16-77.サガ帝国、帝都の戦い(7)
「さあ、反撃よ! アリサちゃんの本気を見せてあげるわ」
ラミアの魔王を見つめアリサが宣言した。
アリサの身体の表面で淡い紫色の光が瞬いている。
それはユニークスキル「全力全開」と「不倒不屈」の発動の証。
かつてザイクーオン神にさえ届いたアリサの格上殺しの必勝コンボだ。
「メテオで殺し損ねた事を後悔するのね」
「アリサ――」
気遣うヒカルにアリサが小さく首を振る。
「拙速は巧遅に勝るってね」
アリサが対神魔法ではなく、上級空間魔法の空間破壊を叩き込んだ。
認知外からの攻撃に魔王のアイギスが対応できないのは、勇者二人が証明してくれた。
ユニークスキルで何倍にも威力を高められた一撃が、魔王の防御を食い破り、その身体をズタズタに引き裂く。
さらに止めを刺すようにルルの浮遊砲台の主砲から、特大の聖弾がラミアの魔王の頭部に襲いかかったが、それはアイギスによって阻まれた。
◇
「ラミ子さん、大丈夫?」
『大丈夫、ナイ』
勇者フウの問いかけに、平坦な声が返る。
「僕に何かできることある? 僕ができる事ならなんでもするよ?」
魔術の司の力を使った回復魔法を使いつつ、勇者フウが問いかける。
『デキル、アル』
「本当? ならやっちゃって!」
それが何かを聞かずに勇者フウが安請け合いをした。
『危険、アル』
「ラミ子さんと一緒なら、危険なんて平気だよ! ボクらは一心同体なんだから!」
勢いで宣言する勇者フウの顔が赤い。
魔王の逡巡を反映して肉壁が数度明滅する。
「……ラミ子さん?」
『一心同体、ナル』
無言に耐えかねた勇者フウが掛けた声に返事があった。
勇者フウを守る部屋の壁が脈打つ。
「ラミ子さん? 何を――」
最後まで問いを続ける事ができないうちに、上下左右の壁が勇者フウを呑み込んだ。
『一緒、ナル』
バキバキ、ゴキゴキと骨が砕ける音と繊維が引きちぎれる音がしばらく続いた。
『権能、エタ』
魔王の身体に四つの青い光が点った。
それは勇者フウが宿していたパリオン神の権能――ユニークスキルを得た事の証かのように。
◇
「――魔王が消えた?」
身体に四つの青光を宿した魔王が忽然と姿を消した。
「アリサ、分かる?」
「ダメ、分かんない――タマ!」
『にゅ~、いるけどいない~?』
アリサの空間魔法でも、忍者タマの感知でも現在位置を把握できないようだ。
『上! なのです!』
ポチの警告と同時に、御座の上に魔王が現れ、二本の聖短剣を御座に突き立てた。
聖短剣と御座を守る障壁が拮抗し、激しい火花と紫電を撒き散らす。
「うそっ!」
それを見上げたアリサが悲鳴を上げた。
たった一度の攻撃で御座を守る防御障壁が砕け散ったのだ。
「緊急退避!」
ナナが御座を滑るように移動させ、魔王の追撃から逃れる。
「積層巨盾」
「超隔絶壁」
ヒカルとアリサの防御魔法が発動し、魔王の攻撃と相殺されて砕けた。
その向こうから魔王の蛇髪ビームが飛んでくる。
「ファランクス!」
ルルの鎧に装備されていた使い捨て防御盾がそれを防ぎきったところで、ナナが御座の防御障壁を復活させた。
それを確認した魔王が、青黒いオーラを纏った後、再び姿を消した。
ナナがランダムに空中で位置を変え、再び同じ手を喰らわないようにする。
「タマ、みんなを連れて戻ってきて」
『あいあいさ~』
アリサの影からリザとポチが現れ、少し遅れてタマが勇者二人を連れて戻ってきた。
「うわ、ここどこ?」
「派手鎧に紫髪――勇者ナナシ!」
「それじゃ、ここはあの球体の中か!」
「あら? この子達も連れてきちゃったのか――」
アリサが少し思案してから、問いかける。
「――魔王の場所とかって分からない?」
「セイギ」
「分かるよ」
勇者ユウキが声を掛けると、索敵が得意な勇者セイギが頷いた。
「あれは魔王が奪ったフウのユニークスキルだ」
「奪った? 勇者フウが魔王に協力しているんじゃなくて?」
