17-32.世界の危機(2)
サトゥーです。クライアントの欲するところをちゃんと確認しないと、終盤でちゃぶ台返しをされて苦しむ事が何度かありました。その経験のお陰か、クライアントとの会議に出られるようになってからは、そんな悲劇も減りましたけどね。
◇
「アーゼ様は僕らが守る!」
「うん、シロ。マしターから与えられた使命は絶対に果たすよ」
アーゼさんの前には二人の頼もしい護衛がいた。
最新型の白銀装備を身に纏った翼人の幼女、シロとクロウの二人だ。
『なまいきー』
『倒す? 倒しちゃう?』
そして、シロとクロウに剣を向けられているのは魔神ではなく、魔神の眷属であるピンク髪の幼女達だった。彼女達は紫色の大鎌を始めとした紫色の装備に身を固めている。
今は外から孤島宮殿への出入りがけっこうあるから、何かのタイミングで侵入したのだろう。
『アーゼって誰だろ?』
『あのハイエルフじゃない?』
『きょーみ、なーい』
――ん?
魔神に言われてアーゼさんを拉致しに来たんじゃないのか?
そこにコア・ツーが飛び込んできた。
どうやってゲートをくぐり抜けたのか、緑竜の幼生体も一緒だ。
「シロ、クロウ! 幼竜を連れてきた!」
――KYEWWROUUUN。
――ぴぴる! ぴる! ぴる!
――ちゅぃいいい!
――カァアアア。
よくみたら、神鳥の翡翠や賢者ネズミのカラス乗り達も一緒だ。
幼竜と違って君達は怪我をしたら危ないから、下がっていてほしい。
『ぎゃー、りゅーだ!』
『あいつ、噛むからキライ!』
『もー、卵の子も魔王もいないし』
『噛まれる前に帰ろ!』
『うん、帰ろ!』
ピンク髪の幼女達は竜が苦手なのか、侵入に使ったゲートに転がるように飛び込んでいった。
小分身をアーゼさんの影から取り出して、声を掛ける。
「大丈夫でしたか、アーゼさん」
「ええ、この子達が守ってくれたから」
えへへと笑うシロとクロウ、どこか得意げなコア・ツーや幼竜や翡翠、賢者ネズミ達に労いの言葉を告げ、このままアーゼさんの護衛を頼んでおく。
魔神の狙いはアリサのような転生者達やシズカのような魔王のようだ。
たぶんだけど、転生時に配った「神の欠片」を回収しようとしているのだろう。
アリサや元剣魔王の狐っ子には小分身を付けてあるから大丈夫として、シズカは異界に引き篭もって出てこないし、シズカの近くでリスのハム左衛門と一緒に隠居している元ネズミ魔王のネズさんは、魔王を止めた時に「神の欠片」を失っているから大丈夫なはずだ。
後、危険なのは迷宮下層の転生者達、吸血鬼の真祖バン、小鬼姫ユイカ、「鋼の幽鬼」ヨロイ、「骸の王」ムクロの四人――いや、もう一人いる。
マキワ王国のザイクーオン神殿で見習い神官をしている転生者のケイだ。
マキワ王国に派遣している子に、ケイの保護を指示しておかねば。
◇
「リュリュ、蹴散らすのです!」
――LYURYURYUUU。
マキワ王国ではポチと騎竜のリュリュが無双していた。
すでに王都や四箇所ある大領地のスタンピードの排除を終え、今は細々とした紫塔の周りに溢れた尖兵達を蹴散らしているところだ。
すぐに蹂躙は終わったので、オレはポチの影に潜ませた小分身から声を掛ける。
「ポチ、ケイの保護を頼みたい」
「はいなのです。――ケイはどこにいるのです?」
「リュリュの翼ならすぐだ」
小分身経由でポチに頼む。
オレから方角を聞いたポチが、リュリュの鼻先をケイのいる神殿へと向けた。
これでケイは大丈夫だろう。
オレは意識をヒカルに付けた小分身へと切り替える。
「ヒカル、頼みがある」
「おっけー。どこの援軍に行けば良いのかな?」
ヒカルは早くもビスタール公爵領のスタンピードを収束させ、今は中央小国群の国々を回っているようだ。
