16-65.パリオン神国、再び(4)
※2018/9/25 誤字修正しました。
※今回はちょっと長めです
サトゥーです。興味があることに出会うと、我を忘れて没頭してしまう事がよくあります。普段なら問題ないのですが、友人や恋人と一緒の時だと色々と困った事に……。
◇
「なんか凄いわね」
勇者の方を見ていたアリサが呟く。
その視線の先では勇者メイコが魔王リッチと高速戦闘を続ける場所を囲むように、炎が燃え上がり、戦闘場所を囲うように三重になった炎の輪が現れた。
「メイコ! 血や肉片は全部焼き尽くしてやる! 気にせず斬りまくれ!」
勇者ユウキが勇者メイコに向かって叫ぶ。
「分かってる!」
勇者メイコは素っ気なく答えたが、回避一辺倒から攻勢へと移る彼女の口角が嬉しそうにくいっと上がった。
「頑張れ、メイコ! そいつが分裂していた魔王の本体だ! 俺のユニークスキルがそう言っている!」
輪の外から勇者セイギが叫ぶが、嬉々として魔王を斬り裂く勇者メイコには届いていないようだ。
オレのAR表示では特に差が無かったが、勇者セイギのユニークスキル「邪悪探索」か「正義心眼」でそれを見破ったのだろう。
実際、勇者メイコが戦う魔王は仲間達が倒した魔王よりも圧倒的に動きが速く、戦い方も巧みだった。
もっとも、そんな魔王より勇者メイコの方が速く、ユニークスキルに補助された回避能力と本人の戦闘センスの方が卓越している。
「ユウキ様! 肉片が飛びました!」
「――真火炎炉!」
勇者メイコが斬り飛ばした肉片が、空中でヘドロ状の触手へと変異しながら再生を始めたのを見つけた勇者ユウキの従者が叫び、勇者ユウキがそれに応えて、魔法金属すら溶かす高熱の上級火魔法で肉片を蒸発させる。
「ユウキ! 炎の影にも落ちているぞ! 再生前に倒せ!」
「ちっ、簡単に言ってくれて! ――真火炎炉!」
青い光を帯びた勇者セイギが、炎の輪が作り出す影の中で再生を始めた肉片を指摘する。
一見、何もしていないように見える勇者セイギだが、ちゃんと魔王退治の重要なパートをこなしているようだ。
でも、このままだと勇者ユウキの魔力が尽き――。
――おや? 思ったよりも勇者ユウキの魔力が減っていない。
魔力視やAR表示で確認したところ、勇者ユウキは自分の従者達と魔力を共有しているようだ。
魔力が尽きた従者は勇者ユウキとのリンクを解除して魔力回復薬を服用し、ある程度魔力が回復したら支援に復帰するルーチンを組んでいるらしい。
「勇者の子が頑張っているのです。一緒に応援するのですよ!」
「頑張れ~」
ポチやタマが勇者メイコに声援を送る。
素直なルルやナナも一緒だ。ルルは巨大な浮遊砲台を「格納庫」内に収納し、ナナも壊れた黄金鎧を予備に着替えていた。
「サ――ナナシ様。加勢しなくて大丈夫なんでしょうか?」
ゼナさんが心配そうに勇者メイコの方を見る。
完全回避のユニークスキルを持つ勇者メイコでも、魔王との一対一の戦いはストレスが多いらしく、たまに大きく避けて体力を消耗していたり、小さく避けすぎて鎧の一部を砕かれたりしていた。
鎧が千切れるときに小さく怪我を負っていたが、それらの傷はオレが手を出すまでもなく、勇者セイギの従者達が回復魔法で治癒していた。
「大丈夫ですよ」
そう言う途中で勇者メイコが攻撃に失敗して魔王の手首を切り落としてしまうのが見えた。
「メイコのドジ!」
「セイギ! お前の炎はマダか?」
「まだだってば!」
「くそぅ――真火炎炉!」
勇者ユウキが業火で手首を焼き尽くそうとしているが、大きな部位だと焼き尽くすよりも再生速度の方が上になるらしく、どんどん新たな魔王へと変化していく。
「うわわ、どうしよう」
「黙ってろ! 真火炎炉! 真火炎炉!」
「ユウキ! 魔法を止めて! 再生できないサイズまですりつぶしてやる!」
魔王本体から距離を取った勇者メイコが、再生中の手首にすさまじい連続攻撃を放つ。
「ユウキ様の所に行かせはせん!」
勇者ユウキの翼人従者が魔王本体の前に立ち塞がるが、瞬く間に盾や鎧を砕かれ傷だらけになっていく。
「お節介の――。次元杭」
「影縫い~?」
