16-69.サガ帝国、帝都の戦い(2)
※2018/10/21 誤字修正しました。
※今回もサトゥー視点ではありません。
「――えっと?」
「やったんさい」と告げて、帝都の方をビシッと指さす妹の姿に、姉は意図がよく分からずに首を傾げた。
「ずばばーん。と行っちゃって!」
「ずばばーん、と?」
まだ納得いかない様子のルルだったが、アリサの指示が砲撃だと察して行動を開始した。
「戦闘補助機能起動、視野拡張」
『イエスマイレディー、アクティベート、シンクロナイズドセンサー』
指令を受けた浮遊砲台のサポート音声が応え、ルルの視界が浮遊砲台の拡張視野と同期する。
「照準、網膜転写」
『アイアイマム、エグゼキュート、レティナ・トランスファー』
視野内に表示された照準を、目標物に合わせる。
帝城の城郭の頂に鎮座する魔王の姿が中央にきた。
その背後には帝都を覆う分厚い雲があった。
◇
「皇帝陛下、このままでは城の障壁も長くはもちません。城に残した「勇者の従者」達に、一刻も早く勇者を召喚させねば」
「やむを得ん。神授の護符を使わせろ」
宰相の言葉に新皇帝は苦々しげな顔で頷いた。
「このような時に勇者メイコがおらぬとは……」
「パリオン神国の愚者どもはなんと度し難い事か!」
自分勝手な大臣達の様子に、新皇帝は一度だけ視線をやっただけで、特に言葉を発しなかった。
「「「偉大なるパリオン神よ。我が願いと命数を糧に勇者召喚を叶え給え」」」
勇者セイギと勇者ユウキ、そして勇者フウの従者が護符を掲げながら、勇者召喚の願いを神に祈る。
この召喚は、異世界から勇者を喚ぶ召喚術ほどではないが、頻繁に用いられる事はない。
なぜなら、パリオン神から与えられた護符を用いる勇者召喚は、勇者の従者の命を削るからだ。
「勇者セイギの従者モリュが願い奉る」
「勇者ユウキの従者ラーフェが願い奉る」
「勇者フウの従者ゾムが願い奉る」
三人の従者達の周囲に、青い光の魔法陣が生まれた。
「「「人の世に救いと奇跡を」」」
魔法陣の青い光が立ち上り、聖句を唱える従者達を青い色に染めていく。
「正義の体現者、勇者セイギを我らがもとに遣わし給え」
「希望の体現者、勇者ユウキを我らがもとに遣わし給え」
「善行の体現者、勇者フウを我らがもとに遣わし給え」
従者達が聖句を唱え終わると同時に、溢れだした魔力の奔流が謁見の間に吹き荒れ、光の中に三人の勇者の姿が現れた。
パリオン神国に預言をもたらさなかった神も、勇者には力を貸すらしい。
「え、何、これ?」
「謁見の間? ラファエルが呼んだのか?」
「げ、強制召喚?」
勇者セイギ、勇者ユウキ、勇者フウが驚きの声を上げ、慌てて周囲を見回す。
勇者然とした前二者と異なり、勇者フウは悪趣味なローブを目深に被っていた。
「聞け、勇者達よ! サガ帝国は今、未曾有の危機に瀕している」
玉座から立ち上がった皇帝が、都市核と繋がる王笏を振り、空中に城の外観を映し出す。
「あれ、この城か?」
「なんかくっついてる? でかくない?」
勇者セイギと勇者ユウキが呟いた。
映像では神授の鑑定能力も使えないらしく、映し出されたのが魔王だと分からなかったようだ。
「あれは魔王だ」
「ま、魔王?」
「またかよ、異世界の魔王、多過ぎだろ?!」
皇帝の言葉に、勇者セイギと勇者ユウキが驚きと呆れの声を漏らした。
さっきから目を伏せて沈黙したままの勇者フウは、挙動不審なほどに落ち着きなく周囲を見回してはガシガシと爪を噛んでいる。
