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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十六章

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16-73.幕間:留守番組と世界の小さな異変(2)

※2018/11/13 誤字修正しました。

※今回はサプライズ更新の幕間その2です

「あなたが悪ね!」


 シガ王国の侯爵令嬢チナが、手に持った「正義の鈴」が鳴ったのを理由に、自分を危地から救った元魔狩人のコン少年を指さして糾弾した。


「チナ、お礼が先」

「そうだよ、チナ様。悪漢から助けてくれた恩人を、悪者扱いなんてダメだよ」


 目を丸くするコン少年や後ろで、彼の雇用主であるルモォーク王国のメネア王女やリミア王女が眦を決した顔になるよりも早く、チナの友人である翼人姉妹のシロとクロウが注意した。


「で、でもでも、悪を見つける『正義の鈴』が鳴っているんだもの!」


 チナが手に持った鈴を皆に見せる。


 彼女が主張するように、鈴がチリーンチリーンと涼やかな音を奏でていた。


 シロとクロウを伴うチナ、王女姉妹とコン少年、そして最初に悪漢の前に立ち塞がった騎士学舎の少年三人、その全ての視線が鈴に集まった。


「ふーん、鈴の中が空洞なのになるなんて面白(おもしれ)ぇー」


 コン少年が鈴の穴を覗き込んで感嘆の声を漏らす。


「なあなあ」


 くいくいと地面に座り込んでいた少年の一人がチナを手招きする。


「『悪』って、あれじゃ?」


 少年が指さす方を見ると、布で頭部を隠した怪しげな男がいた。

 へっぴり腰で何か大きな荷物を抱えている。


 その男にチナを始めとした子供達の視線が集まった。


「――ひっ」


 急に集まった視線に驚いた男が、短い悲鳴をあげた後、手を滑らせて荷物を落とした。

 ごとりと重い音を立てて荷物が地面に転がり、覆われていた布から中身が覗く。


 りーんりーんと鳴る「正義の鈴」の音が大きくなった。


「黒い水晶?」

「チナ、見て」

「怪しいわ! 間違いなくアレが悪よ!」


 チナが叫ぶと同時に、男は黒水晶を布で巻き直しながら逃げ出した。


「「「追え!」」」


 騎士学舎の少年達が男を追って駆け出した。


「私達も行くわよ!」

「たいほー」

「ま、待ってよ! このチンピラは放置でいいの?」

「巨悪の前に雑魚は無用よ! 衛兵にでも任せておきなさい」


 真面目なクロウに言い残し、チナとシロが駆け出す。


「面白そうだ。追おうぜ、リミア様」

「だ、だめよ、コン」


 引っ込み思案な妹姫の代わりに、しっかりした姉姫が釘を刺す。


「なんでさ、メネア様」

「あなたはリミアの護衛でしょ? 護衛対象のリミアを放置してどうするの?」

「放置なんかしないさ。一緒に行こうって言ってるんだよ」

「あんな怪しげな品を持つ人間がまともなわけないでしょう? リミアを危険な場所に連れていこうとするなんて護衛失格よ!」

「や、止めて。コンもメネア姉様も喧嘩は止めてください」


 口論するメネア王女とコン少年を、リミア王女が必死に仲裁する。


 その間にも黒い水晶を持った男とそれを追ったチナ達の姿は人混みの向こうに見えなくなってしまった。

 彼女達の知るところではなかったが、その黒い水晶と同じ品は大陸の各地で目撃されていた。





「まずいな……」


 ガルレオン同盟の盟主であるガルレオン市の港、その港に一隻の小型帆船が停泊していた。


「ジョン! ビールの樽を積み終わったわよ」

「後は食糧と水を積めば出航できるわ」


 小型帆船の舳先に立っていた黒髪の少年に、露出過多な衣装を着た二人の美女が先を争って話しかける。

 彼の名はジョンスミス。

 かつてルモォーク王国で王妹ユリコによって召喚された日本人の少年だ。


 ユニークスキルも高いレベルも持たず、裸一貫――いや、「埋没」スキルと内政チート手帳だけを頼りに異世界を旅した少年は、いくつかの幸運と持ち前の行動力と知識で、ついに小型帆船を所有するまでに成り上がった。


