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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
最終章

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622/738

17-10.紫塔(2)

 サトゥーです。ビル爆破の動画を見ると、破壊にも計算が必要だとよく分かります。周囲へ被害を出さずに真下に崩れていくビルは芸術的なものを感じますね。





「それじゃ、太守へ通達を頼む」

「うん、分かった。避難には最短でも二、三時間は掛かると思って」

「了解」


 オレはヒカルを連れて、ユニット配置で迷宮都市セリビーラへやってきた。

 国王からの紫塔破壊依頼を実行するにあたって、都市防衛力に優れた迷宮都市を一番最初の場所に選んだからだ。


 ヒカル以外のメンバーについては、フル装備のまま飛空艇で待機している。


「こんにちはー」


 ヒカルが太守公館の門番に気さくな挨拶をして中に入っていく。


 国王から太守へは都市核間通信で「紫塔」破壊に関する通達がされているはずだけど、こっちの世界のタイムスケジュール的に、まだ何も手を付けていない事が予想される。

 なので、早急な避難を実施する為に、メッセンジャー役を担当してもらったのだ。


「さてと――」


 オレは迷宮都市近くにある紫塔へとユニット配置で移動する。

 ちょうど都市を挟んで迷宮の反対側だ。


「――うわっ。な、何者だ!」


 紫塔の前で警備をしていた若い兵士が、突然現れたオレを見て驚きの声を上げ、持っていた槍を向けつつ誰何の声を上げた。構えている槍が前後逆なのはご愛敬だろう。


「馬鹿者! 槍を下げろ! この方はシガ王国の勇者ナナシ様だ!」

「え? あ、紫色の髪と仮面――」


 年嵩の兵士が若い兵士を叱責する。


 オレを直接見た事がなかったのなら、さっきの反応もしかたないだろう。

 仮面の怪しい男が前触れなく目の前に現れたんだしね。


「も、申し訳ありません!」


 若い兵士が槍を下げ、謝罪の言葉を叫ぶ。


「別にいいよ。ところで、――あれは?」


 紫塔の近くに、応急手当中の怪我人がたくさんいる。


「探索者です」


 いや、それは見れば分かる。


「塚が大きくなった時に、物見高い探索者達がやってきて『調査に協力する』とか『お宝だー』とか言って中に入っていったんですよ」

「止めなかったの?」


 年嵩の兵士が「多勢に無勢でした」と言って肩を竦めた。

 応急手当している探索者達の数は数十名、しかも高レベルを含む。標準的な兵士が五、六人で抑えられる訳がない。


 今は応援に派遣された兵士達が入り口近くにバリケードを作っている。


「何人くらい入ったまま?」

「正確な数は分かりません。分かっているのは、30余名からなるコシン殿の混成パーティーとドゾン殿のパーティー9名、それとペンドラゴン伯爵閣下の下部組織である『ぺんどら』の精鋭30名弱です」


