完結記念SS「記念品」
「世界平和の記念に、ご主人様に何か贈りましょう!」
皆を集めてわたしはそう宣言した。
「アリサ、急にどうしたの?」
訝しげな顔でもルルの美少女ぶりは健在ね。
「急にじゃないわ。ずっと考えていたの! ご主人様はわたし達にいっぱいしてくれているけど、わたし達は何も返せてないわ。だから、せめて世界平和の記念に何か贈ろうと思うのよ」
ルルや皆に向けて説明する。
「それはいいね、アリサちゃん!」
「はい、いいと思います!」
ヒカルたんやゼナたんを始め、皆が賛成してくれた。
「でも、プレゼントってどんな物を贈ればいいのかしら?」
ルルが美少女顔で首を傾げる。我が姉ながら、相変わらず可愛いわ。
皆が頭を悩ませる中、「はい!」と元気よくポチが手を挙げた。
「はい、ポチ君」
「ポチは物語を書くのです。ご主人様の活躍を書いた物語なのですよ!」
先生みたいにポチの名を呼んだら、元気よく立ち上がったポチがそう宣言した。
いいんじゃないかしら。ストレートに書いたら七年と三一四万文字くらいかかりそうだから、途中ははしょった方がいいわよ?
「タマは絵を描く~?」
タマがポチの横で立ち上がって宣言する。
「肖像画って事?」
「あい」
タマがこくりと頷いた後、「こんな感じ~」って言って、さらさらと鉛筆でラフを描いた。
上手い。花咲く草原に座るご主人様が膝で眠るタマの頭を撫でる、とっても癒やされる絵だ。
そこにアリサちゃんを足してもいいのよ?
「リザさんは?」
「私にできる事など槍働きくらいしか……」
「そんな事ないわよ」
「そうですよ。私に料理を教えてくれたのはリザさんじゃないですか」
わたしのフォローにルルが言葉を重ねた。
セーリュー市からの最初の旅で教わったんだよね。
「ルルはやっぱ料理?」
「うん、ごちそうはいつも作っているから、想い出の料理にしようかな」
想い出の料理ってどんなのだっけ?
最初に食べさせてもらった肉串やモツ料理、あとは超絶美味なご主人様の初料理だった魚の塩焼きかな?
「それなら私も作れそうです。迷宮で食べた想い出の料理があります」
「蛙肉のステーキ~?」
「ええ、よく覚えていましたね」
「それならポチも覚えていたのです! ご主人様も美味しいって言っていたのですよ!」
異世界に来て間もない頃のご主人様には、ヘビーそうな料理なのによく食べたわね。
「ミーアは?」
「音楽」
「定番ね」
ミーアと言えば音楽、音楽と言えばミーアだもんね。
「違うの! ポチと同じようにサトゥーの物語を精霊達と一緒に奏でるの。アーゼやシーアに教わって、聴くだけで情景が浮かぶような音楽をプレゼントするの。本当よ?」
「いいわね。私はその曲に合わせて歌を贈ろうかしら?」
長文で主張するミーアの前に現れたのはアーゼたんだった。
「おおっ、出たわね。本妻!」
他のハイエルフと交代でボルエナンの森から出られるようになってから、わりとちょくちょく遊びに来るようになった。
「ほ、本妻だなんてっ」
アーゼたんがわたわたと慌てる。
あざとい感じだけど、わりと素でやってるのよね。
こういうところがご主人様の琴線に触れたのかしら?
わたしはちょっと肩をすくめて、話を元に戻す。
「ナナは?」
「マスターの幼生体を産んでプレゼントを――」
「そういうのはダメ」
ナナのプロポーションはご主人様の好みだから、真面目に迫られたらころっとほだされちゃいそうなのよね。
「残念ですと告げます。それなら手作りの人形を贈ります」
「それはいいわね」
最近だと養護院の子供達にも好評だしね。
「何がいいかしら……。不器用なわたくしには手作りの贈り物なんて」
カリナたんが重そうなおっぱいを下から持ち上げるように腕を組んでいる。
超質量のパフパフなら鼻の下を伸ばして喜びそうだけど、それは決して口にしてはいけない。絶対にだ。
わたしのそんな心の声を無視したように誰かが言った。
「おっぱい券をあげたら喜ぶぞ?」
「ミーちゃん!」
馬鹿な事を言うのはミーちゃんことカグラだ。
「おっぱい券? それはどんな券なのかしら?」
純真無垢なカリナたんが、困惑顔でミーちゃんに尋ねる。
たぶん、「おっぱい」に別の意味があるとか、聞き間違いではないかとか考えていそうな顔だ。
「おっぱいを揉ませる券じゃ」
「そ、そんな! 結婚前にそんな事をするなんて!」
ミーちゃんのダイレクトな説明を聞いて、カリナたんが顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせている。
「一考の価値ありですね」
隠れ淫乱な元巫女セーラが、真面目な顔で馬鹿な事を考えだした。
身体のラインが出ない服を着ているから気づきにくいけど、セーラってば腰のくびれもなかなかだし、年齢の割に出るとこ出ているのよね。
「勝負下着の準備も必要ですよ」
「はい、いつ機会が訪れてもいいように準備万端です」
独り言をつぶやくセーラだけど、たまに緑の光を帯びている。
たぶんだけど、テニオン神が助言しているんじゃないかと思う。恋愛好きの神とはいえ、神託も安くなったモンだわ。
「エロは禁止!」
わたしは普段の自分を棚上げして叫ぶ。
「あら? 子作りは貴族の義務よ?」
「今回は『物』! 『物』縛りでいきましょう!」
スキンシップ程度ならいいけど、ガチなのはご主人様を困らせちゃうもの。
