16-74.サガ帝国、帝都の戦い(4)
※2018/11/13 誤字修正しました。
※今回はサトゥー視点ではありません。
「うげっ、これはすごいわ」
帝都を烈震が襲った。
建物が粘土細工のようにぐらぐらと揺れる。
「ろっくんろ~るぅ~?」
「危険が危ないと告げます」
「アリサ、タマちゃん、ナナさん! こっちに避難してください」
浮遊砲台のルルが仲間達を呼ぶ。
アリサを抱えたナナが飛び乗り、タマがにゅるんとした動きで浮遊砲台の先端に居場所を確保した。
周囲の家屋が倒壊し、浮遊砲台の方へと崩れてくる。
「乗ったわ!」
「わかった!」
アリサの報告を受けて、ルルが浮遊砲台を前進させる。
「ナナ、浮遊砲台のガードお願い。私は隔絶壁で――」
「指示を受託したと報告します」
小さな落下物や土煙は、重ねたナナの自在盾の屋根が防ぎ、大きな落下物はアリサの空間魔法「隔絶壁」が受け流した。
「崩れるる~?」
「大変! お城が!」
タマが前方を指さす。
帝都中央にある帝城の塔が倒れていくのが見えた。
「ちょっと索敵する」
「分かった。大きな瓦礫は私とタマちゃんに任せて。いい、タマちゃん?」
「あい」
ルルが浮遊砲台の対空砲で大きな瓦礫を砕き、タマが風遁の術でそれを吹き飛ばす。
普通の風遁は砂埃を立てて追っ手の目くらましをするような技なのだが、きっと猫忍者タマの卓越した能力がそれを可能にしているのだろう。
◇
「じ、地震?」
「こんなに大きな地震なんて、日本にいた頃もなかったぞ!」
勇者セイギと勇者ユウキが悲鳴を上げつつ、周囲を見回す。
彼らの立つ城壁は波打つように揺れ、いつ倒壊してもおかしくない状況だった。
――LYURYURYUUU。
「何か来るのです」
騎竜の呼び声に、ポチが頷く。
「何か?」
「ん、離れる」
疑問の言葉を漏らすリザの足をポンと叩いたミーアが、風に乗ってポチの後ろ、白い下級竜リュリュの背に乗った。
「リュリュ、てーくおふなのです」
――LYURYURYUUU。
ポチに命じられ、白竜が飛び上がる。
リザも跳躍し、白竜の伸ばした腕に掴まった。
「ふぉろーみ」
ミーアの声は建物が倒壊する轟音に掻き消えたが、召喚していた疑似精霊のレッサーフェンリルに届いたらしい。
レッサーフェンリルは倒壊する瓦礫の上を器用に飛び跳ねて、ミーアの後ろをついていく。
「君らも飛びなさい」
空に浮かぶヒカルに手を引かれ、勇者セイギと勇者ユウキが飛翔靴の事を思い出して魔力を篭めた。
彼らが空に舞うのと同時に城壁は崩れ、敷地内のいくつかの建造物もまた倒壊していく。
「げっ、城が」
轟音に負けないほどの声で勇者セイギが叫んだ。
中央にある城郭が土煙の向こうに沈んでいく。
「セイギ、あれを見ろ! 地面の下!」
勇者ユウキが指さす先、濃い土煙の向こうに、巨大な黒い人影のようなモノが見えた。
◇
「ゆ、ゆれ、揺れる」
「にげ、逃げないと」
「て、天、天罰が再び下されたのか?」
「ええい、馬鹿を申すな!」
「そうとも! パリオン神の寵愛深いサガ帝国に、天罰などありえぬ!」
大臣達や使用人達が立っていられないほどの揺れに負けて、腰を抜かして座り込んだり、手近な柱や人に掴まったりしながら狼狽している。
「へ、陛下! 帝都の力で地震を――」
「魔王が滅んだ今、帝都の防御よりも――」
側近達の言葉の途中で、縦方向に大きく揺れた。
床から浮き上がり、その後、地面に叩き付けられた人達が悲鳴を上げる。
例外は玉座に守られていた皇帝と側近、あとは柱に掴まっていた騎士達くらいだ。
「な、何が――」