 ぺんどら達もか――。

 彼らは別に下部組織じゃないんだけど、それをナナシの姿で言う訳にはいかない。


 だけど、ちょっと困ったな。


 中に人がいるなら、外から対神魔法で紫塔を破壊する事はできない。

 そっちは中にいる人達を排除――救出してからだね。


 まあ、迷宮都市住民の避難や防備を固めるのに時間が掛かる事だし、それまでにやればいいか。


「彼らが入ったのはいつ頃?」

「朝一番です!」


 侵入してから時間が結構経っているけど、指揮能力に優れたコシン氏やベテランのドゾン氏が率いたパーティーなら全滅しているって事はないだろう。

 生還を第一とする探索者学校で学んだ「ぺんどら」達も同様だ。


「それじゃ、中に入ってくるよ。誰も入れないようにね」

「承知しました」


 年嵩の兵士が敬礼する。


 オレは彼らに軽く答礼して、紫塔の中に入った。





「――念の為」


 オレは一階フロアの階段に空間魔法の『一方通行ワンウェイ・デラシネーター』の魔法を掛ける。

 これで一階から二階に進む事はできない。


 兵士達の仕事を信じないわけじゃないけど、一階まで降りてきた探索者達が別の階段を登っていったりしたら、回収が面倒になるからね。


 二階に上ったところで「全マップ探査」の魔法を使う。


「犠牲が多い……」


 オレは空間魔法の「物品引き寄せ(アポート)」で遺体を手元に引き寄せ、ストレージに収納する。

 幸いな事に――というと不謹慎だが、その中に「ぺんどら」はいない。


「生存者は三名だけ、か」


 一箇所に固まっていたので、マップと空間魔法の転移を併用してこちらから出向く。


「うわっ」

「ゴブか!」


 転移で出現したオレに驚いた年若い女性探索者達が、傷付いた神官の青年を背後に庇って短槍を向けてくる。

 次からは透明化してから転移しよう。


「こんにちは。ボクはシガ王国の勇者ナナシ」


 オレは敵意がない証に両手を挙げ、挨拶しつつ「理力の手(マジック・ハンド)」で彼女達に触れる。


「ゆ、勇者様?」

「どうしてこんな場所に――」


 オレは彼女の問いには答えず、彼らを連れて塔の前にユニット配置で転移した。


「そ、外?」

「助かったのか?」

「そうだよ! 僕ら助かったんだ!」


 喜び抱き合う三人を置いて、オレは紫塔の中へと転移する。


 八本ある太い柱は全て二階への階段になっていたので、「紫塔、二階-い」から「紫塔、二階-ち」までの八つのエリアをしらみつぶしに調べて多くの遺体を回収し、先ほどの三人と同じような生存者を幾度か救った。


 三階には合計十六個のエリアがあり、その全てをチェックしたが生存者はおらず、二階の三割程度の遺体を回収するだけに終わった。

 ここまでで、ドゾン氏もコシン氏もぺんどら・・・・達にも出会えていない。





「いた」


 四階にある上に行けないマップにコシン氏達がいた。


 奥の方で六匹の集団で行動する尖兵小鬼デミゴブリン・ヴァンガード達に三方の通路を塞がれて、追い詰められているようだ。

 最初は30余名という話だったが、今では20数名まで減っている。


 オレは光学迷彩で身を隠してから、彼らの近くに転移する。


「大盾班、踏ん張れ! 神官は盾持ちの回復を優先! 魔法使い達は直接攻撃を控えろ! 支援魔法とゴブの牽制に専念だ! 攻撃班は前に出すぎるな! 怪我をしたら負けだと思え!」


 コシン氏がいた。探索者達の中心で必死に指示を飛ばしている。

 全体的にレベルが低めの探索者達が多いのだが、彼の指揮のお陰でギリギリ壊滅を免れていた。


 尖兵小鬼達を始末するだけならば、オレが「誘導矢(リモート・アロー)」を一斉射すれば終わるのだが、それだとここまで頑張ってきた彼らの苦労が無に帰してしまう。


 オレは神官達が回復魔法を使うタイミングに合わせて回復魔法を重ね、理力の手(マジック・ハンド)で尖兵小鬼達の気を逸らしたり、足を引っ張ったりして手助けをする。

 尖兵小鬼達の指揮を取る尖兵魔法小鬼デミゴブリン・ヴァンガード・メイジ尖兵神官小鬼デミゴブリン・ヴァンガード・プリーストを放置すると厄介なので、剣を振り回す護衛の尖兵小鬼の腕を操って始末した。


