17-46.サトゥー死す
サトゥーです。幽霊モノや転生モノの物語では、自分の葬式を俯瞰で見るシーンが冒頭によくあります。昔の作品は自宅の居間が主流だったのが、新しいモノだと葬儀場が主流になっているのに時代の流れを感じたものです。まあ、舞台がどこでも、そんな体験はしたくないですけどね。
◇
無数の光が散る。
無重力感にも似た頼りない感覚に身を委ねる。
考えが上手くまとまらない。
オレは何をしていた?
オレはどうなっている?
視界の隅に黄金色の光や紫色の光が見える。
誰かが戦っている。
大切な誰か。
あれは――。
「アリサちゃん、上級魔族を倒したよ!」
「分かった! ミーア、次の魔族を解放して!」
「ん、アベンジャー」
アリサの空間魔法「異界迷路」とミーアの疑似精霊達で魔族達を抑え、複数の魔族を相手にした乱戦を避けているようだ。
「復讐は何も生まないと説得します」
挑発スキルを篭めたナナの叫びを受けた騎士型の魔族アベンジャーが、キャッスルを展開したナナの防御障壁に飛び込む。
「影縛りの術~?」
動きを止めたアベンジャーを足下から伸びた影が絡め取った。
「今必殺の魔刃螺旋突撃ルクシオンなのです!」
黄金色の光を帯びたポチがアベンジャーへと突撃する。
確か、エクストラモードをエクセリオンと言い間違えたポチに、アリサが「新モードはルクシオンよ」と吹き込んで正式名称になったやつだ。
アベンジャーが漆黒の盾でポチの攻撃を受け止めた。
「尻尾バーストなのです!」
ポチが尻尾から収束の甘い魔刃砲を連続で放ち、強引に加速してアベンジャーの盾の守りを突破してみせる。
だが、アベンジャーは間一髪で首を傾けてそれを回避した。
「にんにん~? タマはおしゃまな首刈り人~?」
無防備なアベンジャーの首を、どこからともなく現れたピンクマントのタマがサクッと斬り落とす。
さすがのアベンジャーも、防御障壁の内側に突然現れた忍者には対処が遅れたようだ。
首を斬り落とされながらも、アベンジャーは剣でタマを急襲した。
なかなかしぶとい。
「狙い――撃ちます!」
その剣を間一髪でルルの銃弾が逸らす。
「さんきゅ~?」
ひらひら~とタマがアベンジャーの死角へ逃げた。
アベンジャーはなおもタマを追う。
ナナが防御姿勢を解き、強化外装のスラスターを噴かせてアベンジャーへと急接近する。
「重ね、魔刃砕壁!」
ナナの必殺技が連続発動し、アベンジャーの障壁を次々と爆砕した。
「全防御障壁破壊を報告します」
「おっけー!」
アベンジャーの頭上から、電柱サイズの透明な槍が降り注いで次々と貫いていく。
「縫い止めたよ!」
「承知!」
ヒカルの報告を受けたリザが、黄金鎧の加速陣を使って空中からカタパルト発進する。
「――六連竜槍貫牙」
リザの必殺技がアベンジャーの身体に六つの穴を穿ち、その穴から溢れた青い光が内側から溢れアベンジャーの身体を引き裂いて黒い靄へと変えた。
さすがだ。
アベンジャーは並の魔王より強いくらいなのに、危なげなく倒してしまった。
アリサやヒカル以外の面々もレベル100を超えているようだ。魔界はレベル上限が解放されるか、レベルが上がりやすいのかな?
皆、最初の頃からは想像もできないくらい強くなっている。
もう、安心して背中を任せられるね。
――おや?
気のせいか、皆の身体を覆うオーラに黒い淀みのようなモノが見える。
あれは良くないモノだ。
理由は分からないけど、なぜかそう確信できた。
どこにあるかもよく分からない手を伸ばして、仲間達の身体から黒い淀みを摘まんで取り除去してやる。
これで大丈夫。
そう考えて皆を見回すと、アリサが何か驚いている。
何かあったのかな?
もしかしたら、艦にいるゼナさん達に何かあったのだろうか?