「うん、俺の『邪悪探索』は魔物や悪意を持つ者の位置が分かるんだ。さっきまでは魔王の中にフウがいるのが分かってたんだけど、青い光が点る直前あたりでそれが消えた……たぶん、魔王に喰われたんだ」
沈鬱な表情でセイギが話す。
「魔王の現在位置の特定を要望すると告げます」
そこにナナが空気を読まずに要求した。
「ごめん、魔王が使っているフウのユニークスキルは『存在未定』っていう自分の存在を希薄にして広い範囲に遍在させる力だって言っていた。それで――」
言葉の途中で勇者セイギが青い光を帯びる。
「――それは俺のユニークスキル『正義心眼』とすごく相性が悪いんだ」
勇者セイギは悪を見抜く為にしか使っていなかったが、このユニークスキルは「邪悪探索」と合わせて使う事で、もう一つの力を発揮する。
「お前はそこだ!」
勇者セイギが指さした場所に魔王が現れた。
これは勇者の合同訓練時に、勇者フウの居場所を突き止められていなかった勇者セイギが、あてずっぽうで指摘した時に、偶然見つけた効果だ。
魔王が出現すると同時に、ルルの浮遊砲台の副砲が火を噴き、リザとポチの武器から魔刃砲が放たれた。
魔王はすぐさまアイギスを張ったが、過半数の攻撃を食らって背後へと吹き飛ばされる。
「フウの持ってたユニークスキルは四つ」
勇者セイギが空気を読まずに解説する。
「さっき使ってた『存在未定』」
仰向けに倒れた魔王の喉元に、レッサー・フェンリルが喰らいつく。
「存在未定とセットで使う『転移自在』は目視範囲を自在に転移できるユニークスキル。魔力もほとんどいらないんだってさ」
ヒカルは対魔王用の禁呪を詠唱しつつ、そのユニークスキルがサトゥーの持つユニット配置の劣化版のような能力だと感想を抱いた。
その横ではヒカルに遅れて、アリサも対魔王用の禁呪詠唱を始めていた。
「どういう理屈か分からないけど、防御無効で一撃必殺の『奪命毒手』。たぶん、さっきこれの結界を破壊したヤツだ。相殺に持っていけたって事は、これも勇者のユニークスキルだったりするの?」
「マスターの作った装備だと回答します」
「マジで! すごいな、あんたのマスター」
勇者ユウキの褒め言葉に、ナナを始め獣娘達が嬉しそうに口元を緩めた。
その奪命毒手による攻撃は頻繁に使えないのか、魔王はレッサー・フェンリルを蛇髪で石化しつつ、両手に持った短剣でその胴体を滅多刺しにしている。
「広範囲の無差別ザコ排除技の『虐殺共鳴』。これも術理魔法系や神聖魔法系の防御壁を突破するから注意して」
「あれもヤバイよな。最初のテストで、テスト用の魔物達だけじゃなく、記録を取ってた文官達や見物していたメイド達が何人も死んじゃってさ。フウが引き篭もる原因になったんだよな」
それは勇者フウだけの責任ではないとアリサやヒカルは思ったが、詠唱を中断する訳にもいかず、もやもやとした気分になる。
「いや、引き篭もったのは大勢死んだのをフウのせいだって責任転嫁してきたダメ従者のせいだろ?」
「ああ、その父親のバカ大臣もだよな」
レッサー・フェンリルを倒した魔王が、再び「存在未定」で姿を消した。
「詠唱完了」
「こっちも終わった」
アリサとヒカルの杖が危ない感じの光を帯びる。
禁呪を待機状態で保留するのはなかなかリスキーらしい。
「セイギっち、もう一度さっきのできる?」
「何度でもできるけど、向こうからも見えているから、アイギスを張られちゃうんじゃない?」
「大丈夫。グリーン、ダミー・フェンリルを召喚して。できれば三匹くらい」
「ん ■■■■■■■ 偽魔狼王創造」
囮用のダミー・フェンリルが御座の前に現れた。
先ほどのレッサー・フェンリルとそっくりだ。並べてみると白金色の体毛に神々しさが欠けていると分かるのだが、普通に見る分にはその違いは分からない。
禁呪の「神話喰狼」や「魔狼王創造」とは比べものにならないほど短い詠唱時間だ。
ミーアは続けて二匹のダミー・フェンリルを呼び出す。
