18-4.勇者ハヤトの物語〔1〕
※今回はチェック時間が取れなかったので誤字多めです。ご了承ください。
「真崎君、お願いしていいかな?」
幼なじみの橘ゆみりに頼まれて、俺――真崎隼人は学校の近所にある神社へと来ていた。
生徒会で必要なお札を貰いに来たのだ。
どうして三学期も終わろうとしている今頃に必要なのかは知らないが、忙しそうな幼なじみに頼まれては厭とは言えない。
「そこの少年、この神社に何用じゃ?」
カラフルな髪をした可愛い少女が声を掛けてきた。
何かのアニメか漫画を真似しているのか、口調がおかしい。
「お札を貰いに来たんだ」
「うむ、それは良いの。お主は受難の相が出ておるゆえ、持っておくのがよかろう」
受難の相って……面白い子だな。
さっきと髪の毛の色が違う気がするが気のせいだろう。
「悪いけど人に頼まれただけさ」
少女の巫女ごっこに付き合ってやってもよかったが、なんとなく本当の理由を言ってしまった。
「ふむ、まあ良い。この神社の札は霊験あらたかゆえ、本当に困ったときに使うといい。一度だけじゃが、お主の苦難を祓ってくれるぞ」
「一度だけなのか?」
昔話だと三回くらい救ってくれなかったっけ?
「あれは三枚のお札じゃ。札一枚に一つの救いというのは同じじゃよ」
そう言われてみればそうだ。
少女とそんな話をしながら社務所に向かう。
「この坊主に札を出してやれ」
「ん」
少女の妹なのか水色に近い青い髪をした幼女がこくこくと頷く。
待っている間、おみくじの筒が目に入った。
そういえば、幼い頃にユミリと来たときは必ず引いてたっけ。
「一回引くよ」
俺はお札の代金と一緒に小銭を受け皿に置いておみくじを引いた。
くじの棒に書かれてあったのは、七七番というなんとなく縁起の良さそうな番号だ。
「ふむ、七七番か――お主の運命を暗示しておるような番号じゃな」
少女が横から顔を出して呟いた。
「ほれ、七七番じゃ」
「ありがとう」
少女が渡してくれたおみくじを読む。
吉や凶とかいてある場所に「当」と書いてあった。今はこんなのがあるのか。
待ち人、来たる
旅路、波乱あり。友に相談すべし。
捜し物、障りあり。あせらず行うのが吉。
縁談、向こう吉。誠意に応えよ。
よく分からない文言もあるのがおみくじらしい。
「お札」
「おう、ありがとう。お手伝いできて偉いな」
幼女が御札を出してくれたので受け取る。
俺が褒めると、こくこくと頷いて「わたし、えらい」と言って鼻息荒く胸を張った。やはり幼女は可愛い。この可愛さに匹敵するのは妹か童顔のユミリくらいだろう。
「ふむ、『波乱あり』か――厄払いにお参りしておけ」
さっきと髪の色が違う少女が神社の拝殿を指さす。
この子は何個のウィッグを袖に忍ばせているのだろう。
せっかくなので「そうするよ」と告げておみくじを木の枝に括った後、拝殿でお参りをする。
こうして静かな神社で手を合わせるのも久々だ。
――ハヤトちゃんは大人になったら、どんな人になりたい?
脳裏に幼い頃の思い出がフラッシュバックする。
――俺か? 俺は困っている人を助けられる大人になりたい!