◇
光が流れ、オレの視界が空中庭園に着地した大型虚空艦を見下ろす位置へと移動した。
大型虚空艦の周りは、無数の魔族が包囲している。
ほとんどは下級や中級の魔族達だが、中には上級魔族も何体かいるようだ。
「カリナキィイイイイイイイイイイイイイイイイック!」
重装強化外装を身に纏ったカリナ嬢が、下級魔族を蹴散らしながら上級魔族に必殺技を放った。
普通の強化外装と違って、中の人が見えないせいか、ロボのような外観だ。
アリサとヒカルの懇願に負けて、悪乗りに付き合ったのは失敗だったかもしれない。
「カリナ様! 前に出すぎないでください!」
カリナ嬢の背後を取ろうとした中級魔族を、カリナ嬢と同じ重装強化外装を身に纏ったゼナさんが殲滅する。
ゼナさんの死角から、砲撃型の魔族が狙撃しようとしているのが見えた。
ゼナさん、危ない――。
オレの呟きが伝わったのか、単に第六感が働いたのか、ゼナさんが急機動で狙撃を避けた。
良かった。
敵が多いから周囲には注意だ。
「艦の防御魔法を最大に、対空砲で空からの敵を排除します」
「防御魔法は既に最大です。杖艦機能を使って神聖魔法を拡張強化して使います。コアツー、ジェネレーターの出力を回してください」
「無理無理! そんな事したらジェネレーターが保たないよ!」
「そんな事は、ここを乗り越えてから考えなさい。サトゥー様達の帰る場所を確保するのが最優先です」
システィーナ王女、セーラ、コアツーの三人は余裕がない感じだ。
大丈夫。
ジェネレーターは簡単に壊れない設計だよ。
コアツーはナナほど経験がないし、一時的に出力を上げるよう調整を変更してやる。ジェネレーターの耐久度が少し犠牲になるけど、魔界を脱出するまで動けばいい。
「あれ? 出力が安定した。セーラの方にパワーを回したよ。手が空いたから対空砲撃を開始するね。自動追尾でいい?」
「はい、コアツーは虚空機関の修理用ゴーレムの指揮に専念してください。自動追尾できない敵は私のゴーレム隊にやらせます」
システィーナ王女の操るゴーレム軍団が、地上から迫る下級魔族を近寄らせまいと奮闘している。
「ゴーレム三番隊は近接防衛に移行。四番隊はゼナの援護を継続」
「…… ■■■■ 神威聖域」
艦を通したセーラの魔法が、ユニークスキルの輝きを帯びながら大型虚空艦を包む。
最終防衛ラインはセーラの神聖魔法らしい。
「ティナ、主機関の調律が終わったよ。後は虚空回路だけ」
「ありがとう、コアツー。セーラ、瘴気障壁の残りは大丈夫?」
「ちょっと消耗が早めですが、三時間くらいは平気です」
予定よりかなり消耗が早い。
瘴気障壁発生器に目を向ける。
なんとなく、改良時には分からなかった改良案が思い浮かぶ。
ちょっと直しておこう。
すいすいと回路を指でいじっていく。
いつもより魔力の流れや瘴気の法則のようなモノが見えるせいで調整が楽だ。
「ティナ様! 瘴気障壁の発生回路が勢いを取り戻しました。これなら、まだ八時間くらいは大丈夫そうです」
うん、それは良かった。
皆、頑張れ。
安心したせいか、頭がぼうっとする。
なんだか夢を見ているようだ。
孤島宮殿でオレを心配するアーゼさん、そのアーゼさんを励ます護衛のシロやクロウが見える。
同じ視界には賢者鼠のチュー太達が地下帝国のカラス乗り達にシガ王国の王都上空をパトロールさせている姿が映る。
神鳥の翡翠は何か気になることでもあったのか、ぴぴるぴるぴるとせわしなく鳴いている。
幼いドリス王女が不安そうにしているから、もう少し落ち着いてほしい。
色々な場所で奮闘するエチゴヤ商会の子達やムーノ侯爵領の人達や迷宮都市の人達、リーングランデ嬢達の姿も見える。
まるで意識が世界に溶けているようだ。
◇
――ご主人様!
不意に視界が収束し、オレは魔神城の廊下を見下ろす位置にいた。
――ご主人様!