「水や食糧はどれくらいで積み終わる?」

「明日の夕方くらいじゃない?」


 風邪で休んでいたり、喧嘩で怪我をして作業を休んでいたりする人足達が多かったのよね、と美女が心の中で言い訳する。


 答えを聞いたジョンが「それじゃ遅い」と呟いた。


「追加の手間賃を払う。今日中に積み終わらせてくれ」


 ジョンの無茶な要求に、二人の美女が文句を言う前に顔を青ざめさせた。


「もしかして――」

「ああ、俺の『危機感知』スキルと『警戒』スキルがヤバイって教えてくれてる」

「「急がなきゃ!」」

「私は積み込みやってる親方に上乗せするから作業を急がせられないか交渉してくるわ!」

「それじゃ、私は追加の人足集めてくる!」


 美女達が小型帆船から飛び出していく。


 ジョンと旅をした間に、幾度もそれらのスキルに助けられた二人の顔は真剣だ。


「リリオ」


 ジョンは水平線の向こうを眺めつつ、望郷の念を込めて別れた元恋人の名前を呟いた。


 彼に焦燥感を伝えるスキルが見つけた危機は、すぐそこまで近付いている。

 持ち前の臆病さで、彼がその危機を脱する事ができるかは神のみぞ知る事だろう。





「――呼んだ、ルウ?」

「呼んでねぇよ。空耳だろ?」


 鎧の手入れをしていたルウは、リリオの呼びかけに手を止めて、首を横に振りながら答えた。

 彼女達がいるのはセーリュー伯爵領の領都セーリュー市にある「悪魔の迷宮」、その入り口を囲うように作られた迷宮駐屯地だ。


「そっか、呼ばれた気がしたんだけど、気のせいだったみたい」


 気のないリリオの言葉にうなずき、ルウが手入れに戻る。


「失礼します。イオナさんはいらっしゃいませんか?」

「マ、マリエンテール様!」


 ルウが整備していた鎧が地面に落ちるのも構わずに立ち上がって、騎士ユーケル・マリエンテールに敬礼した。

 彼はリリオやルウの分隊長だったゼナの弟だ。


「そんなに緊張しないでください。姉様から皆さんの事はよく伺っていますから、姉様と同じようにユーケルと名前で呼んでください」

「は、はい! 光栄であります」


 リリオが小さく「ルウがねぇ~」と呟いた。


 普段は男勝りなルウも、セーリュー市を襲った上級魔族達の撃退で大活躍した「英雄」ユーケルは特別な存在らしい。


「ユーケルっち、イオナさんは――」

「おい、リリオ! 失礼だろ! 年明けには男爵に陞爵されるんだぞ」

「ほーい。なら、騎士ユーケルで」


 ユーケルが「陞爵はまだ内示を頂いただけです」と訂正していたが、二人はそんな言葉を聞いていなかった。


「イオナさんなら、エチゴヤ商会に行ってるよ」

「エチゴヤ商会に?」

「うん、なんかゼナっちから届いたって言ってた」

「姉様から?!」


 シスコンの()があるユーケルは、姉の名前を聞くなり駐屯地を飛び出した。

 レベルアップによって速度を増した走りは、瞬く間に彼をエチゴヤ商会の支店へと到着させる。


「ユーケル様?」


 丁度支店から出てきたばかりのイオナとぶつかりそうになって、ユーケルが急停止する。


「イオナさん、姉様から――」

「ユーケル」


 息せき切って尋ねようとしたユーケルの口が、イオナの後ろから出てきた人物を見て閉ざされた。


「セーリュー伯爵領の騎士たるあなたが、そんなに慌てていては民が不安に思います。どんな時もどっしりと構えていなさい」

「は、はい、オーナ様!」


 オーナはユーケルの婚約者であり、パリオン神殿の元「神託の巫女」であり、彼が仕えるセーリュー伯爵の娘でもある。

 いつもは優しい光を瞳に湛える彼女も、叱る時は怜悧な光を宿す。


「ユーケル様、こちらは王都のエチゴヤ商会から送られてきた瘴気計です」

「王都のエチゴヤ商会? 姉様からでは?」

「いえ、クロ様からです」


 ユーケルの疑問に、オーナが答える。