「偽落神黄昏?」
「そう、それを囮にするの」
「任せて」
ミーアがダミー・フェンリルに指令を出すと、ダミー・フェンリルが大きく開いた口の前に、いかにも凄そうな魔法陣が六つ現れ、その六つを内包する更に巨大な魔法陣が生まれる。
魔法陣は予めプログラムされた通りの幻影を再生していく。
「これで、オッケー。私と勇者ナナシが消えたら、さっきのをやって魔王を出現させて」
勇者セイギが頷くのを確認したアリサが、タマの方を振り返る。
「ピンク、私達をあそこの壊れた塔の陰に連れていって」
アリサが指定したのは、先ほど魔王が現れた位置を十字砲火できる場所だ。
禁呪を待機状態で保留している状態では、いかにアリサといえど自力で転移をするのは難しいようだ。
「あいあいさ~」
二人が消えると同時に、勇者セイギがユニークスキルを発動した。
魔王は再出現すると同時に、自身の前にアイギスを展開する。
「撃って」
ミーアの指令を受け、ダミー・フェンリルが偽必殺技の幻影を発射のモノに変更する。
その頃、タマの忍術で移動したアリサ達が、保留していた発動句を唱えていた。
「神話封滅」
「神話崩壊」
二人の対神魔法が発動した。
その傍らで、両目をしっかりと閉じ、両耳を手で塞いだタマが二人に背を向けてしゃがむ。
轟音と共に二つの禁呪が魔王に炸裂した。
虹色に煌めく無数の光の帯が魔王に巻き付き、魔王の身体を拘束しつつ侵食する。
悲鳴を上げる魔王にアリサの「神話崩壊」が着弾し、魔王の上半身を消し飛ばした。
「ちょっち上に向けすぎたわ」
アリサの反省が終わるよりも速く、残っていた尻尾がラミアの魔王へと復元していく。
「なんくるないさ~」
タマはそう言って、足元の影に飛び込んだ。
彼女の役割を果たすためだ。
「まあ、いいじゃない」
ヒカルはアリサを慰めながら再生する魔王を眺める。
早くも元の身体を取り戻しつつある。
失った装備品までは再生できないようで、最初に現れた時のような裸体だ。
もっとも、その顔や肌は歪に脈打ち、かつてのような色気を感じる者はいないだろう。
――LWUHUAMZIEEA。
咆哮を上げるラミアの魔王の身体から、四つの青い光の欠片が離れて消えていく。
瓦礫の合間を抜け魔王に三つの影が迫る。
「一の太刀~? 『竜刃喰牙』」
無数に分身した忍者タマが、必殺技で魔王の身体を覆う防御障壁を破壊し尽くす。
ダミー・フェンリルの攻撃を警戒してアイギスを向けられない魔王が、蛇髪の石化シャワー攻撃で害虫を払うようにタマの分身を蹴散らした。
その隙にポチが続く。
「二の太刀、『魔刃螺旋突撃エクセリオン』なのです!」
白竜リュリュに掴まり、竜牙剣を構えたポチが、黄金鎧の加速陣を使って突撃し、防御障壁を失った魔王の身体を頭上から貫いた。
魔王が絶叫を上げ、白竜リュリュに向かって石化ブレスを吐いた。
もっとも、普通のブレスが白竜の飛行速度に追いつけるはずもなく、むなしく空中に散っていく。
背後からリザが迫る。
「三の太刀、『竜槍貫牙』」
強化外装で加速したリザが、魔王の延髄を貫き抉った。
実はポチにも「竜翼牙突貫」という必殺技があったのだが、今回の出撃までの間に修得する事ができなかったのだ。
「撃ちます!」
力なく崩れゆく魔王に向けて、ルルが浮遊砲台の全ての武装を向け、飽和攻撃を仕掛けた。
魔王の身体から肉が剥がれ、骨が砕けていく。
「うわっ、えげつねぇ」
「女は怖ぇえ」
その情け容赦のないダメ押しに、勇者セイギと勇者ユウキが引いていた。
「やるる~?」
御座に戻ってきたタマが勇者二人に問いかけた。
二人の勇者が、お互いの顔を見て頷き合う。
「そうだな。ボクもフウの仇を討つよ。そんなに話した事がない相手だけど、同じクラスメイトだしな」
満身創痍になりつつも、まだ息がある魔王に向けて、勇者ユウキが火魔法「火炎地獄」を使う。