皇帝が都市核を使って状況を知ろうとするよりも早く、縦方向に沈み込んだ。
激しく揺さぶられながら、体感的に自由落下かと思えるほどの速度で沈下する床に、謁見の間の人々が恥も外聞も無い悲鳴を上げた。
「サガ帝国の御霊よ――」
舌を噛みそうになりながらも、皇帝が手の中の王錫を握りしめて叫ぶ。
「我が忠臣達を守れ! ■ 守護殻」
底まで落ちたのか、突然床の沈下が急停止する。
人々が床に叩き付けられる寸前、皇帝の使った都市核の魔法が発動して謁見の間にいる人々を青い光の球体が守った。
もっとも守られたのは人だけで、強烈な反動で壁や天井の装飾が大量の埃と共に落下してくる。
青い光の球体は地面に叩き付けられた衝撃の大部分や落下してきた瓦礫から人々の命を守り切り、そののちに砕け散った。
――LWUHUAMZIEEA。
「う、ううぅ……」
地獄の底から聞こえてくるような怖気をもたらす咆哮が、僅かの間、気を失っていた皇帝の意識を覚醒させる。
謁見の間には遠くから響く重低音に紛れて、うめき声やすすり泣く声が聞こえ、それが人々の生存を皇帝に報せた。
「だ、誰かある――」
それに答える側近はいない。
轟音と共に謁見の間の壁が割れ、そこから牛のような角が生えた裸の女性の上半身が現れた。
女性は角を除いても人族ではありえない。牛を二足歩行にした牛頭族という種族はいるが、あれは頭が牛だ。
目の前にいる人族の女性に角を付けた種族を、皇帝は知らない。
それに、大きすぎる。上半身だけで謁見の間の天井に届きそうだ。三〇メートルを超える吹き抜けの謁見の間の寸法を考えるまでもなく、巨躯を誇る巨人よりも大きい。
紫色の光を帯びた瞳が、皇帝を捉えた。
その瞳にあるのは狂気のみ。
「ま、魔王」
呻くように皇帝が呟く。
その呟きに根拠はなかったが、狂気とともに発散される圧倒的な恐怖が、彼にその女性の正体を悟らせていた。
「サガ帝国の御霊よ――」
皇帝は震える声で都市核に働きかける。
――LWUHUAMZIEEA。
暗紫色の光が牛角女の身体を流れ、彼女の長い髪に集まっていく。
髪がひとりでに細い三つ編みに編まれていき、無数の三つ編みの髪が蛇のように鎌首をもたげた。
髪の先端が蛇の口のように開き、暗紫色の光が充填されていく。
「我が身を聖域へ退避させよ! ■ 聖域帰還」
皇帝の姿が消えた直後、暗紫色の光がレーザーのように放たれて謁見の間を蹂躙する。
皇帝は間一髪で逃れられたが、もし彼が臣下達を救うために、「聖域帰還」以外の都市核魔法を使っていたなら、彼自身も臣下達と同様に消し炭、あるいは床に残る人型の黒い焼け跡になっていただろう。
「逃げられちゃったね、ラミ子さん。追いかける前に裸なのをなんとかしよう。ラミ子さんの裸を見ていいのは僕だけなんだから」
いつの間にか、牛角女の耳元に薄汚いローブ姿の少年がいた。
「ゆ、勇者フウ! なぜ、勇者が!」
「へー、ラミ子さんのスネークビームで生きてたんだ。すごいね」
頭から血を流し、片腕を失いながらも、近衛騎士団の団長は生き延びていた。
皇帝を守るために研鑽を積み、さらには歴代勇者達が遺してきた聖なる武具を身につけていたからこその奇跡だろう。
「裏切ったのか! サガ帝国を! パリオン神を!」
満身創痍の団長が、勇者フウを糾弾する。
その言葉が勇者フウの逆鱗に触れた。
「……裏切った、だと? ふ、ふ、ふざけるな!」
さっきまで死んだ魚の目をしていた勇者フウの目に、激しい憎悪の色が宿る。