「では、先日の病の――」

「そうです」


 オーナはサキュバス由来の病でしてしまった痴態を思い出して頬を染める。

 それを見たユーケルもオーナ以上に真っ赤な顔になってしまった。


 砂糖を吐きそうな顔で顔を背けたイオナだったが、するべき事を思い出して、甘い雰囲気を出し始めた恋人達の方を向き直る。


「――ごほんっ」


 イオナがわざとらしい咳払いをする。


「オーナ様、先ほどお伺いした病の件ですが――」

「待ちなさい。立ち話は危険です。エチゴヤ商会の部屋を少し借りましょう」


 そう言ってオーナ達はエチゴヤ商会の防諜機能付き会議室に場を移した。


「クロ様に頂いた薬品で、危険な状態にある者達や部署は回復できました。今回の瘴気計は表に出ない場所を探すためです」

「表に出ない場所ですか?」


 オーナはユーケルの確認に頷く。


「この瘴気計は試作品であまり精度が高くないそうですが、アンデッドが自然発生するほどの瘴気があれば反応してくれるそうです」


 オーナがエチゴヤ商会の支店長から聞いた内容を伝える。

 今までは神聖魔法か勘でしか探せなかった瘴気の濃い場所を、魔法道具によって探せるのだと利点を語った。


「魔族が潜んでいるのなら、この瘴気計が反応するはずです」

「分かりました。今からセーリュー市中を巡回してまいります!」


 走り出そうとしたユーケルを、オーナは「ユーケル!」という一声で制止し、騎馬で巡回するようにアドバイスをしていた。

 将来、オーナの尻に敷かれるユーケルを想像したのは、イオナだけではなかったはずだ。


「私達はゼナ分隊の皆と一緒に、近隣の村々や町を巡回に行ってまいります」

「お願いします、イオナ。これは心から信頼できる者にしか任せる事ができないのです」

「オーナ様のご信頼にお応えできるように全力で任務にあたります」


 イオナが敬礼してオーナの前を去った。


 ユーケルが「黒い水晶」を運ぶ犯罪ギルドの構成員を誰何(すいか)するのは、その日の日暮れ頃だった。





「変な黒い水晶?」

「ああ、ブライトン市のリナが送ってきた。なんでも近隣の村を守護している犬ゴーレムが、怪しげな男と一緒に咥えてきたらしい」


 首を傾げるムーノ侯爵に、ニナ執政官が報告を続ける。

 周りには侯爵領の幹部達の他に侯爵の家族も集まっていた。嫡男のオリオンの妻であるミューズは身重のため来ていない。前回の反省からオリオンの側近は無口な貴族青年が務めている。


「男は東方の小国群に拠点を持つ犯罪ギルドの構成員。水晶は瘴邪晶マイアズマ・クリスタルって名前の呪具だった。市内にある神殿の神官を全員集めて、浄化の儀式をさせてる。事後承諾で悪いね」

「無論構わないとも。呪具など残して、またもや魔族が跳梁する事になったら、サトゥー君に顔向けできないからね」


 ニナ執政官の言葉にムーノ侯爵が頷いた。


「少し前に市内で頻発していた住民の諍いや風邪なども、その呪具のせいだったのかしら?」

「それはないだろうね」


 ムーノ侯爵の長女ソルナの問いに、ニナ執政官が首を横に振った。


「市内の巡回だけでなく、市民達にも注意を呼びかけた方が良いのではないか?」

「それは止めた方がいい、オリオン殿」


 領軍をまとめるゾトル士爵が「よそ者を排除するだけに止まらず、過激な行動に出る者が現れかねない」と言葉を続けた。


「でも、主要街道だけじゃなく、間道全てを巡回するのは、領軍だけじゃ無理じゃないかな?」


 先日、ソルナとの結婚を果たした名誉士爵のハウトが、もっともな意見を出す。


「間道は大丈夫だ。リナからブライトン市にいるサトゥー子飼いの元探索者達を、間道巡回に回してもいいと手紙が来ていた。山沿いはコボルトの連中と森巨人がやってくれるそうだ。こっちもサトゥーが非常時の助力を頼んでくれていたらしい」