幼い日に宣言した通り、俺は今もその時の言葉を裏切らずに生きてきた。
「うむうむ、今時の若者には珍しい良き心じゃ」
「ん、合格」
人の心を読んだかのように聞こえる会話を、カラフル少女と青髪幼女が交わす。
次の瞬間、俺の足下から光が現れた。
まぶしい光の中に見えたのは、アニメに出てくるような魔法陣だ。
――やばい。
俺は直感に従って飛び退こうとしたが、俺の身体は脳からの命令を拒絶してピクリとも動いてくれなかった。
「お札を大切にな」
そんな少女の言葉を最後に、俺の意識は光の魔法陣に飲み込まれた。
◇
<召喚><通知><確認>
気がついたら、ふわふわとした水色の空間に浮かんでいた。
<召喚><通知><確認>
頭の中に言葉や概念の塊のようなモノが響く。
水色の空間に浮かぶ青い光の球体から届いているようだ。
<勇者><召喚><確認>
少しイメージが変わった。
どうやら、俺は勇者召喚されるらしい。
ぼんやりとして思考がままならない。
<我><幼女神><信>
小さな女の子がお願いするイメージが伝わってきた。
この子が俺を召喚した幼女神様らしい。
<汝><勇者><任命>
幼女神様が俺を勇者に任命したらしい。
困っている人は見過ごせないし、悩んでいる人を見かけたら声を掛けるようにはしているけど、勇者なんて大それた存在になれると思うほど、俺は自分を過信していない。
<汝><資格><信>
切実な願いが俺の心に飛び込んできた。
幼女神を信じてほしいと。
<救世><切望><選択>
勇者になって世界を救ってほしい。
そう願いつつも、最後の選択権は俺にくれるようだ。
だが、いたいけな幼女の願いを無下にはできない。
俺に何ができるかわからないが、精一杯果たしてみせるぜ。
<感謝><承諾><勇者>
俺の答えを聞いた幼女神が破顔するイメージを送ってきた。
そんなに喜ばれると、こっちまで照れるぜ。
<預託><権能><選択>
なるほど、勇者として世界を救う為の力を貸してくれるわけか。
送られてくるイメージ通りに、青い光に手を添えて欲しい力を願う。
まずは――強大な敵を倒す為の力。
光の表面に浮かび上がった小さな欠片が俺の胸に飛び込んできた。
――最強の矛。
どんなモノも貫く力らしい。
ならば、次に願う力は一つだ。
先ほどと同じように光の欠片が飛び込み、二つ目の力が俺に宿る。
――無敵の盾。
どんな攻撃も受け止める最強の盾。
使命を果たし、妹やユミリと再会する為に必要な力だ。
<預託><権能><選択>
幼女神が俺を促す。
まだ権能を選べるようだ。
なかなか太っ腹だ。
<訂正><体型><警告>
おっと太いって言ったんじゃないぜ。
気前がいいって言いたかったんだ。
<受諾><訂正><言葉>
幼い女神様でも体型は気になるのか?
ちょっと楽しくなりながらも、笑うのは我慢した。
<預託><権能><選択>
幼女神が再び促した。
俺は少し悩んでから選択する。
青い光の表面にいくつかの欠片が浮かび、そのうちの一つが俺の胸に飛び込んできた。
――無限再生。
どんな怪我も部位欠損も自動的に修復される回復魔法いらずの権能だ。
痛いのは嫌だから、防御極振りも考えたが、「無敵の盾」で防げないほどの攻撃なら、どんな防御でも無傷では済まないと権能自身が訴えてきたので、怪我を負ったときのリカバリー手段を選んだ。
<祝福><権能><取得>
幼女神が俺の選択を褒めてくれた。
<望><行使><救世>
貸与した権能を使いこなして世界を救ってほしいと幼女神が願う。
そんなイメージが脳裏に浮かぶ。
ああ、任せておけ。俺が世界を救ってやる。
<注意><行使><過度>
権能の使いすぎはダメらしい。
元々が神様の力だから、人間には強すぎるという事だろう。
薬も用量を守らないと毒になるからな。
<祝福><勇者><希望>
幼女神に祝福され、俺は水色の空間を後にした。
◇
「勇者様が召喚に応じられたぞ!」
よく通る老人の声と大歓声が混濁していた俺の意識を覚醒させる。
「どこだ、ここは?」
呟く途中で、水色の空間で幼女神に聞いた話を思い出した。
俺は異世界に勇者召喚されたんだ。
動揺から立ち直り、周囲を見回す余裕が出た。
俺は周囲を見回す。神殿のような荘厳な大広間には、俺を中心に巨大な魔法陣のようなモノが描かれ、その外側を囲むように神官風の衣装を着た男女がいる。神官達は皆疲労困憊で今にも倒れそうだ。
その神官達の輪を割いて、煌びやかな集団が現れた。
俺と同い年くらいの美少女、その美少女を守るように銀ぴかの全身甲冑を着込んだ美青年、付き従うのは俺より少し年上くらいの巨乳神官や鋭いまなざしの軍服を着た老女といった、目立つ四人を中心とした集団だ。周りを囲む文官風の男達に特筆すべき点はひげ面が多い事くらいか?
