16-70.サガ帝国、帝都の戦い(3)
※2018/10/30 誤字修正しました。
「フウはん、フウはん――」
サガ帝国の謁見の間、従者によってこの場に召喚された勇者フウは、聞き覚えのある口調で自分を呼ぶ声の主を捜して周囲を見回していた。
「フウはん、そないにキョロキョロしたら、周りに不審がられるで」
ポンッと肩を叩かれた勇者フウが振り返る。
「――え?」
そこにいたのは彼が予想した小男ではなく、侍従の衣装を着た青年だった。
パリオン神から与えられた鑑定の力が、その青年の正体がホムンクルスだと勇者フウに教えてくれた。
「これはメッセンジャーボーイっちゅうやつや」
顔に似合わない声を出しながら、青年が懐から取り出した懐中時計を勇者フウに差し出す。
「――日本製?」
「せや、ちょっと知り合いが鼬帝国から輸入してくれてん」
懐中時計の裏側に刻まれた「MADE IN JAPAN」の文字を気にする勇者フウに、ホムンクルスが答える。
「あと10分ほど、12時ジャストになったら結界が一瞬だけ緩む。その隙にラミ子はんにヘルプを頼みぃ」
ポンッと勇者フウの肩を叩いたホムンクルスが彼の背後に去っていく。
「なんで、お前がラミ子さんの事を――」
勇者フウが振り返った先に、ホムンクルスの姿は既になかった。
「魔王の頭がヤギになって再生したぞ!」
周囲を見回す勇者フウの耳に、謁見の間にいる人々の叫びが届いた。
謎の射手によって狙撃され、頭部を失ったはずの魔王が再生したらしい。
「バンパイアなのにヤギ頭? サバト? どういう事だ?」
勇者セイギの騒ぐ声も聞こえる。
混乱するのは大臣も勇者も一緒のようだ。
「うるさい、セイギ。魔王を焼きに行くから、お前も来い」
「ちょっと、ユウキ、引っ張らないでよ。フウは連れていかないの?」
「――フウ? あいつはいいよ」
勇者ユウキの言葉がフウの心に突き刺さる。
そのせいで勇者ユウキが続けて言った「あいつは実戦訓練をほとんどしてないんだ。連れていったら、大怪我しちゃうだろ」という言葉は、勇者フウの耳に届いていなかった。
もし、勇者フウがその言葉をちゃんと聞いていたのなら、この先の未来は違ったモノになっていたかもしれない。
◇
「なんでもいい! 扉の支えになる物を集めろ!」
礼拝堂の大きな扉を押さえる黒い鎧の騎士が叫ぶ。
黒騎士の他にも一〇名近い兵士達が扉に張り付いており、扉を叩くゴンゴンという音に合わせて、扉を押さえる黒騎士や兵士達の足が浮かび、そのたびに必死に扉を押さえ込むのを繰り返していた。
彼らの背後には神殿に併設された孤児院の子供達やその世話をしていた見習い神官の娘達が怯えた顔で、彼らを見守っている。
「パリオン様、勇敢な騎士様達に加護を――」
見習い神官の娘達の一人が神に祈りを捧げたのを皮切りに、他の見習い達や孤児達が一心に祈り始める。
だが、世は無情。
分厚い扉がミシミシと悲鳴を上げ、そこから真っ赤な瞳が覗く。
騎士や一部の兵士達が悪態を吐き、他の多くの者達が悲鳴を上げた。
その悲鳴に、隙間から覗いた口が嘲笑の形に歪む。
隙間から赤い瞳が消え、人々がつかの間の安堵に吐息を漏らした次の瞬間――。
ドンッ――という重い音と共に、分厚い扉が黒騎士や兵士達を巻き込んで吹き飛んだ。
姿を見せたのは、猫背の黒いバンパイアナイト。
獲物を選ぶような瞳が、孤児達の傍にいる見習いの一人に据えられる。
バンパイアナイトの舌が蛇のように蠢き、赤い瞳と裂けた口が三日月のように弧を描いた。
