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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
最終章

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17-34.紫塔の攻防


 サトゥーです。レベル制のゲームをしていると、最初の頃は苦労して倒した敵も終盤では単なるザコに成り下がるのはよくある事です。まあ、ゲームに限らず、現実の事柄でも似たような事がよくあるんですけどね。





「……ふむ」


 セーラから「魔界に赴き、魔神から白天威輝晶を奪い返せ」というテニオン神の神託を聞かされた。

 無茶振りが過ぎるが、神界が神力欠乏状態になるのはいささかマズい。


『ご主人様、そんな無茶振りに従う必要はないわ!』

『うん、私もサトゥーが火中の栗を拾いに行く必要はないと思う』


 アリサとヒカルは反対らしい。


『ですが、世界の危機を救えるのはサトゥーさんしか――』

『いないわけではありませんわね』


 抗弁するセーラの言葉をシスティーナ王女が遮る。


『そうそう、神々自身が行けば良いのよ』

『ん、妥当』


 アリサが王女の言葉を引き継ぎ、ミーアが同意する。


 ゼナさんやルルも思うところがあるようだが、持ち前の控え目な性格から意見を口にせずにいた。

 獣娘達やカリナ嬢は難しい話に入ってこない傾向がある。


『マスター、魔界には特産品や観光地はありますかと問います』


 む、それはどうだろう。


 美味しい食べ物は微妙だと思うけど――。


『ちょ、ナナ!』

『それは聞いちゃダメなヤツだよ! イチロー兄ぃがその気になっちゃう!』


 ――魔界にしかいない魔物の中に食材向きのヤツがいないとは限らない。


 何より、「魔界」というワードからして、観光スポットはそこら中にありそうだ。


『まずい! 眷属通信から流れてくる思考が行く方に偏ってる! カリナサマ! ご主人様の小分身を捕まえて鎧の胸元に押し込んで! それできっと思考停止するわ!』

『は、はい……』


 カリナ嬢が足下の影に手を突っ込んでオレの小分身を掴み上げた。

 白銀鎧で顔が見えないが、震える手がその内心を表している。


『……やっぱり、そんな破廉恥な事はできませんわぁあああああああああああああ!』


 カリナ嬢はオレの小分身を彼方に投げ飛ばすと、そのまま駆け出して、残存していた尖兵や魔族を薙ぎ払い始めた。

 なかなかバイオレンスな照れ隠しだ。





『――クロ様』


 エチゴヤ商会のエルテリーナ支配人に預けていた小分身に語りかける声が聞こえた。

 オレは魔界紀行の件を保留し、意識をそちらの小分身に切り替える。


「サガ帝国の皇帝が折れました」

「そうか、でかした。さすがは支配人だ」


 オレは久々にクロの口調を意識しつつ、クロに扮装した小分身で支配人を褒める。

 彼女を始めとしたエチゴヤ商会の面々は、ブライダル・ナイツのメンバーを護衛に付けて世界各国の王や領主達に紫塔破壊の同意を取りに行ってもらっていたのだ。


 紫塔は迷宮と同じく魔核を産する鉱山であるといった認識を持つ者が多いので、同意無しに破壊してしまうと感謝ではなく敵意を向けてくる可能性が高い。


 当然のように破壊を拒否していた王や領主は多かったのだが、破壊を拒否した場合、今回のようなスタンピードが再発しても勇者ナナシや黄金騎士団を派遣しないと宣言したら掌をくるりと返す者が続出した。

 サガ帝国のように軍事力に自信のある国は最後まで粘っていたが、なんとか支配人達の説得に応じてくれたようだ。


「いえ、メリーエスト殿下が有力者に口利きしてくださったお陰です」

「そうか、後でメリーエスト殿に礼を言っておこう」


 支配人に何かあってはいけないので、サガ帝国の紫塔攻略にブライダル・ナイツの構成員として派遣していたメリーエスト殿下とリーングランデ嬢を護衛に付けたのだが、思った以上の活躍をしてくれたようだ。


「これで紫塔殲滅に反対する領主は世界全体の数パーセント未満になりました」

「ああ、これで実行可能だ」

「その実行の前に。サガ皇帝から旧都にある紫塔を破壊するのは一番後にする事を条件にされたのですが……」

「そのくらいは構わん」


 サガ帝国の旧都――一般には隠蔽された「勇者の迷宮」の近傍にある紫塔は、この半年の間に成長を続け、世界最大サイズになっている。

 元々、ここをスタンピードの一件での最終決戦地にする予定だったので好都合だ。


 この世界最大の紫塔はその大きさに比例してスタンピードで溢れた魔物の数も多かったのだが、勇者二人と勇者ハヤトの従者である軽戦士のルススとフィフィ、神官ロレイヤ、それに先々代勇者の従者ブルーメ・ジュレバーグ女史が共闘して、旧都へ尖兵達を届かせなかったそうだ。

