16-67.サガ帝国へ(2)
※2018/10/17 誤字修正しました。
サトゥーです。「テロリストと取り引きしないのは国際常識だ」と何かのマンガで読んだ覚えがあります。
幸い、そんなシチュエーションとは縁がありませんでしたが、もしそんな状況に遭遇したとしても、最善の行動が取れる自信はありません。できれば、国の偉い人に丸投げしたいところですね。
◇
「サガ帝国の帝都で魔王が顕現したって!」
「サガ帝国の旧都が全域で火事です!」
ヒカルと飛行服のブラウニーが同時に叫ぶ。
オレが予想した「サガ帝国が滅亡」なんて事はなかったが、なかなかハードな状況だ。
「魔王と都市全域の放火か――」
たぶん、黒幕の悪巧みが始まったのだろう。
「ご主人様、魔王の方は私達に任せて! こんな分かり易い囮は私達が食い破ってきてあげるわ!」
「サトゥー、今回は私もアリサ達と一緒に行くわ。王都の守りは天ちゃんにお願いしてあるから」
確かに都市全域の火災を鎮め、火事に焼け出された人達を救済するにはオレの魔法の方が向いている。
白銀メンバーは予備戦力として孤島宮殿に残ってもらおう。
魔王達と戦わせるのは無理があるが、単独の上級魔族くらいの敵なら彼女達に任せられる。
「分かった。そっちは頼む。もし相手が同格以上なら、様子見に徹してくれ。オレがすぐに駆けつける」
それに、代々勇者を召喚してきたサガ帝国なら、対魔王用の人材や装備類は豊富にあるはずだ。
さすがに勇者抜きで魔王が倒せるとは思わないけど、魔王襲来に対する備えやシェルターなんかは十分に用意しているだろう。
方針が決まったところで、オレ達は速やかに出発する事にした。
「待ってください」
システィーナ王女がオレ達を呼び止める。
「相手にはポチをセーリュー市から鼬帝国まで転移した転生者がいたはずです。サトゥー達を帝都や旧都に引き寄せた後に、本当の戦力をシガ王国の王都やムーノ侯爵領に送り出してくるのが真の狙いではありませんか?」
「確かにありそうね。ご主人様、地味子ちゃんの様子はどう?」
「そっちは今のところ大丈夫そうだ」
地味顔転生者と軍師トウヤの二人は、彼らが錬金術店を経営していた地方都市から中央小国群に向けて旅立っていた。
始めは彼らの陰謀が再スタートするのかと警戒したのだが、監視用のドローン・ゴーレムが録画した映像には、浮かれた感じの地味顔転生者が楽しそうに新婚旅行の計画を立て、軍師トウヤが渋々といった感じに承認している姿が映っていた。
そもそも転移系のユニークスキルを持つ地味顔転生者なら、拠点からどこへでも移動できるはずなので、わざわざ警戒されるような行動を取る事自体が、オレの注意を引きつけるための陽動だと考えられる。その推測は王女やヒカル達も同意してくれていた。
「そうですか……では、今回の事件が本命なのでしょうか?」
「いや、それは違うと思う」
普通なら魔王復活の為に暗躍していたと考えるのが常道だと思うが、パリオン神国で増殖型魔王を使い捨てにした事実がその予想を否定する。
なにより、あの魔王の元になったリッチはホムンクルス――人造生命体だ。
人造生命体として転生したという可能性もあるにはあるが、彼からは転生者らしき意志は感じられなかったし、多分違うだろう。
「もう! 議論は後よ! さきにトラブルを解決しましょう! ティナ様は考察を進めておいて! ご主人様、『戦術輪話』をお願い。わたしのじゃ、サガ帝国とここを纏めてカバーできるほど広くないから」
「分かった」
オレは空間魔法の「戦術輪話」を発動し、黄金騎士装備になったアリサ達を帝都へと送り出し、オレもまた勇者ナナシのスタイルで旧都へとユニット配置で移動する。
