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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
最終章

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幕間:幼い女神

※新刊発売記念のサプライズ投稿です。

「魔神、大丈夫?」

「パリオンか」

「うん」


 魔神が豪奢な寝台から身を起こす。

 神々の罠にはまり、「毒入りサトゥー」を融合した為、その穢れを抜くために安静にしていたのだ。


 いつものように無邪気に抱きつこうとしたパリオンに、魔神が待ったを掛けた。


「どうして?」


 物質の身体を作った時は、こうして抱きつくと魔神はいつも喜ぶのに、なぜ止めるのかとパリオンが問う。


「穢れが移る」

「……そう」


 作ったばかりの身体が馴染んでいないのか、ぽややんとした顔だ。


「それにしても、よくここまで来られたな」


 神々を蛇蝎のごとく嫌う魔族達が棲む魔界の最深部まで、騒動の一つも起こさずに単身で訪れた事に感心した。


「権能、育てた」

「そうか、偉いぞ、パリオン」


 魔神に褒められたパリオンが、得意げにふんすと鼻息荒く胸を反らす。

 そのパリオンの視界に、見慣れないモノが映った。


「これなに?」


 パリオンが寝室に飾られた虹色の光を帯びた真珠質の大鎌に目を向ける。


「『神刈厭の大鎌』――神を殺せる武器だ」

「神殺し?」


 ぽそりと呟いたパリオンが大鎌を手に取る。

 非力なパリオンの身体には重いのか、ふらふらとおぼつかない足取りが危なっかしい。


「パリオン、危ないから戻しておけ」

「戻すと殺しにいけない」


 パリオンがふらふらと大鎌を構える。


「それは未完成だ」

「どうして?」


 パリオンはぽややん(・・・・)と首を傾げる。


「それには神力が入っていない」

「どうすれば入る?」

「そのために神力を回収する紫塔を作った。一万年もあれば溜まる」

「ニンフの神力を使う?」

「ニンフでは神力が薄すぎて無意味だ。全て合わせたとしても、必要量に足りない」

「どのくらい?」

「神一人分に相当する量だ」


 パリオンがその膨大な量に目を見開いて驚く。


「困った」


 パリオンが眉を顰めて身体ごと首を傾げる。

 神を殺す大鎌を完成させるために、神を殺す必要があるという矛盾を解決する術を思いつかなかったのだ。


「また、来る」


 パリオンはそうぽつりと呟いて魔神の宮殿を去った。





「魔神。いい手を思いついた」


 再び訪れたパリオンが、挨拶も無しに本題を話しだす。

 偽サトゥーに仕込まれた毒が癒えたのか、今日の魔神は寝台に寝ていなかった。


「よく来たパリオン。いい手とはなんだ?」

「白天威輝晶を使う」

「――白天威輝晶? 神界の最奥にあるアレか……」

「うん」


 パリオンの瞳が「神刈厭の大鎌」を見ているのに気付いた魔神が、パリオン神の意図が大鎌の神力を補充する為に白天威輝晶を使う事だと察した。


「足りる?」

「神力の結晶『白天威輝晶』ならば十分に足りるが……それはできん」

「どうして?」

「あれは神界だけではなく、人界を守る為にも必要だ」


 虚空を徘徊する「外なるモノ」どもから守る結界を維持しているのは「七柱の神々」の力であり、白天威輝晶はそれを成す為の集束器でありブースターでもある。


 それが魔神の認識だった。


「大丈夫」


 パリオンが自信ありげに胸をはる。


「そうなのか?」

「皆で供出すればいい。皆、神力を隠し持っている」


 パリオンは神々がへそくりしている神力を集めれば、新しい白天威輝晶が作れると主張した。


「これがあれば大望が果たせる」


 魔神は思う。「神刈厭の大鎌」で神々を脅せば、人々を神々の支配から解き放てる、と。

 にんまりと微笑むパリオン神は何を思うのか――。


「やろう」

「分かった。パリオン、神界への手引きを頼む」

「頼まれた」


 こうして魔神、パリオンのタッグが結成され、神界から白天威輝晶が盗まれる事となる。





「魔神、大丈夫?」

「……パ、パリオンか」

「うん」


 魔神が豪奢な寝台から身を起こす事もできずに、苦しげな顔でパリオンを見上げる。

 身体から溢れる神力は今までの魔神とは比べ物にならないほどだったが、それはヘドロのように黒く淀んでいた。


 魔界を覆っていた穢れた瘴気の霧は、魔神が根源だったようだ。


「どうしたの?」

「神々にしてやられた。白天威輝晶に毒を仕込まれたのだ」


 毒――月に封じてあった「禁忌の力」。

 魔神はそれを神々の誰かが白天威輝晶の奥に埋め込んだのだと告げた。


 大鎌に神力を注ぐ前に、一度自分の身体に神力を取り込む必要があったのだろう。


「誰が?」

「おそらくザイクーオン神だろう。神々の中でそこまで破滅的な愚行ができるのはヤツくらいだ」

「そう」


 ぽややんとした顔でパリオン神が頷く。


「神力を充填した?」


 パリオン神が「神刈厭の大鎌」を指さして尋ねる。


「していない」


 魔神の回答を聞いたパリオン神の顔に、不服そうな色が宿った。


「どうして?」

「今のまま神力を充填しては、穢れ(・・)まで『神刈厭の大鎌』に取り込んでしまう。それでは以前の(・・・)二の舞だ」

「そう」


 パリオン神が「神刈厭の大鎌」に歩み寄る。

