17-53.平和な世界、そして――
※宴会シーンが長いので、面倒な方は■■■から■■■までを飛ばしてください。
サトゥーです。何かの小説で「戦争の後の平和は次の戦争への準備期間」と書いてあったのを覚えています。まあ、戦争と平和の二つに状態を分ければそんな発言になるのでしょうが、平和な時代が大切だという点には大賛成です。
◇
「「「サトゥー様、皆様、無事のご帰還をお慶び申し上げます」」」
孤島宮殿のブラウニー達が出迎えてくれる。
銀河中心で「外なるモノ」――怪生物の親玉である「金鳳樹魚」をブラックホールに投棄した後、オレ達は孤島宮殿へと戻ってきていた。
「そこは『オカヱリナサイ』って言ってほしかったわ」
「だよねー。もちろん『イ』は左右反転で」
なんて会話をアリサとヒカルが交わしていた。
元ネタには気付いていたが、へたに混ざると周りを置いてけぼりにしそうなので、いつものようにスルーしておく。
「「――クロ様!」」
ブラウニー達が淹れてくれたお茶で一服していると、王都とのゲートからエチゴヤ商会のエルテリーナ支配人やティファリーザが飛び込んできた。
慌てた様子の二人に話を聞くと、オレ達が魔界に行った直後に、世界各地に潜伏していた魔族達が魔王信奉者集団と連携して騒動を起こしているらしい。
あれだけ掃討したのにまだ残っていたようだ。
「イチロー、慮外者どもを始末するなら眷属を向かわせてやるぞ?」
「いや、それは遠慮するよ」
カグラの眷属――竜を派遣したら、魔族や魔王信奉者集団が起こす騒動より、被害の規模が大きくなっちゃうからね。
「クロ様、そちらの方は?」
「――竜神様よ」
ニマニマ笑顔のアリサがオレより先に答える。
「そうですか竜神――様?」
支配人が絶叫し、ティファリーザが立ったまま卒倒しかけるという珍事があったものの、回復魔法や精神魔法ですぐにいつもの状態へと戻った。やっぱり、魔法は便利だ。
それはともかく、世界の混乱の方を対処しよう。
前に紫塔の対処をした時に、世界中のマップは取得済みなのでどこでどんな騒動が起こっているのかはすぐに把握できた。
幸いな事に、オレの縁の場所に大きな被害はない。
現地の人達の手に余りそうな場所だけをピックアップし、それぞれの場所に勇者ナナシとして「遍在」して、ちゃちゃっと始末しておく。
中にはララキエ文明の「浮き島」らしき巨大な空飛ぶ島を持ち出してきたヤツらもいたが、「浮き島」をストレージに没収したので、もう大した事はできないだろう。
「クロ様、先ほどの件ですが、いかがいたしましょう?」
「それならもう対処したよ。現地の人達が対処できるヤツまでは余計な手出しはしていないけどね」
「――え?」
「クロ様は事件が発生する事をご存じだったのですか?」
ティファリーザが誤解していたので、今の会話の間に対処した事を話した。
「ですが、いったいいつの間に……」
納得できない感じのエルテリーナの前に、二人のサトゥーとして立ってみせ、その力を得た話をした。
「――昇神?」
「クロ様が神々の末席に……」
『違う。サトゥー様は我らが主。人族は創造神サトゥー様を崇めるべき。カリオンもそう言っている』
『言ってない。ウリオンは妄言の前に、テニオンに頼まれた伝言を伝えるべき』
いつの間にか孤島宮殿にウリオン神とカリオン神の二柱が現れていた。
「天界で何かあったのかい?」
『天界は平和。ガルレオンとザイクーオンがよく喧嘩する以外は問題なく再建中』
『ウリオンは本題に入るべき。伝言は人界の事。世界各地で騒動が起きているから神託を行なったと報告に来た。直接の手出しが必要か判断を仰げとテニオンに頼まれた』
『カリオンは事務的すぎる。創造神様の問いに答える事は重要』
「伝言ありがとう。直接介入はしなくていいよ」
オレがそう答えると、二柱の少女神は光と共に消えた。
「……創造神?」
「やはりクロ様は最初から神だったのですね」
ティファリーザが間違った理解を深めてしまった。
まあ、とにかく世界の問題も概ね人の手に戻った事を告げ、近いうちに世界平和を記念して大きな宴を開きたいと二人に語った。
支配人が「手配はお任せください」というので詳細は彼女に任せておく。
◇
「ねぇ、ご主人様。魔神は再生しないの?」
二人が去った後、アリサが耳打ちしてきた。
アリサは自分の持つ権能を提供してもいいと言う。
その視線は紫幼女達の方を向いている。
「――主様なら、ここにいるよ?」
オレ達を魔界へと誘った紫幼女が、胸元から巾着のようなモノを取り出した。
魔法の鞄のようだが、AR表示によると無限鞄という神器らしい。
紫幼女が巾着を逆さにして振ると、中から小物がポロポロと出てくる。
――げっ。
中から赤ん坊が落ちてきたので、慌ててキャッチする。
ほっと一息吐いたオレの頭の上に、瀟洒なランタンが落ちてきた。
ランタンの中には紫色の光が閉じ込められている。
これは――神の欠片だ。
「これは?」
「向こうで拾ったんだよ?」
まさかとは思うけど、魔界行きの直前で与えた「採取」スキルのお陰じゃないよね?