「また、ペンドラゴン伯爵か……」


 次期ムーノ侯爵である嫡男のオリオンが、実績名声ともに天井知らずの筆頭家臣の名を、苦々しげに呟いた。

 ペンドラゴン伯爵との関係を再構築しつつあるとはいえ、ここまで極端だと、心穏やかではいられないようだ。


「オリオン、あんたの懸念はよく分かるが、それは案じるだけ無駄だ」


 ニナがオリオンを窘める。


「無駄だと? 人ごとだと思って――」

「別に人ごとじゃないさ。それにね、サトゥーが本気で簒奪を企むような気概があるなら、ムーノ侯爵領じゃなくて、シガ王国そのものを乗っ取るさ」

「そんな馬鹿な……」


 オリオンが言葉の途中で口籠もった。


「不可能だと思うかい? あいつは民衆からの絶大な支持がある。あいつに憧れる貴族も多い。何せ、勇者と一緒に魔王を倒しちまったんだ。それも一緒に挑んだ仲間達を全て五体満足で連れ帰ってだ。侯爵、今までの勇者で、従者を全員無事に連れ帰れた勇者はいるかい?」

「いないことはないけれど、片手で足りるね。もっとも、サトゥー君本人は偉業をなしたとは全く思っていないようだったよ。ポチ君やタマ君を始めとした仲間達を無事に連れ帰るのは彼にとって当たり前の事なんだよ。そして、仲間達が健やかに暮らせるなら、それ以上は彼にとってどうでも良いことなんだよ、きっと」


