17-31.世界の危機
サトゥーです。正常性バイアスという言葉があります。災害時に周りで幾ら危険を警告しても、無意識に「自分だけは大丈夫」と根拠無く思ってしまう事があるそうです。
そして、それは異世界でも――。
◇
「全世界で同時多発テロか――」
アリサが憂いのある顔で呟く。
世界各地の紫塔で、魔物のスタンピードが始まったのだ。
「こんな事なら、世界中の紫塔を先に壊しておくんだったわね」
「アリサちゃん、それは言いっこなしだよ」
「ええ、ご主人様が破壊した時にも、すぐに塔が新しく建っていました」
ヒカルとリザがアリサに言う。
「それはそうだけどー、魔神の神力を削れていたかもしれないじゃん」
「アリサ、後悔は世界を救ってからだ」
アリサの頭をポンポンと叩く。
それに塔を破壊して神力を削れるなら、神々が使徒を派遣して実行しただろうし、その為の神力を節約したかったとしても、信者達に神託を出して破壊させていたはずだ。
「まずはシガ王国の各塔を巡る。迅速にスタンピードを阻止するぞ」
オレはそう宣言して、まずはユニット配置で王都郊外の塔へと全員を連れていく。
「≪踊れ≫、クラウソラス!」
「魔刃砲~?」「連射なのです!」
「拡散加速砲、魔法陣一つで撃ちます!」
転移終了と同時に、手の早い面々が塔からあふれ出た尖兵達を殲滅する。
「歯ごたえがないわね」
「外にあふれ出たのは低層の魔物達だけのようですね」
仲間達が塔の尖兵を蹂躙するのを眺めながら、アリサとシスティーナ王女が感想を呟いた。
「サトゥーさん、手分けして倒した方がいいのではないでしょうか?」
「わたしもそう思います。万が一、魔神に攫われたとしても、アーゼ様のようにすぐ取り戻していただけるのであれば、一緒に行動する必然性もないかと」
ゼナさんとセーラの言葉ももっともだ。
「分かりました。手分けして行動しましょう」
オレはそう言いながら、この半年間で使えるようになった真忍術で小さな分身を作り、皆の影に潜ませる。この小分身体に大した事はできないが、探知や警報器としては優秀だ。
これで何かあっても即応できる。
◇
「ルルの実の果樹園は破壊させんぞ!」
「ロイド侯、トマト畑もですぞ!」
「しかりしかり、ホーエン伯の言う通りである」
「お二人ともお下がりください。防衛は我らオーユゴック騎士団にお任せください」
セーラが転移した公都では、都市の外壁上で貴族達と騎士達が何か揉めていた。
よく見るまでもなく、貴族の方は食いしん坊貴族のロイド侯爵とホーエン伯爵だ。
きっと、塔と都市の間にある果樹園や畑を守りたいのだろう。
都市核端末を持つとはいえ、無茶をする。
「皆様、ご安心を。塔からあふれ出た魔物は勇者ナナシの従者、白銀騎士ホーリーにお任せください」
白銀鎧を身に纏ったセーラが空から外壁上の人々に声を掛ける。
セーラは彼らの答えを待たずに塔へと向かう。
魔物が外壁へと辿り着いていなかったのは、塔と外壁の間に幾つもの塹壕が掘られ、その進軍を妨げていたからだと分かる。
「さすがはお祖父様」
セーラはそれを指示したであろう祖父を褒め、尖兵達が自分の間合いに入ったところで静止する。
『オーユゴック公爵からの命令です。総員、城壁まで全力で撤退なさい』
心の中で公爵に詫びつつ、遅滞戦闘に努めていた領軍兵士達に命令を発する。
彼らが撤退時に追撃を浴びないように、セーラがユニークスキル「隠密隠者」で彼らを尖兵達の目から隠した。
