姉妹
※ナナの姉妹達の最期を思い出せない方は、先に「5-12.トラザユーヤの迷路(3)」をご覧ください(書籍版では生存していますが、WEB版では5-12で死亡しています)。
「ここが迷路の跡地だと確信します」
山の上から谷を見下ろし、ナナが呟いた。
切り立った崖の底には大量の瓦礫や巨岩が積み重なっている。
ここはナナの前マスターである「不死の王」ゼンが、自らを討伐させる為に起動した「トラザユーヤの迷路」があった場所だ。
二年ほどの間に瓦礫の上には草木が生え、探さないとどの辺りまでそうだったのか分からない。
ナナが静かな瞳で周囲を見渡した。
ここはゼンの墓所であるのと同時に、ナナの姉妹達がゼンのユニークスキル「限界突破」で限界を超える力を発揮し、魔力の泡となって消えた悲しい場所だ。
「こんな感じでしょうか?」
「イエス・リザ。墓石は正しく垂直だと報告します」
オレ達はナナが決めた場所に、彼女の姉妹達やゼンを弔う墓標を建てた。
墓標の下に埋める遺体はなかったので、戦利品の自動回収機能でストレージに回収されたまま未整理で放置していた品々の中から、ナナの姉妹達やゼンの遺品を見つけ出して遺体の代わりに埋めた。
「ナナ」
「花を摘んできたわ」
「お姉さん達に供えてあげてください」
「感謝と告げます」
ナナはミーア、アリサ、ルルが摘んできた花を受け取り、墓前に供える。
彼女が手を合わせて冥福を祈ると、仲間達も一緒に黙祷を捧げた。
もし、あの時の自分に、今のような力があったなら、姉妹を死なせずに済む未来があったのだろうか……。
祈りを終えたナナがオレを見つめる。
無表情で分かりづらいが、どこかアンニュイな感じだ。
「マスター、私の姉妹を再生産可能ですかと問います」
予想外の質問に返事が遅れた。
オレはストレージを確認する。
ナナを製造した機材は「トラザユーヤの迷宮」崩壊時に壊れている。エルフ達の調整槽と類似しているが、一部カスタマイズされているようだ。ストレージの中にはトラザユーヤ氏やゼンの残した資料もあるが全てではない。
「できると思うよ。でも、少し時間が必要そうだ」
「イエス・マスター。姉妹の再生産をリクエストすると希望します」
無表情だったナナの顔に、僅かな笑みが浮かんでいる。
これはちょっと頑張らないとね。
◇
「う~ん、このパーツの意味が分からないな……」
ナナのリクエストを受けたオレはボルエナンの森の研究室で、機材の修復を行なっていた。
破損したパーツや生き残ったパーツから製作者の意図を推測しつつ再構成していくが、なかなか癖があって上手くいかない。
「サトゥー、それは魔法陣回路の埋め込みを補助するものではないか?」
「違うぞ! それは魔力を整える為の補助装置だ」
「魔力を整える装置なら別にあったぞ?」
「一つでは足りなかったのではないか?」
「複数の整流装置の存在は、№8の作成見学中に聞いた覚えがあると報告します」
「やはりそうだったのだ! その線で進めるぞ!」
エルフ達やナナが助手として手伝ってくれている。たまに研究好きなブライナン氏族やベリウナン氏族のハイエルフ達も顔と口を出して去っていく。
「差し入れ~?」
「疲労した脳ミソさんのおやつなのですよ」
「ん、蜜菓子」
甘い香りとともに、仲間達が差し入れに来てくれた。
糖分が不足していた研究者達が甘味に殺到する。
ルルが入れてくれた絶品の青紅茶で喉を潤し、ミーアが確保しておいてくれた蜜菓子で脳に糖分を補充した。
「今、どんな感じ?」
「もう一歩なんだけど、そこから先が上手くいかないんだ」
状況を尋ねるアリサに簡単に説明した。
ほぼ同型のホムンクルス自体は作れるんだけど、シミュレートしたところ理術回路の拡張性や魔力効率がナナの初期状態に大きく劣ってしまいそうなのだ。
今は不明な回路や不要な回路として切り捨てた幾つかを再検討している。
「作った本人から聞けたらいいのにね」
アリサが肩をすくめて呟いた。
……作った本人?
「それだ!」
トラザユーヤにはマーカーを付けてあるので、マップを見れば彼の現在地が分かる。
彼は軍師トウヤという名前で鼬帝国で再会し、サガ帝国の暗部でゴブリンの魔王の配下として活動していたが、今は地味顔転生者と一緒に辺境の小国で錬金術店をして暮らしている。
「え?」
「ゼンに会うのは無理だけど、トラザユーヤ氏の方なら会おうと思ったら会える」
マーカーがある場所の近くにエチゴヤ商会の支店があるから、そこから閃駆で飛んでいけばすぐだ。
「マスター、同行を希望すると告げます」
「一人くらいならいいよ」
オレはナナを連れてトラザユーヤのいる場所へと向かった。
――あれ?