「わたくし、手作りに自信はありませんわ」
「手作りの品でなくてもかまわんじゃろ? お前達が頭を悩ませて、サトゥーの為に選んだというのが重要なのじゃ」
不安そうなカリナたんに、ミーちゃんが真面目な助言をする。
「うーん、それなら、こんなのはどうかな?」
ヒカルたんが「無限収納」から本を取り出した。
「そ、それは! 初代勇者様の物語!!」
「絶版になり、サガ帝国の宮殿図書館にも現存しないという幻の書?!」
カリナたんが驚き、システィーナ王女――ティナ様が「初代勇者の物語」の希少さを教えてくれた。
「ヒ、ヒカル様、わたくしにも少し見せていただけませんか?」
「いいよー。私がサガ帝国で勇者召喚されたときに、洗脳教育の一環で押しつけられたヤツだから。欲しかったら、後で写本すればいいよ」
そういえばヒカルたんって、サガ帝国でハズレ勇者扱いされて不遇なスタートを切ったって言っていたわね。
「本なら私も本にしましょう。禁書庫にもない魔法書が手に入ったから丁度いいわ」
「わたし、気になります!」
瞳に星を浮かべてストレートパッツン髪な気分でティナ様に迫る。
当然のように古典な小説ネタは通じなかったけど、魔法書はご主人様にプレゼントする前に少し見せてもらえる事になった。詳しく読みたければ、後でご主人様から借りればいいだろう。
「カリナたんも本にする? 確かムーノ家は勇者関係の蔵書がすごかったわよね?」
「ええ、勇者様の蔵書ならシガ王国でも有数ですわ」
カリナたんの瞳に光が蘇る。
「ペンドラゴン」
ミーアがヒントを与えた。
「ペンドラゴン――そうですわ! 『勇者オリオン・ペンドラゴンの七つの試練』をサトゥーにプレゼントしますわ!」
ご主人様の家名の元になった物語だし、プレゼントには丁度いいわね。
「あ、あの!」
わたしは何をプレゼントしようかな、なんて考えてたらゼナたんが大きな声を上げた。
「どうしたの、ゼナたん?」
「個々にプレゼントするのもいいと思いますけど、サトゥーさんへの記念品なら、皆で一緒に作り上げた物がいいと思うんです」
「「「あっ」」」
おっと、プレゼントに思考が行き過ぎて、もともと「世界平和の記念品」って話だったのを忘れてたわ。危ない危ない。
「料理みたいな消え物はダメよね?」
「形が残らないのは避けた方がいいんじゃないかな」
皆で協力して料理を作るなんて、ドラマCDにでもできそうな定番だけど、「記念品」って感じじゃないのよね。
劇や合唱なんて意見も出たけど、料理と同じ理由で却下となった。
侃々諤々と皆で意見を出し合う。
「感謝状はどうかしら?」
「いいとは思うけど、『皆で』っていうのがクリアできないわ」
なかなかいい案がない。
「色紙に皆で一言ずつサトゥーに贈る言葉を書いてプレゼントするのはどう?」
「寄せ書き?」
「そうそう。卒業式っぽい感じだけど」
まあ、人間を超えて神格を得たご主人様には合っているかもね。
獣を超え人を超え、そして――なんて合体ロボのフレーズが脳裏をよぎったけど、ヒカルたんが突っ込んでくれるか自信がなかったので口にしなかった。
「言葉を贈るなんて素敵です!」
「少し恥ずかしいけれど、サトゥーへの思いの丈を篭めさせていただきますわ」
「えへへ、ご主人様に言葉を贈るなんて、恋文みたいですね」
「恋文のつもりで書くのもよいぞ。わらわが許可する」
寄せ書きなんて文化がないせいか、思った以上に皆の反応がいい。
「皆が乗り気みたいだし、寄せ書きでいきましょう」
「ういうい、色紙は――」
「ほれ、これでいいじゃろ?」
ミーちゃんがどこからともなく、大きめの色紙を取り出した。
裏っかわに日本のメーカー名が書いてあったけど、話が長くなりそうなのでご主人様みたいにスルーした。
「色紙だから、一人六四文字くらいまでにしてよね」
「ポチの熱い思いはそんな短いのじゃ表現できないのです!」
「小説家を目指すなら、短い文章に想いを篭めてみせなさい!」
「……はいなのです。ポチは、頑張るのです、よ?」
長文派のポチには大変だけど頑張ってほしい。
「絵でもいい~?」
「いいけど、あんまり大きな絵は描けないわよ」
「あい」
そのまま色紙を渡すと大変な事になりそうなので、皆に色紙に書く文章を別紙に書き出して推敲してもらう。こっちもミーちゃんがクコヨの原稿用紙を取り出して配っていた。
ヒカルたんに言って、中央に「世界平和記念、サトゥーさんゑ」と筆書きしてもらう。意外に達筆だ。
「また、文字数をオーバーしました。難しいですね」
「うにゅにゅ、文字さんは自由でフリーダムなのです」
リザさんとポチはあふれる想いが制限文字数に収まらないらしい。
「この文字数制限だと常套句で半分くらい使ってしまいますわ」
「困りましたね」
生まれのいいティナ様とセーラたんは普通の手紙みたいな書き方で文字数を浪費してた。
わたしとヒカルたんが中心になってアドバイスして、なんとか日付が変わる前に色紙を書き上げる事ができた。
タマのイラストはご主人様を中心にした皆の集合絵だ。アニメの完結記念にありそうな感じ。
「最後はアリサですよ」
色紙に残された面積はギリギリ一人分だ。
「おっけー」
わたしは皆の想いに負けないように、思いの丈を文字数の前半に篭める。
残りの文字数に書く事は最初から決まっている。
『これからもよろしくね、わたし達のご主人様!』