どうやら、オレを呼ぶアリサの声に引き寄せられたらしい。
アリサ達は余裕のない感じで前へ前へと進んでいる。
先ほどまでの安全マージンなんて忘れたかのような無謀な前進だ。
「どっけぇええええええええええ!」
アリサの身体を暗紫色の光が流れ、目映いばかりの白い炎が魔族を焼き払っていく。
「アリサ、ユニークスキルの使用は控えるように助言します!」
「今はわたしの事よりモ、ご主人様よ! 早ク! 早く行かナイと!」
「ダメですよ、アリサ。ご主人様はアリサが無茶をする事を望みません」
うん、ナナやリザの言う通りだ。
現にまた魔王化しそうだし。
オレはアリサの髪を撫で、壊れる寸前だった彼女の「魂の器」を優しく修復する。
これで大丈夫だけど、アリサの様子を見る限りまた壊しそうで心配だ。
もうちょっと頑丈にしておこうかな?
オレは自分の一部を千切って、アリサの魂を補強する。
うん、これで大丈夫。
「またきた~?」
「むぅ、雲霞」
魔族の大軍団がアリサ達の前に雪崩れ込んできたようだ。
「ゴキブリみたいにわさわさ湧いてくるんじゃないわよ!」
「アリサちゃん、さっきの魔王がいる」
「あの折れ角のアベンジャーのヒトも、見たことがあるのです!」
その中にはさっき倒したはずの魔王や魔族騎士アベンジャーの姿もある。
『我らは魔神様ある限り不滅ナリ』
魔王が嘯く。
――不滅。
その言葉が、オレの脳裏に木霊した。
◇
「おお、サトゥーよ。死んでしまうとは何事だ」
虹色に輝く祭壇らしき場所が、霞んだ視界に映る。
神官のまねごとをしているのは、絵の中に現れた謎幼女だ。
今なら、その正体が分かる。
「まだ目覚めない?」
「いや、大丈夫だ」
オレは重い身体を起こす。
「君は――」
謎幼女を見つめる。
「――天之水花比売」
ヒカルの実家の神社の祭神にして――。
「オレをこの世界に召喚した竜神アコンカグラ、だね?」
謎幼女はしばしオレを見つめ、「正解」と口にした。
「いつから分かってたの?」
「予想はずいぶん前からしていたけど、確信したのはさっきだよ」
一緒にゲームをした記憶の中でも、彼女はあのセリフが大のお気に入りだった。
「ここは?」
「生と死の狭間の空間よ」
「つまりオレは生き返ったわけじゃないのか?」
オレの問いに謎幼女――カグラはこくりと首肯した。
「イチローは死亡初心者だから、魂があちこちに散ってたのじゃ。それを集め直す必要があったから、ここで組み直してた」
魂があちこちに散る?
―― 一人分の魂じゃ足りないの、幾つも縁り合わせないとね。
不意に一つの言葉が脳裏を過ぎった。
「つまり、オレは複数の世界の鈴木一郎をより合わせた存在なんだね?」
「正解よ。たった一人、魔神となった鈴木一郎を除く全てを束ねたのがあなた。さっき召喚したと言っていたけど、正しくは転生でもあるの。鈴木一郎そのままでありながら、全てを統合した真・鈴木一郎なの」
ややこしい。
オレの記憶が一部混濁していたり、知らないはずの経験を知っていたりするのはそのせいか。
なんとなく予想していたからか、この空間のせいか、思ったよりもショックはない。
幾つか気になる事がある。
「どうして魔神だけは束ねなかったんだ?」
「あのイチローは特別だったの」
懐かしむような哀しむようなカグラの言葉に、少し胸が痛くなる。
「――特別?」
カグラの虹色の瞳と見つめ合う。
「数多の世界で唯一、あの子だけは幼女趣味だったの」
身体の力が抜ける。
「真面目に――」
「本当よ。どの世界のイチローも私を無二の親友として接してくれたけど、幼い姿の私を恋人として求めてくれたのはあの子だけだったの」
数多っていうのがどのくらいか分からないけど、オレの内にある魂の感じからして数千や数万は軽くありそうだ。
それだけいて、たった一人しか幼女趣味がいなかったっていうのは驚嘆に値するね。
それは良いとして、疑問が残る。
「それなら、オレを束ねて召喚する必要は無かったんじゃないのか?」
「必要だから実行したの」