マップに映っていた光点が消えている。
「マスター?」
疑問符を浮かべるナナと一緒に、トラザユーヤ邸の近くへと降りる。
「どこかに出かけたみたいだね」
トラザユーヤと一緒にいる地味顔転生者のユニークスキルによる転移だろう。
「マスター、鍋が火にかかったままだと警告します」
窓から家の中を覗き込んでいたナナが教えてくれた。
彼女の横から中を覗くと、調理中の鍋が放置され、机には倒れたカップや書いている最中の書類がそのままだ。
何か急用ができたのだろうか?
「出直すとしよう」
いつ戻るか分からないしね。
「イエス・マスター」
ナナが少ししょんぼりした顔で頷く。
火事になってもかわいそうなので、魔法的な念力である「理力の手」で火を消し、ついでに倒れたカップの後始末をしておいてやった。
数日経ってもトラザユーヤは、移動後の拠点から動いていなかったので、そちらに出向いてみた。
――だが。
「やはり誰もいないと告げます」
数日前と同様に、移動先の邸宅にはトラザユーヤの姿はなかった。
寸前までいたのに、またしても急用が入ったらしい。
「追いかけてみようか」
「イエス・マスター」
ユニット配置できる場所が少し遠めだけど、閃駆で行けばそれほど大変でもない。
転移し、トラザユーヤの拠点へと向かったが、再び彼らの姿は消えていた。
「マスター」
ナナが無表情でオレを見据える。
「マスターはターゲットに避けられているのではないですかと問います」
「やっぱりそう思うか?」
薄々気付いていたが、改めて指摘されると少し気まずい。
◇
『「ぷろじぇくと・ふりーふぉーる」準備完了だと告げます』
骨伝導スピーカーから、虚空艦のコクピットにいるナナの声が届く。
オレは虚空艦のコクピットに映るシルエットに手を振り、閃駆で大気圏に突入した。
水平方向の移動が見つかるなら、垂直方向から接近しようとしたのだ。
音速の壁を超え、身体を守る「風防」の魔法が作り出した障壁が赤熱する。
あっという間に大地が明瞭になり、ひとかたまりだった街がくっきりと見分けられるようになった。
このままだと大地にクレーターを作る羽目になるので、ターゲットの家の庭に目視ユニット配置で移動して慣性を消す。
窓の向こうに、焦った顔で立ち上がる禿頭の男――トラザユーヤが見えた。
何かを叫ぼうとする彼の眼前に目視ユニット配置で接近し、地味顔転生者が反応するよりも速く、彼を連れて上空の虚空艦へと再転移する。
「――くっ、殺せ」
トラザユーヤを虚空艦のフロアに解放したところ、いきなり「捕虜になった女騎士」みたいなセリフを言い放った。
「何か勘違いしていないかな?」
「ミオには手を出すな。あの娘は私の命令に従っていただけだ」
話がかみ合わない。
ちなみに「ミオ」というのは地味顔転生者の名前だ。
マップを確認したら、彼女はトラザユーヤが消えた屋敷の中で右往左往している。
「心配しているようだから、声を掛けてやるかい?」
オレはそう言って、ミオのいる場所に双方向のテレビ電話のようなオリジナル空間魔法をつないでやった。
『トウヤ様! ご無事ですか?!』
「何をしている! 私が拐われたら、すぐに次の拠点に逃げろと言ったであろう!」
『トウヤ様がいない世界で生き残っても意味がありません!』
なんだかドラマが始まってしまった。
ここまで真剣になられると、ちょっと罪悪感がある。
「さて、そろそろいいかな?」
オレは少し見守った後、声を掛けた。
「要求を言え。ミオを人質に取られていては是非もない」
『……トウヤ様』
親切心から映像付き通信をつないだのに、脅迫だと受け取られてしまったようだ。
まあ、いいや。本題に入ろう。
「あなたが『トラザユーヤの迷路』を作ったときに併設したホムンクルス製造システムの設計図があれば見せてもらえないかな?」
「そんな事か?」
トラザユーヤはアイテムボックスを開くと、中から丸められた設計図十数枚と開発日誌的な紐綴じの書物を何冊か取り出して近くにあったテーブルの上に置いた。
「これで全てだ」
「拝見するよ」
オレは全ての資料をストレージに収納し、すぐさま魔法で複写して元あった場所に返却する。
しかる後にメニューの画像文章化機能でストレージ内の書物を検索して、目的の箇所を探り当てた。
幾つか疑問点があったので、質問をトラザユーヤに投げかけて必要な情報を得る。
やっぱり、作った当人にインタビューできたら早いね。
「情報提供感謝する。資料は複写させてもらったので、原本は返却する。情報の対価と迷惑料を払いたいのだが――」
