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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
最終章

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17-29.紫の奈落

※アリサ視点です


「おかえり」


 ミーアの声に振り返ると、そこにはご主人様がいた。


「あれ? お帰りなさい、ご主人様」


 今朝、偉そうなニンフと一緒にテニオン神の下へ行ったご主人様がもう帰ってきたらしい。

 王都邸にあるご主人様の執務室で、緊急性の高い書類をチェックしておこうと思って来たんだけど、その必要はないみたいね。


「早かったのね」

「ああ、今日は型取りだけだったみたいだ」


 ぐへへ、ご主人様の型取り。興味がアリマス。

 セーラ経由でテニオン神にお願いしたら、型取りした3Dデータをくれないかしら?

 ご主人様の等身大フィギュアとか、絶対に需要があると思うのよね。



 孤島宮殿と王都邸の執務室を繋ぐ鏡のゲートを潜ってポチが飛び出してきた。


「おかえりなさい、なのです」


 おっと、早くもタマとポチが――って、あれ? 今日はタマよりもポチの方が早かったのね。


 視線を巡らすと、タマが「にゅにゅにゅ?」って言いながら身体をくの字に曲げて思案している。


 あの子があんな態度を取るのは、半分くらいは今日のお昼や晩御飯を何にするかとか新しい絵の構想を思いついたとかだけど、強敵の来襲や天変地異の前触れを察知する事もあるから判断に困る。

 ちょっと空間魔法で調べてみた方がいいかしら?


「来た」


 ミーアが呟くと同時に、王都の一角が脳裏に浮かび、凶悪な存在がいる事が分かった。

 これはミーアがウリオン神から貸与されたユニークスキル「聖域警備サンクチュアリ・ガード」の効果だろう。


 わたしは空間魔法の「戦術輪話タクティカル・トーク」で皆を繋ぐ。


『大変です!』


 それと同時に、ルルの声が戦術輪話越しに聞こえてきた。

 今日はナナやゼナたんと一緒に、市場に買い物に行っていたはず。


『緊急事態を報告します』

『魔神が現れました!』


 護衛として付き添っていたナナとゼナたんだ。

 ミーアが検知したのは魔神だったらしい。


 どうやら、神々よりも魔神の方がフットワークが軽いみたいね。





「げげっ、本物だわ」


 メインストリートにある喫茶店のオープンテラスで、優雅に青紅茶のカップを傾ける魔神の姿があった。

 紫幼女達の姿はない。


「アリサ達は孤島宮殿に避難していてくれ」


 ご主人様はそう言って、魔神の方へと歩み寄っていく。


『待って、ご主人様!』


 わたしは眷属通信を使ってご主人様に呼びかけたが応答はなかった(・・・・・・・)

 魔神へ全神経を向けているみたい。


 戦術輪話で、ティナ様達に王都の人達を避難させるよう頼む。


 いつものご主人様なら、そんな事しなくても異界に王都の人達を避難させるくらいしそうだけど、同格かそれ以上の魔神を相手にする状況で余計な負担を掛けたくない。


 できる事はわたし達でフォローしないと。


「早かったな。我が一部になる決心がついたか?」

「その気はないよ。一つだけ聞きたい事があったから来ただけだ」


 魔神がカップを置いてご主人様を見る。


「オレを取り込んで、何がしたいんだ?」

「そんな事か。劣化品とはいえ、貴様は平行世界の俺だ。取り込む事で魂の器を増す事ができるはず」


 ――はず?


 そんな不確かな理由でご主人様を取り込もうっていうの?


 ふつふつと湧き上がる怒りを理性でねじ伏せ、避難を進めるためのゲートを開く。


「器さえ増せば、あと一歩届かなかった真なる神へと至れるのだ」

「それは前に聞いたよ。オレが聞きたかったのは、真なる神になって何がしたいのかって事さ」


 ご主人様の問いに、魔神が虚を衝かれた顔になった。


「決まっている。この星を愚神どもの支配から解放し、人々に自由を与えるのだ」


 ――自由?


 やっぱ、魔王信奉者達が「自由の~」っていう名前なのは、魔神の思想から来ているのかしら?


