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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
最終章

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620/738

17-8.成長する紫塚

※回想中は三人称になっているのでご注意ください。

 サトゥーです。謎解きは古来からある娯楽の一つだと思います。一人で謎を解くのも楽しいですが、何人もの仲間で顔を突き合わせて議論をするのも楽しいんですよね。





「ずいぶん、育ったものだな……」


 オレは紫塚だったモノを見上げる。

 数メートルサイズだった塚が、今では百メートルを超える程に成長していた。


「紫塚というよりは、紫塔って言った方が良さそうよね」


 同じく見上げていたアリサが感想を言う。


 ユニット配置で王都に戻ったオレは、眷属通信でオレを呼んだアリサと合流し、王都近郊にできた紫塚の前に来ていた。

 公都のテニオン神殿で待っているセーラと元巫女長――現巫女見習いのリリーには、空間魔法の「遠話(テレフォン)」で先に王都に戻ったとだけ伝えておいた。


「それでオレがいない間に何があったんだ?」

「話すと長くなるんだけど――」


 アリサがそう前置きして話し出した。



◇◇◇◆◆(回想)◇◇◆◆◆



「紫塚に変化ですって?」


 孤島宮殿の私室でアリサが報告を受けたのはサトゥーが出発して五日目(・・・)の事だった。

 アリサは先ほどまで顔を埋めていた男物のシャツをアイテムボックスにしまうと、報告に来た家妖精(ブラウニー)と一緒に部屋を出る。


「どんな変化なの?」

「紫塚が大きくなったそうです」


 廊下を移動しながらアリサが尋ねた。


「他の皆は?」

「ミト様とゼナ様は第一報を受けて飛び出していかれました」

「リザさん達は古竜大陸で修業中、セーラは公都のテニオン神殿で待機中だったわね」


 アリサが言う「リザさん達」にはポチとタマに加え、カリナも含まれる。


「――ナナは?」

「朝からミーア様と一緒にボルエナンの森へ出かけられました」

「珍しいわね。羽妖精に会いにいったのかしら?」


 用件は知らないとブラウニーが答える。


「ナナ様、ミーア様、セーラ様には連絡してありますが、古竜大陸には連絡手段がないので――」

「分かった。王都に出たら『無限遠話(ワールド・フォン)』で連絡を入れておくわ」


 リザ達の修業動機を知っているアリサは、「修業の邪魔をしたくないし、連絡は紫塚の様子を見てからでいいかな?」と内心で考えつつ、孤島宮殿のゲートを抜けた。


「『ペンドラゴン』のアリサよ。ミツクニ公爵夫人に呼ばれて来たわ」


 アリサが馬車の窓からそう告げると、警備に当たっていた衛兵達が野次馬達を押しのけてアリサの乗る馬車を紫塚へと案内してくれた。

 ミトから緊急事態発生の報告が来なかったので、アリサは「緊急性が低い」と判断して転移ではなく馬車を使ったようだ。


「アリサ! こっちよ!」


 ミトが呼ぶ。


「ずいぶんと成長したわね」

「二〇メートル弱くらいかな?」


 二人で紫塚を見上げる。

 ここまで大きいと既に塔サイズだ。


「警備に当たってた人の話だと、一晩でこのサイズになったらしいわ」

「夜中の内に連絡が来なかったのは?」

「えーっと、それはね――」


「「「申し訳ありませんでした!」」」


 ミトが言いにくそうにしていると、近くにいた衛兵達が一斉に頭を下げた。

 アリサが事情を聞いてみると、彼らは紫塚の警備に当たっていた者達で、夜明けまで誰も紫塚の変化に気付かなかったらしい。


「気付かなかった?」

「昨日は夜霧が濃かったしね」


 首を傾げるアリサに、ミトが理由を告げる。


「ゼナたんは?」

