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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
こぼれ話

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18-8.勇者ハヤトの物語〔5〕

※今回はチェック時間が取れなかったので誤字多めです。ご了承ください。



 シガ王国の迷宮都市セリビーラで生意気な公爵令嬢リーングランデと交流した後、俺達は大砂漠を越えて大陸西方諸国へとやってきていた。


 訪れたのは幼女神の名を冠するパリオン神国だ。

 かつて魔王が現れた事があるという「魔神牢」迷宮の遺跡――通称「魔窟」を調べる為にやってきた。

 ブルーメ師匠とメリーエストはいない。二人は法皇や賢者と何かややこしい話があるとかで、聖都パリオンの大聖堂に残っている。


「砂漠に散在する入り口か……」

「ここに魔王が潜伏されたら厄介そうだ」


 俺の呟きを拾った斥候ロコッシが感想を口にした。まったく同感だ。


「それは大丈夫だよー。魔王が現れたのは遺跡になる前の『生きた迷宮』の頃じゃん」

「油断大敵ですが、セイナの言う事も一理あります。迷宮が遺跡になってから、パリオン神国に魔王が現れた事はありません」


 セイナはともかく、ロレイヤが言うなら本当にそうなんだろう。


「ハヤト、戻ろうぜ」


 スバクが周囲を見回しながら言った。


「なんだか尻尾の根元がむずがゆい。こういう時はろくでもない事が起こる」

「迷信深いバカの言葉はともかく、帰還には俺も賛成だ。こんな場所で襲撃されたら、砂だらけになる」

「ボクも賛成さんせー! 髪や耳が砂でじゃりじゃりしてきたよー」


 斥候ロコッシとセイナも帰還を勧めてきた。

 俺としては魔窟とやらを少し探検してみたかったのだが、周りは乗り気じゃないようだ。


 長耳族のシーアリィは周辺の岩山をしきりに気にしているし、鹿角族のザヤンと騎士ジェリードは我関せずとそっぽを向いている。


 いや、周辺を警戒しているのか。


 そういえばパリオン神国には魔王信奉集団「自由の光」っていう連中がはびこっているってメリーエストが言っていたっけ。


「分かった。戻ろ――」


 言葉の途中で、ピリピリとした気配を感じた。

 パリオン神から与えられたタリスマンが反応している。


 これは――。


「――魔族だ!」


 俺は前回の経験から、素早く「無敵の盾(つらぬけるものなし)」を発動し、油断なく周囲を見回す。


『キョッキョッキョッ。勇者は勘がいいデェス』


 足下に広がった黄色い影から慌てて飛び退く。


 その影から、黄土色の巨大な魔族が現れた。

 俺はすばやく鑑定スキルで魔族の情報を読み取る。


「中級魔族! レベル55! 毒爪と氷魔法に注意しろ!」


 俺が情報共有する間にも、ロレイヤが支援魔法を唱える。

 メリーエストや師匠がいないのは痛いが、誰一人欠ける事なく勝利してみせる。


 ――俺は勇者だからな!


「相手の攻撃は俺が止める!」


 ユニークスキルを使った俺に止められない攻撃はない。

 念のため「無限再生(はてなきいやし)」も使っておいた。


「来い! 魔族!」


 声に「挑発」スキルを篭めて叫ぶ。

 知恵のある相手には通じにくいが、魔族は素直に俺に向かってきた。


「――魔斬鋼烈刃バースト・ハッカー!」


 横合いから赤い光を曳いて、スバクの必殺技が炸裂した。


「こいつを防ぐのかよっ!」


 斧系最強の必殺技は中級魔族の腕の前に現れた障壁で防がれた。

 魔族は尻尾を振ってスバクを吹き飛ばし、跳躍して俺に毒爪攻撃を仕掛けてきた。


 それを聖盾で受け止める。


「皆、焦るな! 着実にダメージを蓄積させろ!」


 俺の指示に従って地道に攻撃するが、スバクの必殺技を止めた障壁に全て阻まれてしまう。


「ジェリード!」

「任せろ! ――魔刃砕壁ブラスト・アーマー


 ジェリードの障壁破りの必殺技が、中級魔族の障壁に命中した。


 一撃で壊れないだと?