カグラがニヤリと笑うのが見えた。
なるほど、彼女が仕組んだのか。
赤ん坊は魂の存在しない肉体だけのホムンクルスの一種らしい。
遺伝子的にはオレと一致するので、オレか魔神のDNAで作られたようだ。
なんの為に作られたのかは分からないが、このまま無為に死なせるのもかわいそうだ。
せっかくだからこの子にも魂を与えよう。
「ユニット作成――『魔神』」
ランタン型の封印器に閉じ込められていた「魔神の欠片」と赤ん坊から、魔神を再生する。
素体が赤ん坊だったからか、生まれた魔神も赤ん坊のままだ。
「君の名前はイチローだ。他の神様達と仲良くするんだよ」
「――だあ」
赤ん坊はこくりと頷くと、ふわりと浮かんでオレの周りを回る。
神界へのゲートを開いてやると浮遊する軌道を変え、テニオン神のまわりにいる神々の下へと合流した。
これからは「八柱の神々」として、新しい神話を作っていってほしい。
「「「主様~」」」
紫幼女達もてけてけとその後を追いかけた。
神界は物質界とは違うのだが、魔神の眷属だけあって、問題なく神界へと適応できたようだ。
◇【宴会シーンは長いので「■■■」まで飛ばしても構いません】
「ご主人様の昇神を祝って!」
「世界平和を祝って!」
「生還を祝って!」
「「「――乾杯!」」」
エチゴヤ商会の仕切りで大宴会が開かれた。既に開催から七日目だ。
広大な会場では古今東西の美食や珍味が並べられ、関係者や世界各地の要人が舌鼓を打っている。
会場は先日の騒動で没収した「浮き島」の中に設えられ、世界各地とゲートで繋いでみた。常設する気はないが、宴の間は誰でも利用可能にしてある。
最初の三日はお偉いさんの挨拶を受けるだけで終わってしまったので、四日目からは仮面舞踏会風にしてみた。
それでもさっきまでは急な来客や神界のトラブル対処なんかで、ろくに宴を楽しめなかったのだ。
でも、今日はもろもろを後回しにしてでも楽しもうと思う。
周囲を見回すと、コロッセオ風の闘技場に長蛇の列ができているのが見えた。
見覚えのある顔がいたので、歩み寄って尋ねてみた。
「あれは何をならんでいるんですか?」
「『大怪魚の尾頭付き』らしいぜ!」
目元を隠すマスクをしていたせいか、迷宮都市の探索者であるドゾン様はオレの事に気付かなかった。
「他では食べられない料理だからな、何日列んでも食べてみせるぜ!」
まあ、確かに「他では食べられない」料理だね。
眷属神になったルルだからこそ可能な料理だろう。
獣娘達の光点が闘技場の中にあったので、意識をそちらに向けてみた。
「美味です。やはり銀皮の歯ごたえは、他と一線を画しますね」
「ポチはやわらか~い赤身の方がいいのです! がふがふ囓るのが最強なのです!」
「タマはどっちも好き~?」
誰もこない巨大な大怪魚の頭部に座り、ビート板サイズの肉片に嬉しそうに齧り付いている。
足下には大きな皿や食器もあるが、豪快に齧り付く方が好みだったようだ。
そこにはもう一人――いや、もう一柱いた。
「大怪魚は頭から丸かじりするのも美味いぞ」
「おう、ぐれいと~?」
「ポチもサバさんやイワシさんでよくやるのです! 上を向いてあ~んして食べるのですよ!」
カグラ――幼女形態の竜神アコンカグラが、常人では試せないような食べ方を口にしていた。
さすがに幼女形態だと丸かじりではなく小さくカットした肉を食べている。「もう少し焼いた方が好みじゃ」と言って口から吐いた火で焼き直してタマやポチを喜ばせていた。
オレもカグラや獣娘達と一緒に食べたいところだけど、主賓とはいえ行儀良く列にならぶ人達を見た後に横入りのような事をするのは、ちょっと後ろめたい。