「迷宮下層にいる転生者達に警告を届けてほしいんだ」
「いいけど、アリサちゃんに言って遠話で伝えてもらった方がよくない?」
「あそこはユイカの結界があるんだよ」
「あー、それなら遠話は届かないわね」
理解が早くて助かる。
「ここからだと移動が大変だな。アリサにショートカットを頼むか?」
「あはは、別にいーよ。加速陣を上手く使えばわりと早く行けるから。それより、この辺の国のフォローをお願いして良いかな?」
「ああ、それはサガ帝国南部に派遣したタマに頼んでおくよ」
「猫忍者タマちゃんなら安心だね」
ヒカルはそう言うと、空中に出した加速陣を使って迷宮都市の方に向かって飛んでいった。
『――キタ』
『――キタ』
元剣魔王とアリサに付けた小分身から報告だ。
オレは少し逡巡した後、アリサに付けた小分身へと意識を切り替える。
◇
「ふはははは、どこに行こうというのだね」
『『『うにゃー!』』』
『『『いじめっこ魔王怖いー』』』
『『『主様に言いつけてやるんだから!』』』
黄金兜の上からサングラスを掛けたアリサが、高笑いをしながら紫装備のピンク髪幼女達を追い回していた。
元ネタは分かるが、世界の危機だという状況を忘れないでほしい。
「あら、ご主人様。忘れてないわよ。雑魚ばかりだったから、担当範囲の塔を巡って奈落罠を設置してあるわ。もうそろそろ、ほとんどの敵が呑み込まれる頃じゃないかしら?」
なるほど、その待ち時間に幼女達が襲ってきたという事か。
「一人くらい捕まえておく?」
「いや、魔神の注意を引きたくない。狙いが何かだけ、確認してくれないか?」
「それなら、もう調査済みよ。魔神がわたし達に貸し与えた権能を、魔神の為に回収する事があの子達の目的みたい」
「――魔神のため?」
「うん、なんかヤバイみたいよ」
神々のブービートラップで自壊因子を打ち込まれたヤツか――。
『『『いったん、離脱ー』』』
幼女達が逃げ出した。
「逃げちゃったわね。ご主人様の方は予定通り?」
「日没までには準備が終わるよ」
「そっか、最終決戦地はサガ帝国の『勇者の迷宮』近くにある一番高い紫塔のまま?」
「ああ、今のところ変更なしだ」
オレは進捗を伝え、元剣魔王につけた小分身へと意識を移した。
◇
「修業が足りないでゴザル」
『『『きゅ~』』』
目をぐるぐるにしたピンク髪の幼女達を踏みつけて勝ち誇っているのは、元剣魔王の狐っ子だ。
アリサと同様に魔王化は解除してあるが、ユニークスキル――「神の欠片」は未だに保有している。
『隙ありぃいいい!』
元剣魔王の後ろから、ピンク髪幼女が紫色の大鎌を振り下ろす。
その刃は見事に元剣魔王の身体を真っ二つに斬り裂いたかに見えたが、その姿は薄れ、数本の茶色い毛となって散る。
「それは幻影でゴザル」
彼女は獣娘達と違って原始魔法を覚える事はできなかったようだが、その代わりに狐人族に伝わる幻術を少し使えるようになってきたそうだ。
自分自身の幻影を短時間に一つしか出せないと言っていたが、彼女の剣術と合わせれば十分すぎるくらい有用だと思う。
『みぎゃー』
「成敗、でゴザル」
剣の腹で殴られた幼女が、べたりと地面に叩き伏せられる。
この程度で死んだりはしないだろうけど、絵面的にすごく犯罪臭い。
「懲らしめ終わったなら、解放していいよ」
「うい、分かったでゴザル」
小分身経由で元剣魔王に指示を出す。
『これで勝ったと思うなよー!』
『そうだそうだ!』
『次は負けないからなー』
元剣魔王に解放された幼女達が悪態を吐く。
「リベンジはいつでも受けてたつでゴザル」
剣を抜きつつ「今からでも」と告げた元剣魔王のバトルジャンキーさに気付いた幼女達が、「もういやだ」とばかりに脱出用の魔法陣を作って逃げ込んだ。