「オレを魔神に融合して、彼を完成体にする為か?」
もし、そうなら少し悲しい。
オレはカグラの事を親友だと思っていたけど、彼女の方はオレを想い人の単なる強化パーツだとしか思っていなかった事になるから。
「違う! 違うわ!」
良かった。
「イチローには魔神を止めてほしかったの」
理想を追い求め、それが叶わない事を理解したくなくて歪んでいった魔神を、オレ自身の手で正してほしいとカグラが訴える。痛々しくて見ていられなかったらしい。
「カグラなら止められるだろう?」
「私にはイチローを滅ぼすことなどできない。絶対にやりたくないわ」
まあ、恋した相手や愛した相手を手に掛けるのは嫌だよね。
「歪む前に戻す事はできなかったのか?」
「普通の方法ではできなかったの」
「時間を巻き戻すとか?」
「時間を遡行するのは禁忌なのよ。それに手を出すのは無限の円環に自ら嵌まる事と同じ。無限にやり直しを続ける悪循環が待っているの」
どうりで時間魔法がないはずだ。
オレを召喚した理由はそれでいいとして――。
「流星雨でオレに殺されたのはわざとか?」
「うん、統合したイチローの魂が馴染むまで不滅は作動しないから、簡単に死なないように私や眷族を殺してレベルを上げてもらったのよ」
「神様ならレベルだけを上げたり、統合したときにレベルを上げれば良かったんじゃないのか?」
「イチローは神様に夢を見すぎ。統合したばかりのイチローに変な歪みを与えたくなかったから、この世界のシステムを利用したのよ」
なるほど、回りくどいのにも理由があったのか。
でも――。
「その為に眷族を犠牲にしたのか?」
オレの脳裏にアリサの笑顔が浮かぶ。
眷族と言えば家族みたいなモノだと思うんだけど、カグラには違うのだろうか?
「大丈夫よ。私が復活したら、あの子達も元に戻るから」
だから、ストレージに収納してある死骸は有効活用していいとカグラがお墨付きをくれた。
「そういえば、どうしてすぐに復活しなかったんだ?」
日本にいたときに、どこかのカグラが「神は遍在する」とか言っていた気がする。
「あはは、広義にはイチローの為よ。魂を統合する為の接着剤みたいな役目をやっているの。それが終わったら、勝手に復活するわ。イチローの最後のユニークスキルがアクティベートされるのがその合図よ」
なるほど、今回の一件で有効化されたのは「不滅」だけで、「ユニット作製」はグレーアウトされたままだ。
「他には何か質問はある?」
「いや、これで十分だ」
「――そう。なら、答えを教えてくれる?」
カグラが少し不安な顔でオレを見る。
「分かった。やるよ。勝手に日本での人生を終わらせられた事に対する恨み言は、後でたっぷりするから覚悟しておけよ」
「それは大丈夫よ。今のイチローなら、元の世界に戻って人生を再開する事も可能だから」
おっと、それは朗報だ。
全部終わったら、カグラにやり方を教えてもらおう。
実行したら今みたいな力は無くなるだろうから、皆とたっぷり観光を楽しんだ後になるだろうけどさ。
「それじゃ、行ってくる」
「――うん。イチロー、魔神――もう一人のイチローの事をお願い」
「ああ、任せろ」
オレはその言葉を最後に、虹色の空間を去った。
◇
「――バカな! 復活しただと?」
目を開けると、眼前に魔神がいた。
「『死に戻り』のユニークスキルを持っていたか!」
正確には「不滅」だ。
時間が巻き戻るわけでもないしね。
「ならば、今度は復活すらできぬように魂まで破壊し尽くしてやる」
魔神が両手に次元刀と虚無刀を生み出した。
さて、レベル1のままでどこまで戦えるか分からないけど、カグラの頼みを叶える為にも、ひと頑張りしてみますか。
※次回更新は1/12(日)の予定です。
あけましておめでとうございます。
本年もweb版、書籍版、漫画版「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」を宜しくお願い致します。
令和二年一月一日 愛七ひろ







