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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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5-10.トラザユーヤの迷路

※8/10 誤字修正しました。
 サトゥーです。小学生の頃、無料で遊べるアスレチックが大好きでした。
 大人になってからは、たまにフィットネスクラブで体を動かすくらいでしたが、この世界には安全に体を鍛えられる施設とかはあるのでしょうか?





 結果的に言うと、ただいま落下中だ。

 玉座の横の扉が開いたとき、オレはそこから敵が出てくるものだと身構えたんだが、出てきたのはミーアを介抱していたのと瓜二つの美女だった。

 オレがそちらに気を取られているタイミングに主の間の本当の排除機能が発動した。
 部屋の床が全て消えたんだ。部屋全体が落とし穴とは、デストラップにも程が或る。いや、罠発見が効いていなかったという事は、即席で罠を作成したのかもしれない。

 このままの速度で落ちても死なない気がするが、地面にめり込んで出れなくなるのはいやだ。
 マンガでよくあるみたいに、壁に何かを突き立てて速度を落とすしかないか。
 オレはストレージから大槌を取り出すとそれを勢い良く蹴りつけて、反動で反対側の壁にぶつかる。壁はツルツルで掴める所が無い。

 ストレージから黒鋼の大剣を取り出して壁に突き立てる。ゴリゴリゴリと壁と速度を削る。ちょっと手首が痛い。
 ある程度速度が減った所で、限界に来たのか大剣が折れた。

 次の大剣を取り出す前に最下層の水面に落ちる。

 足を揃えてまっすぐに落ちたので衝撃は少なかった。
 そのかわりかなり深く潜ってしまったが、速度をかなり殺せていたようで、底には届かなかった。

 水面まで上がる間に、本日2度目の「全マップ探査」魔法を実行する。

 マップには「トラザユーヤの迷路」と表示されている。
 各階層が500メートル四方で、20階層からなる迷路のようだ。迷宮都市にある迷宮とくらべると、かなり小ぶりだ。今日読んでいた本によると、少なくとも200階層まで探索されてさらに先があると書かれていた。しかも各階層が数キロに及ぶとも書いてあったので、規模は明らかに小さいだろう。
 しかも殆どの通路が直角で構成され整然としている。まさに迷路といった感じだ。悪魔の迷宮がどこか生物的な広がりを見せていた事と比較しても、どこか計画的というか人工的な感じを受ける。

 ようやく水面に顔が出る。
 落ちてきたはずの穴がある場所には石壁で塞がっている。壁面には光苔でも生えているのか薄っすらと見える。マップでも、さっき居た20階層まで300メートルは上方だ。
 どうもここは、階層外扱いされているみたいだ。

 マップで見る限り、この辺には敵はいない。
 西に進むと2キロほどで外に出るらしい。東には隠し扉の先に何やら「トラザユーヤの間」という部屋があるようだ。名前からして、この迷宮の秘密が眠っていそうだが、道筋の見えている迷路に情報など必要ないだろう。

 ……だめだ、自分は騙せない。

 ミーアを一刻も早く助けに行きたいのは山々だが、トラザユーヤの間が気になる。単なる勘でしか無いんだが、行かなくてはいけない気がする。

 オレは、心の中でミーアに詫びつつ隠し扉に向かって泳ぎ出した。

 服がジャマで泳ぎにくい。特にブーツのせいで水が上手く蹴れない。
 誰も見ていないので下着以外の服をストレージに仕舞う。着たままでも仕舞えるのは新しい発見だな。





 隠し扉には、セーリュー市にあった悪魔の迷宮と同じような謎解きが仕掛けられていたが、謎解き(リドル)スキルのお陰か簡単に解除できた。

 隠し扉の先は黴た様な臭いが満ちている。床や壁は石ではなく樹脂のような素材で出来ている。
 ここは何者かの個人的な研究場所だったようだ。食堂や風呂場、寝室などが完備されている。たまった埃から見て、魔術士(ゼン)はこの場所に来た事は無いのだろう。
 風呂場の浴槽に心惹かれたが、入浴している場合でもない。