大怪魚はまだあるから、宴の後にでもルルに作ってもらおう。
俯瞰視点で会場を見ると、他にも人だかりになっている場所が幾つかある。
せっかくだし、順番に回ってみよう。
「ここは山樹の実エリアかな?」
甘い黄橙果実に、朱色の弾み果実、中に発酵酒の入った鈍色の堅殻果実など、様々な種類の実が半分に割られ、中の果肉や果汁を人々に饗している。
どれも短径二メートル、長径三メートルを超える巨大な実なので、需要は十分に満たせそうだ。
「マしター、これ甘いよ」
「美味しい。マしターも果肉を食べて」
「幼生体、そこは鼻だと告げます。あ~んは顔を見て食べさせるべきだと推奨します」
ナナと一緒に黄橙果実の所にいたのは、公都のアシカ姉妹だ。
他にも迷宮都市や色々な場所の養護院で育てている幼児達が、ナナの周りで思い思いの果物を堪能している。男児は肉祭りの方に行ってしまったのか、女児が多めだ。
「マしター、蜂蜜貰ってきたよ」
「蟻蜜やララギ産のシロップや熊蜜もあったので貰ってきました」
パタパタと翼を羽ばたかせて戻ってきたのは、翼人のシロとクロウだ。
「わーい、蜂蜜だー」
「甘いの欲しー」
「くまさんのはちみつ」
蜂蜜と聞いた子達が、砂糖に群がるアリのように二人に集う。
「ま、待って」
「ナナ様、助けて~」
「幼生体。秩序だって列を作るように推奨します」
「列整理しよ」
「マしターのお手伝いしる」
アシカ姉妹がひょこひょこと歩いていって、子供達を整列させていく。
公都の炊き出しを手伝って慣れているようだ。
「店長、故郷の味はいかがです?」
「美味」
セーリュー市のなんでも屋、ナディさんと店長のユサラトーヤ氏は、世界樹の樹液や実を使った料理を楽しんでいた。ミーアの両親も一緒だ。
「ごめんなさいね、ナディさん。エルフは身内と何百年も一緒だから、一言で話すものぐさな子が多いのよ。ラーヤもユーヤと同じで一言しか喋らないんだから。でも男性だけの特徴じゃないのよ。ミーアなんてまだ百歳ちょっとなのに、ラーヤをマネして一言なんだから」
「リーア、食べろ」
長文で捲し立てるミーア母のリリナトーアさんに、ナディさんが圧倒されているのを見たミーア父のラミサウーヤさんが、妻の口に果実を差し出して止めていた。
よく見るとギリル氏や彼の孫で「蔦の館」を管理しているレリリルもいる。彼ら家妖精は果物エリアの給仕を手伝ってくれているようだ。
店長さんの叔父で隠遁していたトラザユーヤ氏にも招待状を出していたのだが、今のところ来てくれていないようだ。
招待状を送ったその日に、奥さんと大陸の反対側に引っ越ししていたので、忙しかったのかもしれない。また、今度、ユサラトーヤ氏やミーアの両親に会う機会を作ってやりたいね。
賑わう果物エリアのすぐ隣に、ミーアとセーラの姿を見つけた。
ここは茸エリアらしい。ドームサイズの巨大茸を刳り抜いたオブジェクトが会場になっているようだ。会場の中では様々な茸料理が饗されているようだ。
中は妖精族が多い。
「ミーア様、このキノコはなんですか?」
「お化け茸」
「迷宮にいる魔物ですわよね? 食べても大丈夫なのですか?」
「もちろんなの! お化け茸はとってもとっても美味しいの。美味なのよ? それに栄養豊富なの。美容にもとってもいいの。本当よ?」
傘の一切れがテーブルサイズもあるお化け茸に尻込みしていたセーラが、ミーアの長文アピールに背中を押されて、恐る恐るお化け茸を口に運んだ。
「で、では――美味しい! ミーア様、美味しいです!」
「ん」