アリサ達にバレないように、こっそりと帝都の最新情報を更新し、帝都に顕現した魔王がアリサ達やヒカルで対処できそうな相手である事は確認しておいた。
不測の事態があったら、眷族としてのつながりからアリサが伝えてくれるだろう。
◇
「凄い火事だ――」
家々から炎と黒煙が上がり、それなりの高度を飛行している飛空艇からも、サガ帝国の旧都全てを見渡すことはできない。
マップで確認した限り、市内にいる生存者の9割以上は都市内にある地下シェルターに避難済みのようだ。
地上にいる一割は、騎士や兵士、それに逃げ遅れた人達だろう。
――とは言っても、要救助者だけで数百人規模だ。
空間魔法でちまちま転移していたら、とても間に合わない。
天罰事件の時に、鼬帝国でやったように「異界」を作成する時に、複写元の都市から人々を取り込む方法も考えたが、その場合、都市内にいるであろう放火犯達も一緒に連れていく事になる。
ちょっとだけリスクがあるけど、大規模火災用の消火魔法を使って火を消そう。
「広域消火――」
上級の複合魔法を発動すると、旧都全域を覆っていた炎が消え、黒煙も勢いを失っていく。
無酸素状態と低温で火を消す魔法なので、命が危ない人達――元々の火事で死にかけていた人達もいるようだが――の近くに転移や閃駆で移動し、順番に治癒魔法と魔法薬で救命する。
――MWOLLLLUUUUU。
火をつけて転がしたタイヤのような魔物が瓦礫を乗り越えて襲ってきた。
「閃光延烈斬」
勇者ハヤトを思わせる光の斬撃が魔物を両断し、それに遅れて漆黒の鎧を着たサガ帝国の騎士が姿を現した。
「怪しげな風体――いや、その姿には聞き覚えがある。シガ王国の勇者ナナシ殿とお見受けいたす。某は――」
「名乗りは結構、今は放火犯達の始末を先に」
「その通りですな。某はこれで」
物わかりのいい騎士が消えたところで、放火犯をマップ検索する。
ほとんどは先ほどの火炎タイヤみたいな「火炎車輪」という魔物だったが、都市中央の城やパリオン神殿の近くには「邪炎蜥蜴」や「魔炎多頭蛇」といった大型の魔物、そしてシェルター前には火炎車輪を引き連れた下級魔族がいるようだ。
高レベルの帝国騎士や神殿騎士が犠牲なしに倒せそうな魔物以外を、「無槍乱舞」や「誘導矢」の魔法連打で殲滅する。
「ふう、こっちはこれでいいかな?」
オレは空間魔法の「遠見」で、アリサ達の様子を確認してみた。
なかなかやっかいな魔王みたいだけど、危なげなく戦っている。向こうはヒカル達に任せておけば大丈夫だろう。
――ん?
サガ帝国の兵士達を示す光点が、すごい勢いで減っている。
オレは目視のユニット配置でそちらへ向かった。
◇
「――閃光延烈斬」
「何をしている!」
自軍の兵士へと向けられた帝国騎士の剣技を、術理魔法の「自在盾」で防ぐ。
「どけっ! 私は陛下の勅命を果たさねばならぬのだ」
一瞬だけ、サガ皇帝が馬鹿な命令をしたのかと思ったが、AR表示がそれは違うと教えてくれた。
「魅了されているのか――」
オレは精神魔法と光魔法の魅了解除系の魔法を連続で発動させて帝国騎士の魅了を解除した。
帝国騎士のケアは後回しにして、生き残っている兵士達を治癒魔法で回復させる。
「わ、私は何を……悪夢を見て――」
言葉の途中で、自分のしでかした光景を目にした帝国騎士が、魂切るような絶叫を上げた。
喧しいので「平静空間」と「強制睡眠」を強めにかけて昏倒させておく。
そちらは放置して、マップを開いて確認する。
――他にもいた。
オレは転移魔法で移動する。
何人かの帝国騎士や神殿騎士が魅了されて虐殺行為をしていたので、同じように解除して回った。
「ほんま、シャレにならへん能力やね」