 研究室兼書斎には沢山の書物や書き付けがあった。何年経過しているのか判らないが、何冊かの魔法書以外は劣化が激しいので、直接読むのではなくストレージに仕舞ってからメニュー経由で読むことにした。

 迷路の名前から或る程度予想していたが、この迷路を作成した人物の名前がトラザユーヤと言うようだ。彼はエルフのようだ。それもミーアと同郷らしい。
 書物はすべてエルフ語で書かれている。赤兜のお陰でエルフ語スキルを取得していなかったら、まったく読めなかっただろう。

 所々インクが掠れていたが、大雑把に斜め読みする。この迷路はトラザユーヤ氏がエルフ達の育成を“安全”に行うために、迷宮を真似て作った施設らしい。
 手記には、彼の苦悩と言うか同族への過保護なまでの心配りが記述してあった。

『我々エルフは生への執着が弱い。絶体絶命になったときに、他の種族にくらべ驚くほど足掻かない。このため迷宮では多くの若者を死なせてしまった。この迷路にはエルフ達が命の危険にさらされたら安全に脱出させる機能を付けなくてはならない』

 他には迷宮核(ダンジョン・コア)ではなく迷路核(メイズ・コア)を備え、迷宮のように成長する事も無いが、迷宮と同じように周囲の土地から魔力を吸い上げて魔核(コア)を精製すると書かれていた。

 ここで気になる文章を見つけた。

『培養槽で既存の生き物に魔核(コア)を宿らせて人造の魔物を作る施設が完成した。』

 魔物は、元々普通の生き物なのか?
 たしかに、これまでオレが戦った魔物は普通の生き物を奇形にした感じのものだ。ワガハイ君は違ったがヤツは魔族となっていたので、別種と考えてもいいだろう。
 それを考えると魔核(コア)を使う魔法薬(ポーション)を飲むのに抵抗を感じてくる。

 逸れた思考を戻す。こんな事は後で考えればいい。

 トラザユーヤ氏が試作した施設は3つ。魔物を培養する施設。作業用のゴーレムを生産する施設。身の回りの世話をさせる召使の人形を生産する施設。
 ただし、最後の施設は近隣の鼠人族の協力が得られたので完成間際で放棄したらしい。

 ふと、この閉じた迷路の中で魔物たちが何を食べて生きているのか気になった。共食いか、食料用の魔物も生産していたのだろうか?

 迷路が完成した後も、他のエルフ達が訪れる事はなかったようだ。
 彼の手記の最後にはこうある。

『たった100年では誰も私の失敗を忘れてくれていなかったようだ。私の命はもうすぐ尽きる。この迷路は、後年、わが同胞達が必要とするまで封印しよう。エルフ達が世界を導く立場に戻る日を信じて ――トラザユーヤ・ボルエナン』

 なるほど、ミーアが必要な理由はこれか。それにしても、この手記も読まずに良く魔術士は封印の解き方が判ったものだ。

 結果的に、色々な情報を得られたが、ミーアを救出するために知らなければいけないような情報には出会えなかった。
 走り書きの落書きに「爆発は浪漫だ」とあったのが少し気になったが、安全な育成を目指した施設に自爆装置を付ける馬鹿はいないだろう。

 この階層から迷路の主要階層に戻る方法が無い様なので、一端外に出てから入り口を探す事にする。

 オレが落ちた地底湖から出口までの道を進む。狭い上に鍾乳石が突き出ているので走れない。鍾乳石の間の地面を、地底湖からの水がチョロチョロと流れている。

 時折水底にいるハンザキの様な水棲生物を踏まないように注意しながら出口を目指した。





 出口は地上5メートルほどの垂直な崖の上だった。
 マップで現在位置を確認するが、やはり未探査エリアだったので、「全マップ探査」魔法を実行する。
 ここは「灰鼠首長国」となっている。オレ達がいた街道から見て山5つ分ほど離れている。ここから山一つ分ほど離れた場所に鼠人族の集落があるようだ。首長国となっているが千人前後の集落の集合体みたいだ。