 そんな手助けが功を奏したのか、10分後には一人の死人も出さずに戦闘が終了した。


「はあ、はあ……なんとか撃退できたな……」

「……ああ」


「全員、今のうちに応急手当をしろ! 逃げた奴らが援軍と一緒に来る前に移動するぞ!」


 コシン氏が全員に指示を出す。


「ベリアの魔法薬があって良かったぜ」

「まったくだ。無かったら、間違いなく全滅していたよ」

「すみません、未熟な神官で」

「悪い悪い、そういう意味で言ったんじゃねぇよ」

「全くだ。最後の方の回復は凄かったぜ」


 盾役達と若い神官がそんな会話を交わす。


「だけど、最後の方の紫ゴブは何か変じゃなかったか?」

「あのゴブはどこもかしこも変だぜ?」

「そういうんじゃなくて、見えない誰かが邪魔していたような気がしたんだ」

「ははは、神のご加護かもな」


 勘のいい探索者がいるようだ。


 彼らが応急処置を終えたところで、光魔法の「幻影イリュージョン」で派手な出現エフェクトを出して彼らの前に登場した。

 案の定、驚かれてしまったが、さっきからここにいたのがバレるよりはいい。


「コシン隊かな? 僕はシガ王国の勇者ナナシ」


 驚くコシン氏にそう告げ、彼らが返事をする前に全員を「理力の手」で掴んで塔の入り口にユニット配置で移動した。


 外に出た事に驚き喜ぶ人達から離れると、コシン氏が駆け寄ってきた。


「救出を感謝する。まだ中に仲間が取り残されているんだ」

「分かった。生きている者は必ず救出するよ」

「ありがとう――若様」


 コシン氏が頭を下げ、最後の一言だけ小声で呟いた。

 どこでバレたんだろう?


「誰の事?」

「いいえ、人違いだったようです」


 そんな事を微塵も思っていないような口調でそう言って仲間達の方へと戻った。


 まあ、いいや――。

 オレは残りの探索者を求めて塔へと戻った。





「いた。ぺんどら・・・・だ」


 四階の六エリア目でようやく見つけた。

 安全マージンをきっちり確保していたらしく、誰一人減っていない。


 ただ、全員で行動していると思ったのだが、1パーティだけ分断された場所にいた。


 とりあえず少人数の方から回収しよう。


「もう! ラビビさんの言いつけを守らないから、こんな事になるんだよ!」

だってよらっれよー」

「だってよー、じゃない!」

「まあまあ、リクリナ。あれは仕方ないって」

「そうそう。喋る植物なんて、ポチの姐さんが言っていた妖精の森にしか無いようなもんだぜ」

「売ったら幾らになるか想像もできないよ」

だよならよあー」


 転移先にいたのは、狐人やドワーフを含む人族が中心のパーティーだった。

 仲間達から離れたというのに、元気に騒いでいる。


 オレは透明な姿のまま彼らを連れて、「ぺんどら」の本隊がいる場所へと転移した。


「「「うわっ」」」


 突然、迷子パーティーが現れた事に両者が驚きの声を上げた。


「ウササ! 近くにりかうい誰かいるられかいうガウ!」

全員れいいん戦闘陣形せんろーいんえい<輪>!」


 ガウガルの報告を聞いたウササが素早く輪形陣を組む。

 臭いを誤魔化すのを忘れたせいか、犬人の少年ガウガルに気付かれてしまったようだ。


「驚かせてごめんねー」

「「「勇者様ゆうひゃはあ!」」」

「「「勇者様!」」」


 どこで見たのかしらないが、勇者ナナシの事を知っている子達が多いようだ。

 オレは全員を「理力の手」で掴まえて塔の外へ出る。


「え? 外? なんで?」


 戸惑う子達に、国王からの依頼で塔を破壊する旨を伝える。


「ちえー、宝箱がいっぱいあったのに」

「文句言うな」

ゴミおみばっかりあっかいだったらっらバウ」


 抗議してくる子達もいたが、仲間達に説得されてすぐに納得してくれていた。


「待って! 勇者様!」

「俺達、勇者様に伝える事があるんだ!」


 ドゾン氏達を捜しに転移しようとして踏みとどまる。

 オレを呼び止めたのは、最初に助けた「はぐれぺんどら・・・・」の子達だ。


「何?」

「草が言ってたんだ!」


 しなびた草を差し出しながら少年が言う。

 そう言えば、さっき喋る植物がどうとか言っていたっけ。


 怖くて幻聴を聞いたんじゃないかとはやし立てる仲間に怒鳴り返しながら、オレに本当なんだと訴える。


「それで、草はなんて言っていたんだい?」

「フジンがバカでドボって強くなる! って」

「ゴーク、リショク、つなみ苦痛が好き! って」


 なんだ、そりゃ?


