17-52.世界の守護者(2)
サトゥーです。黎明期のコンピューターゲームには、ゲームバランスの失敗したようなボス敵をよく見かけました。
業界に入った後に、あれは中古屋に売らせないようにする策略なんだと先輩に聞かされましたが、今でも眉唾だと思っています。単にボス敵の調整が納期までに終わらなかっただけだと思うんですよね。
◇
『――正面、黒蛸級!』
あれは魔法が効きにくいから倒すのが面倒なんだよね。
『アリサ、出番だと告げます』
『おっけー、守りは任せたわよ』
『イエス・アリサ』
最終型キャッスルが幾重にも展開して虚空艦を守る。
『トランスフォーメーション! トリニティースタッフ・モード!』
そんなモードはないんだけど、アリサのノリに合わせて虚空艦を変形させる。
本来は一本しかない杖艦的な機能を三つに複写分割して展開すればいいだろう。
『照準はルルに任せた!』
『うん、分かった。火器管制対神モード』
『アイアイマム、ファイアコントロール・セッティング、アンチ・イモータル・モード』
三つに分かれた艦首先端が虹色の光に包まれる。
『神話崩壊』
『神話封滅』
『神話飽食』
虚空艦に補助された三つの対神魔法が黒蛸を飲み込む。
ミーアの「神話飽食」は「神話喰狼」を虚空用にカスタマイズしたマイナーチェンジ版の魔法だ。
瞬間的なダメージは神話喰狼と変わらないが、継続ダメージは神話喰狼に劣る。
もっとも、戦域が地上に比較にならないほど広く、戦闘速度が速い虚空だと継続ダメージを与えるのは難しいので、虚空での使い勝手は神話飽食の方に軍配が上がると思う。
『――嘘っ』
『虚空艦で増幅された対神魔法三発同時にくらって生きてるの?』
爆炎の向こうから黒い球体が姿を現した。
『大丈夫。ダメージは十分に与えられているみたい。無傷じゃないの。本当よ? 核が露出してるから、今なら止めがさせると思うの。だから、後はお願い――』
ミーアの言うように黒蛸は満身創痍だ。
『承知』
『一の太刀、無限増殖――神話牙裂~?』
凄まじい数に分身したタマが、核を守ろうと再生する山脈のような肉芽を、体中から生やした巨大な牙を旋回させてミンチに変えていく。
初めて見る技だが、基本は彼女の得意とする「魔刃双牙」を発展させたモノのようだ。
きっと、アリサ達の対神魔法を見て再現しようと頑張っていたのだろう。
『二の太刀、リュリュとポチの友情合体技――竜刃双螺旋貫、なのです!』
タマが剥き出しにした核に、リュリュと竜犬一体となったポチが光のような速さで激突した。
透き通った青と漆黒の火花が激しく散る。
『ぐにゅにゅにゅにゅ――』
――LYURYURYU。
ポチとリュリュの強化外装に付けられた緊急ブースト用のロケットが火を噴く。
だが、それでも巨大すぎる核は砕けない。
『――根性、なのです!』
――LYU!