「飛行魔法で近くの村を見に行ってもらってる」


 他の紫塚も同じかどうか調べにいってもらったそうだ。


「ちょっと他も確認してみる」


 アリサが小声でミトに耳打ちし、「遠話(テレフォン)」でエチゴヤ商会に連絡を入れる。

 世界各地の情報が入るのは、ここが一番早いからだ。


『紫塚の件ですね?』


 アリサが連絡を入れるなり、総支配人のエルテリーナがそう尋ねた。


『ええ、何か情報が入っている?』

『まだ王都近郊からだけですが、都市近辺にある紫塚が巨大化しました。村落周辺の紫塚については人をやって問い合わせ中です』

『ありがとう、また連絡するわ』


 アリサが通話を切り、ミトにその話を伝える。


「どうする? ご主人様に連絡する?」

「まだ、いいんじゃないかな? 何か変化が起こるのはイチ――サトゥーも予想していたし」

「それに下手に連絡して、神々との対話を邪魔したくないもんね」


 ミトとアリサは同じ意見らしい。


「それで大きくなっただけなの?」

「違いが幾つかあるみたい」


 ミトがそう言って、現場の指揮官に合図する。

 騎士の一人がガントレットを外した手で紫塚に触った。


「――ちょ、ちょっと!」

「大丈夫。ドレイン効果はないらしいわ」


 最初に召喚魔法使いが試して、それから奴隷で試したと指揮官が得意そうに言う。

 奴隷を消耗品扱いする指揮官に、アリサとミトが一瞬だけ不快そうにしたが、指揮官や周囲の者達がそれに気付く事はなかった。


「次、お願い」


 紫塚の前にいる騎士が、外したガントレットで紫塚をカンカンと叩く。


「物質透過もなくなっているのね?」


 アリサの確認にミトが首肯する。


「村の傍にある塚との比較がしたいわね」

「それなら、すぐに聞けるわ」


 ゼナが戻ってきたとミトが空を指し示す。


「確認してきました。村の近くにある紫塚は変化ありません。大きさもそのままで、投げた石も突き抜けましたし、触った手の力が抜ける感触も同じでした」


 戻ってきたゼナがミトに報告する。


「あっぶないわね。虫とか鶏とかで試しなさいよ」

「すみません、早く調べないとって思って」

「まあまあ、アリサちゃんもその辺で。ありがとう、ゼナ」


 ゼナを心配して言葉がキツくなったアリサをミトが宥める。


「物質透過とドレイン能力って、巨大化するまでの保護と巨大化する為のエネルギー充填かしら?」

「うーん、間違っていない気もするけど、ちょっと判断材料が足りないかな?」

「まあ、そうよね」


 アリサの視線が、紫塚の近くで何かを描き写しつつ議論する学者達に向いた。

 議論がヒートアップしているのか、メガネを掛けた背の高い学者がヒステリックな声を上げだした。


「あれって何やってるの?」

「見た方が早いわ」


 三人が学者達の傍に行く。


 学者達は紫塚の表面に現れたレリーフに付いて話してるらしい。


「樹形図?」

「七つの枝の先をよく見て。枝の先にある円の真ん中」

「色つきの石? 橙、青、黄、緑、青、赤、青――なんだか青が多いわね」


「キミの目は節穴かね?」


 色を読み上げたアリサの前に、背の高いメガネの男が現れた。

 くいっと反らした顎が、彼に嫌みな印象を与えていた。


 人物鑑定したアリサには、彼が王立研究所の研究員である事が分かった。


「橙、蒼、黄、緑、藍、朱、青。それが宝石の色だ。これは――」

「七柱の神々に対応した色なわけね」

「そ、そうだ。節穴でも少しはモノを知っているようだ」


 言いたかった事を先取りされたメガネ男が、悔しそうに負け惜しみを口にした。


「次席、止めてください! 相手は公爵家の方達ですよ」

「ぼ、ボクを次席と呼ぶな! ボクがあんなヤツの後塵を拝するなんてあってはいけないんだ! ボクがヤツに劣るのは運だけ! 魅力的な研究テーマに出会えなかった運が悪いだけなんだ! 次期所長はボクこそ相応しい!」