「お前らは黙ってろ! ミソリン、お前なら覚えてるだろ」

「うん、覚えてる」


 リーダーっぽい子が二人を止め、頭の良さそうな子に説明を交代させた。


「言います――」


 頭の良さそうな子が目を閉じて、暗記していた内容を訥々と語る。


『不信心なバーカのお陰で俺達強くなる』


『強欲、吝嗇、恨みにつらみ、不満と苦痛が大好物』


『寛容、奉仕、いたわりと優しさ、感謝と心地よさが大苦手』


『でも一番苦手なのは、忌まわしき神への祈り。神々が強くなると俺達の加護が弱くなる』


 ……示唆に富むヒントというよりは、あからさまな誘導だ。


 入り口にある神の色に対応したゲージみたいな樹形図といい、この塔を作った何者かの意思が感じられる。


「ありがとう、とても役に立ったよ」


 オレは貴重な情報をくれた「ぺんどら」の少年達に礼を言う。

 今度、エチゴヤ商会経由で、彼らのレベルにあった装備品をプレゼントしようと思う。


 なお、最後に救出したドゾン氏達は、五階層にあるボス部屋でボスを撃破したところで半壊状態になっていた。ドゾン氏本人は大怪我を負いつつも、仲間達に死者を出さずにクリアしたようだ。




『セテに伝えたけど、紫塔破壊作戦は決行だって』

『分かった』


 オレは紫塔を過剰なくらい多重結界で包む。

 これなら結界に向かって対神魔法を使っても壊れる事はないはずだ。


 マップで避難領域に誰もいない事を確認する。


『それじゃいくよ』


 オレは魔法欄から対神魔法を発動する。

 キラキラした虹色の光が塔を包み、次の瞬間、隣接する亜空間ごと一気に消し去る。


 ――ん?


 普通なら、そのまま消えるはずの魔法の構成がオレの制御を離れようと暴れ出した。


『ご主人様! なんだか挙動が変なんだけど、大丈夫?』


 飛空艇で待機するアリサが眷属通信で声を掛けてきた。


『大丈夫。想定の範囲内だ』


 後半は嘘だけど、このくらいのトラブルは気合いでなんとかなる。

 予期しない挙動で解けかけた構成を、莫大な魔力を背景に無理矢理まとめ上げ、魔法を完結させた。


「――ふぅ」


 疲れた。


 オレは続けて国王直轄地の都市周辺にできた紫塔を順番に消していく。

 二つ目の紫塔も一つ目と同じく、対神魔法が過剰反応を示す現象が起こったが、あらかじめそうなる事が分かっていれば対処するのは簡単だ。

 むしろ、一つ消すごとに魔力が底をつくので、聖剣から魔力を再充填しつつの全力行使の繰り返しが大変だった。


 なんだか、久々に会社員だった頃のデスマーチだった日々を思い出したよ。





「諸侯が紫塔の破壊を拒否?」

「正確には領都の直近にある紫塔以外の破壊を拒否、ね」


 ヒカルの言葉を聞き返す。

 ムーノ侯爵とセーリュー伯爵を除く領主達は、一部あるいは大部分の紫塔の破壊を拒否してきたのだ。


「まあ、仕方ないわよ。ちょっと効率が悪いとはいえ、自分の領内に迷宮――魔核鉱山ができたようなものだもの」

「領都の近くだけは壊してほしいというのが納得いきません!」


 アリサが領主達の心情を代弁し、正義感の強いセーラが糾弾する。


 領民の為、というお題目を忠実に守っているのはムーノ侯爵くらいで、裕福なオーユゴック公爵やビスタール公爵でさえ、領内にある複数の紫塔を確保する事を希望している。

 セーリュー伯爵の意図は不明だが、紫塔より効率の良い「悪魔の迷宮」が領都にあるので、紫塔を確保する事に魅力を感じていないんじゃないかと思う。


「破壊を拒否するなら、領都もそのままにすればいいんで――」

「「「セーラ!」」」


 糾弾する途中でセーラが倒れた。


 オレはセーラが床に倒れる前に支える。

 激高しすぎて失神したのかな?


「……『禁止』……『破壊』……『装置』……」


 セーラがうわごとのように言葉を呟く。


「ね、ねえ、これって――」

「静かに」


 オレの袖を引くアリサの口を手で覆う。


「『出頭』……『神庭』……『指示』……」


 まず、間違いなくテニオン神からの神託だろう。


「紫塔って破壊しちゃマズかったみたいね」

「そのようだな」


 前に神々の世界を訪問した時は、既に破壊した紫塚について何も言われなかったんだけど……。

 オレは微妙に腑に落ちないものを感じつつ、再度の神界訪問をする事になった。


 ついでに、「何の為に紫塔を作ったのか?」とか「魔神の封印について」も聞いてみようかな?


※次回更新は4/14(日)の予定です。


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