「なるほど、したい事は分かった。七柱の神々を廃して、その後は? この惑星に暮らす人々を脅かす『外なるモノ』を殲滅するって事かな?」


 外なるモノ――まつろわぬモノ、異なる世界からの侵略者、世界を侵蝕する怪物。


 ご主人様が神々から聞いた話だと、魔神はかつて「外なるモノ」に挑んでボロボロになって帰ってきたはず。

 しかもその後、竜神が首魁を滅ぼしたらしいけど、竜達の力を取り込んだ残党達は更に強大になって、一度世界を滅ぼしたとも言っていた。


「その通りだ。次は復活などさせぬ。真なる神となった我と、真なる加護を得た我が眷属達が、宇宙進出を妨げる害獣共を駆除してくれる」


 魔神が忌々しげに告げる。


 その時に漏れた怒りの波動が、物理現象の突風を巻き起こし、わたしや周囲を取り囲む黄金&白銀メンバーの心を恐怖に捕らえる。


 でも、それはすぐに引いていった。


 リザさんのユニークスキル「鋼心英雄ヒーロー・ハート」の効果だろう。


「さて、心残りがなければ、我が下に来い。劣化品が混ざるのは業腹だが、贅沢は言っていられん」


 魔神がソーサーの上にカップを戻した。


 戦闘態勢どころか、立ち上がりもしないのはご主人様との格の違いを誇示したいんだろうけど、その油断が命取りよ。


 魔神の影が僅かに揺らぎ、次の瞬間、ご主人様がその影に縛り上げられた。


 ご主人様に同じ攻撃が二度も三度も通じるなんて、考えが甘いわ。

 すぐにその影をブチブチと手で千切って――あれ?


「さすがは魔神。だけど、易々と取り込めるとは思わないでほしいな」


 ちょ、ここはナメプしてる場合じゃないでしょ!

 全力全開で蹴散らして、魔神の顔を驚きで満たして「バ、馬鹿な」と言わせるターンじゃない!


「抵抗したければしろ。いつもの転移で逃げれば、この王都と貴様の眷属は殲滅する」

「そう簡単にできるかな?」

「できるとも。神々を騙して巻き上げた権能を配下の眷属達に与えたようだが、しょせんは付け焼き刃。よしんば使いこなしたとしても、碌に育てていない権能(・・・・・・・・)に大した力はない」


 ――育てていない?


 もしかして、魔神がわたし達転生者に権能を与えるのって――。


「なら、選択肢は少ないようだ」

「その通りだ。自分の力を信じるならば、内側から我が魂を支配してみせるがいい」


「ちょ、ダメよ! ご主人様! わたし達や王都よりも自分を――」

「≪黙れ≫」


 思わず飛び出してしまったわたしに、魔神が言霊でご主人様への助言を封じた。


「我が権能を宿す幼き娘よ。異世界の俺に仕える眷属よ。この男を取り込むまで沈黙を命じる。いずれ、お前もフィーユに加えてやる」


 魔神の視線にある色欲の気配に背筋が寒くなる。

 ご主人様からは感じた事のないモノだ。


 どうやら、魔神は幼い娘が好きらしい。

 そういえばサガ帝国で見かけた時に、「幼女の守護者」を自称していたっけ。


 でも、守護者っていうよりは「幼女の敵」な気がする。





『アリサ、王都の住民の避難が完了しました』


 戦術輪話タクティカル・トーク越しにティナ様の声が届いた。


『おっ、ずいぶん早かったわね』

『セテが都市核の力を避難に使ってくれたのよ』

『やるじゃん、王様』

『それもヒカル様が説得してくださったお陰です』


 なるほど、王祖様パワーで説得したのね。


『アリサ、配置につきました。黒竜と天竜もすぐに来訪予定です』


 今度はリザさんだ。


 セーラがテニオン神から授けられたユニークスキル「隠密隠者ハーミット・ハイド」で隠れているせいか、単純にわたし達を脅威と見なしていないだけかは分からないけど、リザさん達は魔神を包囲する事に成功した。


『おっけー! ご主人様、奪還作戦実行よ!』


 実際、もう時間は残り少ない。


 ご主人様も抵抗しているけど、魔神の胸に開いた紫色のブラックホールみたいなのに吸い込まれる寸前だ。


 ――「不倒不屈(ネバー・ギブアップ)

 ――「不倒不屈(ネバー・ギブアップ)

 ――「不倒不屈(ネバー・ギブアップ)

 ――「全力全開(オーバー・ブースト)


 四度、わたしの身体を紫色の光が流れる。


 魔神に借りた権能で魔神を傷付けられるか分からない。

 それがよくあるお約束だ。


 ――でも!


 わたしはご主人様を取り戻す!