 ペンドラゴン伯爵の最大の理解者であるムーノ侯爵の言葉に、オリオン以外の者達が皆頷いた。


「あいつを警戒するよりも、あいつの欲するものを与えて、臣従させる事に腐心しな。媚びる必要はないが、無駄に忠誠を試して離反させるんじゃないよ」


 ニナのその忠告で、会議は終了となった。


「では、巡回に行って参ります。ピナ、元武装メイドの侍女達を連れて城内の巡回を頼む。エリーナ、タルナ達武装メイドを連れて衛兵の手伝いに行け」

「承知いたしました」

「はいっす。行くっすよ、新人ちゃん」

「は、はい!」


 ゾトルは会議室の外に控えていた者達に命じて、自分もハウトを連れて領軍の詰め所へと向かった。



 その頃、かつてサトゥーが一晩で開拓した村では、猫ゴーレムの背に乗った子供達が、村長の老人の所に不審者を連行していた。


「爺ちゃん、門番の猫様が変なヤツを捕まえてきた」

「怪しいヤツじゃのう」

「じいじ、角がイッパイ入った袋も持ってたよ」


 袋を開こうとした幼女から、素早い動きで、猫ゴーレムが袋を取り上げた。

 幼女は知らなかったが、見る者が見れば猫ゴーレムのファインプレーに惜しみない拍手をしただろう。

 その角の名は「短角」、人を魔族に変える忌まわしき呪具だ。


「あー、返して」


 猫ゴーレムがぶんぶんと首を横に振る。


「どうやら、危ない品物のようじゃ。猫殿、悪いがこの(じじい)と一緒に領都まで来てくれるかのう」


 こうして、また一つ、事件が起こる前に陰謀は阻止されたのだ。





「マしター、来ないね」

「ナナに会いたい」


 桟橋で足をぶらぶらさせていたアシカ人族の幼児達が、大河を潜行する謎の舟を発見した。


「変なのいる?」

「変なのいるね」


 アシカ人族の幼児達を愛でていた港の人達が、その言葉に反応して水中を覗き込み、その怪しげな舟を見つけた。


 奇しくも、出航しようとしてたロイド侯爵とホーエン伯爵の乗る軍艦が、その報告を聞きつけ、新型の魔力砲や魔力魚雷で追いつめ拿捕してみせた。


「『自由の翼』の残党?」

「まだおったのか、まったく天ぷらを食う暇もない」

「然り然り。厄介事は早く終わらせて、サトゥー殿の揚げたエビ天が食いたいものだ」

「紅ショウガの天ぷらも、だ」

「さようさよう、揚げたてが喰いたいものだ」


 ロイド侯の配下による尋問によって、何者かが「自由の翼」の残党に金と瘴邪晶マイアズマ・クリスタルと呼ばれる黒水晶のようなモノを与えて公都でテロを起こそうとしていた事が判明し、その報告を受けたオーユゴック公爵は領内の貴族達やボルエハルト自治領に、領内の巡回を強化するように通達した。