ポチとリュリュの尻尾から、次々に魔刃砲が放たれる。
核を守る外殻が激しく震動する。
『うぉおおおおおおおおおおおなのです!』
――LYURYURYU。
ポチとリュリュの根性に負けたのか、ついにビキッと核の外殻にヒビが入った。
二人の力が尽きる瞬間、外殻が黒曜石のような破片を散らして砕けた。
『良くやりましたわ!』
『リザさん! ポチちゃん達は回収しました』
『承知――』
ゼナさんとカリナ嬢の戦闘機がポチとリュリュを牽引して核から離れる。
『無限竜槍貫牙』
そこにレーザーさながらの速度で、リザが白い光と共に一陣の矢のごとく突き刺さった。
守りを失った黒蛸の核が、この攻撃に耐えられるはずもなく、生命の輝きを失って活動を停止していく。
「おおっ、すごい」
あの厄介な黒蛸を仲間達だけで倒せるとは思わなかった。
予想以上に成長した姿を見せられると、心の底から誇らしげな気持ちになるね。
この厄介ごとが終わったら、全力で褒めよう。
『リザさん、離れて!』
『新たな黒蛸です。――数は一〇体?!』
さすがにこれは無理だろう。
オレは退避するリザ達の盾になるべく、ユニット配置で移動する。
前方から迫る衛星サイズの黒蛸はなかなか迫力がある。
オレは次の魔法から仲間達を守るべく、背後に空間魔法の「惑星防御」を発動した。
――空間魔法『太陽召喚』
太陽表面と空間を繋ぎ、太陽から伸びるフレアをこの場所に呼び込んで黒蛸に叩き付けた。
フレアを呼び込んだ空間魔法ならいざ知らず、自然現象に過ぎないフレアを黒蛸の魔法無効機能は消す事ができない。
原初の炎に焼かれた黒蛸が機能を停止し、自己再生モードへと移行する。
やはり、フレア一発では死なないか。
「こやつは無駄に頑丈なのじゃ」
追いついてきた竜神アコンカグラが、巨大な顎で食らいつき、竜神の牙や爪が黒蛸を引き裂く。
さすがは最強の神。
オレのフレアで機能停止していたとはいえ、あのしぶとい黒蛸を基本攻撃で次々に屠っている。
――危機感知。
「カグラ!」
オレの警告とほぼ同時に、亜光速で飛来した黒蛸が次々に竜神の巨体に張り付き、その虹色の身体を漆黒で押し包む。
『竜神様!』
『さすがにマズいんじゃない?』
「大丈夫だと思うけど――」
――傍観する気はない。
オレはユニット配置でカグラの傍に転移し、月貫剣を取り出す。
身体をそれに合わせて――っと。
『ご主人様がおっきくなったのです!』
『おう、ぐれいと~?』
丁度いい大きさになった月貫剣で、黒蛸を斬り裂く。
「ちょっと切れ味が悪いな」
ストレージに収納し、折れた聖魔神剣ペンドラゴンと月貫剣をユニット作成で合成する。
ユニット作成は便利だ。
オレはできあがった虹色の月貫剣で、黒蛸をスパスパと斬り裂いてカグラを解放した。
「うん、良い感じだ」
「さすがはイチロー。わらわも負けてはおられん」
カグラと二人で先を競って倒す。
『もしかして、竜神様と同じくらい強い?』
『世界の危機って……』
仲間達の呆れ声が聞こえてきたがスルーしておく。
『……ここまで違うとは』
テニオン神にまで呆れられてしまった。
竜神と気持ちよく黒蛸狩りをしていると、ざわざわした気配を側方に感じた。
そちらに意識を向けると、怪生物と楽しげにバトルしていた竜達の動きがおかしい事に気付く。
『にゅ!』
「どうやら、お出ましのようじゃ」
金色の輝きが怪生物の作る黒い雲の向こうに現れた。
周りに浮かぶ黒蛸が拳サイズに錯覚しそうな大きさだ。惑星サイズはある。
金色に光る植物と魚と鳥の中間みたいな混沌とした奇妙な姿。
AR表示では金鳳樹魚となっている。
「ぶさいくな紛い物じゃ」
とりあえず――。
――空間魔法『太陽召喚』。
原初の炎で焼き払い、そこに「神話崩壊」の連打を叩き込む。
『――うそっ、ぜんぜん効いてない?』
「まあ、ラスボスにそれまでの攻撃が通じないのはよくある事だし――」
オレはカグラを振り向く。
「牙は効く?」
「当然じゃ。わらわの牙は『全てを貫く』」
そうだった。
ならば、なんとかなる。
オレは複製した虹色の月貫剣を両手に持ち、金鳳樹魚と同じサイズになって斬りまくる。
カグラも竜神の牙や尻尾で金鳳樹魚を叩きのめす。
「しぶといね」
「言ったであろう? 面倒だ、と」
斬るそば、貫くそばから再生するので、なかなかダメージが蓄積しない。
『ご主人様、私達にもお手伝いさせてください』
『ポチ達も手伝うのです!』
『タマも頑張る~?』
『イチロー兄ぃ! 数は力だよ!』
『くぅ、先に言われた!』
黒竜ヘイロンに乗った獣娘達が応援に来た。
後ろには天竜達に守られた虚空艦もいる。
「手伝わせてやればいい。今のイチローならできよう?」
カグラに言われてそれが可能だと分かった。
「皆、手伝ってくれるかい?」
答えが分かりきった問いに、仲間達が異口同音に是と答えた。
ユニット作成――眷属神。
仲間達を金鳳樹魚と戦えるサイズに拡張し、複製した月貫剣やそれを変形した同じサイズの武器を渡す。
「行くよ」
「「「応」」」
虹色の暴風が吹き荒れ、金色の火花を虚空に散らす。
数の暴力に打ちのめされ、ついに金鳳樹魚が満身創痍になった。
骨のように抉れた金鳳樹魚が、悲鳴のような咆哮を上げる。
空気のない虚空で音を伝えるのはエーテル流だろうか?