アリサの空間魔法とタマの忍術が魔王本体をその場に縫い止め、翼人従者の首を吹き飛ばそうとしていた魔王の拳を空振りさせた。
「良かったぁ――ミカエルが死んじゃうかと思ったよ」
「ユウキ様が私を案じてくださるとは思いませんでした。あと、私の名前はミェーカです」
ふらふらと飛んで炎の輪の外に戻った翼人従者に勇者ユウキが抱きついて無事を喜ぶ。
小さな声で勇者ユウキが「ありがとう」と礼を呟き、翼人従者がオレ達の方に大仰に騎士の礼を取った。
そんな小さなハプニングを何度か挟んだものの、勇者メイコの気力が尽きる前に、文字通り魔王を削りきる事に成功した。
「やった! 倒したぞ!」
「何か出てきた!」
魔王の死骸から上がる黒い靄に混ざって、いつもの暗紫色をした光球――「神の欠片」が現れた。
ユニークスキルは三つあるのに、現れた「神の欠片」は一つだけ。
それに、いつもとなんだか様子が違った。
『……』
いつもなら邪気を感じる呟きを漏らすのに、今日は不安そうにふよふよした後、無言で空へと昇り始めた。
このまま逃がす気はないが、肝心の勇者の従者達が「誰の従者が封印するか」で揉めていたので、「早くしないと逃げられるぞ」と助言してやる。
さすがにそれは不味いと思ったのか、従者達が慌てて「神授のお守り」を懐から取り出して、「神の欠片」の方へと向ける。
「「「神授のお守りよ! 邪悪を『封印』せよ!」」」
紫色の光を青い格子が包み、翼人従者の持つ一回り大きなお守りに吸い込まれていった。
勇者メイコの従者は悔しそうにしていたが、彼は魔王戦の間中、勇者メイコの回復すらせずに一番安全な場所で観戦していただけなので、あまり文句を言う資格はないと思う。
「ねぇ、ご主人様」
アリサがオレの袖を引っ張り、「勇者達の称号を見た?」と尋ねてきた。
言われるままに勇者達の称号を見てアリサの言いたい事を理解した。
称号「真の勇者」が付いていない。
今までのパターンだと魔王を倒した勇者には、「真の勇者」という称号が付くはずだ。
勇者ハヤトの時だと、今くらいのタイミングで天から降り注ぐ光が勇者達を包むはずなのだが、今のところその様子はない。
「ここって、ユイカの結界の中だから、神様から見えないんだったりして」
アリサが小鬼族の転生者ユイカの張ってくれた、神の覗き見を防ぐ結界の事を思い出させてくれた。
「――あっ」
しまった。
神様が魔王討伐を認識していないんじゃ、帰還オファーが来るはずもない。
オレは勇者達にどう謝ろうか考えながら、皆を連れて聖都の聖堂跡へと戻った。
◇
「なんで帰れないのよ! 魔王を倒したら、パリオンが帰してくれるんじゃなかったの!」
勇者メイコが激しい剣幕で自分の従者に詰め寄る。
「称号も『真の勇者』になってないぞ」
「パワーアップしそこねたね」
勇者セイギと勇者ユウキは、勇者メイコと違って元の世界に帰る気はまったくなさそうだ。
「ねぇ、帰してよ! 私を家に帰して!」
勇者メイコが従者の服を掴んで頭を押しつける。
オレのポカミスだけに、彼女の悲痛の叫びが胸に痛い。
「にゅ~」
「勇者の子が泣いているのです」
「励ます~?」
「そうなのです! ここはとっておきのくじらジャーキーをプレゼントするのですよ!」
「おう、ぐれいと~」
黄金鎧の隠しから、おやつのくじらジャーキーを取り出したタマとポチが、いそいそと勇者メイコの方へ行こうとするのを、リザが捕まえて小脇に抱える。
「ダメ~?」
「ダメです」
「くじらジャーキーを食べて元気が出ない子なんかいないのですよ?」
「そうではない子もいるのですよ」
「が~ん」
「しおしおなのです」
リザに諭された二人が、死体のポーズで落ち込んだ。
「ご主人様」
「ああ――」
気遣うアリサに頷いてから、勇者メイコに事実を伝えて糾弾されるために彼女の方へと歩み寄る。
「にゅ?」
死体のポーズを楽しんでいたタマが、耳をピンッと立てて空を見上げた。
「お空がヘンなのです」
聖都の空に不自然な暗雲が立ちこめる。
砂漠地帯と言ってもいい聖都に、ここまで分厚い雲が現れるのはおかしい。
――ZRWEEEAIYTTTZH!