嗜虐心を満たすように、バンパイアナイトはゆっくりと歩を進める。
「させん! 陛下より下賜された黒鋼の鎧を着る限り、魑魅魍魎の前に膝を屈する事などありえん!」
立ち上がった黒騎士が腰の剣を抜き、バンパイアナイトの前に進み出る。
剣が赤い光を帯び、その光は剣の上にもう一つの刃を作り出した。
「――魔刃だ!」
孤児の一人が叫ぶと、他の孤児達の目にも希望が宿る。
「いくぞ、下郎!」
重い全身甲冑を着込んでいるとは思えないほどの速さでバンパイアナイトに接近した黒騎士が、赤い残光を曳きながら怒濤の勢いで剣を叩き込む。
孤児や兵士達から歓声が上がり、皆が黒騎士の勝利を幻視した。
だが、世は無情――。
轟音と共に地を転がったのは、バンパイアナイトと激戦を繰り広げていた黒騎士の方だった。
キシャキシャと嘲りの声を漏らすバンパイアナイトが、ゆっくりと黒騎士に迫る。
「レ、レベル五〇?」
鑑定スキルを持つ見習いの一人が、その事実に気付いてしまった。
それは勇者や一部の超越者だけが届く、英雄や悪魔の領域。
サガ帝国の黒騎士達がいかに優秀だろうと、それは人の領域での話に過ぎない。
「い、行かせは、せん」
黒騎士が立ち上がる。
片腕を失い、全身が血まみれになりながらも、彼は彼が守るべき民達を背に立ち塞がる。
騎士の鑑のような姿を見た兵士達もまた、震える手足にむち打って、民達の前に肉の壁を作った。
素手で戦っていたバンパイアナイトの両手の爪が赤く濡れ、それが伸びて十本の刃となった。
バンパイアナイトが刃の一つに舌を這わし、嗜虐の笑みを浮かべる。
最後の戦いを予感しながら、黒騎士は剣に魔刃を生んだ。
――VWOUNPWEELE。
バンパイアナイトの姿が霞み、黒騎士の前に現れる。
一合、二合と十本の刃を受けきった黒騎士だったが、ついに三合目に剣を折られてしまった。
「剣が折れようと、騎士の心は折れぬ。それが我が家の家訓だ」
自らに言い聞かせるような黒騎士の言葉に、バンパイアナイトがキシャキシャと嘲る。
――VWOUNPWEELE。
バンパイアナイトが咆哮を上げる。
――VWOUNPWEELE。
――VWOUNPWEELE。
木霊する咆哮に続いて、扉を失った入り口から黒い影が二つ現れた。
「嘘だろ……」
「来るなら援軍にしてくれよ……」
兵士達の間から、涙声の悪態が漏れる。
黒騎士は無言で折れた剣の柄を握り直した。
「――勇者様」
その願いを口にしたのは、果たして誰だったのか。
彼ら彼女らを襲うバンパイアナイト達を作り出したのが、その勇者の一人だという皮肉に、誰も気付いていないのは神の慈悲だったのか――。
礼拝堂を揺らす震動と分厚い壁を貫く無数の爪がその答えだった。
「キシャ?」
バンパイアナイトが吹き抜けになった礼拝堂の二階、渡り廊下の窓を見上げた。
「とー、なのです!」
窓を蹴破った小さな影が礼拝堂に着地する。
「黄金騎士イエロー見参、なのです!」
シュピッとポーズを取ったのは、黄金の鎧に包まれた小さな勇者。
――VWOUNPWEELE。
バンパイアナイトの姿が霞み、黄金騎士に迫る。
先ほどの黒騎士との戦いを想わせる攻防が繰り広げられたが、今度は様相が違った。
バンパイアナイトの一〇本の刃は、黄金騎士の持つ白い剣に砕かれ、石をも溶かす血のブレスは、黄色いマントを焼くこともできずに床に散った。
――VWOUNPWEELE。
――VWOUNPWEELE。
残る二体のバンパイアナイト達が、黄金騎士をスルーして民間人を害しようと迫る。