 参戦しなかった長耳(ブーチ)族の弓兵ウィーヤリィは、彼女の故郷である耳族自治区の勢力を率いて辺境の村々を救っていたらしい。


 ハヤトの従者達は半年前にブライダル・ナイツの構成員として派遣していたのだが、今はわりと自由に行動しているようだ。


「では、最終段階に入る。支配人達は部下を集めて飛空艇で待機せよ」


 オレはそう告げ、意識を本体(・・)へと戻す。





『皆、聞こえるかい?』


 無重力(ゼロG)の部屋で浮かびながら、空間魔法の「戦術輪話タクティカル・トーク」越しに世界中で奮闘する仲間達に声を掛ける。

 皆からの返信を確認してから、オレは本題に入る。


『これから30分後に作戦を最終段階に移行する。尖兵の殲滅が間に合わないようなら、現地戦力で対処不能な大物だけをピックアップして倒すようにしてほしい』


 マップや衛星軌道から観察した限り、まだ事態が終息前の場所が多い。


「衛星軌道上のブルグ・ワンからブルグ・サウザンドまで魔力の充填を開始せよ」


 オレは虚空専用疑似精霊「ブルグトムアイ・コンカー」に指示を出す。


 これはブライナン氏族のエルフ達が、対怪生物用に開発した遠距離攻撃特化型の疑似精霊「ぶるぐとむあい」を対地攻撃仕様に改造したヤツだ。

 移動力は皆無なので射撃位置に運ぶ必要があるが、オレの場合、ユニット配置があるので問題ない。前に怪生物を殲滅したせいか、静止衛星軌道はオレの支配領域になっているしね。


 超巨大なトンボの翅を思わせる翼を広げた疑似精霊達が、虚空を流れるエーテル流から魔素を回収し対地レーザー砲に魔力を充填していく。


『ご主人様、全員準備完了よ』


 仲間達を代表してアリサから報告が入る。

 オレの準備も万端だ。


『全員を回収する』


 オレはユニット配置で、皆をここ・・――大型虚空艦が入港するドックへと集める。

 非戦闘員を含むエチゴヤ商会や黄金白銀メンバーではないブライダル・ナイツの面々はシガ王国王都の空港へ送っておいた。もちろん、サガ帝国で戦闘中のハヤトの従者達は移動させていない。


「たらりま~?」

「ただいまなさい、なのです!」


 タマとポチを先頭に、仲間達が無重力空間を飛んでくる。

 虚空に不慣れなメンバーが空中でパタパタしていたが、オレが手助けするより先に、アーゼさんを始めとしたメンバーがフォローしてくれた。


「作戦は打ち合わせ通り?」

「ああ、そうだ。空中投影した勇者ナナシから紫塔の破壊を宣言し、衛星軌道から疑似精霊によるレーザー砲撃を行う」

「――レーザー? 物理攻撃で紫塔を壊すのは難しいんじゃない?」


 当然の問題点を指摘したヒカルに首肯する。


「レーザーは紫塔周辺の雑魚狩りと紫塔を破壊する本命の攻撃を人々や神々の目から逸らす為だ」


 仲間達にセッティングしてもらった封印の呪符は、その本命の攻撃をする為の目印だ。他にも、仲間達が離れた隙に現地の探索者や冒険者が紫塔に進入できないようにする為でもある。


 オレは仲間達にそう伝え、空中投影装置のある部屋へと向かう。


「王城にあるコウホウの間みたい」

「あそこの装置をマネしたんだよ」


 オレはヒカルに答えつつ、勇者ナナシのスタイルで卵形の魔法装置の中に入る。

 この卵形の殻の内側には内側を向いた無数の(カメラ)があり、中に入った者の立体像を作り出す。ぎょろっとした目が一斉に自分の方を向くのはなかなか怖い。


 オレは無数の視線を振り払い、予定の放送を始める。


『全世界の皆さん。私は勇者ナナシです』


 名乗りの前に「シガ王国の」というのは付けないでおいた。


 柄にもなく少し緊張していたせいか、口調がナナシではなくサトゥーになっている。

 今更変えるのも変なので、そのまま行こう。


『これから世界を危機に陥れている紫塔を破壊します。各国の王や領主からは許可を得ていますが、放送を聞く者の中には破壊に反対の者もいるかもしれません。ですが、皆さんの安全を優先して魔神の罠である紫塔を破壊する事をご容赦ください』