「――まずいまずいまずい、やばいでしょ。マジかよ、なんでヴァンパイア・ナイトを指揮するはずのヴァンパイア・ジェネラルが魔王化してるんだよ。意味分かんない。なんか支配も解けちゃってるし、拠点のラミ子さんともパスが繋がらなくてヘルプが呼べないし、暗殺用のユニークスキルをここで使うわけにはいかないし……やばいよ、詰んじゃってるよ。くそっ、くそくそくそ……」
その呟きは声にならず、魔王の脅威が間近に迫った謁見の間に、勇者フウのただならぬ様子に注目する者はいなかった。
◇
一方、その頃、サガ帝国の郊外では――。
「照準完了。固定」
『イエスマイレディー。ディメンジョン・パイル、スタンバイ』
不可視の次元杭が長く重い主砲身ごと浮遊砲台を空中に固定する。
「仮想砲身展開」
『オーケー、ヴァーチャルバレル、スプレッド』
主砲身の前方に二〇メートルほどの術理魔法系の疑似物質砲身が展開される。
「魔力過剰充填済み聖砲弾、装填」
『ロード、AMMO』
ガコンッと音がして、サトゥーが魔力を過剰充填させた聖なる砲弾を、主砲身に装填した。
「加速魔法陣、制限解除」
『アイアイマム、バッテリー、フルチャージ』
浮遊砲台の本体にある聖樹石炉から、膨大な魔力が主砲身へと充填されていく。
『アクセラレーション、オーバードライブ』
充填が済んだのと同時に、仮想砲身に沿って赤く光る魔法陣が展開された。
「準備完了! アリサ?」
「いったんさい!」
最終確認をするルルに向けて、アリサが腕を振り下ろした。
「発射!」
『イグニッション!』
ルルが引き金を絞り込むと同時に白い閃光が周囲を染め、青い輝きを放つ光弾がビームのような軌跡を残して城の頂に座した魔王の頭部へと吸い込まれていく。
その青い光線は大気を震わせ、暗雲の下で鮮やかな聖光を人々の目に焼き付けた。
我先に逃げだそうとしていた人々もその足を止め、ある人は隣人に振りかぶっていた腕を止めて空を見上げる。
――VWZ。
魔王が危機を察した時、既に魔王の頭部は聖なる砲弾に吹き飛ばされ、帝都の空に散っていた。
聖なる砲弾は魔王の頭部を吹き飛ばしただけでは終わらず、その余波が背後の暗雲をも吹き飛ばして、帝都の空に陽光を導いた。
直接余波を受けなかった手前側の暗雲も、陽光に押されるように丸く押しのけられていく。
――VZS。
――GWUGYZAAA。
――VZWS。
陽光に焼かれた血の従僕や下級吸血鬼が一瞬で灰となって崩れていき、吸血鬼や吸血鬼の騎士もまた、陽光に身体を焼かれながら日陰へと逃げ込んでいく。
魔王から分離したコウモリや狼の眷属は、魔王の頭部が破壊された瞬間に赤黒い血飛沫となって、帝都の空に散っていた。
「命中」
新たに偵察用のシルフを派遣していたミーアが着弾を報告する。
「やったね。どのくらいのダメージを与えてそう?」
「頭がなくなっていますから、多分倒せたと思います」
手を叩いて喜ぶヒカルにルルが答える。
「やるわね。見えないくらい遠い場所にいる魔王をワンショット・キルするなんて」
「ルルは世界一のスナイパーだと告げます」
「ん、偉い」
「私達の出番はなかったようですね」
自信なさげなルルを、アリサを除く仲間達が誉める。
「どうしたの、アリサっち?」
「う、うううん、なんでもない。さすがは私のお姉様ね! さすルル!」
ヒカルに話を振られたアリサが、少し動揺しながらも、親指を立てた手をルルに示しながら讃えた。