「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! 裏切っただと? 寝ぼけた事を言うな! 僕は始めからお前達の仲間じゃない! 返せよ! オレのゲームを! 漫画を! アニメを! 三食昼寝付きのネット生活を!」
激昂した勇者フウが、心の底からの本音を吐露する。
その内容は少々人としてどうかという内容も含まれていたが、同意も得ずに一方的に異世界へ召喚された彼の本音だった。
「お前達が奪ったんだ! アルティメットのキャラを育てるのにリアルで五年も掛けたんだぞ! ソロで頑張って城だって建てた! でも、もうそれもきっと残っていない。お前達が拉致ったお陰で、城のリフレッシュができなくて朽ちたに違いないんだ! 僕の五年を返せ! 僕を元の世界に帰せ!」
「な、何を……」
理解できない内容に、近衛騎士は「気が触れたか」と失礼な感想を呟いた。
「お前らはいつもそうだ! 自分の知らない価値観を否定する! そうやってマウントとって楽しいか?! 楽しいんだろ! そうなんだな!」
「ええい、世迷い言を!」
団長が腰の聖剣ブルートガングを抜く。
幾代か前の勇者が帰還の際に遺したモノだ。
「皇帝陛下の御名において、サガ帝国の御霊に願い奉る!」
聖鎧に埋め込まれた、帝都の都市核端末が青い光を帯びる。
「我に悪鬼羅刹を討ち果たす力を! ■ 倒魔光刃」
聖剣に青い光が宿る。
「≪魁≫ ブルートガング」
団長が聖句を唱えると、聖剣の青い光が激しく瞬く。
「この一撃に全てをかける。秘奥義――」
命を燃やすかのように、団長はさらに魔力を剣に注いでいく。
「閃光延烈斬」
全身のバネを使って振り切られた聖剣ブルートガングから、眩い光の刃が放たれた。
それは勇者ハヤト・マサキが得意とした必殺技だ。
「ラミ子さん」
――LWUHUAMZIEEA。
牛角女の前に暗紫色の巨大魔法陣が現れた。
直後、光の刃が巨大魔法陣に激突し、閃光と轟音が謁見の間に満ちる。
「ばーか」
勇者フウのその声は轟音にかき消され誰の耳にも届かなかった。
彼がその言葉を投げかけたであろう団長は、巨大魔法陣に跳ね返された自分自身の攻撃で真っ二つになって床に転がっていた。
「汚いシミだ、だっけ?」
勇者フウが何かのうろ覚えのパロディを口にしながら、同意を求めるように牛角女に顔を向ける。
「ああ、まだ裸のままだったね。そのへんのメイドから服を貰おう」
明らかにサイズが違うにもかかわらず、牛角女は勇者フウの妄言に異を唱える事なく、消し炭になっていなかったメイドの遺体に蛇髪を伸ばした。
蛇髪の先端に宿った暗紫色の光がメイドの遺体を包むと、その身体から服が消え、裸だった牛角女の身体にメイド服が装備された。サイズ違いや体形違いは補正されるらしい。
同じ手順で騎士の鎧が消えると、牛角女のメイド服に融合してファンタジー系の戦闘メイド服に進化した。
「へー、装備進化か。面白い技だね。よく似合っているよ、ラミ子さん」
――LWUHUAMZIEEA。
見つめ合う牛角女と勇者フウだったが、不意に牛角女が勇者フウを掴んで振り回した。
いや、違う。
身体を捻りながら自分の乳房の間に勇者フウを隠し、その対角方向――彼女達が現れた方角に反対側の手を伸ばして、延長線上に三枚の巨大魔法陣を張ってみせた。
天井を貫いて現れた、煌めく光の柱の雨が一枚目の巨大魔法陣に激突し。
青と赤の業火がその後を追うように吹き荒れた。
団長の閃光延烈斬が反射されたように、光の柱も青赤の業火も跳ね返され、地に埋まっていた城郭の天井もろとも吹き飛ばした。
◇
「危なかった~?」
「ブラックのドローンで偵察してなかったら、ヤバかったわね」
