18-9.勇者ハヤトの物語〔6〕
※今回はチェック時間が取れなかったので誤字多めです。ご了承ください。
『これはちょっとまずいデース』
黄肌魔族が自分の指をちぎって三体の中級魔族と九体の下級魔族を生み出した。
『時間稼ぎをするデース』
黄肌魔族に命じられた魔族達が俺達に襲いかかってくる。
二体の中級魔族と五体の下級魔族を鎧袖一触で倒すも、三体目の中級魔族と残りの下級魔族達は俺から距離を取って遠距離攻撃に徹しやがった。
これ幸いと間を抜けて黄肌魔族に向かおうとすると、その行く手を遮りやがる。
数多の魔法で地形を破壊して走れなくし、空を飛んでも暴風で吹き飛ばしてくるのだ。
虹色の光がなかったら、とっくに詰んで殴殺されていた。
時間だけが過ぎていく。
このままじゃマズい。
俺の中で虹色の力が消えつつあるのが分かる。
「どぉおおおけえええええええええええ!」
隆起する地形を斬り裂き、俺を吹き飛ばそうとする暴風をも斬り裂いて黄肌魔族に肉薄する。
邪魔しに現れた下級魔族を始末し、積層障壁を張って前を塞いだ三体目の中級魔族を討伐したところで時間切れになった。
虹色の光が消える。
超人的な力を出した反動で身体が動かない。
『やっぱり、時間制限付きの力だったデース』
黄肌魔族が嘲笑する。
あいつが両手の間に、凶悪な炎の渦を作り出すのが見えた。絶体絶命だ。
『これで瞬殺したら面白くないデスね。絶望は長引くほど面白いデース』
鑑定スキルが絶望的な状況が更に悪くなっていくのを教えてくれた。
黄肌魔族が炎を消し、生き残った四体の下級魔族達に支援魔法をガンガン重ね掛けし始めたのだ。
強化されて何倍にも強くなった四体の下級魔族達が、ゆっくりと近づいてくる。
俺はこんな場所で死ぬのか。
仲間達を守りきる事もできず、魔王と戦うどころか手下の上級魔族のそのまた手下に……。
「――諦めるなハヤト!」
降り注いだ幾本もの矢が先頭の下級魔族に降り注ぐ。
「シーアリィ!」
流れた血で真っ赤に染まりながらシーアリィが弓を構えていた。
「俺達もいるぜ――魔斬鋼烈刃!」
「斬魔旋剣」
真っ二つにされたはずのスバクとザヤンが必殺技で下級魔族を一体ずつ討伐した。
「……ぎりぎり、間に合いました」
ロレイヤが膝を突くのが見えた。
彼女がスバクとザヤンを神聖魔法で回復させてくれたのだ。
『シェシェシェエエエエ、ドゥエス』
最後の下級魔族がスバクとザヤンの間をすり抜けてきた。
大剣のように変形させた両手を俺の頭上に振り下ろす。
「うぉおおおおおおおおおおお!」
銀色の颶風が下級魔族を呑み込んだ。
雄叫びを上げて駆け寄った銀色の騎士が、下級魔族に魔剣を突き立てる。
「ジェリード!」
「まったく、私がいないと君はいつまでも半人前だな」
ジェリードが半死半生の身体で漢臭い笑みを作った。
その足下で下級魔族が崩壊を始める。
「頼りになる相棒だぜ」
俺は辛うじて上がる手で、ジェリードとハイタッチを交わす。
『素晴らしい友情デース』
金属質な拍手が戦場に響く。
「俺達が時間を稼ぐ」
「ジェリード、ハヤトを任せたぜ」
スバクとザヤンが俺を守るように立ち塞がる。
「だ、ダメだ! 全員で生きて帰るんだ!」
「俺達もそうしたいけどよ」
「他に手はないのさ」
二人はわずかに振り返り、死を覚悟した男の目で俺を見る。
「行け! ジェリード!」
「ここは俺達に任せて先に行け!」
スバクとザヤンが黄肌魔族に足を向けた。
「――すまん」
ジェリードが俺を担いで反対側に駆けだした。
「ダ、ダメだ! 待て、ジェリード!」
「分かれ、ハヤト! お前を失うわけにはいかないんだ」
本当は分かっている。
黄肌魔族は満身創痍で勝てる相手じゃない。
だけど……。
「スバク……ザヤン……」
俺は二人の姿を最後まで目に焼き付けた。
◇
魔窟を抜け出したところで、ジェリードが足をもつれさせて倒れた。
「ジェリード様!」
すぐ後ろを走っていたロレイヤが、ジェリードに何かの魔法薬をかける。
さっきまで気付かなかったが、ロレイヤは気絶したシーアリィを背負っていた。
その後ろに続いていたロコッシもセイナを肩に担いでいる。
『おやおや、もう逃げないデースか?』
魔窟の中から黄肌魔族が姿を現した。
「次は俺の番みたいだな」
「いいえ、私達の番です」
武器を構えるロコッシの横に、気絶から醒めたシーアリィがふらふらの身体で並ぶ。
「ロレイヤ、ハヤトを頼む」
俺の身体をロレイヤに預けたジェリードがアイテムボックスから何かの薬瓶を取り出した。
「もうすぐ、ジュールベルヌが来る。ハヤトだけでも連れて逃げてくれ」