アリサの狙いが、帝都上空の雲を打ち払って雑魚アンデッドを駆逐し、魔王を弱体化させる事だったとは言えなかったようだ。
流れていない冷や汗を拭ったアリサが、「まあ、結果オーライよね」と小さく呟く。
それに――。
『こちらポチなのです。魔王のヒトの頭がヤギさんになったのです!』
『こちらタマ~? 青い顔のヒトがカプッてしたら、兵隊さんの様子がヘン~?』
ポチとタマの二人から、魔王復活と生き残ったバンパイアが悪事を働いていると報告が入った。
タマの名誉のために付け加えると、タマが目撃した兵士に噛みついたバンパイアは、既に退治された後だ。
「やっぱ、復活しちゃったか~」
「魔王はGよりしぶとい、とマスターが言っていました」
魔王復活を嘆くヒカルやナナの横で、アリサは別の事に反応していた。
「どういう事かしら? こっちのバンパイアは儀式でしか増えないはずでしょ?」
「アンデッド」
アリサの疑問にミーアが一言で答えた。
「どういう事?」
「兵士を殺してから、死霊魔法でアンデッドにしたんじゃない?」
「ああ、なるほど……」
ミーアの単語をヒカルが解説した。
「アリサ、私達も行きましょうと提案します」
「そうね。皆! 浮遊砲台に掴まって」
アリサはそう言いながら、浮遊砲台の操縦席に座るルルの背もたれに掴まる。
リザ、ナナ、ヒカルの三人は浮遊砲台の左右にあるハンドルを掴んで、補助ステップに足を乗せた。
ミーアだけは自分が呼び出したガルーダに抱えさせて移動するようだ。
『タマ、吸血鬼達の居場所は把握してますね?』
『あい』
『排除しなさい』
『あいあいさ~』
リザが浮遊砲台で移動しながら、空間魔法経由でタマに指令を出す。
それとほぼ時を同じくして、陽光で弱体化した吸血鬼達が影から現れた忍者に次々と倒される光景や、複数の猫忍者に追われて逃げ惑う吸血鬼の騎士達の姿が、帝都のあちこちで目撃された。
◇
「魔王の頭が吹き飛んだ、だと?」
「今の攻撃はなんだ!」
「宮廷魔術師団の儀式魔法か?」
「違います。宮廷魔術師団は団長、副団長が未だ行方不明で――」
「竜だ! あんな馬鹿げた攻撃ができるのは破壊の導き手、天竜の一撃に違いない!」
「いや、大戦末期にフルー帝国が用いた魔砲ではないか?」
「馬鹿を言うな! そのような兵器がどこに配備されているというのだ!」
魔王の頭部を吹き飛ばしたルルの一撃に、帝城の謁見の間は混乱の坩堝に陥っていた。
彼らを惑わす一撃が、竜や勇者ではなく、その従者によるモノだと気づける者はいないようだ。
「皇帝陛下、あれはもしや、シガ王国の勇者ナナシの仕業では?」
「馬鹿な……あれが人の手によるモノだというのか? 古代ララキエ文明の魔砲でさえ、あれほどの威力はないはずだぞ?」
「ですが、勇者ナナシは人の手に余る『黄金の猪王』や『狗頭の古王』さえ滅ぼしたという話さえあります」
「父上はシガ王国の欺瞞行動だと言っていたが?」
新皇帝と宰相が小声で言葉を交わす。
新皇帝は先代皇帝の寝所にあった「不動の剣」を脳裏に浮かべた。彼にとって勇者ナナシとは暗殺の技に秀でた、勇者とは名ばかりの不遜な犯罪者という認識のようだ。
喧々囂々に議論する人々の近くから、勇者フウが離れていく。
「フウはん、フウはん――」
特徴的な口調で、うつむく勇者フウに話しかける者がいた。
※次回更新は、10/28(日)の予定です。