立ちはだかろうとする黒騎士だったが、すでにその腕や足に力は残っていない。
兵士達が黒騎士を庇って前に出るも、バンパイアナイトの腕の一振りで吹き飛ばされ、樽のように転がっていく。
バンパイアナイトの凶刃が黒騎士に振り下ろされる。
「「「騎士様!」」」
見習達が最悪の光景を畏れて目を閉じる。
「ちっちっち、なのです。犬勇者――の前で、コンニャク無謀は赦さないのですよ」
どこか間の抜けた声に、見習達が目を開ける。
黒騎士を庇って立つ黄金騎士が、顔の前で指を振っている姿があった。
ここに彼女の主人がいたら「コンニャク無謀」が「悪逆非道」を言い間違えたものだと気付いたかも知れないが、ここにはそんな余裕のある者は一人もいない。
なお、犬勇者の後に続く「ポチ」という一人称は、黄金鎧のサポートAIが電子音で上書きしていた。
「あー! 逃げちゃダメなのですよ!」
不利を悟った三体のバンパイアナイト達が礼拝堂の出口に逃げ出す。
瞬動で追いついた黄金騎士が、バンパイアナイトの一体をずんばらりんと斬り裂いて倒し、さらにもう一体を突進系の必殺技で始末した。
最後の一体は追撃を辛くも逃れ、礼拝堂の外へと消える。
「逃がさないのです!」
出口へとダッシュした黄金騎士の足が止まる。
逃げたはずのバンパイアナイトが、何かに怯えるように礼拝堂の中へと戻ってきた。
キシャキシャした嗤いは消え、恐怖に引きつった瞳は礼拝堂の外を見つめている。
――VWOUNPWEELE。
バンパイアナイトの体表から溢れた血が赤黒い鎧に変わり、両手には同色のランスと騎士盾が現れた。短時間しかもたないバンパイアナイトの最大の戦闘形態だ。
その背に白い刃が生えた。
現れたばかりの盾とランスが、液状になって地に落ち、バンパイアナイトの身体が灰となって消える。
その向こうには、竜槍を持った黄金騎士が功を誇るでもなく佇んでいた。
「『黄金騎士オレンジ』なのです!」
迂闊な黄金騎士イエローの言葉を、黄金鎧のサポートAIが録音音声で上書きする。
「イエロー、リュリュに乗せてください。空から魔王の近くに行きます」
「はいなのです。でも、先に騎士のヒトにお薬をあげないと大変なのですよ?」
「そちらは大丈夫です」
黄金騎士オレンジが黒騎士の方に顔を向ける。
いつの間にか現れていた、猫のお面を被った猫忍者が、緑地に白十字の腕章をして黒騎士や怪我人を治療していた。
「さすがは――なのです」
「急ぎましょう」
「らじゃなのです。リュリュ、かもーん、なのです!」
礼拝堂を出た二人の黄金騎士が、白い鱗に包まれた大きな手の向こうに姿を消す。
ようやく命が助かった事に気付いた人々が、礼の言葉や祈りを口にした。
◇
「でかくね?」
城壁塔の一つに出た勇者ユウキが、城郭に取り付いたヤギ頭の魔王を見上げながら呟いた。
その傍らには勇者セイギと彼らのサポートをする為についてきた黒騎士四人と術者二人がいる。
謁見の間で、勇者達を召喚した彼らの従者達は、戦闘に不向きな為、この場に連れてきていない。
「でかいね……。まあ、パリオン神国の魔王もでかかったし、ユウキの魔法なら行けるよ」
「簡単に言ってくれちゃって」
勇者ユウキが魔法を強化するユニークスキルに加え、ミカエルこと従者ミェーカが万が一の保険として持たせていた魔力ブースト薬を飲み干す。
「火炎地獄」
通常の倍近い威力まで強化された、火系の上級魔法が魔王に炸裂した。
炎が城内に溢れ、整えられた庭園も、豪奢な内装も、共に灰に変えていく。