なんていうか、上司に無茶振りされる現場作業員みたいで哀愁を誘うね。
◇
ヒカルが迷宮下層に着いたようなので、意識をヒカルの影に潜ませた小分身へと切り替える。
「王祖ヤマトともあろう者が使いっ走りか?」
「あははー、サトゥーにそんな気はないよ」
「ひょっひょっひょ、男なんてのは勝手なもんだぜ?」
場所は「骸の王」ムクロの領域らしい。
話している相手は領域の主であるムクロと彼の盟友である「鋼の幽鬼」ヨロイだ。
「にしても、人間のくせに七百年前と同じ姿ってのはどういうわけだ?」
「まだ七百年も経ってないよ。フルー帝国の遺跡にあった魔術的なコールドスリープ装置を改修して、つい最近まで寝てたんだよ」
「剣と魔法の世界でコールドスリープ? まったく、SFかよ」
ヨロイとヒカルが会話している場所に、元気な声が響いた。
「ムクロー! バン様とユイカを連れてきたぞー!」
そう叫ぶ吸血姫のセメリーの後ろには、背中に神輿を付けた触手生物ローパーのロッパが続いており、その神輿には吸血鬼の真祖バンと小鬼姫ユイカが乗っていた。
「用があるというから来てみたら、来客はヤマトだったであるか」
「ヒカルさん、お久しぶりです」
「ユイカっちとは孤島宮殿以来だね。バンは相変わらず天パがラウ君みたいで素敵だね」
「いい加減、会う度に少女漫画のキャラとの類似点で褒めるのは止めるのである」
ヒカルはバンやユイカとも旧交を温めた後、本題に移った。
「――というわけだから、気を付けてほしいんだよ」
「魔神が我らの欠片を求めてくる、であるか……」
「地上はなかなか面白い事になっているじゃねーか」
「神々と魔神の全面戦争か。――ユイカ、どう思う」
「え、あの初代様ですか? ちょっと待ってください」
急に話を振られたユイカが目を閉じる。
その瞳が再び開かれた時、その表情は一変していた。
「前々から魔神に思わせぶりな態度は多かったが、ついに公然と神々に牙を剥いたのじゃな」
「その手始めに我らの身体から欠片を奪うというわけであるか」
「ふん、俺様達の欠片をそう易々と奪えるとは思わん事だ」
「ひょっひょっひょ。魔族と遊ぶのは久々だぜ」
「なら、ちょっとユイカの結界を緩めて、地雷原にでも誘い込んでやるか」
悪い笑顔になったムクロが髑髏杖を振って結界を緩める。
「ひょっひょっひょ、楽しみだぜ」
「……暇は人を破滅に導く毒であるな」
「まったくなのじゃ」
ヨロイもムクロそっくりな笑みを浮かべているが、バンとユイカはどこかあきれ顔だ。
「ヨロイ、ムクロ、それ違うよ」
一連の流れに、反応が遅れたヒカルがヨロイとムクロの間違いを訂正する。
「――違う?」
「うん、魔族じゃなくて、魔神の眷属をしてる幼女達が来るみたいだよ」
「幼女か……それは戦えんな」
「つまらん。ガキをいたぶる趣味はないぜ」
「ソノ心配ハ、無用だト、鮮濃青の一番ガ、訂正するダヨ」
ムクロが閉じようとした結界の隙間から、平面のようにペラペラな魔族が侵入してきた。
「上級魔族か――レベル六三。水魔法と氷魔法を所持。猛毒や疫病も使うから気を付けるのじゃ」
「ちっ、レベル六三が一匹かよ。ムクロとバンに瞬殺されちまいそうだ。最初はオレに任せろ」
「ソノ心配ハ、無用だト、鮮濃青の二番ガ、訂正するダヨ」
「お前達ニ、勝ち目はないト、鮮濃青の三番ガ、宣言するダヨ」
「ここで滅ビ、欠片を主様に返却せヨ。鮮濃青の四番ガ、断罪するダオ」
ペラペラの魔族がばらけて十数体の魔族へと分離する。
幸いな事に、上級魔族は四体だけで、残り十何体かは支援タイプの中級魔族みたいだ。
「ヨロイ、バン、ユイカ、時間を稼げ。禁呪を使う」
「一番手は任せろ――」
ヨロイがアイテムボックスから歯車や突起が付いた変な魔剣を取り出した。