ミーアが「当然」とばかりに、おすまし顔でお化け茸を食べ始める。
「最初に噛み切るのが少し難しいですけど、噛みしめるとじゅわっと茸の旨みが口いっぱいに広がるんです。ぜひ、食べてみてください。公都のエノキやエルエット領のシイタケを凌駕する奇跡を味わえますよ」
「うふふ、セーラがそこまで言うなら、食べてみようかしら」
すっかりお化け茸に魅了されたセーラが、一緒に来ていた元巫女長――現巫女見習いのリリーや神殿関係者に布教している。
リリーには昇神の件を伝えたけど、若返りの件があったせいか、妙に納得顔ですぐに信じてくれた。
「いた! ボルエナンのミサナリーア!」
「アテナ、騒ぎを起こすようなら退場させますよ」
「は、はい、校長先生!」
「ミーア様、ご一緒に茸料理を頂いて宜しいですか?」
「ん、座る」
ミーアにライバル心を抱いているシガ三十三杖のアテナ嬢は、ミーアが臨時教師をしていた王立学院の校長先生に頭が上がらないようだ。
「新鮮な大根はやはり美味い」
「わずかな辛味がたまらん」
「こっちの丸いサクラジーマ大根もサイコー」
茸エリアの裏手にあった野菜エリアにはフードを目深に被ったオーク族のガ・ホウ、リ・フウ、ル・ヘウが一族の者達と一緒に世界中の大根を堪能していた。野菜は他にもあるから、色々と楽しんでいってほしい。
そんな野菜エリアや茸エリアの横は肉料理エリアになっている。
「ペンドラゴン伯爵の食卓にもよく並ぶのですが、こちらのハンバーグというのがとても美味なのです」
システィーナ王女がソルトリック第一王子や末妹のドリス王女にハンバーグを勧めている。ハンバーグの盛られたコーナーで、神鳥の翡翠が偉そうに、ぴるぴると鳴いて仕切っていた。
「シェルミナ様、このスキヤキって美味しいね」
「ええ、溶き卵に浸して食べると、まろやかになって美味しくなるわ」
偽使徒のケイやマキワ王国のシェルミナ・ダザレス侯爵はスキヤキコーナーで東方諸国の人達と一緒に和やかに料理を楽しんでいる。となりで肉争奪戦をするスィルガ王国のイケメン王子やマッチョ戦士とは大違いだ。
「魔物の肉も捨てたものではないな」
「拙者はシモフリのオーミィー牛の方が好きでござるな」
「シモフリは老体に応える。この赤身の方がワシに向いているようだ」
「脂で胃もたれするなら、蒸し鳥はいかがかな?」
シガ八剣の「風刃」バウエン氏や「雑草」ヘイム氏や「聖盾」レイラス氏、それから元シガ八剣の老トレル卿の四人が肉談義をしていた。
「ちまちま喰ってられねーぜ。おう、ガキ共も来い」
「うっしゃー、喰うぜ」
「美味そうガウ」
牛の丸焼き前に陣取っているシガ八剣「草刈り」リュオナが、ウササ達「ぺんどら」にも肉を勧めている。よく見たら、淡雪姫やセメリーもリュオナ女史と十年来の親友みたいな顔で肉と酒を堪能していた。
「ポチの姐さんにも喰わせてやりたいねー」
「ポチちゃんの友達? 私もなんだー」
「姐さんは師匠さ。君は?」
「私はユニっていうの。ポチちゃんと一緒に文字を覚えたりしていたんだ」
王立学院のシャテイ達とユニちゃんが交流している。
その横では門前宿の女将さんやマーサちゃんが微笑ましそうにそれを眺めつつ、料理に舌鼓を打っている。料理人の親父さんは味を盗もうと真剣な顔だ。
「あたしらなんて来て良かったのかねぇ」
「いいんじゃない? マリエンテールのお嬢様がサトゥーさんからの招待状をくれたんだし」
「お前は気楽でいいねぇ」
女将さんとマーサちゃんがそんな会話をしていたけど、気にせず楽しんでほしい。
「おっ、羊料理があるぜ! あたしの故郷のカイノナじゃよく食べたなー」