岩さえ溶かすほどの熱量は、魔王の身体をも黒く炭化させた。
「やった! 効いてるぞ! ユウキ次だ、次!」
「今のはクールタイムがあるから、すぐには無理だ」
「なんだよ、無能だな。単発かよ」
「お前にだけは言われたくない」
勇者ユウキと勇者セイギが、場もわきまえず口論する。
「勇者様!」
護衛に付いていた黒騎士が警告した。
見上げた視線には、魔王が大きく息を吸い込む姿が映る。
何かは分からないが、明らかに魔王が反撃する予兆だ。
「やっべー」
「お前らも逃げろ!」
勇者セイギが飛翔靴で塔から飛び立ち、勇者ユウキもまた少し遅れて飛び出す。
一瞬遅れて、赤黒いブレスが彼らのいた城壁塔を包み、衝撃波で吹き飛ばし、残った基部を溶かした。
「げっ、こっち来る。早い!」
「そ、想定内!」
「なら、対策は?! なんかないのか!」
「あったら逃げないよ!」
「この無能っ!」
「だから、俺は戦闘は担当外なんだって」
魔王が内壁や塔を始めとした城内の設備を砕きながら、勇者達を追いかける。
防衛用の段差や壁に阻まれて、なかなか勇者達に追いつけない事に苛立ったのか、魔王は塔の一つを引きちぎって、勇者達に向かって投げつけた。
「うわっ」
「げっ――破裂」
勇者ユウキが得意の火魔法ではなく、爆裂魔法を使って、飛んでくる塔の先端を吹き飛ばした。
「あ痛てて、バカ、ユウキ! 慣れない爆裂魔法を使うから破片が飛んできただろ!」
飛んでくる小さな破片にセイギが悲鳴と悪態を吐く。
「うるさい! 塔が飛んでくるよりはマシだろう!」
噛みつき返すユウキの背後に、魔王がさらに迫ってくる。
「よし、再詠唱制限時間が終わった――火炎地獄」
二度目の炎に焼かれ、魔王の腕が炭化して崩れる。
「やったー! さすがユウキ――って、再生してる! 再生しちゃってるよ!」
炭化したはずの腕が、元に戻るのをみた勇者セイギが悲鳴を上げる。
「やばい」
「聞きたくないけど、何が!」
逃走を再開しながら、勇者セイギが問い返す。
「魔力が一割切った」
「ま、魔法薬は?」
「ミカエルが持ってる」
「バカ、なんで自分で持ってないんだよ」
勇者セイギが自分のインベントリから魔力回復薬が入った鞄を取り出す。
「――げっ」
勇者達が慌てて回避する。
魔王の手が近くを通り過ぎたのだ。
「うわわわわっ」
蓋の開いた鞄から、魔力回復薬をボロボロ落としてしまい、最後の一本を必死に掴もうとお手玉する。
「何やってんだよ、セイギ!」
勇者セイギの指先から逃れて落ちていく最後の一本を、勇者ユウキの手が横から掻っ攫う。
封を開けて呷ろうとした瓶を、運悪く飛んできた破片が砕いた。
「このドジ!」
砕けた瓶を茫然と見つめる勇者ユウキに、勇者セイギが罵声を浴びせる。
「セイギには言われたくない!」
口論をしながらも、二人は一緒に逃走を再開する。
「もう、ダメ! 追いつかれるぅ~」
「しゃべってる暇があったら、セイギのユニークスキルで倒しちゃえよ」
「こんなに動いてちゃ無理だって!」
魔王の伸ばした手が勇者を捕まえようと迫る。
魔法で牽制しながら、必死の機動で指先を避けていた勇者達だったが、次第に追い込まれていく。
左右から迫る指先に、勇者達が観念しようとしたその時、急激に指先が後方へ消えた。
振り返る二人の勇者の視線の先に、崩れた塔の一つに躓いた魔王が見えた。
彼らは偶然の地形に助けられて逃げ延びたようだ。
「セ、セーフ。豪運だね、ボクら」