「≪吼えろ≫魔剣マシンナリィーハート!」
魔剣の発動句を唱えると、火花を上げて歯車が回り突起や刃がゴキゴキと音を立てて変形する。
その変形にどんな意味があるのかさっぱり分からないが、見ているだけでテンションが上がる良いギミックだ。アリサやポチが見たら絶対にマネしたがるだろう。
「≪踊れ!≫クラウソラス!」
ヒカルはクラウソラスをヨロイの護衛に出し、自身は対魔王用の劣化版対神魔法の詠唱を始める。
「フォイルニス、使え」
「血色のラインが入った漆黒の日本刀か――盟友バンはよく分かっているのじゃ」
「ふっ」
真祖バンはアイテムボックスから二本の日本刀を取り出す。
ユイカの魂の名前フォイルニスを呼びつつ片方を渡し、もう一本の黒いラインが入った紅色の日本刀を自分で抜いた。
「バン様、背中はあたしに任せろ!」
大鎌を背負ったセメリーがグラマラスな肢体を誇示するように、バンの傍らに駆け寄る。
そんなセメリーに追いすがる幾つもの影があった。
「僭越」
「白姫の言う通りです! バン様に背中を預けられたかったら、私達から一勝を挙げてからにしてください」
真祖バンの嫁である吸血姫達だ。
「そうそう!」
「待て、デブっちょには何度か勝っているぞ!」
「私はデブじゃない! ちょっとふくよかなだけ!」
「遊ぶのは後にするのである」
「「はい! バン様!」」
バンに注意された吸血姫達が、手首を切って作った血流のカタナで中級魔族達に斬りかかる。
魔族達はぺらぺらな側面を巧みに使って斬撃を避けてみせた。
「ヨロイやバンに負けてはおれんのじゃ――神破照身」
ユイカの身体に紫色の光が流れる。
「その魔族達の弱点は腰の紋章なのじゃ! そこを砕けば、二次元避けができなくなるぞ!」
その言葉を受けた吸血姫達が腰の紋章を攻撃し、次々に中級魔族が討ち取られていく。
「さすがは我が盟友フォイルニス! 『一心不乱』――燕無閃」
赤いカタナを鞘に収めた真祖バンが、紫色の光を身に帯びた後、抜刀系の必殺技で上級魔族の一つに斬りかかった。
「――ミズノヤイバ」
上級魔族は流水で作られた無数の剣でバンの攻撃を防ごうとする。
「無意味」
バンに影のように付き従う白姫が呟く。
その言葉を証明するように流水の剣は砕け散り、その理由を上級魔族が知る前に上半身がみじん切りとなって散る。
「さっすがバン様!」
セメリーが我が事のように飛び上がって喜ぶ。
「――浅かったのである」
「正解ダヨ。反撃を喰らえダヨ」
砕けたはずの上級魔族の上半身が、セルリアンブルーの靄となってバンの上半身を吹き飛ばし返した。
「「「バン様!」」」
「心配無用」
「白姫の言う通りです。バン様は不死身なのですから」
年若い吸血姫達はバンの身を案じるが、白姫を始めとした年経た吸血姫達はバンの無事を確信した顔で見守る。
「ああ! 渦巻きが紫色に!」
「バン様の血が勝つか、上級魔族の水流が勝つか――」
「議論無用」
「――全くだ。たかが上級魔族に負けるバン様ではない」
吸血姫達は中級魔族達と激闘を繰り広げながら、バンと上級魔族の人外な戦いを見守る。
やがて、水流と靄の激闘は終わり、べちゃりと青い汚水が地面に落ちた。
空中に残った赤い水が集まり、真祖バンの姿へと戻る。
年経た吸血姫達の言葉通り、人外対決は真祖の勝利だったようだ。
「この程度デ、勝ったと思うなダヨ」
「ふん。我だけに注目していて良いのであるか?」
ボロボロの姿で再生した上級魔族に真祖バンが言う。
くいと顎をしゃくった先では、三体の上級魔族がユイカの術中に嵌まっていた。
「くはははは、さすが上級魔族、死亡遊戯を生き延びたぞえ! 次は余命宣告なのじゃ!」