「山羊よりマシだけど、あたしは苦手。猪肉の方が好きだわ」
「ルウ、リリオ。いくら無料でも皿に山盛りにするのは行儀が悪いですよ」
「えー、いいじゃん」
「ゼナさんの言う通りです。セーリュー伯爵領の恥になる行為は慎みなさい」
ゼナ隊の皆も楽しんでくれているようだ。
ゼナさんの弟のユーケル君やその奥さんでパリオン神の巫女であるオーナ嬢も近くで鳥肉料理に舌鼓を打っている。その後ろにはオーナ嬢の父親のセーリュー伯爵やベルトン子爵親子、護衛の騎士キゴーリや騎士ソーンの姿もある。
「揚げたてのエビ天は塩でいただくのがすばらしい」
「天つゆで食べるショウガ天も侮れませんぞ!」
揚げ物エリアで采配を振っていたのは、案の定、公都の食いしん坊貴族であるロイド侯爵とホーエン伯爵の二人だ。
「どれも美味いがクラーケンの天ぷらが一番好みだ。チナやデュモリナはどれが好きかな?」
「私は甘いカボチャの天ぷらが好きです」
「サツマイモも捨てがたいですけれど、ムーノ産のチクワを使ったイソベ揚げが美味しいと思います」
ケルテン侯爵と一緒に揚げたての天ぷらに舌鼓を打っているのは孫娘のチナ嬢とデュモリナ嬢の二人だ。彼女達の父親で主計局長のケルテン名誉男爵は、唐揚げ戦線の方にいた。
「エリーナさん、そんなに唐揚げを積み上げないでくださいよ」
「だって、こんなに色々な唐揚げを楽しめるチャンスなんてめったにないよ、新人ちゃん」
唐揚げ山脈の近くにいたのは、カリナ嬢の護衛メイドをしていたエリーナと新人ちゃんの二人だ。
今日は飲酒を解禁されているのか、新人ちゃんは赤ワインを片手に唐揚げを楽しんでいる。
「コーラがあるぞ! ポテトとハンバーガーのセットも!」
「これは食べるしかないでしょ」
「もしかして、サガ帝国の勇者様っすか? アリサちゃんプレゼンツ、ルルちゃん先生のレシピで作ったハンバーガーセットをぜひご賞味していってほしいっす!」
赤毛のネルが担当する屋台では、勇者セイギと勇者ユウキの二人が興奮した様子で有名チェーン店を真似たハンバーガーを選んでいた。
エチゴヤ商会の面々は宴の裏方で頑張ってくれているので、宴が終わったら彼女達の為にお疲れ様会を開いてやろう。
「それ美味しいの?」
「もちろんっす!」
「じゃあ、あたしらもそれ喰うわ。でも、芋はいらない。メリー達もどう?」
「そうね。ルルさんが用意したレシピなら絶対に美味しいでしょうし、食べてみようかしら」
「ロレイヤとウィーヤリィの姿が見えないのが気になるんだけど――」
「あの子達も子供じゃないんだから大丈夫よ」
ルススとフィフィ、それにメリーエスト皇女やリーングランデ嬢といった勇者ハヤトの従者達もいる。彼女達は当代勇者二人のお守りをしているようだ。
リーングランデ嬢が心配していたロレイヤとウィーヤリィの姿は、少し離れたお酒エリアにあった。
「やっぱり竜泉酒は美味い」
「しかも飲み放題だなんて、もうここに住みたいです」
頬を染めるロレイヤの近くには、竜泉酒の湧き出る泉があり、幻想種の花々が咲き乱れる畔に黒竜ヘイロンが寝そべってふんふんと鼻歌を刻んでいる。花々は鼻歌に合わせて増えているようだ。
竜泉酒を木のバケツで汲んだエチゴヤ商会のメンバーが、シャンパンタワーのようなグラスの山に竜泉酒を流し込んで拍手喝采を浴びていた。
天ちゃんや古竜達の作る泉もあり、そちらには飲兵衛達が集まっている。
迷宮都市の探索者ギルドの職員達やギルド長、エルタール将軍や隊長さん達、それにジュレバーグ母子やセーリュー伯爵領の雷爺や氷雪婆の姿もあるようだ。いつの間にか現れたムーノ侯爵領の執政官ニナ・ロットル女史も自然な感じで混ざっている。