魂に氷の刃を突き立てられたような不快な声が暗雲に閉ざされた聖都に響く。
その暗雲の中から現れたのは、存在感を増したレイス・ロード――ザーザリス法皇だった。
身体の周りに闇や怨嗟を具現化したような、流動する法衣を纏っている。
「あれって、元法皇よね?」
確認するアリサに首肯する。
「どうして、魔王になっているの?」
魔王ザーザリスは魔王リッチが持っていたユニークスキルのうち、「粉砕無双」「無限再生」の二つを持っており、レイス・ロードの時よりも格段にレベルが上がって、今ではレベル70になっていた。
「たぶん――」
アリサに推測を話す。
聖堂地下の都市核の間で大増殖した魔王の一部と一緒に、レイス・ロードのザーザリスがいなくなっていた事を告げ、恐らくは幽界に引き摺り込んだ魔王から、「生命強奪」や「魂魄強奪」を使ってレベルや経験を奪い、最終的に「神の欠片」を持っていた魔王の魂を自らに取り込んで魔王化したのではないかと思う。
「ザーザリス! 愚かな行いでパリオン様の寵愛を失ったばかりか、今度は魔王として聖都に徒なすとは!」
完全に空気だったパリオン神殿の中年巫女さんが、聖堂上空で哄笑する魔王ザーザリスを糾弾する。
「――魔王?」
中年巫女の言葉を聞きつけた勇者メイコが、涙でぐしゃぐしゃに汚れた顔を上げる。
「なんだ、いるんじゃない」
勇者メイコが病んだ顔で空を見上げた。
◇
「魔王ぉおおおおおおおおおおおおお!」
勇者メイコが空に足場を作りながら、魔王のもとまでピョンピョンと跳躍する。
たぶん、天駆スキルではなく空歩スキルだろう。
――ZRWEEEAIYTTTZH!
魔王ザーザリスが放つ「氷槍」の雨を、勇者メイコは軽々と回避する。
――ZRWEEEAIYTTTZH!
すぐさま範囲攻撃の「氷嵐」に変えた魔王ザーザリスの攻撃を、勇者メイコはユニークスキルを帯びた聖剣で切り裂いて飛び越えた。
結構な無茶だったらしく、勇者メイコの身体に無数の傷ができ、白い氷嵐を赤く染める。
――治癒。
オレは先ほどの詫びに、効果範囲を拡張した回復魔法で勇者メイコを癒やし、二種類の魔法「精神抵抗強化」「身体強化付与」で勇者メイコをサポートした。
「――すごい」
ポチの黄金鎧に搭載したエクストラモードを遥かに超える身体強化に、勇者メイコが小さく感嘆の言葉を漏らした。
「これなら行ける!」
キッと魔王を見上げた勇者メイコが今まで以上の勢いで空を昇る。
物理攻撃に耐性を持つレイス・ロードの特性を残しているはずの魔王ザーザリスの身体を、勇者メイコがザクザクと斬り裂いた。
斬り落とされた腕が黒い靄となって消え、代わりに元の場所に新しい腕が生える。
「おい、セイギ。見たか?」
「ああ、見た。こいつ分裂しないぞ」
急にやる気になった勇者セイギと勇者ユウキが、遠くから勇者メイコを援護する。
勇者ユウキは得意の火魔法、勇者セイギは従者から奪い取った魔法銃で援護射撃を始めた。
「……■■■■ 神威浄化!」
白銀騎士ホーリーことセーラの神聖魔法が魔王ザーザリスに放たれたが、不快な悲鳴を上げるだけで、さほどダメージにはなっていないようだ。
「パリオン神殿の罪は私達が雪ぎます。そちらのテニオン神殿の方は手出しをご遠慮ください」
セーラの魔法がテニオン神由来のモノだと見破った中年巫女が、セーラに釘を刺す。
「勇者達よ! そのまま魔王となった逆賊を押さえるのです! その間に私達の秘宝を用いた御業で魔王を封じてみせます!」
中年巫女達がアイテムボックスから取り出した虹色の珠を天に翳す。
彼女に付き従っていた中央神殿の人達が、その珠に手を翳して魔力を供給する。
勇者メイコ達の討伐の助けになるなら放置、邪魔になりそうなら排除する事にして、彼女達の動向を見守る。
彼女達を中心に光の魔法陣が生まれ、それが十重二十重に増えていく。
「変わった術式ね」
「難解」
ミーアが眉を顰めて唸る。
「ご主人様、分かる?」
「神聖魔法系の封印魔法だと思うけど――」
見たことのない術式だ。実に興味深い。
神聖魔法系の魔法陣には神を示すシンボルが一つだけあるのだが、中年巫女達が作り出した魔法陣には、なぜか神を示すシンボルが八種類もある。
オレが知る七神のシンボルと見覚えのない一つ。
――ZRWEEEAIYTTTZH!