「――ジェリード様」
ジェリードが薬瓶を呷ると同時に赤い光が彼を包んだ。
「ハヤト、これでお別れだ。きっと魔王を倒してくれ」
「私達の事を気に病むな」
「行け! ロレイヤ!」
ジェリード、シーアリィ、ロコッシの声を背に、俺とセイナを担いだロレイヤが駆け出す。
「ジェリードォオオオオオオ! シーアリィイイイイイイイイ! ロコッシィイイイイイイ!」
今の俺には叫ぶ事しかできない。
何が勇者だ。
俺はなんて無力なんだ。
「ハヤト様! あれを!」
前に向けた視線の先に、銀色の境界を割って現れる次元潜行船ジュールベルヌの姿があった。
◇
「スバク、ザヤン、ジェリード、ロコッシ、シーアリィ……」
黄肌魔族との激闘で失った仲間の名前を呟く。
俺とロレイヤとセイナは、ジュールベルヌで救援に来たブルーメ師匠とメリーエストに救出された。
他の仲間達は誰も救えなかった。
仲間達を救うどころか、俺は仲間達に救われたのだ。
俺がもう少し上手く立ち回っていたなら、誰一人欠ける事なく逃げ出す事ができたのに……。
「ハヤト、少し気分転換に散歩でもしない?」
「そんな気分じゃない」
「ハヤト様、お身体の調子はいかがですか? もし宜しかったら癒やしの奇跡を――」
「一人にしてくれ」
メリーエストやロレイヤが励ましにきてくれたが、俺は自分の不甲斐なさでいっぱいで、それに応える事ができなかった。自分の未熟さが厭になる。
「まだ沈んでんの?」
今度はセイナか。
しばらく一人にしてくれよ。
セイナが俺の顔を両手で持ち上げて自分の方を向かせた。
大きなセイナの瞳が俺を見つめる。
意を決した顔でセイナの顔が近付く――。
「こぉのぉ――大馬鹿やろうがぁあああああああああああ!」
予想外の衝撃が俺の頬を打ち抜いた。
――なんだ?
俺はぶたれたのか?
オヤジにもぶたれた事がないとか言うべきか?
いや、オヤジには何度もぶたれた事があるから違うか……。
「何をする――」
抗議する途中でセイナの二撃目の拳が反対側の頬を打った。
「あんたは誰? なんの為にここにいるの?」
俺? 俺は――。
――<汝><勇者><任命>
――<救世><切望><選択>
――<感謝><承諾><勇者>
そうだ。俺は勇者だ。
幼女神の願いに応え、勇者になった。
「そうよ、あんたは勇者。それとも世界を救うのは嫌になった?」
――ハヤトちゃんは大人になったら、どんな人になりたい?
――俺か? 俺は困っている人を助けられる大人になりたい!
そうだ。それが俺の根っこだ。
大切な事を思い出した俺は、ゆっくりと顔を上げる。
セイナと目があった。
「目ー、覚めた?」
振り抜いた拳を反対の手で包み込み、泣き笑いの顔でセイナが呟く。
「ああ、今のは効いたぜ」
そう返事をして気がついた。思った以上にすっきりしている。
俺は慰めではなく罰が欲しかったのかもな。
「ちょっとはマシな顔になったね」
セイナから俺が引きこもっている間に起こった事を聞いた。
ブルーメ師匠は勇者パーティー半壊の責任を取らされて解雇されたらしい。俺は抗議したが誰も聞いちゃくれなかった。
魔族ごときに負けた勇者には発言権なんてないと言わんばかりに。
「ハヤト、そんな顔しないで、ボクたちは味方だよ」
「ええ、ハヤト様。パリオン様に選ばれたあなた自身と神を信じてください」
「セイナやロレイヤの言う通りよ。自信を持って」
セイナ、ロレイヤ、メリーエストが俺を支えてくれる。
「分かっている。俺達はゼロからの出発――いや、ゼロじゃない。俺には――俺様にはお前達がいる。俺様達になら絶対に魔王だって倒せる。そう信じよう――いや、俺様を信じてついてこい!」
虚勢でもいい。俺は自分の一人称を「俺様」に変え、仲間達を引っ張る本当の意味でのリーダーになる事を決意した。
◇
「まずは仲間集めだ」
「分かったわ。すぐにサガ帝国の騎士団に募集を――」
「――待った!」
腰を浮かしたメリーエストを止める。
「今度の仲間は俺様が各地を回って自ら集める」
人任せはダメだ。
そう決めた。
「それなら最初は耳族保護区に行きましょう」
「耳族保護区?」
「シーアリィやスバクの故郷です」
縁故採用は考えていないと言ったら、「違います」と強い口調で返された。
「耳族は戦闘民族とも呼ばれる種族で、歴代の勇者様達に仕える事が多い事でも知られています」
なんでも、歴代勇者の中で耳族を従者にしなかったのは数えるほどらしい。
ジュールベルヌに飛び乗った俺達は、メリーエストの操縦で耳族保護区へと向かった。
……向かったのだが、なかなかヘビーな旅だった。