ルルの攻撃で肉体の再生維持がおぼつかなくなっていた魔王の身体から肉が焼け落ちた。
「悪いけど、連れていってくれる?」
「あい」
タマに連れられた勇者セイギが、骨と髪だけになった魔王の上に現れた。
どうみても生存しているとは思えない有様だが、まだ魔王の活動は止まっていなかった。
勇者フウによってアンデッド化されていただけあって、実にしぶとい。
「あちっ、あちちち――あれ? 熱くない?」
「水遁の術~?」
そういえばそんな忍術もあったかな? と忍者モノに詳しくない勇者セイギは簡単に納得した。
「≪裁け≫」
勇者セイギが聖句を唱えると、聖剣が青く輝いた。
「――断罪の剣」
ユニークスキルの力を帯びた聖剣が、ラミアの魔王の頭蓋骨に突き立てられた。
黄金騎士達の馬鹿げた攻撃力と比べればささやかだったが、尽きかけていた魔王の生命力を奪い切るには、それで十分だったようだ。
魔王が活動を止め、末端からガラガラと崩れていく。
「さよなら、フウ」
アンニュイな顔で勇者セイギが彼方を見つめて呟いた。
白骨が砕け落ち、黒い靄となって消えていく。
それは勇者セイギの足元も含む。
「うわわわっ、落ちる。死ぬ。助けてぇえええええええええ」
「なんくるないさ~」
慌てふためく勇者セイギをしばらく眺めた後、忍者タマが安全な場所へと連れていった。
「こっちはこれで終わりかしら?」
「うん、あとはあっちだけね」
仲間達のいる場所に再集合したアリサとヒカルが大きく伸びをする。
「災害救助が残っていると告げます」
「あー、そうだったわね。災害復興はシガ王国や周辺諸国に任せるとして、シェルターの何カ所かで天井が崩落したみたいだから、順番に助けて回りましょう。ご主人様からヘルプ依頼が来るかもしれないから、皆一緒に行くわよ」
「承り~?」
「はいなのです!」
アリサの掛け声で仲間達が移動を始める。
「なあ、ユウキ」
「なんだよ」
疲れ果てて動く気になれない勇者二人が大きな瓦礫の上で言葉を交わす。
「バケモノみたいに強い勇者一行のご主人様って誰だと思う?」
「さあ? 神様かなんかだろ?」
勇者ユウキは勇者セイギの言葉に適当な返事をし、大の字で寝そべって「ボクは疲れた」と宣言するなり、そのまま眠りに落ちてしまった。
「いい加減なヤツだな。まあ、いいや俺も疲れた」
勇者セイギはそう言って、勇者ユウキの横で自身も大の字になって目を閉じた。
それに文句を言う者はいないだろう。
彼らの帝都での戦いは終わったのだから。
◇
――時は少し遡る。
「うぉおおおお」
聖域の玉座から落ちそうなほどの激震に、皇帝は思わず悲鳴を漏らした。
「魔王め……好きに暴れられるのも今のうちだ」
先ほどの激震をもたらしたのは、魔王ではなく、魔王を攻撃する勇者達によるモノだ。
都市を監視する機能を立ち上げていれば、皇帝にも分かったはずだが、彼は今、神を名乗る者から与えられた機能を使うのに全力を尽くしていた。
その機能はサガ帝国を統べる都市核のリソース全てを使い切る、恐るべきモノだった。
「もうすぐ、もう少しだ」
熱に浮かされるように呟く皇帝の前に、虹色の光が集まって宝珠のような物を形成しつつあった。
もし、ここにパリオン神国での一件に立ち会った者がいたならば、それが神さえも封じる「封神の虹石」と雰囲気が酷似していた事に気付いただろう。
やがて、宝珠が巨大な鍵の形に変形した。
美しい虹色だった宝珠がいつの間にやら、黒くくすんでしまっている。
「地上は我ら人族のモノだ。お前達の好きにはさせぬ」
皇帝が壮絶な笑みを浮かべ、鍵に手を伸ばす。
「サガ帝国の御霊よ――」
鍵を杖のように持ち、皇帝が都市核に呼びかけた。
※次回更新は、12/9(日)の予定です。
※2018/12/2 活動報告に記事「新誤字報告システムについて」を投稿しました。
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