17-43.魔界侵攻(3)
※次回更新は12/15(日)の予定です。
サトゥーです。会社ではチーム単位で仕事をするのが普通ですが、チームメンバーのスキルにはたいていバラつきがあります。それ故に、中にはそれを嫌ってソロで進めたがる者もいますが、厭わず適切に育てれば、やがて彼らもチームを支える柱に成長してくれるのです。
◇
『さらばだ』
『神界で吉報を待つ』
『パリオンも忘れるなよ!』
ヘラルオン神、ガルレオン神、ザイクーオン神の身体が光り、その巨体が目映い閃光と共に消える。
神がいた場所には三つの巨大な塩の山が残っていた。
たぶん、身体を構成していた物質だろうけど、後始末が大変そうなのでストレージに回収しておく。聖遺物の一種だろうし、後で希望する神殿に配ってやろう。
――さて。
魔界と人界のほころびを直す為には、その元凶となる魔神の穢れを祓う必要がある。
とりあえず、それをオレが実行するかは魔界へお邪魔してから決めるつもりだ。
無理そうなら、人界の人達や動物達を異界へと避難させて、別の世界や惑星へ引っ越しさせるのも視野に入れたいと思う。故郷を捨てさせるのは忍びないから最後の手段だけどさ。
行動に移ろうとしたオレに、コアツーからの通信が届いた。
『マスター・サトゥー! コアから連絡きた。宝珠ができたって』
『もうか、早いな。迷宮に行けばいいか?』
夢幻迷宮の迷宮核に、仲間達全員分の「自己確認」の「祝福の宝珠」を依頼してから、さほど経っていないというのに、もう完成したようだ。
『もう受け取ってきたから、ここにあるよ』
オレは宝珠ごとコアツーをユニット配置で引き寄せる。
「マスター・サトゥー、これ!」
「ありがとう、コアツー」
オレは受け取った宝珠を仲間達に配る。
一個余ったので、興味津々なコアツーにも渡してみた。
「あたしのは無いの?」
存在を半ば忘れていた紫幼女が、仲間はずれにされた子のような顔で、そんな事を言い出した。
笑顔で宝珠を使おうとしたポチとタマが、紫幼女を見てオロオロしている。
――しかたない。
「これを使うといい」
「わーい」
ストレージに余っていた不良在庫の「祝福の宝珠」を紫幼女に与えた。
採取スキルだし、特に問題ないだろう。
「これどうやって使うの?」
「オーブを天に掲げて『俺は人間を止めるぞー!』って叫びながら魔力を流すのよ」
アリサが有名な超名作伝奇漫画のネタで紫幼女をからかう。
「あたし、魔神様の眷属だから人族じゃないよ?」
「そういうお約束なのよ」
「危なかったのです。ポチはお約束を破っちゃうところだったのですよ」
「ういうい~」
アリサと紫幼女の会話を聞いたポチとタマまで、アリサの悪乗りに付き合って漫画ネタをすると、他の子達まで恥ずかしそうにセリフを重ねて宝珠を使っていた。
意外にノリノリな王女や恥ずかしそうにするゼナさんやカリナ嬢、さくさくと宝珠を使ってしまい「そんな作法が……」と悩むリザやルルには、元ネタを知っているヒカルがフォローしていた。
「アリサ、皆に使い方や裏技をレクチャーしてくれるかい?」
「おっけー、任せて」
これで仲間達もオレやアリサのように無詠唱で魔法が使えるようになるはずだ。
獣娘達やカリナ嬢は魔法スキルを持っていないから、簡単な回復魔法が使える水魔法や光魔法のオーブを詠唱のオーブとセットで渡す。呪文を覚えられるか分からないけれど、すぐに使えそうな回復系の覚えやすいのを書き出して渡しておいた。
◇
「それじゃ、ちょっと行ってくる」
仲間達の強化も終わった事だし、魔界の調査に行ってこようと仲間達にそう切り出した。
「待って、ご主人様」
心配性のアリサが、短距離転移でオレの前に回り込んだ。
「ごめん、アリサ。行かせてくれ。このままだと人界が魔界と融合しちゃうんだ」
「違うわよ。もう止めないわ」
良かった。泣かせたくないからね。
「まずは腹ごしらえしましょう!」
――はい?