 迷路の入り口は、この山の山頂付近のようだ。

 少し暗いので光粒(ライト・ドロップ)を取り出して、周りを照らす。
 適当な足場が見当たらない。

 仕方ないので、5メートル下の地面までジャンプで降りた。

 周りを見回して違和感を感じる。
 初冬のせいかとも思ったのだが、不思議なほど虫の声がしない。殆どの木の葉が散り、中には立ち枯れているものも少なくない。
 異世界の木と言われればそれまでだが、AR表示で確認してみたらシイやアカマツといった常緑樹も葉が落ちている。

 何があったか気になる所だが、今は迷路の入り口に向かう方が先決だろう。





 オレは山を駆け上がる。下生えの草も枯れているので障害が少ない。

 途中、山の中腹にある大木がレーダーに引っかかった。
 特に赤く光った訳でもないが、レベル20台の妖精族のようだ。トレントとかだろうか?

 今走っているのはその近くを通るコースなのだが、敵対されても逃げればいいので、そのまま進む。

 その木の側を通るときに、ログに「魅了の効果に抵抗しました」が表示された。思わず足を止めて木を振り返る。

 木の根元には……ナース服の巨乳お姉さんの姿があった。

 いや、そりゃナース服好きだけどさ。
 幻影にしてもTPOを考えようよ。

「もし、そこの若旦那様」

 しかも言葉が時代劇風だよ。
 AR表示では木精(ドライアド)と出ている。レベルは21。魅了と幻影の種族固有スキルを持っているようだ。

「こんな夜中に、そんなに急いでどちらにおいでですか? よろしかったら一献いかがですか?」

 彼女がそういって指し示す先には、どこか中国風の朱と金をふんだんに使ったテーブルとイスが並べられ、その上には酒盃と沢山の料理が並べられている。
 ドライアドと言うよりは、狐に化かされているような感じがする。

 テーブルに気を取られている間に近寄ったドライアドが腕を取る。柔らかな感触が腕に伝わる。
 ポヨンポヨンとした感触に飲まれそうになるが、ミーアを忘れてはいけない。

「悪いけど幻影に付き合ってるヒマは無いんだ、何か用があるなら早く言ってくれないかな?」

 オレがそう言うと幻は消え、足元までの長い緑色の髪と肌をした少女が現れる。年のころは12、3くらいだろうか? さっきの感触も幻だったのか彼女のスタイルは実につつましい。お陰でエロスを感じにくいが全裸のまま隠さないのは止めて欲しい。もう少し慎ましさが欲しいな。
 さっきまでの妖艶な顔から打って変わって険のある表情だ。怒り慣れていない子供のように迫力が無い。

「わたしのモノになれ、ニンゲン!」
「悪いけど、プロポーズなら7~8年たってからにしてくれないかな?」
「ちがう、ゴハンになれ!」

 彼女が言うには、ここ数ヶ月の間に、この山の木々が枯れ獣達が姿を消したらしい。さらに最近は、山の地脈が途絶えて彼女も死にかけているらしい。
 やっぱり「トラザユーヤの迷路」のせいなんだろうな。

「お前達ニンゲンが山の糧を吸い取るからだ」
「少しくらいの魔力やスタミナなら分けてあげるけど、食べられちゃう訳にはいかないんだ」

 どうも子供相手だと強く出れない。

「魔力をくれるなら食べないでいてやる」
「それは良かった」

 彼女がMPを吸い取るに任せる。てっきり吸血鬼みたいに首筋から吸うのかと思ったら口を直接吸ってきた。簡単にいえばキスだ。
 年端も行かない全裸の少女とキスなんて姿、知り合いには見せられないな。

 300MPほどで少女が満足してくれた。
 その後は大した障害も無く、オレは山頂にある迷路の入り口に辿り着いた。

 主人公には「幼女ホイホイ」という称号を与えてもいい気がします。


※サトゥーの読む本に「迷宮都市の迷路が200階層まで探索されてさらに先がある」と書かれていますが、著者のマッピングによるもので事実と異なります。
 正しいのは迷宮都市編のサトゥーのマップ情報となります。
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