「なんて奴だ!」


 これで中級なんて、上級はどれほど厄介なんだよ。


「一度でダメなら砕けるまで続ければいい!」


 ジェリードが二度三度と「魔刃砕壁ブラスト・アーマー」を繰り返す。

 俺やスバク達はジェリードを排除しようとする中級魔族の攻撃を妨害して、ジェリードをサポートした。


 そして、ついに――。


「砕けた!」

「ナイスだ、ジェリード!」


 俺はジェリードを褒め称え、シールドバッシュで中級魔族の体勢を崩す。


斬魔旋剣エビル・スラッシャー


 ザヤンの大剣系必殺技が動きの止まった中級魔族に炸裂する。

 障壁がなくとも中級魔族の体皮は硬いらしく、切り裂く事ができずに赤い光の火花を激しく散らせるに終わった。


 ザヤンの反対側から騎士ジェリードが迫る。


「装甲の隙間を狙え!」


 ジェリードの片手剣系必殺技「貫魔穿剣エビル・ピアッサー」が装甲の隙間に刺さる。


『ちょこまかとうっとうしいデェス!』


 中級魔族がコマのように回り、ジェリードとザヤンを吹き飛ばす。


燕眼貫矢スナイピング・スワロー・アイ


 シーアリィの赤い矢が中級魔族の眼を狙撃した。


「――魔斬鋼烈刃バースト・ハッカー!」


 視界を失った側面から、スバクが襲いかかった。

 ロレイヤの回復魔法で復帰したようだ。


 斥候ロコッシとセイナも小剣系の必殺技で攻撃に参加する。

 総力戦でも最後の一歩が押し込めない。


 俺も防御を捨て、ユニークスキル「最強の矛(つらぬけぬものなし)」を発動し、攻勢に出る。


 さすがはユニークスキル、神の権能を宿しただけはある。

 通常攻撃でも、他の仲間達が放つ必殺技なみの攻撃力があるようだ。


 中級魔族の体力(HP)が面白いように減っていく。


「とどめだ! ――閃光螺旋突きシャイニング・ストラッシュ


 仲間達の必殺技ラッシュの最後に、ブルーメ師匠から学んだ先代勇者が得意としていた必殺技を実戦で初めて使ってみた。


 青い輝きが魔族の身体を貫き、その身体を黒い靄へと変えて散らす。


 からんからんと魔族から落ちた漆黒に近い色の魔核が地面を転がった。


「倒せたのか?」

「ああ、俺達の勝利だ!」


 あっけない最期に思わず疑問が浮かんだが、間違いなく倒せたようだ。

 仲間達と一緒に魔族討伐を祝う。


「それにしても、レベル55でこれほど強いとは」


 魔族はレベルだけでは計れない強さがある。


「だが、私達は一人も欠ける事無く勝利する事ができた。私達なら魔王だって勝てるさ!」


 勝利に浮かれた騎士ジェリードが珍しく、彼らしくない言葉を口にした。

 それくらい強敵に勝てたのが嬉しかったのだろう。


『それは破滅フラグというものデース!』


 不気味な声とともに、黄色い影が現れた。





 ――なんだこいつは。


「ジェリード!」


 間近に現れた黄色野郎に、騎士ジェリードが鎧袖一触で叩き潰された。


 ――なんだこいつは。


「スバク! ザヤン!」


 ジェリードを救出するべく決死の突撃を行なったスバクとザヤンが、黄色い肌の魔族がタイムラグなく放った魔法で真っ二つになった。

 二人だったモノが血みどろになって転がっていく。


 あいつらがこんなに簡単にやられるはずはない。

 俺は幻を見ているのか?


 ――なんなんだこいつは。


 さっきの戦いで使ったユニークスキルが残っていなければ、俺もやられていたのは間違いないだろう。

 ロレイヤがスバクやザヤンを治癒できるように黄肌魔族の注意を引き、最強の矛(つらぬけぬものなし)の残滓が残った聖剣で牽制するも、黄肌魔族の張った障壁を打ち破る事さえできない。


 俺の求めに応じて、鑑定スキルが俺に黄肌魔族の情報を伝えてくる。

 相手はレベル72の上級魔族。称号に「勇者殺し」を持つ恐るべき相手だ。


「ハヤト、こいつはまずい。ロレイヤと一緒に逃げろ。俺が時間を稼ぐ」


 俺の後ろに駆け寄ったロコッシが、焦った口調で囁いた。


『おやおや大言壮語が過ぎるデスよ、ニンゲン?』


 黄肌魔族が攻撃の手を止め、にんまりと邪悪な笑みを浮かべる。


 身長5メートルを超える巨躯から繰り出される一撃は地を割り、鎧を引き裂く。

 しかもこいつのスキル構成を見る限り、魔法系の魔族だ。


 あの異様に強力な障壁も魔法だろう。


「ハヤト様、ここは引くべきです。相手は――」

「ああ、分かっている」


 さっきの中級魔族とは一線を画する威圧感と存在感が俺達を萎縮させる。


 絶対に勝てないのは間違いない。

 だが、勝てないまでも時間を稼いで、仲間達を逃がすくらいはしてみせる。


 俺は覚悟を決め、俺の魂に宿った神の力に集中した。


 ――無敵の盾(つらぬけるものなし)

 ――最強の矛(つらぬけぬものなし)

 ――無限再生(はてなきいやし)