「火酒も美味いが『すぴりたす』というのも旨いな」
「はい、師匠! ウィスキーも旨いですよ」
ドワーフ自治領のドハル老とザジウル氏が度数の高い酒をジョッキで呷る横では、ドハル老の孫娘のジョジョリさんとイケメンドワーフのガロハル氏がイチャイチャと酒談義をしている。
「ジョジョリ、君にはこっちの蜂蜜酒はどうだい?」
「それは子供の飲むものよ、ガロハル。甘いお酒ならララギ産のラム酒の方がいいわ」
「よう、ガロハル。もうジョジョリの尻にしかれてるのか?」
「おい、ガロハル。男の甲斐性を見せつけてやれ」
下戸のガロハル氏に、ノームの魔法屋ドン&ハーン兄弟がキツい酒を勧めていた。
お酒は楽しく飲まないとね。オレはガロハル氏に押し付けられたお酒から、こっそりとアルコールを除去しておいた。倒れるまで呑むのはダメだよ。アルハラ、ダメ、絶対。
少し離れた場所にある石窯エリアでは多種多様な焼きたてピザが饗されているようだ。
「ピザにはやはり『レッセウの血潮』が合う」
「いやいや、ピザにはワインじゃなくて、ビールだろ」
「ああ、このビールは最高に美味いぜ。なあ、若いの」
「あ、ああ。そうだな。うちのビールを褒めてくれて感謝する」
神の脅威が無くなって迷宮下層から出てきた吸血鬼の真祖バンの横で、「骸の王」のムクロと「鋼の幽鬼」のヨロイが、ビール造りで富豪になったジョン・スミス君に絡んでいる。偽王シン君もいたが、彼は貪るようにピザをがっついていた。普段の彼の食事が気になる勢いだ。
人外の二人の姿に目を白黒とさせているジョン君の護衛にして愛人候補でもある二人は、ピザを食べるのに夢中でジョン君からのヘルプサインに気付いていないようだ。お嫁さんであるリリオはゼナさん達と肉料理コーナーにいたし、意外と幸薄いのかもしれない。
「ピザは美味いが全制覇するには胃の容量が足りぬ」
「残り、喰う。ダイジョブ」
「そうか、すまぬの、狐の。貴殿の心意気に感謝する」
石窯から次々に出される多種多様なピザの前で友情を築いていたのは、元剣魔王の狐っ子とユイカの二人だ。元鬱魔王シズカも誘ったのだが、「人混みは嫌」と言ってあっさり断られた。
「バン様、ワインって美味いのか?」
「トマト街の小僧か。貴様にはまだ早い。お酒は二十歳からだ」
「そうですよ、コン。私達は葡萄ジュースで十分です」
「そうそう。酒はあたしらに任せておきな!」
バンの呑むワインに羨ましそうな視線を送るコン少年をルモォーク王国の幼い王女が窘める。そんなコン少年の背中をバンバン叩く酔っ払いは、彼とプタの街で魔狩人をしていた女魔狩人ケーナや獣人族の男達だ。
「カリナお姉様はどのピザがお好きですか?」
「私はテリヤキが美味しいと思いますわ!」
「それじゃ、焼きたての照り焼きをいただいたら、サトゥー様のところにお持ちしましょう」
カリナ嬢に殊勝な提案をしているのはルモォーク王国のメネア王女だ。
今日はカリナ嬢や妹姫達と一緒に宴を回っているらしい。
そんな彼女達の足下を、一欠片のチーズが乗った皿を掲げたチュー太配下のネズミ達が、ちょろちょろと駆け抜けていく。彼らは会場の警備を担ってくれているそうだ。
すぐ近くの和食エリアでは、カリナ嬢を除いたムーノ侯爵家一行が精進料理を楽しんでいる。
メイド長のピナは梅粥がお気に入りらしい。侯爵の護衛をするゾトル氏は、肉料理コーナーやニナ女史が消えたお酒コーナーに未練がましい視線を送っている。
ソルナ嬢が抱くのはハウト君との子供だろうか?