八つの影が夕日を背に姿を見せた。
「誰だ!」
勇者フウが誰何する。
その言葉を待っていた黄金騎士レッド――アリサの口角が上がる。
「よくぞ聞いてくれたわ!」
アリサが戦隊ヒーローものでよくあるポーズを取る。
それに合わせて、イエローとピンク、そしてホワイトとグリーンが練習したアクション付きポーズを嬉しそうにとる。ブラックやオレンジ、それに勇者ナナシは少し恥ずかしそうだ。
勇者フウはお約束を分かっているのか、攻撃もせずにそれを見守っている。
「わたし達は――」
――LWUHUAMZIEEA。
お約束を知らない牛角女が、蛇髪から暗紫色の光線を放った。
「させないよ、と告げます!」
黄金騎士ホワイト――ナナの鎧に装備された後期型「不落城」モードを発動し、光線を受け止める。
空間魔法式の浮遊盾が光線を受け止めて、激しい火花や紫電を散らした。
ぴしりっ。
轟音の中で、その小さな音がナナの耳に届いた。
「全員退避と告げます」
「げっ、マジ?」
アリサの空間魔法で、全員が安全圏へと転移する。
その場に残されたキャッスルの浮遊盾が石のような質感に変わり、ぱらぱらと崩れていく。
「こりは予想外。今度の魔王は一筋縄じゃいかないみたいね」
「設置型のキャッスルとは相性が悪いと報告します」
「なら、温存はなし。御座を使っちゃって」
「イエス・レッド。装備換装を実行します」
ナナと会話しながら、牛角女を鑑定していたアリサが顔をヒカルに向ける。
「勇者様、牛角女の情報見える?」
「レベルが95っていうのと、名前がラミ子っていうのだけ。種族も不明」
「そっちもか……神様印の鑑定なら、相手が隠蔽していても、もう少し見えるもんなんだけど」
勇者として召喚されたヒカルにも、転生者として神の欠片を与えられたアリサにも、牛角女の詳しい情報が分からないらしい。
転移して空中に浮かぶアリサ達を追って、牛角女の蛇髪レーザーが飛んでくる。
「おおっと」
アリサが仲間達を連れて短距離転移する。
「盗神なんちゃらシリーズかな?」
「まあ、三つの『盗神の装具』以外にあっても不思議じゃないわね。魔素迷彩もあるけど、あっちは燃費が悪すぎるから」
牛角女が魔王である事は二人とも疑っていない。
明らかにユニークスキルを使っているからだ。
「種族はミノタウロスか有角巨人あたりかしらね」
「ミノさんはもっと小さいし、顔が牛だから違うと思う。牛角族は――たぶんいなかったと思う」
城郭跡から、ぬらりと牛角女が上がってくる。
その下腹部は鱗に覆われ、足ではなく蛇のような下半身が続いていた。
「わたし、わかっちゃったかも」
「奇遇ね、私にも分かったわ」
アリサとヒカルが牛角女の種族を看破した。
蛇の髪と蛇のような下半身を持つ存在は、この世界でも多くない。
「あんびりーばぼ~」
「ヤバヤバなのです!」
牛角女の周りに現れた無数の魔法陣を見て、タマとポチが警告する。
魔法陣の垂直方向に攻撃が出ると仮定したら、短距離転移で安全な場所は見当たらない。
「全方位攻撃が来るわ! ホワイト――」
「イエス・レッド。御座 起動と告げます」
装備換装を終えたナナが、きりりとした顔で宣言した。
※次回更新は、11/18(日)の予定です。
【宣伝】
「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」最新15巻は発売中です。
(ほとんどの)電子書籍サイトで、昨日からデスマ15巻の電書版配信が始まっていますので、そちらもよろしくです。
見所や特典など、詳しくは活動報告をご覧下さい。