不意に俺の脳裏に幾つもの情報が浮かんでは消える。
「勇者様、我らの願いに応じてくださった事に感謝を」
美少女が俺の前で腰を折って映画でみたようなファンタジーっぽい挨拶をする。
美少女の名前がメリーエストで、サガ帝国の皇女である事、俺の一つ年下で16才である事なんかが分かる。
騎士はオリサガス公爵家のジェリード、22才。強そうだ――そう思った瞬間、レベル44という情報や彼の持つスキルが次々と連鎖反応のように流れ込んできた。
どういうモノか分からないが、知らないはずの情報が頭に流れ込んでくるのは気持ちが悪い。
皇女様の後ろで巨乳神官も礼をする。こっちは宗教色が強そうな形式張った感じだ。
騎士と老女軍人の方は無言だ。というか眼光が怖い。ギラギラした目で値踏みされるのは、なかなか不快だ。
俺は皇女様に促されて、神殿の中にある応接間へと移動した。
大臣や文官のようなおっさん達も応接間についてこようとしたが、皇女様に命じられて追い払われていた。なかなか気の強い子らしい。
◇
「私はサガ帝国の第21皇女メリーエスト・サガと申します。皇帝陛下の勅命で、『召喚の儀』を執り行いました」
幼女神に召喚されたのかと思っていたが、実際に勇者召喚の儀式を行なったのは彼女達らしい。
近くで見ると皇女様の豪奢な金髪が黄金のようだ。
これだけ現実離れした美少女は見た事がない。
これで、もう少し愛想がよかったら完璧なんだが。
「こちらは銀の騎士ジェリード・オリサガス。サガ帝国の騎士団でも有数の剣豪で、勇者様の従者候補です。隣にいるのが、剣聖ブルーメ・ジュレバーグ殿。先代勇者の従者をされていた方で、勇者様や従者達の教導を担当していただきます。最後に、こちらの女性がパリオン神殿の神官ロレイヤです。位階は低いですが、神聖魔法の腕は神殿でも随一です」
皇女様が同室した三人を紹介する。
それにしてもロレイヤさんの胸はでかい。俺は幼女趣味だから「でかいなー」とか「肩が凝りそうだ」とかしか思わないから問題ないが、クラスの連中が見たら大騒ぎをしそうだ。
「勇者様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、すみません。真崎隼人です。こっちの言い方だとハヤト・マサキかな?」
皇女様に促されるまで名乗るのを忘れていた。
「マサキ? 魔を裂くと書くのでしょうか?」
「いいえ、真偽の真に長崎の崎――って言っても分からないか、山へんに奇跡の奇って書きます――皇女様は漢字が分かるのですか?」
「ええ、図書館にある勇者学の本の中には、歴代勇者様が残されたニホン語に関する書物もありますから」
そういえば普通に会話していたけど、今話しているのは日本語じゃない。
「そういえばこの言葉は――」
「サガ帝国で一般に話されているサガ国語です。勇者様はパリオン神からのギフトで、全ての国の人々と意思疎通ができるので、ご安心ください」
それは便利だ。
幼女神様、ありがとう。
皇女様が「文字も読めるはずです」と言って何かの書類の束を見せてくれた。
どれも履歴書か身上書みたいな書類だ。100枚以上ある。
「こちらは勇者様の従者候補です。厳選された者ばかりですが、この中から勇者様にお選びいただきます。私やブルーメ殿にご相談いただければいくらでも助言いたします」
「――殿下」
皇女様の説明の途中で、老女軍人――ブルーメさんが口を挟んだ。
「しばらくは殿下の座学だろ? 顔見せも終わったし、あたしは下がらせてもらうよ。従者候補のひよっこ達を勇者の役に立つように鍛え直さないといけないからね」
「分かりました。よろしくお願いいたします」
このブルーメさんは凄い。ここにいる誰よりも高いレベル52というレベルがある上に、83才という高齢なのに20代のようにキビキビと動く。うちの祖母ちゃんよりも年上とは思えない。
「あんたも来るんだよ」
「ブルーメ殿、私には殿下の護衛という任務が――」
「今回の勇者はまともだ。あんたの護衛はいらないよ。押し倒されるくらいは殿下も織り込み済みだろ?」
騎士は「破廉恥な!」と言って怒ったが、皇女様は薄く微笑むだけでコメントしなかった。
「それに二人っきりにするわけじゃない。ロレイヤもいるんだ。童貞がいきなり三人で乱交を始める事はないさ」
事実とは言え美少女や美女の前で童貞と決めつけられるのはプライドが傷付いたが、俺を信頼しての発言だと分かったので抗議はしなかった。
異世界での勇者生活は思った以上に大変そうだ。
※更新は下記の通りです。
7/5 18時18-4.勇者ハヤトの物語〔1〕
7/6 18時18-5.勇者ハヤトの物語〔2〕
7/7 18時18-6.勇者ハヤトの物語〔3〕
7/8 12時18-7.勇者ハヤトの物語〔4〕
7/9 12時18-8.勇者ハヤトの物語〔5〕
7/10 12時18-9.勇者ハヤトの物語〔6〕
7/10 18時18-10.勇者ハヤトの物語〔7〕
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詳しくは活動報告「デスマ20巻の見どころ&表紙」か著者twitter(@AinanaHiro)をご覧下さい。