レオン氏や長男嫁のミューズ嬢と一緒に赤ん坊を愛でている。
ミューズ嬢に何事か囁かれて、オリオン君の顔が真っ赤になった。
甘い香りの先はスイーツエリアがあった。
広大なスイーツエリアは女性陣や甘味好き男子で埋め尽くされている。
「やっぱ、アフタヌーンティーセットでお嬢様風に食べるのが最高ね」
「アリサ様、紅茶のお代わりはいかがですか?」
「ありがとう、リナたん。――あれ? ルルがどこ行ったか知らない?」
「ルルさんなら、アリサ様がケーキを選んでいる間に、解体ショーの時間が来たから行ってくると仰って、鮮魚コーナーに行かれましたよ」
アリサと話すのはムーノ侯爵領のブライトン市でオレの代わりに太守代理として活躍してくれているリナ・エムリン嬢だ。彼女の父親のエムリン子爵も甘味が好きなのか、ブライダル・ナイツの面々と一緒に色々なスィーツを満喫している。
一番人気は「ルルのケーキ」だ。迷宮都市の太守夫人やエマ・リットン伯爵夫人のような舌の肥えた淑女達も絶賛している。
「――クロ様」
ルルがオリハルコン製の鮪包丁で、メガロドン級の巨大鮪を解体する雄姿を見物していると、エチゴヤ商会のエルテリーナ支配人と秘書のティファリーザがやってきた。
「各国首脳より、クロ様――救世の勇者ナナシ様のパレードを行いたいと打診がありました」
「パレードか……」
アリサ達なら喜びそうだけど、何ヶ国もハシゴしてパレード行脚をするのは遠慮したい。
「お嫌でしたら、ナナシ様のお姿を模した像を贈るのはいかがでしょう?」
「それでいいなら、そうしてくれるかな?」
「承知いたしました」
そんな話をしていると、会場中央にあるゲートの一つが輝いた。
――待ち人来たる。
◇【宴会はここまで■■■】
「いらっしゃい、アーゼさん」
「サトゥー、遅くなってごめんなさい」
テニオン神達が惑星を守る神様結界を張り直すのを手伝っていたのは知っている。
それに今も他のハイエルフ達に後の作業を任せて、一足先に来てくれたみたいだしね。
「遅くなんてありませんよ。アーゼさんがいらしてくれたのがなにより嬉しいです」
「サトゥー」
アーゼさんと見つめ合う。
周りには誰もいない。
二人きりだ。
これは求婚する千載一遇のチャンスなのではなかろうか?
「アーゼさん。私は昇神を果たしました」
「おめでとう、サトゥー……気安く言ってはダメね。おめでとうございます、サトゥー様」
アーゼさんが、おすまし顔で言った後、くすくすと笑う。
本気で言ったのかと一瞬焦ったよ。
「アーゼさん」
アーゼさんの手を取って、もう一度彼女の瞳を見つめる。
オレが何をしようとしているのか悟ったアーゼさんが、頬を染めて目を潤ませる。
「約束を果たしました。私と結――」
「うおっしゃあああああああああああ!」
「間に合った」
オレの言葉の途中で、空間を引き裂いて紫と淡い青緑色の髪が翻る。
アリサとミーアの二人だ。
「アリサちゃん、鉄壁のガード!」
「ん、鉄壁」
現れたな、鉄壁ペア。
「浮かれた気配がビンビン伝わってきたから、速攻で跳んできたのよ!」
「伝わった」
しまった。眷属の繋がりから秋波が漏れてしまったらしい。
「アーゼたんを娶るなら、わたし達も嫁にしてくんないと! 『五年後に結婚してあげるよ』って約束は忘れてないわよ!」
「ん、嫁」
「そのへんにしておけ。せっかくの楽しいシーンが台無しじゃ」
そこに黄金メンバーや白銀メンバーを連れたカグラが現れた。
「ミーちゃん――カグラはいいの? ご主人様と添い遂げたくて、三千世界の鈴木一郎を束ねてご主人様を作ったんでしょ?」
「別に構わんぞ? 恋など幻に過ぎん。千年もすれば冷める。たとえ愛でも十万年、百万年も続く事は希。じゃが、わらわは何億年、何兆年先までもイチローを愛する自信があるぞ。イチローが最後にわらわの傍らにおればそれでいいのじゃ」
なんだか、カグラが世紀末覇者みたいな事を言いだした。
凄まじく重い発言だが、彼女の事は大切な幼馴染みであり親友だから、いつまでも仲良くしてくれるという発言は純粋に嬉しい。
「そうだ! 神は遍在するんでしょ?」
アリサの発言に嫌な予感がする。
「なら、ご主人様が全員分に増えたら万事解決よ!」
「ん、名案」
「増える~?」
「タマやポチの事だけを気にしてくれるご主人様が現れるって事よ!」
「それはすごく凄いのです!」