 俺は全てのユニークスキルを解放する。


 先ほどの残滓とは一線を画す莫大な力が俺を包んだ。

 全能感が俺の心から恐怖を拭い去り、萎縮していた身体をほぐしてくれる。


「これならば――」


 ――勝てないまでも簡単にはやられない。

 そう言いたかったのだが、言葉の途中で記憶が途切れた。


『神の権能を持ちながら、この程度とは失望デース』


 鉄くさい唾液を吐き出し、顔を上げる。

 脳しんとうを起こしているのか、視界が揺れ考えがまとまらない。


 盾越しに衝撃を受けたのまでは憶えている。


「――なんだこれは」


 そこは死屍累々たる惨状が広がっていた。


『やはり強化魔法や魔法薬で準備を整えるまで待ってやらないと勝負にならないデスネ』


 四肢を引き裂かれたロコッシ、片足を失い人形のように転がるセイナ、五体満足だが血の海に沈んでいるロレイヤ、今動けているのはシーアリィだけだ。

 そのシーアリィも弓と片腕を失い、朱色の魔剣で牽制する事しかできていない。


『障壁を破る事もできないとは残念すぎデース』


 いや、セイナとロレイヤはまだかろうじて生きている。


 収納してある魔法薬さえ使えば助かるはずだ。


「ハヤト! 皇女殿下に連絡した。もうすぐタリスマンを用いた勇者召喚が発動する。お前は生きろ!」

「シーアリィ? お前は何を言って――」


 身体の周りに魔法陣が現れる。

 目の前でシーアリィが黄肌魔族の蹴りを喰らって吹き飛ばされた。


 身体がふわりと浮かび上がり、一度だけ経験した転移魔法のような感触が身体を包む。


 ――逃げる?


 俺だけ? こいつらを見捨てて?


「……できるわけないだろうがっ!」


 俺は気合いで転移魔法を撥ね除けた。


 ここで俺が逃げたら、シーアリィもロレイヤも小生意気なセイナも助けられない。


『おやおや、せっかく見逃してあげようと思ったのに、お前達の勇者は歴代最低の愚者みたいデース』


 黄色魔族が嘲り笑う。


「愚者だって構わない。なぜなら――」


 ――ハヤトちゃんは大人になったら、どんな人になりたい?


 幼い頃の記憶が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。


 ――俺か? 俺は困っている人を助けられる大人になりたい!


「それが俺だからだ。俺が勇者。勇者ハヤトマサキだ!」


 俺はもう一度ユニークスキルを使う。

 幼女神は使いすぎはダメだと言っていたが、今は先の事なんて気にしていられない。俺は「無敵の盾(つらぬけるものなし)」を三度(みたび)重ねる。


 だが、まだダメだ。


 これじゃ足りない。

 レベル差12はこれくらいじゃ覆せない。


 ――この神社の札は霊験あらたかゆえ、本当に困ったときに使うといい。


 再びフラッシュバックが起きる。


 ―― 一度だけじゃが、お主の苦難を払ってくれるぞ。


 俺は無限収納(インベントリ)から札を取り出した。


 どうやって使う?

 分からん。


 ならば叫べ!


『札よ! 俺に魔族(あいつ)を打ち倒せる力を!』


 俺は日本語で叫んだ。


 手の中の札は一瞬で燃え尽き、俺の聖剣と聖鎧が虹色のオーラを帯びる。


『その光は何デースーかー?!』


 黄肌魔族が初めて焦った声を出した。


 ――DZEEEEEATYH。


 黄肌魔族が咆哮を上げ、その周囲に恐ろしいほどの熱量を持った白い炎を幾つも生み出した。


煉獄の白焔ホワイト・インフェルノを喰らうデース!』


 あれはやばい。


 瞬動で黄肌魔族に突撃したが、このままだとまともに食らってしまう。


 今からじゃ回避も無理だ。


 俺の命と引き換えに、必ずあいつも道連れにしてやる!


 空気が重い。


 まるで水の中を走っているようだ。


 一秒一秒が長く感じる。


 俺に襲いかかる白炎弾の動きが見える。

 僅かな動きで躱していくがやがて逃げ場がなくなった。

 聖盾を犠牲にしてでも受け流して――愛用の聖盾がない。さっき気絶した時にどこかに飛ばされてしまっていたようだ。

 ならば、腕を犠牲にしてでも――。


 そう覚悟して白炎弾に腕を叩きつける。

 腕の表面で虹色の光が爆ぜ、白炎弾を消し去った。


 あまりに予想外の光景に、思わず意識に空白が生まれる。

 次々と白炎弾が俺の身体に命中したが、すべて消え去ってしまった。


 さらに無敵を誇った黄肌魔族の防御障壁を、虹色の光に包まれた聖剣が紙切れのように貫いたのだ。

 まるで竜の伝説にある「全てを貫く」竜の牙のように。


 黄肌魔族の体力がごそっと減った。


 これなら勝てる!



※更新は下記の通りです。


7/5 18時、18-4.勇者ハヤトの物語〔1〕

7/6 18時、18-5.勇者ハヤトの物語〔2〕

7/7 18時、18-6.勇者ハヤトの物語〔3〕

7/8 12時、18-7.勇者ハヤトの物語〔4〕

7/9 12時、18-8.勇者ハヤトの物語〔5〕

7/10 12時、18-9.勇者ハヤトの物語〔6〕

7/10 18時、18-10.勇者ハヤトの物語〔7〕



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[一言] >「斬魔旋剣」 >大剣系必殺技 書籍版では「斬撃系必殺技」ですね。 ジェリル氏が片手剣で使用してます、それも「貫魔穿剣」の直前に。(16巻P321) 書籍版と「同じにする必要は無い」とは思…
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