 大鎌に伸ばした手を遮るように、聖女の姿をした魔族が立ち塞がった。


「どいて」

「いけません」

「それがないと殺しにいけない」


 パリオン神が「頂戴」と伸ばす手を、聖女は困った目で見る。

 聖女の守りは鉄壁で、パリオン神が伸ばす手をことごとく防いでみせた。


「パリオン、止めろ。お前がザイクーオン神に報復する必要はない」

「でも」

「大丈夫だ。今、腹心達に穢れを移す身代わりを作らせている。神々を脅すのはそれからでいい」

「わかった」


 パリオンが不承不承の顔で頷いた。


「魔界を去れ、パリオン」

「どうして?」

「このままでは穢れを抑えきれぬ」


 抑えられなければ、神である彼女を穢すほどの穢れが魔界を汚染してしまう。

 魔神は自分の力で幼い女神が穢される事を畏れた。


「人界を穢すわけにもいかん。人界への門は封鎖させる。封鎖する前に魔界を去るのだ」


 パリオン神が魔界に来る時は、人界を中継して来ている事を魔神は知っていたらしい。


「またくる」


 パリオン神はぽややんとした顔でそう告げ、魔神のもとを去る。


 彼女の権能が働いている為、廊下を行き来する魔族や使徒達は誰も彼女の事に気付かない。


「穢れを移す身代わり……」


 パリオンがぽそりと呟いた。


「……いる」


 パリオンは知っていた。

 魔神が取り込んだサトゥーが、他の神々の作った偽物だったという事を。


 パリオンは言わなかった。

 もう魔神がサトゥーを必要とする完全化は終わったと思っていたから。


 パリオンは思考する。

 人界にいる魔神の同位体ならば、穢れを移す身代わりに最適だと。


 パリオンは策謀する。

 穢れを移すために、同位体を魔界に連れてくる方法を。


「――いた」


 パリオンの視界の先に、ピンク髪の紫幼女の一人がいた。

 さっきから、「大変だー」とか「困ったー」と騒ぎながら、無意味に廊下を右往左往していた者達の一人だ。


 パリオンがほどよく集団から脱落していた幼女に近付く。


 移動しながら、ぽややんとした顔を取り繕い、女神らしい表情を作る。

 伊達に一億年も生きていない。パリオンもその気になれば、幾らでも神々しい女神を演じる事ができるのだ。


「そこの娘、あなたは魔神を助けたいですか?」

「――誰?」

「魔神の古い古い友人です」


 優しい声で幼女の警戒心を解く。


「眷属の中で一番魔神想いのあなたに、使命を授けましょう」

「使命?」

「あなたが私の言う通りにすれば、魔神を救う事ができます」

「本当?!」

「ええ、約束します。やってくれますか?」

「うん!」


 こうしてパリオン神の手管に捕まった哀れな子羊が、人界のサトゥーの下に送られた。


 封鎖されるであろう人界との門をこじ開ける権能まで預けて。

 それが人界に穢れを呼び込む事になる事を、神である彼女が知らないはずがないのに。


「くふっ、くふふふふ」


 パリオンが無邪気に笑う。


「これで手に入る。『神刈厭の大鎌』――神殺しの武器が」


 そう呟いたパリオンの声は誰の耳にも届かず、狭間の空間へと消えていく。

 パリオンの真意を知る者は誰もいない。

※次回更新は 11/10(日) の予定です。


※本日は書籍版&電子書籍版の「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」第18巻の公式発売日です!

 BOOKWALKERで試し読みもご覧頂けるので、宜しかったらぜひ~。

(地域によってはまだの場所もあるかと思いますが、そちらはもうしばしお待ちください)

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小説「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」34巻が12/10発売予定!
  著者:愛七ひろ
レーベル:カドカワBOOKS
 発売日:2025年12月10日
ISBN:9784040761992



漫画「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」19巻【通常版】が12/9発売予定!
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  原作:愛七ひろ
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 発売日:2025年12月9日
ISBN:9784040761428



漫画「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」19巻【特装版】が12/9発売予定!
  漫画:あやめぐむ
  原作:愛七ひろ
 出版社:KADOKAWA
レーベル:ドラゴンコミックスエイジ
 発売日:2025年12月9日
ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
パリオン・・・腹黒ダ女神だったのか~~ヾ(≧▽≦)ノ
[一言] パリオン怖っ!まさか、パリオンがラスボスだったの?!サトゥー大丈夫?
[一言] 「神一人分に相当する量だ」『神刈厭の大鎌』が完成の時 つまリ魔神も死にそこな  ても魔神も相当な魔力がまたまたあるはず  『神刈厭の大鎌』の能力もまた未知て
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