「≪ささやけ≫ 聖なる従者達!」
セーラの鎧から銀色の細片が分離し、幾何学形状のオブジェクトとなって、彼女の周りに浮かぶ。
先代の白銀鎧とは異なり、空間収納技術の進歩によって「聖なる従者」の数が激増している。
外壁上の人々がキラキラと光るそれを見て、がやがやと驚く声が微かに聞こえてきた。
「≪祈れ≫ 聖なる従者達!」
無数のオブジェクト達から放たれた、蒼い光を帯びた浄化の波紋が尖兵達の集団を押し包む。
普通の魔物より瘴気への依存度が高い為か、浄化の波紋を浴びた尖兵達が何割か塵になって消えていた。
これはいい発見だ。
今後はこのシステムを量産して、各都市に配ろう。
「≪唱えろ≫ 聖なる従者達!」
これは今回新しく追加した機能だ。
セーラの詠唱に共鳴して、中級までの神聖魔法をコピーして大規模に展開する。
「■■■ 聖槍」
セーラが詠唱短縮スキルで唱えた魔法を、空を埋める「聖なる従者」達が共鳴複製し、雨のように光の槍を降り注がせる。
絨毯爆撃のような攻撃は、尖兵達の身体を貫き、大地をも穿つ。
巻き上がった土煙に、尖兵達の姿が隠れた。
概ね倒せたはずだが、小分身体はメニューのマップやレーダーが使えないので、セーラの影の中からその結果を見守る。
セーラも全てを倒せたとは思っていないようで、既に次の攻撃の為の詠唱に入っていた。
――VWANGGGGGGGEYR。
土煙を吹き飛ばし、いくつかの巨体が空に向かって雄叫びを上げる。
詠唱を終えた魔法を待機させ、その巨体を見下ろす。
「やはり、残っていましたね」
セーラは一つ呟くと、祈るように聖杖を胸に抱く。
「神威天罰!」
発動を保留していたセーラの魔法が生き残りの尖兵達に追撃を掛けた。
本来は儀式魔法であるはずの神聖魔法を、セーラの周りに浮かぶ幾何学形状のオブジェクト達が補佐して発動を可能にしたのだ。
いや、それは先代鎧の話。
共鳴詠唱機能による複製こそ行えないものの、本来の数倍の威力へと増幅してみせた。
――VVVVVWANG。
尖兵達の身体が灰色の砂状に崩れて塵へと還り、土煙に混ざって見えなくなった。
「殲滅はこれで良し。せっかく学んだ秘儀を使うまでもありませんでしたね。あとはサトゥーさんから貰ったアイテムで塔の入り口を封印したら、次へ行かないと」
戦闘力の点で一番心配だったけど、セーラも大丈夫そうだ。
オレは意識を次の小分身体へと移した。
◇
「ゴーレム隊、二番、三番はそのまま包囲。尖兵達を漏らしてはなりません! 一番隊は尖兵達の進軍が止まったタイミングで突撃。直掩の零番隊は敵の奇襲に備えつつ、遠隔攻撃で尖兵達の数を減らしなさい」
――MVA。
――MVA。
――MVA。
――MVA。
ゴーレム達の復唱が戦場に響く。
王都から一番近い分岐都市の近郊で、システィーナ王女は装甲飛空艇に搭載された千手玉座からゴーレム達を制御していた。
レベル四〇の六メートル級ゴーレム兵を主力に、レベル五〇の九メートル級ゴーレム騎士を含む大部隊だ。
ゴーレム兵は雑魚狩り用、ゴーレム騎士は一騎打ち用に装備を調整してある。
塔から溢れだした尖兵達を、ゴーレム兵団は物量で押しつぶす。
なんだか、尖兵達が少し哀れに思えるよ。
問題なさそうなので、次の小分身体へと切り替える。
◇
「バァアアアアアアアアアアアアーニング・チィヤアアアアアアアアアジッですわ」