転移強奪(アポート・プランダー)


 ご主人様に転移系ユニークスキルがあるからって、空間魔法を封じておかなかったのは不手際よ。

 魔神の怠慢につけ込み、わたしの手元にご主人様が現れた。


破邪聖者セイント・プレイ

『狙い撃ちます!』


 ゼナたんのユニークスキル「破邪聖者セイント・プレイ」を浴びた魔神が不快そうに眉を顰め、同時に届いた青い光が魔神のいる場所を地面や建物ごと消し去った。ルルの加速砲だ。


 わたしは魔力回復薬を嚥下し、ご主人様と一緒に仲間達がいる安全圏へと転移で脱出する。


 魔神の反撃らしき紫の光がルルを襲ったが、それはナナの使う「不落守護城パラディン・キャッスル」が防いでみせた。


「ご主人様、わたし達も攻勢にでるわよ!」


 残魔力をチェックするわたしの耳元にご主人様の答えは返ってこない。


 不審に思ったわたしが振り返ると、ご主人様は少し寂しげな顔でわたしを見ていた。


 とんっ、とご主人様の手がわたしを突き飛ばす。


「――ご主人様?」


 ご主人様の口が開き、何か言葉を発する前に、空間を裂いて現れた紫色の手がご主人様を掴んで、割れた向こう側へ引き込んだ。


 わたしは無詠唱でご主人様を取り戻すべく、閉じゆく空間を開こうと試みたが魔神の術は強固で手も足も出ない。

 しかも、魔王化を恐れずユニークスキルを起動しようとしたのに、ウンともスンともいわない。


 権能の持ち主である魔神が封じたに違いない。


 ご主人様が魔神の身体の中に消える。


「ごしゅじんざまあああああああああああああああああ!」





 ご主人様が呑み込まれた。


 どんなにどんなに取り戻そうと足掻いても届かない。


 ――これは罰だ。


 魔神の不手際を笑いながら、自分も同じミスをした愚かな私への。


「危険!」


 タマが叫ぶ。


不落守護城パラディン・キャッスル不落守護城パラディン・キャッスル不落守護城パラディン・キャッスル

「鎧さん、お願いなのです!」

「「「ファランクスシステム緊急起動!」」」


 ナナが連続でユニークスキルを使い、ポチや仲間達の使い捨て防御システム、ファランクスが多重展開される。


 次の瞬間、魔神が内側から弾けた。

 虹色の光の大部分は空へと抜けたが、その余波が王都の建物を吹き飛ばし、王城を瓦礫へと変えていく。


 三重のパラディン・キャッスルや無数に重ねたファランクスを以ってしても、その余波を防ぎきる事はできないようだ。


 わたしは腕で涙を拭い、超隔絶壁ハイパー・デラシネーターで防御を手伝う。


 自嘲してる場合じゃない。


 今、わたしにできる事をやらないと!


「ご主人様が大切にしていた仲間達を、絶対に守ってみせる」

「イエス・アリサ。合体は正義だと告げます」


 ナナが朱色の光を発する。


 カリオン神から貸与されたユニークスキル「聖盾守護者パラディン・シールド」の光だ。

 その光が幾つもの防御障壁やわたしの超隔絶壁に浸透し、一つの防御障壁へとまとめ上げた。


「合体完了――新防御システムを守護王国パラディン・キングダムと呼称します」


 朱色の光を帯びた統合防御障壁は、虹色の余波を防ぎきってみせた。

 ナナってばラノベの主人公みたいな事するわ。


 さて、次はわたしの番。


 さっきは動揺したけど、わたしとご主人様の繋がりは解けていない。

 絶対にご主人様を取り戻してみせる。


 唯一の眷属、ハイパーアリサちゃんの実力ジツリキを見せてやるわ!