もう二度とメリーエストには操縦桿を握らせない。
俺はセイナやロレイヤとそう誓い合った。
◇
「第333回勇者杯を行います!」
兎耳のバニーガールなお姉さんが叫ぶと、野太い叫びや黄色い叫びが広場に響いた。
ここにいるのは全て耳族だ。スバクのような熊耳も、シーアリィのような長耳も、アニメによくいるような猫耳や犬耳もたくさん勢揃いしていた。
到着した直後こそ、猫耳の幼女や犬耳の幼女に鼻の下を伸ばしていたが、すぐにこの場所の特異さを理解した。
出会った若者も中年も老人も、皆が皆、鍛えられた身体をしており、俺を見るなり嬉々とした顔で腕相撲や試合といった勝負を挑んでくるのだ。
「従者になりたいかー!」
「「「おー!」」」
「角族に負けるなー!」
「「「おー!」」」
耳が痛い。
「角族ってなんだ?」
「ザヤンのような鹿角族を含む人族の見た目に角が生えた一族です。元は耳族と同じ場所で暮らしていましたが、色々あって角族保護区に分けられました。あちらも戦闘民族ですね」
ロレイヤが説明してくれた。
目の前でバトルロイヤルを始めた耳族の激しさを見ていると、戦闘民族という呼び名が実にしっくりくる。
「あれは――」
木の上に登った長耳族の娘が、シーアリィを思わせる早矢で木に近付く者を射倒している。
「シーアリィに似ていますね。もしかしたら、彼女の親族かもしれません」
顔だけじゃなく、淡々と容赦ないところも似ている。
「ハヤト、あそこを見て。あの二人」
「少し荒いが、なかなかのセンスだな」
狼耳族と虎耳族の女性二人が、見事なコンビネーションで並み居る男達を蹴散らしている。
他にも強い男達はいたけど、仲間にしたいと思えたのはこの二人と、さっきから冷静に矢を放つシーアリィ似の長耳娘だけだった。
この世界は見た目の筋肉や性差よりも、レベルやスキル、技術や戦闘センスの方が勝敗を分けるため、こうして戦いを目で見るのが一番信頼できる。
「ウィーヤリィは分かりますが、本当に里一の暴れん坊であるルススとフィフィをお仲間にされるのですか?」
バトルロイヤル後に保護区の区長さんに話を切り出したところ、そんな答えが返ってきた。
ちなみに、長耳娘のウィーヤリィは予想通りシーアリィの親族――従姉妹だと分かった。
「あたしらが良いなんて分かってるじゃないか!」
「まずはあんたの実力が知りたい。戦おうぜ、勇者!」
虎耳のルススと狼耳のフィフィは見た目こそタイプが違ったが、中身はほとんど同じ、戦えれば満足なバトルジャンキーだった。
本人の強い要望で戦う羽目になったが、レベル40くらいの彼女達を相手に本気を出すまでもなく実力差を分からせたら、俺の従者になる事を認めてくれた。
二人に認められたというか、一気に懐かれてしまった。
「耳族は人族との間にも子供が作れる。勇者の子ならきっと強い」
「やり方は知らないが、母ちゃんの話だと天井を眺めて待ってれば男が勝手にやってくれるって言ってたぞ!」
フィフィとルススがベタベタしてくる。
少し懐きすぎだ。次代に強い子を継ぐのは耳族の使命とか言って、初日に半裸で迫ってこられたのには驚いたが、真面目に叱りつけたら、それ以後は迫ってくる事がなかったのでほっとしている。
健全な男子としては残念がるべきかもしれないが……。
「これがジュールベルヌ!」
意外な事に、ウィーヤリィは次元潜行船ジュールベルヌの操縦や整備に興味を持った。
ここにはメリーエストを含め、整備に詳しい者がいなかったので、サガ帝国の旧都に戻ってから教えられる者を用意するつもりだ。
「俺様が盾役、ルススとフィフィが物理アタッカー、ウィーヤリィが遠距離アタッカー、セイナが斥候、メリーエストが魔法アタッカー、ロレイヤが回復と支援」
俺は指折り数えながら、パーティーの編成を考える。
「中衛が一人欲しい。できればメリーエストなみに魔法が使えると最高だ」
「ずいぶん無茶な注文ね。――宛てはあるの?」
「ある。とびっきりの奴だ」
呆れ顔のメリーエストに首肯する。
「まさか――」
「ああ、そのまさかさ」
俺がスカウトするのは、いけ好かない生意気な女。
シガ王国の公爵令嬢、リーングランデだ。
※更新は下記の通りです。
7/10 18時、18-10.勇者ハヤトの物語〔7〕
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詳しくは活動報告か著者twitter(@AinanaHiro)をご覧下さい。
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