右手に炎を纏ったカリナ嬢が、その腕を槍のようにして突撃し、尖兵の群れを薙ぎ払っている。
帽子が似合う格闘ゲーム・キャラみたいな技だ。
炎に見えるのはラカの鱗状の小札盾を変形させたモノらしい。
『カリナ殿、このままでは敵に囲まれるぞ』
「大丈夫ですわ! アレを使いますわよ、ラカさん」
『アレか……消耗が大きすぎる気がするが、それがカリナ殿の願いであれば是非も無し』
カリナ嬢が自分の魔力を呼び水に、白銀鎧の聖樹石炉を全力全開にする。
不器用な彼女だと暴走必至だが、それを制御するのは彼女の相棒にして「知性ある魔法道具」のラカだ。
『≪渦巻け≫ 破軍の具足!』
カリナ嬢の足下に赤い光が渦巻く。
『≪光集え≫ 破軍の籠手!』
バッと開いたカリナ嬢の両手にも光が渦巻き、キラキラとした光が身体を包んでいく。
よく見れば、その光がラカの作る鱗状の障壁と同種のモノだと分かっただろう。
『≪光舞え≫ 破軍のマント!』
カリナ嬢を取り囲んだ尖兵達が、光纏う彼女へと殺到する。
それを見たカリナ嬢の顔に恐怖はない。
ニヤリと口角を上げたカリナ嬢が、相棒に声を掛ける。
「行きますわよ、ラカさん!」
『――うむ。《星撒け》 破軍の鎧』
カリナ嬢が両手を左右に伸ばしたまま、コマのように回転を始めた。
その勢いはどんどんと増していき、身体から溢れた光が渦となり、すぐにそれは竜巻へと成長する。
突撃していた尖兵達は、その竜巻に呑み込まれていく。
竜巻は縦横無尽に戦場を蹂躙し、尖兵達の多くを塵へと変えた。
カリナ嬢が目を回さないか心配だったが、それは既に克服しているらしく、大丈夫そうだった。
『カリナ殿、何体か大物が残っているようだ』
「分かっていますわ」
カリナ嬢は渦の中心を駆け上がり、満身創痍ながらも生存していた大型の尖兵をその瞳に捉えた。
「ラカさん、いつものヤツを」
『うむ。≪光渦巻け≫ 破軍の具足!』
カリナ嬢がラカによる聖句の発動によって眩い輝きを帯びながら、大型尖兵の一つに向けてシャープな跳び蹴りの姿勢で落下を始める。
『≪星降れ≫ 破軍の具足!』
「クンフー・キィイイイイイイイイイイイック!」
重力制御で通常の数十倍の重力を帯びたカリナ嬢が、流星のような速度へと加速する。
――VVVVVWANG。
超加速したカリナ嬢の蹴りが大型尖兵の一体を打ち砕いた。
「まだまだぁあああああああですわ」
『≪風集え≫ 神速の具足!』
カリナ嬢がコンボに移る。
縮地のような速さで大型尖兵に迫ったカリナ嬢が、次から次へと連続蹴りを放ち、経路にいた大型尖兵を幾体も塵へと還す。
そして最後の一体もまた、強力な蹴りを食らい、身体をくの字に折った。
「今ですわ!」
『≪打ち砕け≫ 破軍の籠手!』
「クンフー・アップァアアアアアアアアアアアア!」
低い姿勢から飛び上がるように放たれたアッパーが、大型尖兵の顎を、そして頭部を打ち砕いた。
カリナ嬢の格ゲーキャラ化が少し気になるが、ラカのサポートがある限り大丈夫そうだ。
問題なさそうなので、次の小分身体へと切り替える。
◇
セーリュー伯爵領の領都では他と少し状況が違った。
「ユーケル、そこです!」
「お任せください、オーナ様! うぉおおおおおおおおおお!」
嫁の応援に奮起したゼナさんの弟のユーケル君が、中型の尖兵を聖剣の一撃で斬り伏せてみせた。
「野郎共! 騎士ユーケルに遅れるな!」
「進軍開始! 魔神の軍勢に我らのセーリュー魂を見せてやれ!」