ユイカはオレも見た事がないユニークスキルを駆使して上級魔族を追い詰めている。
レベルが下がった状態でこれだとしたら、最盛期のユイカがどれほど強かったのか想像もできない。
「ほれほれ、早く呪いを解くのじゃ。あと三秒以内に解かないと、魔族でも魂が砕けて死んでしまうのじゃ」
解呪が間に合わなかった一体の上級魔族が、絶叫を上げて青い靄となって消え去った。
「ユイカ、もういいぜ!」
禁呪の詠唱を終えたムクロが叫ぶ。
ヒカルの詠唱もそろそろ終わりそうだ。
「ムクロの準備が終わったようじゃ。あとはムクロに遊んでもらえ。老婆心で言うのじゃが、防御呪文を使った方がいいぞえ?」
――BZLUUUUUUUUUUUUXYE。
――BZLUUUUUUUUUUUUXYE。
「蝕め、餓鬼狼獄」
床と天井の闇から、狼の形をした悪霊が幾百、幾千も湧き上がり、墨のような下半身を曳きながら上級魔族へと殺到した。
上級魔族の内、ユイカとの戦いで生き延びた二体は重厚な青い防御障壁を築いていたが、その障壁も狼の悪霊達に食らいつかれて見る間に砕けていく。
やがて障壁を食い破った狼の悪霊達が上級魔族に食らいついた。
悪霊達がごりごりと上級魔族を抉っていく。
なかなか邪悪な魔法だ。
禁呪指定されるのもよく分かる。
――BZLUUUUUUUUUUUUXYE。
――BZLUUUUUUUUUUUUXYE。
魔族達の魔法や種族固有能力は悪霊達を鎧袖一触で蹴散らしたが、残念ながら数が違う。
一振りの尻尾や拳で何体の狼を打ち砕こうとも、魔法や種族固有能力で何十体もの狼を呑み込もうとも、相手は千を超える群体だ。
簡単に打ち払う事はできない。
「ちっ、やっぱり上級魔族は頑丈だぜ」
ムクロのぼやき通り、禁呪の攻撃が終わっても二体の上級魔族が生き残っていた。
ムクロの禁呪で止めをさせたのは、最初に防御魔法を使いそびれた一体だけだったらしい。
「ユイカ、余計な事を言った責任は取れよ?」
「あい、分かったのじゃ。じゃが、その心配はいらぬぞえ?」
ユイカの視線がヒカルを向く。
「バン! 吸血姫を下がらせて! ユイカ! ヨロイを安全圏に!」
ヒカルの指示を受けて、中級魔族を追い回していた吸血姫が後ろに下がり、ユニークスキル「豪腕無双」を発動したユイカが、スタミナ切れで座り込んでいたヨロイを引きずっていく。
「神話封滅:劣」
発動を保留していたヒカルの対魔王用の禁呪が炸裂し、残り二体の上級魔族と数体の中級魔族が閃光の向こうに消えた。
「魔族が蒸発かよ」
「すごい禁呪なのじゃ」
「初めて見る禁呪である」
ムクロ以外の面々がヒカルの禁呪を見てざわめく。
「ヤマト。あれは俺様がサトゥーに教えた禁呪を魔改造したやつか?」
「うん、そうだよ。――いる?」
「……いらねぇ。今見たので十分だ。後は自分で編み出してやる」
「あはは、ムクロは昔も今も負けず嫌いだね」
ヒカルの笑い声がムクロの領域に響く。
こっちは大丈夫そうだ。
次はルルから順番に仲間達の様子をチェックしよう。
◇
「すげっ、魔物が一撃で消し飛んでいくぜ」
「外壁前の群れを一掃した散弾も凄かったけど、あの狙撃も凄まじいな」
外壁に接続された塔の上から、ルルが紫塔の尖兵を狙撃している。
風に乗って外壁上の守備兵達が漏らす呟きが流れてくるが、ルルは気にした様子もなく狙撃を続けている。
きっと、集中していて聞こえていないのだろう。
――危機感知。
空間の歪みと危険を上空に感じた。
見上げると空に暗紫色の歪みが生じ、何かが出てこようとしていた。
「おい! あれを見ろ!」
それに気付いた人々が、空を見上げる。
「魔族だ!」
スタンピードを起こした魔神の第二弾は魔族の軍勢らしい。
※次回更新は9/22(日)の予定です。