「ゴウ運? なら、後は任せたラッキーボーイ」
勇者ユウキが風魔法で加速する。
「ちょ、ずるいぞ、ユウキ!」
不平を訴える勇者セイギの上を、助走を付けた魔王が飛び越える。
前方で振り返った魔王が、勇者セイギを通せんぼするように腕を広げた。
「もうダメだぁああああああ」
勇者セイギが絶望の叫びを上げる。
次の瞬間、魔王の周りに土煙が噴き上がった。
キラキラした電柱サイズの槍が降ってきて魔王の手を近くの城砦に縫い止めたのだ。
空から一つの人影が下りてくる。
「紫色の髪? ――シガ王国の勇者ナナシか?」
勇者ユウキが足を止め、その人影を見上げ、追いついた勇者セイギもまた荒い息を吐きながら、自分を助けた相手を見上げた。
人影――ヒカルが放ったキラキラした光が魔王を地面に縛り付けていく。
ヒカルが空を蹴って勇者達の近くにきた。
「大丈夫? 少年達――」
キラキラした光が勇者達の身体を包む。
「こ、これは?」
「強化魔法?」
「大盤振る舞い。奮闘している少年達に、ご褒美よ」
強化魔法が終わるのと同時に、魔王が拘束を砕いて動き出す。
「ヘンね? 吸血鬼なのに霧化で逃げないなんて……」
「そんな事より! さっきの攻撃魔法! 早く撃てよ」
ユウキが偉そうに命令する。
「もう! 年長者にはちゃんと敬語を使いなさい」
「そんな事はいいから! 来る! 魔王来てるよ!」
セイギが必死に訴える。
「私は攻撃魔法は得意じゃないんだよね」
「得意じゃなくてもいいから!」
「んー、大丈夫だよ」
「うわぁああああああ、来たぁああああ」
城を砕きながら迫る魔王の迫力に、勇者セイギが脱兎のごとく逃げ出した。
「大丈夫だよ。ほら――」
◇
「他の二人の勇者達が戦っているというのに、貴様は震えているだけか!」
謁見の間から逃げるタイミングを測っていた勇者フウは、彼の従者であるはずの貴族青年から、居丈高に責められていた。
それに気付いた大臣達も、一緒になって勇者フウを口汚く罵る。
(お前達が喚んだんじゃないか。僕だって来たくて来たんじゃない)
勇者フウは黙ったままうつむいているだけだったが、内心では激しく反論していた。
「このハズレ勇者め!」
(お前はハズレ従者だ)
「同じようにハズレ勇者と呼ばれた勇者ヤマトは、「黄金の猪王」さえ倒しシガ王国を建国したというのに、お前は本当の意味でハズレだ」
(うるさい、無能大臣)
「悔しかったら、戦え!」
「無駄だ。この臆病者にそんな気概があるものか」
「黙ってうつむくだけしかできぬ、ハズレ勇者め!」
(これが代々勇者を召喚――いや、拉致してきたヤツらか……)
大臣達に蔑まれながら、勇者フウもまた大臣達を蔑んでいた。
――フウ。勇者フウ。
勇者フウの耳に幼い声が聞こえる。
――堕落した愚かな子らの目を覚ましてあげて。
その声は勇者フウにしか聞こえない。
(そうだ、僕は女神様に頼まれたんだ。この誘拐犯の国に鉄槌を落として、正気に戻してやる)
さらに自分をなじる従者や大臣の声を聞き流しながら、勇者フウは決意する。
「わかったよ、やるよ、やればいいんだろ!」
キレたふりをした勇者フウが飛翔靴を発動させて、へっぴり腰で窓から飛び出す。
「なんだ、その飛び方は!」
「飛翔靴の使い方も三流か!」
大臣達がその姿を嗤う。
帝都の都市核に衛星都市群から魔力を集める事に腐心していた皇帝は、その些末事に気付く事なく、破局を回避する機会を永遠に失ってしまった。
なんとか飛翔靴のコツを掴んだ勇者フウが、謁見の間から距離を取る。