「次はいつご飯が食べられるか分からないのよ」
「……そうだね」
人界と魔界の境界も、楽観はできないものの今日明日にでも破れるほど切羽詰まった状況でもない。食事をする時間くらいはあるだろう。
それに、最後の晩餐になるかもしれないしね。
もっとも、その言葉を口にしないだけのデリカシーはある。
それに大型虚空艦には最新型の自動調理魔法道具があるから、大抵の料理はすぐに用意できるはずだ。
「肉串の盛り合わせ~?」
「色んなハンバーグ先生を集めてみたのです!」
タマとポチは安定の肉料理だ。
大型虚空艦の大食堂は、人工重力が利いているので普通に食事ができる。
「茸串に野菜カレー」
「マスター、私とセーラもカレーに協力したと告げます」
「私は料理が得意じゃないので、カットしただけですけど」
ミーア、ナナ、セーラの三人は野菜カレーを運んでくる。
カット工程も自動でできるはずだけど、彼女達はマニュアルモードで作業してくれたらしい。
「海老や蟹料理もご用意しました」
「ご主人様、マグロ尽くしもありますよ」
リザとルルが大きな皿を並べる。
「私はヒカル様やカリナ様と一緒に縁起物の蕎麦を打ちました」
「えへへ~、細く長く傍にいられるように、って」
「わたくしも頑張って打ちましたわ!」
システィーナ王女、ヒカル、カリナ嬢の三人が三色に色分けされたお蕎麦をテーブルに置いた。
機械打ちの麺に満足できなかったのか、縁起物だからか、わざわざ手打ちしてくれたらしい。
「サトゥーさん、私も領軍の出陣式で出る羊肉料理に挑戦してみました」
ゼナさんは珍しい料理だ。
前にセーリュー市に行った時に、実家か門前宿あたりで羊肉料理を学んできたようだ。
これは自動調理メニューになかったはずだから、ルルと一緒に普通の厨房で調理してくれたのだろう。
時間がない中で用意してくれた、皆の心尽くしの料理に舌鼓を打つ。
思ったよりもお腹が減っていたようで、自分でも驚くほどたくさん食べる事ができた。
「それじゃ、行ってくるよ」
食後のお茶まで楽しんだ後、オレは未練を振り払うように立ち上がる。
「何言っているのよ。わたし達全員で行くに決まっているでしょ!」
アリサの発言に、仲間達も賛同の声を上げた。
紫幼女やコアツーまでもだ。
あまりに無茶なので止めたが、虚空艦に組み込んだカリオン神の瘴気障壁を根拠に押し切られてしまった。
まあ、魔界のゲート付近の警戒を任せる人員も必要だしね。
◇
「総員、着席し、シートベルトの着用を指示すると告げます」
シェル状の操縦席に座ったナナが艦内放送で仲間達に伝える。
シートベルトと言っても、車のような肩と腰を支えるL字型のではなく、戦闘機などで使われる六点式のヤツを真似てみた。
「全員の着席を確認、重力制御装置を解除」
ナナの言葉と同時に、浮遊感が皆を包む。
アニメや漫画なら髪の毛を浮かして浮遊感を表現するシーンだが、頭部を守るフルフェイス型の兜があるので、兜の内側に見える自分の髪の毛でしか分からない。
「対瘴気バリア展開と告げます」
「瘴気障壁展開」
艦の瘴気障壁で補強されたが、まだちょっと心許ない。
さらに多重展開してもいいが――。
「ゼナさん、『破邪聖者』を瘴気障壁に浸透させられますか?」
「は、はい! 頑張ってみます!」
ゼナさんの身体に橙の光が流れ、ヘラルオン神から貸与されたユニークスキル「破邪聖者」が「瘴気障壁」を強化する。
予想通りだ。
こっちの方が多重展開するよりも効率がいい。
「対探知シールド展開と告げます」
「隠密隠者および対探知システム起動します」
セーラの身体に碧色の光が瞬き、テニオン神から貸与されたユニークスキル「隠密隠者」が大型虚空艦を人や神の目から隠す。
「マスター、準備は全て整ったと報告します」
どこかで聞いたフレーズで、ナナが準備完了を告げた。
「それじゃ、行こうか」
オレはせっかく繕った世界間境界を傷付けないように、ユニット配置で魔界回廊へと転移する。
「ワーニング~?」
「瘴気濃度危険レベルなのです!」
「ご主人様、警報が出ています」
おっと、思ったよりも高濃度だったらしい。
オレは自分の魔法欄から「瘴気障壁」を発動する。
ちょっと心許ない感じだったので、艦橋を守る為に範囲を絞って枚数を増やした。
ゼナさんのユニークスキルも効果が続いているし、これで艦橋は大丈夫だろう。
次は虚空艦全体の障壁強化だ。
「サトゥーさん、瘴気障壁を重ねますか?」
「ええ、お願いします。聖樹石炉の出力調整も忘れずに」
ゼナさんに首肯し、大型虚空艦の障壁回路の重複使用を許可する。
「了解ですわ。ラカさん、お願いします」
『うむ、任された』
「あたしも手伝う!」
カリナ嬢が知性ある魔法道具のラカに聖樹石炉の出力調整を命じる。コアツーもラカの補佐をして聖樹石炉の微調整に協力してくれた。
出力の上昇を確認したゼナさんが、大型虚空艦の「瘴気障壁」を重ねる。
「艦内にも障害が発生しているみたい」
「整備用ゴーレムを派遣しました。艦内の不具合はお任せください」
ヒカルの報告を受け、システィーナ王女が素早く配下のゴーレムに指示を出し、ダメージコントロールに取りかかってくれた。
これで艦内は大丈夫だろう。
オレはマップ検索を――。
「探知システム起動と告げます」
「ん、聖域警備」
大型虚空艦の各種レーダーに、ミーアから溢れた藍色の光が染み渡る。
ウリオン神から貸与されたユニークスキル「聖域警備」の力で艦載レーダーを強化するようだ。
天球型の艦載レーダーに映る影が急速に増えていく。
どうやら、潜伏系のスキルを持った魔族の伏兵が、待ち構えていたらしい。
マップに映る光点と同じだけ反応しているし、特に補足は不要だ。
「敵だらけじゃない」
「数が多いだけですね。下級や中級ばかりです」
「あい!」
「ドリドリミドリなのですよ」
リザの身体から、燃え上がるような蒼い光が噴き上がり、仲間達の闘志をかき立てた。
無意識にガルレオン神の「鋼心英雄」を発動させてしまったようだ。
「倒しちゃう?」
オレはヒカルの問いに首を横に振る。
「セーラさんの力で見つかっていないみたいだし、今のうちに迷宮回廊を通過しよう」
上級魔族級の敵がいないって事は、オレ達に痛撃を与える為というよりは、発見する為の報知器的な存在だろうからね。
「イエス・マスター、こそこそモードで潜行すると告げます」
いや、そんなモードは搭載していないから。
オレ達は息を潜めて魔界回廊を通過し、ついに魔界へと辿り着いた。