 所変わって、ボルエハルト自治領のとある魔法屋では――。


「ジョジョリ、君は相変わらず美しい」

「ガロハル、そんな事を言って誤魔化さないで、ちゃんと売れる物を仕入れないとダメじゃない」


 魔法屋のテーブルに積み上がった火薬式銃器から、ガロハルは目を逸らす。

 買った時は大儲けできそうだと思った、なんて言い訳はきっと通じないだろう。


「いよう、ガロハル。硫黄を持ってきたぞー」

「どうだ、ガロハル。硝石を持ってきてやったぞー」


 ボルエハルト自治領のもう一つの魔法屋を経営するドンとハーンの兄弟が、麻袋に満杯の硫黄と硝石を運び込んできた。


「ガロハル、木炭なんて何に使う――ジョジョリ?! どうしてガロハルの店に?!」


 ドハル老人の一番弟子であるザジウルが、木炭の入った袋を投げ捨ててジョジョリの前に詰め寄った。

 どうやら、ボルエハルト自治領のドワーフ達は今日も平和らしい。





「――逃がさないわ!」


 王都の曲がりくねった裏通りに、幼女の声が木霊する。


「チナ、暴れないで」

「危ないよ、チナ様」


 シロに背負われたチナが、黒水晶を抱えて逃げる男を追う。

 大きな荷物を持っているにもかかわらず、男の逃げ足は速い。


 もちろん、シロとクロウが本気になれば、すぐにでも追いつけるが、二人はチナが追跡を堪能できるように、速度を調整している。


 なお、騎士学舎の三人は、元傭兵の攻撃で受けたダメージが抜けきっていなかったのか、途中で脱落した。

 ルモォーク王国の王女姉妹や護衛のコン少年は最初から追跡に加わっていない。


 ――ちゅいちゅい。


 曲がり角で見失いかけた時、鼠が矢印の形を作って教えてくれた。

 シロとクロウの二人は、地下帝国の賢者鼠達にそっとお礼を言って追跡を続ける。


 手伝ってくれるのは賢者鼠達だけではない。


 ――カー、カー。


 ――ぴぴるぴるぴる。


 鴉達や翡翠色の綺麗な鳥達も、逃げ隠れする男の場所を暴き立て、チナ達に協力していた。


「運の悪い悪者ね。動物達に嫌われているのかしら?」


 どうやら、チナは不自然さにまったく気付いていないようだ。


「追い詰めたわ!」


 切り立った崖の上にある自然公園で、チナが男に勝利を宣言した。


「まだだ!」


 身を包んでいた外套を捨て、ムササビのような皮膜を広げた男が、崖から飛び出そうと駆け出す。


「逃がしちゃダメよ!」

「わかった、チナ」

「大丈夫、逃がしたりしないよチナ様」


 シロとクロウが翼を広げる。


 だが、その翼で空に舞う必要はなさそうだ。


 ――KYEWWROUUUN。


 楽しげな咆哮と共に、緑色の塊が落ちてきた。

 ドスンッという音がして、男が潰される。


「竜! 緑色の竜だわ! 私、知ってる! 王都に遊びに来る善い竜よ!」


 ――KYEWWROUUUN。


 チナの興奮した声に答えるように、幼竜が得意げに鳴いた。

 腹の下に捕らえた男を引っ張り出し、男が持っていた黒水晶を厭そうに爪で弾き飛ばした。


「生きてるみたい」

「そう?」


 幸運にも男は幼竜にプレスされて潰されていなかったようだ。

 たぶん、幼竜が殺さないように注意したのだろう。


「チナ、こっちの水晶はどうする」

「うーん、埋めちゃう?」

「さすがに、それは……大人に相談してみるよ」


 クロウはサトゥーに持たされていた短距離通信機でエチゴヤ商会に対処を頼んだ。


「やっぱり、私の予感は正しかったわ」

「チナ、偉い」


「悪は滅びたわ」と勝ち誇るチナと、どうでも良さそうなシロの二人を眺めながら、「今日も一日楽しかった」と思うクロウだった。





「クロウ? ペンドラゴン伯爵家預かりの翼人の子供ですね。その子がこれを?」


 エチゴヤ商会の執務室で、総支配人のエルテリーナが、腹心の幹部であり秘書でもあるティファリーザから報告を受けていた。


「はい、瘴邪晶マイアズマ・クリスタルという品で、死霊魔術の補助具らしいです。これ単体でも近くにいる者を瘴気中毒にするほどの瘴気を帯びているそうなので、この隔離ケースから出さないようにしてください」

「クロ様に連絡はした?」

「孤島宮殿に報告はいたしましたが、現在クロ様はサガ帝国で魔王と戦闘中でした。情報はシスティーナ殿下に伝えてあります」

「分かりました。国王陛下へのご報告は?」

「そちらは殿下が行ってくださるそうです」

「そう、それは助かったわ。私だと、どうしても待ち時間が長いから」


 支配人が少し考えてから、幹部達に指示を出す。


「王都内の警邏強化は衛兵に任せましょう。私達は懇意にしている乞食ギルドや雇用している従業員達から、王都で異変が起きていないか情報を集めます。たぶん、それが一番、クロ様のお役に立てるはずです。支社にも情報収集と、支社のある土地の領主や王に黒水晶や異変に注意するように伝えさせなさい」


 支配人がそう言ってから、各員に指示を出した。

 はい! と良い返事を残して、幹部達が部屋を飛び出していく。


「何か大変な事が起こらないといいのだけれど……」


 支配人の呟きを聞いたティファリーザが笑みを浮かべた。


「――何?」

「いえ、サガ帝国の帝都に魔王が出現した状況で、その発言はちょっと」

「そういえば、そうだったわね」


 そう言って、どちらからともなく笑い出す。

 本来は世界の危機である魔王出現が、二人にとっては「大した事ではない」普通の事になっていたのが面白かったようだ。


 こうして、ゴブリンの魔王の計略は彼が知らない場所から、徐々に崩れつつあった。



※本編の次回更新は、明日11/11(日)の予定です。



【宣伝】


「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」15巻は本日11/10(土)発売です。

(ほとんどの)電子書籍サイトで、本日よりデスマ15巻電書版が配信が始まっていますので、そちらもよろしくなのです。


 見所や特典など、詳しくは活動報告をご覧下さい。




※幕間で下記の場所は書き切れませんでした。こちらは機会があれば……。

東の諸国「キウォーク王国/淡雪姫」「マキワ王国」「竜の国」「ルモォーク」

中央小国「クボォーク王国」

シガ王国「迷宮都市」「クハノウ伯爵領」「ガニーカ侯爵領」「レッセウ伯爵領」

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小説「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」34巻が12/10発売予定!
  著者:愛七ひろ
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 発売日:2025年12月10日
ISBN:9784040761992



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漫画「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」19巻【特装版】が12/9発売予定!
  漫画:あやめぐむ
  原作:愛七ひろ
 出版社:KADOKAWA
レーベル:ドラゴンコミックスエイジ
 発売日:2025年12月9日
ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
[気になる点] 書籍版もweb版も両方読んでいますがリリオの言動がとても不愉快です。階級社会で爵位を持つ主人公や今回の弟君に兵士としてあの言動は自分だけではなく仲間に危険なことをわかっているのでしょう…
[一言] サトゥーに縁が繋がる者が次々と。 まるで、劇場版か、最終回のようだ?
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