけで、彼女と一緒に国作りをしているような気分になれる。
だが、三ヶ月ぶりに迷宮から戻ると、それが珍しく届いていなかった。
少し心配だったが、前回の手紙で両親や兄王子と和解して本格開発に入れると言っていたから、忙しくて手紙どころじゃないだけだろう。
そう考えたのが間違いだった。
次の迷宮行が迷宮最下層を目指した八ヶ月に及ぶ長期探索だったのも災いした。
前回の手紙が届かなかった数ヶ月前に、クボォーク王国がヨウォーク王国に併呑され、国王や王太子を始めとした王族が処刑されてしまったというのだ。
メリーを介して外務省から仕入れた情報で、アリサ王女は処刑を免れたと分かってほっとしたのもつかの間。俺達が迷宮から戻る数日前に、旧クボォーク王国の王城が魔族に襲撃され破壊され、アリサ王女が幽閉されていた離宮も焼失したと教えられた時は目の前が真っ暗になった。
離宮は完全に焼け落ち、ただの一人も生存者がいなかったそうだ。
三日ほどは食事も喉を通らず、死人のように床を見つめて過ごしたが、今度はセイナに活を入れてもらうまでもなく復活できた。
「文官が必要だ」
戦いの外側で欲しい情報を届けてくれる裏方を。
メリーの推薦で文官ノノと双子の妹の文官リロをメンバーに入れた。
片方は交渉に、片方は経理と情報管理に特化しているらしい。どちらも非常に優秀だ。
盤石となった勇者パーティーはさらに各国を行脚し、人々を困らせる魔物や魔族を討伐して回り、戦い以外にも多くの経験を積んだ。
「ハヤト! 神託が降りたわ!」
そしてその日がやってきた。
俺がレベル70になるのを目前にして、ついに魔王復活の預言がなされたのだ。
しかも、世界の七箇所だ。こんな事はここ数百年なかったらしい。
歴史を紐解くと過去に二回。サガ帝国の開祖である初代勇者やシガ王国を作った勇者王ヤマトの時代まで遡る必要がある。
いずれも大魔王と呼ばれるほど別格の魔王が現れていたそうだ。
今回もそうかもしれない。
「震えてるの?」
「そんなわけない。これは武者震いさ」
挑発するように言うリーンに、不敵な笑みで答える。
上級魔族の前に散った仲間達ジェリード、スバク、ザヤン、シーアリィ、ロコッシ。
幼くして魔族の犠牲になったマイハニー、アリサ王女。
もうこれ以上、犠牲者を出さない為に。
「俺は魔王を倒す」
そう宣言し、仲間達を見回す。
皆、覚悟の決まった良い顔をしている。
「俺は勇者。幼女神の勇者ハヤトだからな」
俺はマントを翻し、次元潜行船ジュールベルヌへと乗り込んだ。
魔王降臨の地を目指して。
※この続きは第八章や第十五章をご覧下さい。
※次回更新は来月予定です。内容はtwitterでアンケート中です(8/2~8/5)。
※2020/7/15 デスマ20巻が緊急重版しました! ありがとうございます!
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デスマ20巻の店舗特典でゲーマーズとメロンブックスの表記が逆でした。下記のように修正していますのでご注意ください。
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パリオン神国編とデジマ島迷宮編をベースに新規で書き起こした勇者ハヤトとサトゥーの共闘の物語です。お楽しみに~。
詳しくは活動報告か著者twitter(@AinanaHiro)をご覧下さい。
web完結記念SSペーパーの配布についての記事も追加してあるので、よろしければご覧下さい。