 虹色の爆心地に一つの影が揺らいだ。


「自爆テロとは……神々もなりふり構わなくなったようだ」


 魔神もボロボロだ。


 身体のほとんどが炭化して崩れているし、指先や毛先から紫色の粒子が漏れている。


「ご主人様を返せぇええええええええええええええええ!」


 ご主人様の気配が凄く遠い。


 懸命に心の糸を伸ばして、なんとか眷属の繋がりで指の爪先だけでも引っかける事ができた。


 でも、引っかかりが弱い。

 もう少し、隙間を広げないと引き寄せる前に切れてしまいそうだ。


「無駄だ。既にヤツの残滓は取り込んだ。貴様が何をやろうと無駄だ。人間の観点で言えば、鈴木一郎――いや、サトゥーは死んだのだ」

「いいえ! 死んでいません!」


 ご主人様の縮地に迫る速さで接近したリザさんの竜槍が魔神の胸を穿った。


「おふこ~す~?」

「ご主人様は絶対、絶対生きているのです!」


 竜牙剣を持ったタマとポチも左右から魔神を斬り裂いた。

 振り回す魔神の手が、三人を弾き飛ばす。


「ん、絶対」


 その隙を衝いたミーアのフェンリルが、タマとポチが斬り裂いた傷を広げ、魔神の身体を上下に引き裂いた。


 紫色のコアみたいなモノが露出した。

 暗紫色の輪っかが三重にコアを守っている。


 たぶん、魔神の本体だ。


 なんとなく分かる。


 きっと、あそこにご主人様が吸い込まれた穴がある。


「ご主人様は取り戻します!」


 ルルの加速銃の弾丸がコアを守るリングを撃ち抜いた。


「竜破剣!」


 詠唱を終えたヒカルの魔法が二つ目のリングを斬り裂く。


「……■ 神威聖打セイクリッド・インパクト

「……■ 神威雷陣ディバイン・サンダーフィールド

「……■ 神威金剛刺突ディバイン・ダイアモンド・ストラトス


 セーラ、ゼナたん、ティナ様の魔法が三つ目のリングに叩き付けられたが、あと一歩力が足らず砕く事はできなかった。


「クンフゥウウウウウウウウウウ、キィイイイイイイイイイイイイイイイイック!」


 格ゲーのキャラみたいに飛び込んできたカリナたんの必殺技が、最後にリングに炸裂した。


 目映い光が周囲を満たす。





「やりましたわ!」

『まだだ、カリナ殿!』


 コアはむき出しになったけど、まだ無傷だ。

 わたしはまだ手を出せない。わたしの出番はコアが砕けた後。


「リザさん!」

「承知!」


 駆け戻ったリザさんの竜槍がコアに届――。


「この慮外者が!」


 紫色の烈風が吹き荒れ、リザさんの竜槍を打ち砕く。


「まだまだぁああああああああああ!」


 穂先の砕けた竜槍を投げ捨て、愛用の魔槍ドウマで魔神のコアを狙う。


 だが、魔神のコアの前に現れた透明な壁がそれを阻んだ。魔神の神舞装甲だ。


「惰弱」


 魔神の姿が一瞬で元の姿に戻る。


「定命のヒトごときが、真なる神となった俺に抗う事などできぬ」


 空中に浮かんだ魔神がわたし達を見下ろす。


「だが、劣化品の欠片とはいえ、俺が真なる神となる切っ掛けをくれたのだ。サトゥーの遺志を尊重して、貴様らに手を出す事はしない。ヒトの世界で主人の墓標を守るがいい」


 まずい。失敗してもいいから今やらないと、絶対に届かないところに行っちゃう。


「うぉりゃあああああああああああ! ご主人様を返せぇえええええええええええ!」


 わたしは立ち去ろうとする魔神に腕を伸ばし、必死に眷属の繋がりを通してご主人様を引き寄せる。


「無駄だ。愛しき欠片の娘よ」


 魔神がそう言った瞬間、ご主人様を捕まえていた爪先は剥がれ、わたしの指先からこぼれ落ちたのが分かった。


「さらばだ。恨みを晴らしたくば、『紫塔』最上階から魔界に赴くがいい。魔界の最奥にある我が紫影城まで辿り着けば、相手をしてやろう」


 仲間達の攻撃をモノともせず、魔神の姿が揺らぎ消え去った。

 わたしが展開していた空間魔法による転移阻害すら、なんの意味もないほど鮮やかにだ。


 改めて、わたし達と魔神の間にある隔絶した差を実感させられた。





「アリサ」

「わかってるわ。絶対に助け出すわよ」


 わたしの言葉に仲間達が頷く。


「待っててね。ご主人様」


 ――必ず助け出すから。


 魔神が消えた場所に向かってわたしは再会を誓う。


「呼んだかい?」


 ――え?


 わたし達が振り向く先には、いつものようにのほほんとした顔のご主人様がいた。

 アーゼたんも一緒だ。


「何かアリサに呼ばれた気がしたから、神界から戻ってきたんだよ」

「ご主人様!」


 リザさんが神速でご主人様に抱きつくと、わたしを含めた皆が次々にご主人様に抱きついた。


 もう、ご主人様ってば!

 再会を誓った自分がバカみたいだわ。


 心の中でそう悪態を吐きつつ、ご主人様のチート具合に感謝した。


※次回更新は9/1(日)の予定です。




【備考】

 前半のサトゥーは神々が用意した複製体です。その辺りの詳細は次話でサトゥーの口から語られる予定です。

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― 新着の感想 ―
作戦のためにはアリサを騙すのが最善なのは分かりますが、そこは眷属パワーで気付いて欲しかったですね。 …魔神は出番が増えるほどポンコツ化していくなぁ…
[一言] アリサが一番信じてない感じがする。
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