 止めに来た学者の言葉が癇に障ったのか、メガネ男が一人でヒートアップする。


「あー、関わっちゃいけないヒトだ」

「ていうか、こういうデリケートな場所の調査をさせちゃいけないタイプでしょ」


 呆れた感じのミトの横で、アリサが肩を竦める。

 ゼナは苦笑しつつもコメントを控えた。


「樹形図の木の実的な場所にあるのが七柱の神々を示しているなら、この塚って七柱の神々関係の施設なのかな?」

「うーん、どうかな? ベースは紫色だし――」


「そうとも!」


 メガネ男が勢いよく話に割り込んできた。


「忌み色の塔に現れた神々の色を示す樹! これは神々の力を吸い取って月の封印から魔神を解放しようという魔族達が作ったものに違いない!」

「次席! それは極論すぎます。さっきも――」

「ボクを次席と呼ぶなぁああああああああああああああ」


 ヒートアップしすぎてメガネ男が暴れ出した。

 さすがに見かねたのか、塚を警備した衛兵達がメガネ男を取り押さえる。


「ボクを離せぇえええええ。大陸中にある全ての塚の配置を調べればすぐに分かるんだぁああああああああ」


 暴れるのを止めないメガネ男が、衛兵達に連行されていく。

 研究員が「次席」と繰り返したのはこれを狙っての事だったのかもしれない。


「すみません。ちょっと短絡的で独善的で偏屈で困った人ですけど、知識だけは豊富なんですよ」


 なんのフォローにもなっていない事を言いながら、研究員がミトに話しかける。


「この樹形図については嵌まっている宝石が、神殿の古い書物にあった七柱の神々に由来する色と同じではないか、という事くらいしかわかっていません」

「さっき、魔神の封印がどうとか、塚の配置がどうとか言っていたのは?」

「次席の妄想です。特に根拠はありません」


 世界中にある塚の配置が、「魔法陣的な意味があるのではないか?」という議論はアリサ達もしたが、サトゥーがマップ情報を複写した配置図を見た限りでは、法則性のようなモノは確認できなかった。


「あそこの割れたみたいな場所は?」

「ああ、あそこですか……」


 研究員が頭痛を堪えるような顔でアリサが示した場所を見る。


「あれは、ですね――」


 先ほどの次席研究員がやったらしい。

 上から不用意な行動をしないように厳命されていたにもかかわらず、どこからか連れてきた作業員にツルハシで砕かせたそうだ。


「アホすぎる……」

「うん、セテに言って担当から外させるわ」


 アリサとミトが先ほどの研究員と同じ表情になる。

 ゼナはコメントしづらかったのか、苦笑いを浮かべていた。


「それで、何か分かったの?」

「はい、塚の表面は自然石程度の硬さで、割れて本体から離れた部分は幻のように消えてしまいました。手首が埋まるくらいまで砕くと、変化前の塚と同様にツルハシが透過し、手で触れると力が抜ける感じがしました」

「卵の殻みたいな感じかしら?」


 やり方は乱暴だが、調査結果は興味深いものがあった。


 この場に来ていた他の学者達からも意見を求め、しばらくは監視人数を増やして観察を続けるという結論になった。





 二日ほどは何も変化がなかったのだが――。


 その翌日、サトゥーが呼び戻された日の朝に再び変化が現れた。


「また、巨大化したわね」


 全長一〇〇メートルを超える紫塚を見上げてアリサが呟く。


「樹形図はそのまま――じゃ、ないわね。右上の方に紫色の宝石が嵌まっているわ」

「石は小さいままだけど、樹形図は塚と同じ尺度で巨大化してるわよ」


 樹形図の下端は地面に接するほど下がり、上端は六メートルほどの高さになっている。


「それに、ここの根っこの模様が――」


 ミトが言いながら樹形図に手を伸ばした。


「触らないで!」


 研究員が飛んできた。


「危ないから、触らないでください」

「なにが危ないの?」


 そう尋ねた瞬間、血の臭いがして、ミトが触れようとした根っこの模様から、血塗れの男が転がり出てきた。


「次席!」


 ここの担当から外されたはずのメガネ男だ。

 彼のトレードマークであるメガネはレンズにヒビが入り、フレームが歪んでいた。


「何があったんですか? 次席!」

「ボ、ボクを次席と言うな……」


 そう呟いた次席が気を失って地面に倒れる。


「そこの扉みたいな模様になっている場所から中に入れるみたいなんですが、入ったきり誰も出てこなかったんです!」


 初めはうっかり触った研究員が消え、助けに入った兵士達も出てこないらしい。


「召喚獣は?」

「入った瞬間に魔力経路パスが切れるそうです。感触からして強制的に送還された感じらしいです」


 今は調査用のゴーレムを王立研究所から運ばせている最中との事だ。


「見て!」


 扉模様から男達が出てきた。


 今度は兵士だ。


「三人だけか?」

「いや、一緒に出たはずだが――」


 訝しげに言った兵士が後ろを振り返る。

 だが、誰も出てこない。


 戻ろうとした兵士をミトが止める。


「中に何があったか言ってからにして」


 兵士は少し躊躇ってから口を開いた。


「中は凄く広かった。霧みたいなので見通せなかったが、塚の外周の何倍も何十倍も広いのは間違いない。天井も高くてオレ達が三人で手を繋いだより太い柱が何本もあった。その学者を拾ったのも、そんな柱の一つだ」

