17-44.魔界侵攻(4)
サトゥーです。理由は様々ですが、人は何かの切っ掛けで急成長することがあります。新たな視点や閃き、自分に合った職場や指導員との出会いなど。切っ掛けはどこにでも転がっています。
それは日々の生活だけでなく、異世界でも――。
◇
「……こ、これが魔界!」
カリナ嬢を筆頭に仲間達が魔界の光景に驚きの声を漏らす。
「テンプレな魔界ね」
「そうでガンスー、とか答えたくなっちゃった」
アリサやヒカルが言うように、目の前の魔界は紫系統色の地肌をした不毛の大地に、尖った山がそそり立ち、噴火した山から伸びる雲が重苦しく空に満ちている。
地上や空には魔族らしき、怪しげな影が跋扈しているようだ。
オレは観察もそこそこにマップを開いてみたが、神界と同じく「マップの存在しない空間です」と表示されてしまった。
念の為、全マップ探査の魔法も使ったが竜脈のない魔界では情報を取得できないのか、なんの情報も得られない。
それでも、見える範囲の地形や大型虚空艦が取得した情報が自動的にマップに組み込まれていっている。迷子になる事は回避できそうだ。
「サトゥーさん、空を!」
「青い月なのです!」
ゼナさんやポチが指さす方を見上げると、雲の切れ目に青い月――地球のような青い星があった。
「地球?」
「違うよ、アリサちゃん。ティナなら分かる?」
「はい、ヒカル様。あれは禁書庫にあった大地の図にそっくりです」
言われて気付いた。
確かに中央に見える大陸の形は、オレ達がいた人界の大地と同じだ。
「あそこから元の世界に戻れるのかしら?」
「いや、たぶん単なる映像だと思うよ」
人界との間には魔界回廊があるし、あんな風に向こうの世界と繋がっているとは思えない。
「マスター、ワーニングが出ていると報告します」
「魔界の瘴気濃度は回廊よりも高いようです」
「イエス・セーラ。現在の対瘴気障壁は最大で三万秒しか保たないと推測を告げます」
ナナとセーラから報告が来た。
三万秒というと八時間強くらいかな?
まあ、そんなに長居する気はない。
「にゅ~?」
「サトゥー、前」
タマとミーアが前方を指さす。
ミーアはユニークスキルの「聖域警備」で気付いたんだろうけれど、タマはそれとほぼ同時だった。タマの危機察知の能力は神の権能に匹敵するらしい。
雲海の上に浮かぶ黒いモノ――真っ黒な積乱雲のような雲を纏った巨大な岩塊が、雲を引き裂いて姿を現した。
岩塊というよりは島や大陸のようなサイズだ。
「――浮き島?」
「ええ、ララキエ王朝の浮き島に似ていますね」
呟くシスティーナ王女に首肯する。
天罰事件で見かけた浮き島ララキエみたいな空飛ぶ島にそっくりだ。
よく見ると、ルモォーク王国にあった影城みたいなのも周囲に浮いている。
「島って言うよりは要塞ね」
「イエス・アリサ。雲霞のごとく黒い点が発進したと報告します」
「えまーじぇん~?」
「緊急事態なのです! ポチ達もスクランブルエッグしないといけないのですよ!」
浮き島から発進した魔族の群れを見て、仲間達が危機感を強めた。
ポチは慌てすぎて、緊急発進のスクランブルと卵料理のスクランブルエッグを言い間違えている。
「ご主人様、敵はこちらを発見したようです。迎撃に出向いて宜しいでしょうか?」
リザが確認するようにオレを見た。
黒い点の動きからして、オレ達の事を気付いているのは確実だ。セーラの「隠密隠者」による隠蔽をどうやって見破ったのか気になる。
もしかして――。
後ろの席でコアツーと並んで座る紫幼女を振り返る。
「――それはないと思うよ」
オレの視線に気付いたヒカルが、オレの推測を否定する。
「瘴気障壁」
「うん、私もそう思う」
ミーアがぽつりと呟いた言葉に、我が意を得たりとヒカルが頷いた。
「――あっ」
高濃度瘴気の中に、瘴気を押しのける障壁や瘴気を浄化する「破邪聖者」を発動していたら、鈴を鳴らしながら行進しているようなものだ。
「ご主人様」
「分かった。でも、敵の数が多すぎるね」
リザがもう一度許可を求めてきたが、さすがに多勢に無勢すぎる。
オレは会話しながらメニューを操作して魔法欄を開き、目的の魔法を選択し、マップに映ったターゲットを範囲指定する。
こういう時に最適の魔法があるのだ。
一発だと心許ないので、ストレージに大量ストックしてある魔力バッテリーの三割くらいを使って連発する。
「それなら、私達も搭載されている支援戦闘機で出ます!」
「わたくしもラカさんと小型虚空艦で出撃いたしますわ」