「いらん」
トラザユーヤは即答でオレの言葉を遮った。
「――いや、二つ要求がある。私を元の場所に戻せ、そして二度と私達に関わるな」
「分かった。君達が世界に仇なさない限り、君達に関わらないと約束しよう」
仏頂面で首肯するトラザユーヤをミオの待つ邸宅へと転移で送り届けた。
◇
トラザユーヤから手に入れた資料と口伝ですぐに機材が完成したので、さっそくナナの姉妹達を再製造してみた。
なお、ソフトウェア面は問題ない。姉妹の個性を出す部分の調整はゼンが克明な記録を残していたからだ。
彼女達が持っていた謎の少女漫画知識の源泉が、ゼンが描いた自作少女漫画だと知った時の衝撃は筆舌に尽くしがたい。彼は戦中に死亡したような発言があったが、彼の暮らしていた当時の日本には少女漫画があったようだ。
そんな衝撃を受けつつ、教育装置でのインストール作業を終え、教育を終えた姉妹をナナと対面させる。
対面の場所は、ナナのリクエストで孤島宮殿ではなく「トラザユーヤの迷路」があった場所になった。
「№1、№2、№3、№4、№5、№6、№8!」
「「「イエス・ナナ」」」
自分と同じ顔をした七人の前で、ナナが感無量という雰囲気で彼女達の製造ナンバーを呼んだ。
番号呼びだと味気ないので、後で名前を付けてやるとしよう。イチ子さんやアインちゃんじゃひねりがないから、もう少し珍しい名前がいいね。アディーンとかさ。
ナナが姉妹を連れて墓標の前に向かう。
「皆で墓参りを推奨します」
「ここは誰の墓ですかと問います」
「先代の姉妹達の墓だと告げます」
「私達は二人目ですかと問います」
「三人目かもしれないと指摘します」
姉妹達が賑やかだ。
ナナが簡単に説明し、姉妹達はそれを聞いた後、無表情のまま神妙な雰囲気で墓前に手を合わせた。
「マスター、私だけ生産途中でロールアウトしたのですかと問います」
黙祷を終えた№8が、ぴょこんと手を挙げて質問してきた。
彼女のスタイルが他の姉妹達と違う事に気付いたのだろう。
№8の場合、オレが恣意的に彼女の胸囲や身長をダウンサイズしたわけではなく、プリセット情報がそうなっていたのだ。
「心配しなくてもそのうち成長するよ」
№8の頭をぐりぐりなでると目を細めて掌に頭を押しつけてくる。
ふと視線が気になって周りを見ると、他の姉妹達もじっとオレを見つめていた。
ポチとタマの二人は、すでに「№8の次だ」と言わんばかりのキラキラした瞳で№8の後ろに並んでいる。
「「「マスター、№8だけずるいと告げます」」」
一度に製造したからか、№1がオレの記憶にあるよりも幼い言動な気がする。
まあ、そのうちに個性が出るだろう。
「それじゃ、歓迎の宴をしましょう!」
「姉妹達は製造したてで、まだ流動食しか無理だよ」
「だったらお粥パーティーでいいじゃない」
「お粥~?」
「ポチはおにぎりさんが食べたいのです!」
「流動食ですから、おにぎりは無理でしょう」
「そーね。お粥かスープね」
「だったら、特製のコンソメスープをご馳走しますね」
「ん、期待」
「「「イエス・ミーア。コンソメスープが楽しみだと告げます」」」
ナナ姉妹と仲間達が和気藹々と交流する。
姉妹達の育成はデジマ島の夢幻迷宮で10レベルまでパワーレベリングした後に、老練なエルフ師匠達の力を借りて修業かな?
その後は定番のセリビーラの迷宮で、レベル50くらいまで上げれば安心だね。
「ご主人様! 早く早く~」
「マスター、れっつぱーりーと告げます」
仲間達が孤島宮殿へのゲート前でオレを呼ぶ。
オレはもう一度、墓前に黙祷を捧げ、仲間達の待つゲートへと飛び込んだ。
※次のこぼれ話は、14章の観光パートでスキップした地方を物見遊山する予定です。誰にスポットを当てるかは未定ですが、そのうちtwitterでアンケートを採るかもしれません。
※【7/4追記】こんな事を書きましたが、次回更新は7/5、内容は「勇者ハヤトの物語」になりました。
【感謝!】
※デスマ小説版19巻および漫画版10巻が重版しました! お買い上げくださった読者の皆様、ありがとうございます!
【宣伝!】
※小説版「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」20巻は来月7/10発売予定です。20巻はWEB版では鼬帝国だった勇者ハヤトとの共闘の舞台をパリオン神国に移し、書き下ろしに近い形で再構成しました。ご期待ください。