パリオン神殿の聖堂で、高位の神官達を斬り殺していた神殿騎士の魅了を解除したところで、柱の陰からフードで顔を隠した小男――ゴブリンの魔王が姿を現した。
「また、『擬体』か――」
「そらそうやろ。勝ち目ない相手の前に、本体で出てくるわけあらへんやん」
オレは魔王と会話しつつ、アバターから本体へと伸びるはずの魔力の糸を捜す。
「無駄やで、この『擬体』は独立行動系――いわゆるスタンドアローンっちゅうやつや」
口元しか見えないが、フードの陰でドヤ顔をしているのが分かる。
わざわざ姿を見せたって事は――。
「――時間稼ぎの囮か」
「正解や――おっと、行かさへんで」
ゴブリンの魔王の足元――影の中が伸び、穴だらけだった聖堂の内側を黒く染めた。
「報告やと封神級の結界からも逃げられたっちゅう話やけど、もし逃げたら影ん中に封じ込めた連中を、むごたらしい姿に変えてまうでぇ」
「人質か……」
「せや、ご自慢の魔法の力で取り返して――」
マップ検索――ヒット。
ヒットした範囲をマーキング。
魔法欄の空間魔法「万物移送」を発動。
「――みせるか……なんやて?!」
驚く魔王をスルーして、足先でタンッと床を叩く。
漆黒だった空間が元の色を取り戻す。
忍術で魔王が展開していた影の領域を砕いたのだ。
「ほんま、かなわんやっちゃな……影の迷宮の中に隠した人間を一瞬で見つけて全部救出してまいよったわ」
魔王が誰に聞かせたいのか分からない言葉を呟く。
「まあ、準備はできたみたいやけどな――」
魔王が崩れた聖堂の壁の向こうを指さす。
尖塔の一つから眩い光が――。
「――ちっ」
オレは舌打ち一つの間に、尖塔へと閃駆で飛び込み、眩い光を放つ魔法道具を持っていた女性型ホムンクルスを昏倒させて魔法道具を奪う。
AR表示によると「対人魔道爆弾」という火石や雷石を使った爆弾系の魔法道具らしい。
オレの視界に次々と光が映った。
他に七つある尖塔でも、先ほどと同じ眩い光が発生している。
有視界ユニット配置で全ての尖塔を巡って、ホムンクルス達を昏倒させ、魔法道具を奪っていく。
――間に合わない。
最後の一つは阻止が間に合わず、尖塔の一つで爆発が起こった。
オレは術理魔法の「自在盾」を発動して、魔道爆弾から地表に向けて飛び散る散弾を全て受け止めていく。
――弱い?
思ったよりも威力がない散弾は、すべて自在盾で受け止めきる事ができた。
もっとも、魔道爆弾を使ったホムンクルスは夢に見そうなスプラッタな姿で事切れており、彼女がいた尖塔の屋根や内部は散弾でずたずたに破壊されていた。
対人用の兵器としてはクレイモア並みに凶悪だが、魔王が仕掛けるような攻撃ではない。
「フェイクか――」
マップ検索をすると、魔王が別の場所に移動していた。
オレは魔王の前に閃駆で舞い降りる。
「お早いお戻りやね」
魔王の視線の先――オレの背後には、旧都の人達が避難したシェルターの一つがある。
「シェルターの屋根を破壊して、不足しがちな瘴気を補充しようと思ててんけど――」
――きっとそれもフェイクだ。
オレは魔王の挙動を注視しつつ、並列思考スキルを使ってマップ内を色々と検索する。
兵士に偽装したホムンクルス達が、背嚢に魔道爆弾を抱えてシェルターに向かって移動している。
これもフェイクだとは思うけど放置はできない。
オレは精霊魔法の疑似精霊「鷲獅子騎士」達を産み出し――。
魔法が発動して鷲獅子騎士が現れた瞬間に、ゴブリンの魔王が行動を開始した。
魔法行使直後の、次の魔法が使えるまでの空白期間を狙ったのだろう。
オレは鷲獅子騎士達にホムンクルス達のテロを阻止するように指示し、ゴブリンの魔王が消えた影の中に飛び込んだ。
※次回更新は、10/14(日)の予定です。