ゼナさんとカリナ嬢が訴える。
大型虚空艦には救命艇を兼ねた小型虚空艦が左右に一隻ずつドッキングしている。有人戦闘機は六機しかないが、操作できる人間はそんなにいない。
「どちらにも瘴気障壁は組み込んであります。本艦ほど稼働時間が長くありませんが、一刻ほどの戦闘には耐えられるはずです」
システィーナ王女が補足してくれた。
「マスター、接敵まで600秒を切ったと報告します」
「議論している暇はないね。まずは数を減らそう」
幸い、周辺被害を気にする必要がない。
「わかったわ! まずは私の『全力全開』の上級魔法で――」
「いや、その必要はないよ」
「――必要ない?」
訝しげな顔をするアリサに、オレはピンッと伸ばした指で空を指し示す。
◇
「なんじゃそりゃああああああああああああ!」
星が降る。
青い月を背景に虚空の彼方から星の雨が降る。
アリサの叫びをBGMに、空を埋め尽くす隕石の雨が、雲霞のごとく迫る魔族を貫き、巨大な浮き島や浮き城を粉砕し、勢いを緩めずに曇天の雲を押しのけて紫色の大地を穿っていく。
何万何十万といた魔族の軍勢が、巨大な隕石に打たれて次々と数を減らす。
まさにマップ兵器だ。
視界の隅では、目で追えないほどの速さで撃破ログが流れている。
「……星降り」
ゼナさんがぽつりと漏らした。
「これが『狗頭の魔王』を倒した禁呪……」
「凄い魔法ですわ」
「いいえ、あれは――まるで神の御技……」
システィーナ王女、カリナ嬢、セーラも感想を呟く。
「話には聞いてたけどすごいわね」
「はい、さすがはご主人様です」
「ご主人様は最強なのですよ!」
ヒカルの言葉にリザとポチが誇らしげに同意する。
「にゅ!」
「サトゥー!」
「ご主人様、星降りを抜けて何か来ます!」
タマ、ミーアの索敵ペアに続いて、監視を続けていたルルが報告してくれた。
近すぎて範囲に入らなかったか、他の魔族を盾にして生き延びたのか、十数体ほどの上級魔族や魔王がこちらに向かってくる。
「ナナ守護を――っ」
指示の途中で、最初の流星雨の時のような痛みが身体を襲った。
今なら分かる。
あの時の痛みはレベルアップ酔いの酷いヤツだ。
「「「ご主人様!」」」「サトゥー」「「「サトゥーさん」」」「「マスター!」」
仲間達がオレを心配する声が耳に届く。
痛みに薄れる視界に、いくつかの光点が近付いてくるのが見える。
オレよりそっちの対応を、と言いたいが痛みで声が出ない。
「――ナナちゃん、守護を実行して!」
「イエス・ヒカル。『不落守護領地』を展開と宣言します」
ナナの篭もるシェル型コクピットから、朱色の光が漏れるのが見えた。
「ミーアちゃん、ガルーダを。ティナは砲台ゴーレムで近接防衛、ルルちゃんは砲塔群で大物を狙って!」
「ん、――魔風王創造」
「わかりました。千手玉座に移動します。コアツー、手伝ってください」
「うん、手伝う」
「AIさん、全兵装解放。補助お願いします」
「アイアイマム、オールウェポンフリー。FCSスタンバイ」
仲間達の声が聞こえる。
「私達も重装備型の強化外装で出ます」
「あいあいさ~」
「らじゃなのです!」
獣娘達がカタパルトデッキに続く、緊急発射管に飛び込むのが霞む視界に見えた。
「私も支援戦闘機で出ます」
「わ、わたくしもご一緒いたしますわ」
ゼナさんとカリナ嬢だ。
「ふたりは艦の近接防御をお願い。足の速い魔族を近寄らせないで。ラカも頼んだわよ」
「はい!」
「わかりましたわ」
『委細承知した』
アリサの指示を受けて二人がシューターに飛び込んだ。
「セーラたん、ご主人様の様子はどう?」
「回復魔法が効きません」
「大丈夫よ、セーラちゃん。これはたぶんレベルアップ酔いの酷いヤツだわ。しばらく眠れば治るはずだから、医療用カプセルに預けてくる」
「うん、お願い。わたしは主砲係をするから、後で代わって」
「了解~」
「セーラたんは外に出る子達の管制をお願い。敵を追いかけて船から離れすぎないように注意して」
「任せてください」
仲間達の会話を最後にオレの意識は闇に呑まれた。
◇
「――右舷被弾。第二隔壁まで貫通しました」
激しく身体を揺さぶられる感覚に、意識が闇の底から浮き上がる。
「ダメージコントロールが限界です。ナナさんの『不落守護領地』はまだ再使用できませんか?」
「イエス・ティナ。クールタイム終了まで1800秒必要だと告げます」
「タマ! 右舷をお願い! ミーアは次のガルーダを!」