「あ! 逃げ出した!」
崩れた身体を切り捨てながら、金鳳樹魚が深宇宙方面へと逃げ出す。
「タマは逃がさない~?」
「ポチは追跡のプロなのですよ!」
タマとポチが光の速さで追いかけ、金鳳樹魚の行く手を塞ぐ。
金鳳樹魚が悲鳴を上げて更に逃げる。
「追いかけっこは面倒じゃな」
「なら、止めはマップ兵器でいこう」
「それは良い」
カグラが愉快そうに口角を上げた。
「ポチ、タマ、戻っておいで」
二人を巻き込んだら危ないので戻らせる。
「まずはオレから行くよ」
魂の底に眠る莫大な神力を掌に集める。
オレの中の最強をイメージし、それを再構成する。
――流星雨。
どこからともなく現れた無数の隕石の雨が金鳳樹魚に降り注ぐ。
金鳳樹魚の積層障壁を幾千幾万の星が打ち砕き、丸裸になった本体を穴だらけにする。
本体を盾にして分体が逃げ出したが、それらも流星は見逃さず虚空の藻屑へと変えた。
「あれだけやって、まだ生きているのか……」
分体もろとも滅ぼしたはずの金鳳樹魚が再生を始めている。
オレの傍らに虹色の輝きが満ちる。
カグラの竜神の身体を包む輝きが増し、大きく開けられた顎に虹色の光が集う。
次の瞬間、虹色の閃光が虚空を染め上げた。
光によらない神の視界で、再生を始めていた金鳳樹魚がカグラのブレスで消し飛び、隣接世界に伸びた身体ごと蒸発するのが見えた。
◇
「――再生している?」
どう考えても滅ぼしたはずの金鳳樹魚が再構成を始めていた。
「これだからキライだ。大して強くないくせにしぶとすぎる」
「なら、捨ててしまおう」
ユニット配置で金鳳樹魚ごと銀河の中心へと移動する。
「びゅ~てぃふる~?」
「「「綺麗」」」「なのです!」
「あの光は惑星どころか太陽だってすり潰してしまうほどの凶悪なモノだけどね」
黒い円盤から噴き上がる青い光の噴水を皆で眺める。
「あれで潰すのかや?」
「それだと分裂して飛び散りそうだから――」
神力で掴んだ金鳳樹魚を封印用の対神魔法で梱包して、目視ユニット配置でブラックホールの奥へと送り込む。
ユニット配置みたいな反則技を持たない限り、まず出てこられないだろう。
出てこられたとしても、何千年、何万年かあとになるはずだ。
「復活した敵って、たいていパワーアップしてるのよね」
アリサ、変なフラグを立てないように。
「その時はオレ達もそれ以上に強くなっていればいいさ」
オレはそう言うと、銀河中心に背を向けてオレ達の星へと帰還した。
※本編最終話の更新は3/8(日)の予定です。
※活動報告に「デスマのAudible版がリリースされます」「デスマ19巻の見どころ&表紙」をアップしました。よろしければ、ご覧ください。
最新情報は作者のtwitterアカウント(https://twitter.com/AinanaHiro)で告知していますので、そちらもご覧いただけると幸いです。