「思う存分槍を交わす事ができるという事でしょうか?」
「私だけのご主人様……」
「えへへ、サトゥーさんが私だけに?」
「わたしのおっぱいはマスターのものだと宣言します」
「心ゆくまで呪文談義ができるというのは魅力的ですね」
「また、サトゥーさんと一緒に炊き出しや慰問ができます」
「わ、わたくしだけのサトゥーが……えっと、その……良い、と思いますわ」
「イチロー兄ぃがずっと一緒なんて、ボーナスステージみたいだね」
アリサのバカな意見に仲間達も同意する。
まあ、嫁にする云々は別として、全員のリクエストに応える事は簡単だ。
それぞれの年齢や種族に合わせてカスタマイズして皆の前に現れる。
「ご主人様が犬人になったのです!」
「猫人のご主人様も可愛い~?」
「鱗のあるご主人様も凜々しいです」
「耳、お揃い」
「ショタが、ショタが加速した!! 半ズボン、半ズボンを穿いてくだされ~」
ちょっとサービスしすぎたのか、アリサがやばい壊れ方をした。
「サトゥー様、あちらで二人っきりになりましょう」
セーラはオレを物陰に連れていこうとするんじゃない。そのまま押し倒しそうな雰囲気はやめてほしい。
「イチロー兄ぃと二人っきりなんて、なんだか照れるね」
「サトゥーさん、空のデートに行きませんか?」
「禁書庫で呪文研究をしましょう!」
「しゅ、修業ですわ、サトゥー! 未踏の迷宮を二人で踏破するのですわ!」
「マスター専用幼生体の作製を希望すると告げます」
それぞれが思い思いの提案をする。
ナナだけはちょっと待とうか。
「にぎやかじゃな」
「まったくだ」
カグラの差し出す桜の香りがする竜泉酒を受け取り、杯を傾ける。
こうしていつまでも賑やかな日々が過ごせるといいね。
◇
「にゅ~?」
猫人なオレの猫耳を触っていたタマが、急に虚空を見上げた。
晴天の空に紫電が走り、ガラスのように空間が割れる。
仲間達が敵襲かと身構えたが、そこから現れたのは中学生くらいの美少女だった。
まだあどけないが、神々しいほどの美貌だ。
美少女が周囲を見回し、オレに目を留めた。
「異世界の神よ、私の世界をお救いください」
マジですか……できればしばらくはアーゼさんとのイチャラブ生活をしたかったんだけど。
「助けるのじゃろう?」
「まあね」
カグラの確認に首肯し、美少女の前に歩み寄る。
世界を一つ救うのも二つ救うのも大して変わらない。
「君の世界を助けるのを手伝うよ。オレは何をすれば――」
言葉の途中で、空間が幾つもひび割れて、頭に角の生えた美少女や青い肌の美女が現れる。
「「「異世界の神よ、私の世界をお救いください」」」
偶然にしてはできすぎだ。
犯人は決まっている。
「――カグラ?」
「平坦な人生などつまらんぞ。波瀾万丈なくらいが永遠の命を楽しむコツじゃ」
「カグラ……」
そういうのは生きるのに疲れてからで十分だってば。
「「「異世界の神よ」」」
「分かった。順番に手伝うよ」
オレがそう答えると助けを求めて現れた子達が歓喜に震える。
いつの間にか人数が増えている。女の子達だけじゃなく、少年や両性、無性な子達までいるようだ。
「ご主人様、この子達の世界を助け終わっても、また次の子達が来る気がしない?」
アリサの問いに首肯するオレの目に、カグラがにんまりと笑うのが見えた。
「そうみたいだね」
「スケジュール管理やマネージメントはわたしに任せて! 絶対にスケジュール破綻なんてさせないんだからね!」
それは頼もしい。
この子達の聞き取りはアリサに任せて、オレはしばしの休息を取らせてもらおう。
アーゼさんの下に歩み寄る前に、なぜかポチとタマの二人が立ち塞がった。
その後ろには仲間達の姿がある。
「ポチは神様の力を使いこなしたいのです!」
「タマも修業したい~?」
どうやら、イチャラブ生活もしばらくお預けらしい。
まあ、神生は長いし、焦らなくていいか。
オレはポチとタマの手を引いて、手頃な相手がいる場所へとユニット配置した。
異世界でも多忙な日々からはなかなか逃れられないようだ。
※次回、エピローグは本日18:00の予定です。
まだまだ続きそうな感じですが次話「17-54.エピローグ(1200文字)」で本編終了です。
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