「ポチちゃんとリザさんはククルカーンを近付けないで! アリサちゃん、ヨルムンガンドが下から来るわ!」
「ちぃいい、まだ死んでなかったの! 魔王や権能持ちの上級魔族はやっかいね。今度は劣化版じゃない対神魔法を全力全開で叩き込んでやるわ!」
「無茶よ! また魔王になったらどうするの!」
「その時はその時よ。無茶でも、今やらなきゃ全部終わりよ!」
ぼんやりとしていた意識が、その会話を聞いて完全に覚醒した。
オレはユニット配置で艦橋に移動する。
「主砲の詠唱補助モードを威力最優先に設定」
『アイアイマム。トランスフォーム・スタッフ・シップ・モード』
「全力――」
「そこまでだ」
無茶しようとするアリサを止める。
「ご主人様!」
「「サトゥー!」」
「マスター!」
艦橋に残っていたメンバーがオレに気付いて、疲れた顔に笑みを浮かべた。
「皆、お待たせ」
レーダーに映る光点の一つが急接近する。
オレはユニット配置で甲板に出た。
「ククルカーンに抜けられました!」
「追いついてみせるのですよ!」
翼ある蛇をリザとポチの重強化外装が追う。
この位置関係だと、二人を巻き込みかねない。
オレは「理力の腕」を発動し、ククルカーンを殴り飛ばす。
「――え?」
理力の腕の本数が異様に多い。
かつて120本しか出せなかった理力の腕が、千本を超える本数へと拡張されていた。
オレは慌ててメニューのステータスを確認する。
――レベル3100。
多少はレベルが上がっていると思ったが、まさか一桁増えているとは思わなかった。
ひょっとしたら億単位の魔族を屠ってしまったのかもしれない。
正面から迫るキロメートル単位の超巨大な蛇の魔王――ヨルムンガンドに腕を向ける。
――小火弾。
かつて中級魔法級の威力だった小火弾が、アリサの使う上級魔法並みの威力でヨルムンガンドの防御障壁を破壊する。
――小火弾。
ヨルムンガンドの硬そうな鱗を砕き、表皮から黒い血が噴き出す。
こいつも黒ヘドロの影響下にあるようで、噴き出した血が硬質化して鱗の外側に蠢く装甲を作り出した。
ちまちま攻撃するよりは、一気に片を付けた方が良さそうだ。
オレは「理力の腕」と「隔絶壁」でヨルムンガンドを拘束する。
『総員、耐ショック、耐閃光防御』
外に出ていた仲間達が大型虚空艦に帰還し、準備が終わるのを確認してから魔法を使う。
――光子力線。
サングラス越しにも目映い閃光が周囲を白く染め、光線の触れたヨルムンガンドの身体が一瞬で蒸発する。
さらに熱されてプラズマ化した空気の波がキノコ雲や粉塵を薙ぎ払い、大地を深く深く抉っていく。
威力が高すぎる攻撃だと大型虚空艦に被害が出そうだったので、周辺被害の少ない魔法を選んだのだが、それでもこの威力だ。
迂闊に対神魔法や禁呪を使わなくて良かったよ。
「ご主人様、上!」
急降下攻撃してきたククルカーンを、勇者直伝の奥義「閃光延烈斬」で真っ二つに斬り裂いた。
黒ヘドロで強化された魔王を、威力の劣る遠距離斬撃で瞬殺できてしまった。
かつて狗頭が言っていた魔神の強さと同じくらいは強くなれたのかもしれない。
◇
「あそこだよ。あれが主様のいるお城だよ」
紫幼女のナビで目視ユニット配置を繰り返し、魔界の中心へと辿り着いた。
「――城?」
「城って言うよりは彗星帝国みたいね」
水平に半分に切った月そっくりの浮遊島に、先鋭的な建物が生えた都市がある。
アリサが言うように、14万8千光年を旅する古典名作SFに出てくる敵の本拠地に似た印象だ。
あれが魔神の城らしい。
「サトゥー!」
「マスター、超大型の敵が接近と報告します!」
魔神城の周りを周回していたレベル200超えの上級魔族がこちらに向かってくる。
古竜大陸の古竜の何倍も大きい。しかもユニークスキル持ちだ。
「――ご主人様」
だが、オレの心には不安も焦りもない。
「大丈夫だよ」
自在剣の上位版、超高速の竜破斬で瞬殺する。
これなら余計な周辺被害はない。
「すごくすごいのです!」
「おう、あめーじんぐ~?」
「元から凄かったけど、怖いくらい強くなっちゃったわね」
「だいぶレベルがあがったからね」
今なら魔神相手でも負ける気がしない。
さて、サクサクと行きますか。
※今週12/22(日)の更新はありません。次回は年末の予定です。
※「17-40.迷宮街道と月の回廊(2)」の最後の方に、リーングランデ達が別行動をしている旨の記述が抜けていたので追記しました。