セーリュー市最強の騎士と言われるキゴーリ男爵が兵士達に発破を掛け、騎士ソーンを始めとした騎士達が兵士達に進軍を指示する。
さすがに兵士達はユーケルのように一撃とはいかなかったが、それでも数で勝る尖兵達に対して、優勢を保って戦っていた。
セーリュー伯爵領の兵士達は精鋭だが、それだけではない。
これはゼナさんの功績が大きい。
ゼナさんはナナをマネして、ヘラルオン神から貸与されたユニークスキル「破邪聖者」と広範囲の風魔法を融合した「破邪聖軍」を編み出したのだ。
彼女の使うユニークスキルと魔法の融合技によって、尖兵達の多くが力を出し切れず、彼女の味方であるセーリュー伯爵領軍は逆に強化されていた。
その強化は尋常ではなく、セーリュー伯爵領の宮廷魔術師長をして、現代では失われた上級術理魔法の「超人強化」にも迫ると言わしめたほどだ。
「雷爺! でかいのが来たぞ!」
「なかなか骨が折れそうな相手でございますな」
セーリュー伯爵の言葉に、長い白髭の老魔術師が答える。
「では、私が――」
「いや、従者殿はここで兵達の強化を。露払いはワシがやりましょう」
飛び立とうとするゼナさんを、老魔術師が引き留める。
「年寄りの冷や水にならなければいいがね……」
「ふん、氷の。貴様も十歳ほどしか違わんだろうが」
「ふふふ、十も違えば十分。先手は譲ってもらうぞえ。■■■■ ■■……」
老婆が氷晶珠の付いた杖を構えつつ、氷系の上級魔法を唱える。
「自軍の兵を巻き込むなよ」
白髭の老魔術師の言葉に、老婆は当然だと目で訴える。
「言うまでもなかったか――」
それに少し遅れて、老魔術師も雷晶珠の付いた杖を片手に雷系の禁呪を詠唱し始めた。
「■■■■■■ 氷結地獄」
城壁の上から放たれた氷雪の奔流が、紫塔から出てきたばかりの大型尖兵を周囲の小型、中型尖兵ともども氷に閉じ込めた。
ゼナさんが小声で「魔法屋の店長さんがこんなにすごい魔法使いだったなんて」と驚愕の呟きを漏らしていた。
そういえば、昔、この人に竜鱗粉を売ったっけ。
「……■■■■ 雷迅地獄」
天を覆う暗雲から、スコールもかくやという勢いで稲妻が降り注ぐ。
あまりの轟音と閃光に、ユーケル達の手が止まる。
「さすがじゃのう」
「いや、一つ討ち漏らしてしもうたわい」
稲妻の雨でできた土煙の向こうから、ボロボロの巨体が姿を現した。
レベル60超えの尖兵巨人だ。
「従者殿に任せて良いかの?」
「ええ、お任せください」
ゼナさんが白銀鎧に風を纏わせて空に舞い上がる。
「…… ■■■■■ 天嵐」
ミーアのガルーダが使う必殺技を風魔法に移植した、彼女専用の攻撃魔法だ。
尖兵巨人を暴風の檻が囲み、真空の刃がボロボロだった尖兵巨人の身体を完膚なきまでに切り刻み、その巨体を靄へと変えた。
「もう少し必要魔力の少ない攻撃魔法でも良かったかもしれません」
たぶん、二人の魔法使いが見せた強大な魔法に触発されてしまったのだろう。
ゼナさんの珍しい姿にほっこりしつつ、次はポチに付けた小分身体へ切り替えようと意識を集中する。
『――キタ』
アーゼさんの下に送った小分身から警報が入った。
どうやら、魔神は性懲りもなくアーゼさんを狙ったようだ。
オレは意識をアーゼさんのいる場所へと移した。
※次回更新は9/15(日)の予定です。
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