 紫塔で生活の糧を稼いでいる人が一定数いるから、それらの人々の救済は世界各地のエチゴヤ商会で行う予定だ。

 その為の食糧ストックは余裕であるし、なんとかなるだろう。


 アリサが眷族通信経由で「なんだか、神様や魔神と同じようなことしていない?」なんて呟くのが聞こえてきたが、スルーしておく。


『今から日没までの間、紫塔から300メートル以内に進入しないように願います』


 予定通りなら短時間で終わるけど、何事も余裕のあるスケジュールにしないとね。

 オレはユニット配置を実行し、疑似精霊達をユニット配置で移動する。


『では、≪光あれ≫』


 オレのコマンドワードと同時に、疑似精霊達が地上に向けて対地レーザーを発射する。


「サトゥー、映像を待機ポーズでループしておいたわ」

「ありがとうございます、アーゼさん」


 オレはアーゼさんに礼を言い、次のステップに入る。


「それじゃ、紫塔を壊してくる」

「頑張って、ご主人様」


 アリサ達に微笑み返し、オレは防御魔法を展開してからユニット配置で転移する。





 ――神話崩壊(ミソロジー・ダウン)


 わざと集束を甘くした疑似精霊のレーザー光の柱の中で、対神魔法を発動する。

 目の前で凄まじい閃光や爆発が起こり、前に実験した時と同じように紫塔が消滅した。


 オレは結果を確認し、次の塔へとユニット配置で移動する。


 疑似精霊のレーザーは威力を絞って長時間の照射ができるようにしてあるが、それでも数分で魔力補充が間に合わなくなるだろう。


 そんな事を考えつつ、対神魔法、ユニット配置、たまに魔力補給を繰り返し、世界中の紫塔を破壊して回る。


 たまに紫塔破壊を邪魔しようと過激派が行動を起こしている場所もあったが、疑似精霊のレーザー照射を避けて退避していたので、特に障害にはならなかった。


 ただ、レーザーの作る光の柱や空中に投影されたままの勇者ナナシの姿に向かって祈る人が少なくなかったのが気になる。

 まさかと思うけど、勇者ナナシが信仰の対象になっていないよね?


 そんな事を思考の隅で懸念しつつ、オレは紫塔破壊作業を続けた。


「……七百本目か、そろそろ疲れてきたな」


 破壊が後半にもなると、紫塔から魔竜や上級魔族が出陣していたが、紫塔もろとも対神魔法の餌食になっていた。


 こちらは、障害というよりは経験値アップのボーナスキャラといった趣だった。

 なにせ、世界中のほとんどの紫塔を破壊し終わった時、オレのレベルは15レベルも上がって328になっていた程だ。


 何個かはアリサに潰させてレベル100に到達できるか、チャレンジしてもらうべきだったかもしれない。

 まあ、レベルの上限が99だとしても、魔王シズカのユニークスキルである「眷属化」と「譲渡」を併用すれば、安全にレベルを落とせるので、スキルの覚え直しには困らないんだけどさ。


みんな、破壊後の紫塔に変化はないか?』

『大丈夫、無いみたい。残り24本の紫塔周辺も変化ないわ』


 破壊を拒否した23本は尖兵の処理を魔族や使徒に丸投げして放置してある。

 オレが破壊した紫塔と違い、魔族が救世主を演じている場所は魔竜なんかのヤバ目の尖兵は出てきていないので大丈夫だろう。


 残した塔から株分けするように紫塔が再生するなら、その時はまた纏めて処理すればいい。


『サガ帝国旧都の紫塔は?』

『勇者ユウキが残った雑魚尖兵相手に無双してるわよ』


 ふむ、せっかく対魔神用の大型虚空艦に皆を集めておいたのに、魔神がこちらの世界に逆襲してくる事はないようだ。


 オレは拍子抜けの気分を味わいながら、大型虚空艦ドックで待つ皆と合流し、金銀フルメンバーでサガ帝国旧都にある紫塔へとユニット配置で降り立った。

 戦闘に不向きなアーゼさんは、幼竜達やコアツーを護衛に付けて大型虚空艦でお留守番だ。小分身を一つ付けてあるから大丈夫だろう。


 現場では勇者ユウキの無双が終わり、紫塔前の尖兵が一掃された直後のようだ。

 勇者を囲み、従者達が円陣を組んで何かを話し合っている。


 オレ達が歩み寄ると、それに気付いた勇者セイギが勇者ユウキを指で突いて報せる。


「勇者ナナシ」


 振り向いた勇者ユウキがオレの名を呼ぶ。


 それはいいのだが、なんだか声が固いし、オレを見る眼が何かを決意したような危ない光を帯びている。


「さっき、パリオンから神託が降りた」

「――神託?」


 オレと一緒に魔界に攻め込めとでも言われたのかな?

 魔界に攻め入る気はないから安心してほしい。


「そうだ」


 言いにくそうな勇者二人に代わって、先々代の勇者に仕えていた従者ブルーメ・ジュレバーグ女史が一歩前に踏み出した。


「世界の平和を脅かす、大逆者。魔神の化身であるお前を討て、とな」


 ブルーメ女史が剣をオレに向ける。


 どうやら、パリオン神は魔神に与する事にしたようだ。



※次回更新は10/6(日)の予定です。




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