「上手く部屋から逃げられた。あと一分。それがお前達の余命だ」
勇者フウは暗い笑みを浮かべて呟いた。
◇
「リュリュ、あそこ、なのです!」
――LYURYURYUUU。
魔王の上空に達した白竜が急降下する。
「行きますよ」
「どっかーん、なのです」
砲弾のような速度で白い竜から飛び降りた二つの人影が魔王を貫いた。
――VWOUNPWEELE。
魔王が無様に悲鳴を上げる。
――AZWOOOOOOOOWN。
暴風と共に彼方より駆け寄ってきた白金の獣が魔王に食らい付き、その勢いのまま魔王を引き摺って城の一角を瓦礫に変える。
巻き上がった土煙は白金の獣が纏う暴風が吹き飛ばし、神々しい獣の姿を露わにした。
魔王を足蹴にした白金の獣は、おもむろにその牙を魔王に突き立てると、その身体の中から紫色の光――「神の欠片」を引き抜いてみせた。
「おおっ、すごい」
通常の方法では干渉すらできないはずの「神の欠片」を咥える白金の獣の姿に、ヒカルが感嘆の声を上げた。
風に乗って現れた黄金騎士グリーン――ミーアが、小さな手をヒカルと勇者ユウキに向ける。
「ぶい」
あの白金の獣は、ミーアが召喚した疑似精霊だったようだ。
◇
「アリサ、民間人の退避が完了したと報告します」
「おっけー、そんじゃ、転移門を閉じるわね」
派手に活躍するのは仲間達に任せ、ナナとアリサは民間人の避難誘導をしていた。
浮遊砲台に乗ったルルが近付いてくる。
「アリサ、空を飛ぶ魔物は全部片付けたわ」
「ありがとう、ルルお姉様」
「偵察ドローンがあちこちで見つけた小さな魔物達は、タマちゃんが全部やっつけてくれていたみたい」
「さすがは猫忍者タマね」
アリサとルルがどちらからともなく微笑んだ。
「――あっ」
遠くで魔王が倒れる。
『ぶい』
戦術輪話からミーアの声が二人の耳に届く。
――AZWOOOOOOOOWN。
「どうやら、魔王も退治できたみたいね」
白金の獣が勝利の雄叫びを上げるのが見えた。
『マイナーチェンジ版の対魔王用レッサー・フェンリルもけっこういいわね』
『ん、ぐれーと』
『それで、魔王は?』
『復活はないみたい。暗紫色の光はサガ帝国の勇者達が持ってたお守りに封じさせたわ』
『あら、ずいぶんとあっさりだったわね』
ヒカルからの報告を受けて、アリサが「吸血鬼の魔王って聞いてたから、もっとしぶといと思ったんだけど」と小声で呟いた。
「はらへった~」
猫忍者が影から現れる。
お面を被った分身体ではなく、黄金鎧を着た本体だ。
「にゅ~」
遠くから、お昼の鐘の音が聞こえる。
サガ帝国にある時報の魔法道具が鳴ったようだ。
「にゅ?」
でろんと伸びていたタマが身体を起こす。
黄金兜の中で耳がぴくりと動いて、地面を揺らす小さな震動を捉えていた。
「アリサ、お昼休みの時間だと告げます」
「そうね、残党狩りはサガ帝国の人達に丸投げしちゃお――」
アリサが途中で言葉を止めた。
「アリサ?」
ナナが膝を折ってアリサの顔を覗き込む。
「アリサ、どうしたのかと問います」
「ごめんごめん、ご主人様から眷族通信が入ってたの。あっちも大変みたい」
微笑むアリサの顔が、突然の烈震に凍り付いた。
どうやら、サガ帝国の危機は、まだ始まったばかりのようだ。
※次回更新は、11/4(日)の予定です。
【宣伝】
「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」15巻は11/10(土)発売予定です。