「何が彼をこんな風にしたの?」


 それは分からないと兵士が言う。


「その柱にも、それと同じ文様があった。たぶん、柱の中に入れるんだと思う」


 兵士が入り口の文様を指さして言う。


「なら、とりま、こいつを叩き起こしましょうか」


 アリサがそう言って、妖精鞄から取り出した魔法薬を、メガネ男の顔に掛ける。

 なかなか乱暴なやり方だが、メガネ男の傷はすぐに癒えた。


「――起きないわね」

「起こします」


 目を覚まさないメガネ男にじれたのか、研究員がメガネ男の頬をバシバシと打つ。

 もしかしたら、普段の鬱憤を晴らしているのかもしれない。


「バ、バケモノは?」

「バケモノ? お前も研究者なら、何を見たか客観的に述べろ!」


 研究員が敬語も次席いじりも忘れて詰問する。


「あ、ああ。中に入ったボクは柱に入り口と同じ文様を見つけて――」


 中に入ると四方に別の文様があったらしい。

 その内の一つに入ると、遺跡のような場所に出、調査しつつ進むと件のバケモノに遭遇したと言う。


「紫色のバケモノだ。見た目は紫色をしたゴブリンだったが、あれはゴブリンなんかじゃない!」


 紫ゴブリンは彼が撃った四連火杖の猛攻を受けても痛がるそぶりを見せず、護衛代わりに連れていった二体のリビングスタチューを瞬く間に倒したそうだ。


 紫色のゴブリンと聞いたアリサとミトが顔を見合わせる。


「まさか、ゴブ王が復活したとか?」

「違うんじゃない? ゴブリンの魔王なら、あの人を逃がさないでしょう?」

「それもそうか……」


 二人の視線が再び、メガネ男達の方に向く。


「リビングスタチューって、塚の警備に置いてあったヤツですか?」

「そうだ! 正騎士数人を叩きのめせるようなリビングスタチューを、瞬く間に倒せるようなゴブリンがいるか! しかも素手だぞ?」


 勝手に備品を持ち出して、それを全損させたにもかかわらず、彼は責任を感じていないようだ。


「よく逃げられたわね」

「未知の場所に行くのだ。護身用の魔術で身を守るのは当然だろう?」


 呆れたようなアリサの言葉を褒め言葉と解釈したのか、メガネ男がフレームの歪んだメガネの中央を指でくいっと持ち上げた。


 どんな魔法で身を守ったのかと問うアリサに、中級術理魔法の中でも有名な個人防御用の魔法の名前を挙げた。

 その防御用魔法が、紫ゴブリンの攻撃二発で破壊されてしまったらしい。

 彼の怪我は二発目の余波で負ったモノとの事だ。


 しかも――。


「バケモノは一匹じゃない。見たのは一瞬だが、奥からわらわらと現れてきた。少なくとも一〇匹、もしかしたら、いや、絶対にもっといる」

「つまり、これは迷宮っていう事ですか? 普通より何倍も何十倍も強い魔物がいる?」


 研究員の問いにメガネ男が首肯する。


「こいつはマズいわね」

「外に溢れたら激ヤバだわ」


 同じような塚が世界中の都市近郊にあり、少なくとも三〇層程度の迷宮になっていると思われる。


「アリサ」

「うん、分かってる。さすがにこれはご主人様案件だわ」


 ミトの呼びかけに頷き、アリサは眷属通信でサトゥーに連絡を取った。



◆◆◆◇◇◆◆◇◇◇



「――って訳なの」

「待て」


 紫塚の中にいる紫ゴブリンも気になるが、もっと気になる事がある。


「オレが神界に行ってから七日も経っていたのか?」

「うん、そうだけど?」


 オレの体感だと、半日。

 狭間の空間を除けば、六時間から七時間くらいしか経っていないはずだ。


「もしかして、神界は時間の流れが違うの?」

「ああ、そうみたいだ」


「ストップ、ストップ! 二人とも、優先順位を間違えないで」


 ヒカルがパンパンと手を叩いて、脱線するオレとアリサを止めてくれた。


「サトゥーさん!」


 空からオレを呼ぶ声がした。ゼナさんだ。

 近くの村を調査に行っていたらしい。


「ただいま、ゼナさん」

「近隣の紫塚は変化ありません。大きさだけじゃなく特徴もそのままです」


 オレ達に報告したゼナさんが、アリサに顔を向けて「今度は、ちゃんと虫で試しました」と続ける。


「他の都市でも騒ぎになっているみたいだね」


 マップと空間魔法の「遠見(クレアボヤンス)」の組み合わせで確認してみたが、ここと同様に人だかりができていた。

 他の紫塔にも紫色のゴブリンが現れたのかは分からないが、少なくとも塔の外に魔物が溢れた様子はない。


「それじゃ、正体を調べてくるよ」


 オレはそう宣言して、塔の入り口へと足を向けた。


※次回更新は3/31(日)の予定です。


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