中年巫女達の魔法陣に気付いた魔王ザーザリスが幽界に逃げようとしたので、閃駆で近寄って開きかけた幽界への入り口を破壊する。
「これはあたしの獲物よ!」
「ああ、取らないから頑張れ」
オレは魔王ザーザリスの魔力を「魔力強奪」で奪い尽くし、魔王を守っていた支援魔法を「魔法破壊」で砕いておく。
ついでに新しい幽界の入り口を作れないように、精霊光を全開にした上で、周囲の瘴気を全て浄化しておいてやった。確証はないが、「賢者の塔」で得た知識が正しいなら、この対策で合っているはずだ。
「お疲れ様。相変わらず過保護ねぇ」
呆れ気味に言うアリサをスルーして戦いを見守る。
「魔王が下りてきたら、もうちょっと戦えるのにっ」
「うるさい、セイギ。良いからガンガン撃てよ!」
勇者セイギの魔法銃による攻撃は、ほとんどが魔王ザーザリスに防がれていたが、勇者ユウキの攻撃魔法はレジストされてもそれなりのダメージを与えられていた。
「るぅあああああああああああ!」
勇者メイコが激しく青い光を放ちながら魔王ザーザリスと激戦を繰り返していた。
魔王リッチの元になったホムンクルスほど格闘センスがないせいか、格下のはずの勇者メイコに翻弄されている。
もっとも、レベル差や物理攻撃に対する高い耐性を持つ格上の魔王相手なので、ダメージが思うように通らずに苦戦しているようだ。
「ご主人様、魔法陣が!」
中年巫女が持っていた虹色の珠が空に浮かんで空気に溶けていく。
珠が溶けきるのと同時に魔法陣が円柱状に空へと伸びていき、魔王のいる高さの倍まで伸びたところで、緻密さを増しながら球状へと変化する。
――すごい。
もの凄い数の術式がお互いを補完し合って、簡単には壊せない強力な封印を構成している。
なかなか芸術的な術式だ。
まだ完全じゃないから大丈夫だけど、この封印に囚われたら魔法破壊系の術じゃ絶対に出られない。少なくともオレの魔法じゃ無理だ。
オレは何かに使えるかも、と封印術式を暗記していく。
「良し――下がれ、勇者! さもなくばザーザリスと共に、魔神すら逃れられない無限の牢獄に囚われる事になるぞ!」
中年巫女が偉そうに叫ぶ。
確かに強力な封印術式だとは思うけど、さすがに「魔神すら逃れられない」は言い過ぎだと思う。
「この『封神の虹石』は我が祖父にパリオン様の使徒たる黄衣の聖者様が託された神代の秘宝! ザーザリスに妨害されて先だって聖都に現れた魔王を封じる事ができませんでしたが――」
頼んでもいないのに、中年巫女が虹色の珠の説明を始めた。
というか――。
「黄衣の聖者?」
たぶん間違いないと思うけど、公都で倒した古参の上級魔族――黄肌魔族の事に違いない。
急に「封神の虹石」とやらの怪しさが増した。
「やかましい! これは私の獲物よ! 誰にも手出しはさせないわ!」
「ならば、魔王と共に封じられなさい」
魔王との戦いを止めない勇者メイコに、中年巫女が最後通告をする。
「ご主人様、封印の秘宝を止めるか、メイコを助け出さないと――」
「ああ、そだね」
封印術式の暗記に夢中で忘れていた。
でも大丈夫。封印術式が完全に発動するまで、まだ数秒もある。
オレは空間魔法の「物品引き寄せ」を勇者メイコと魔王ザーザリスの二者に使う。
「――え?」
勇者メイコのユニークスキル「最強の刀」の力を帯びた聖剣が、オレの「物品引き寄せ」を斬ってしまった。
――まずい。驚いている場合じゃない。
大丈夫、まだ間に合う。
オレは閃駆で勇者メイコの傍らに移動し、問答無用で彼女を捕まえ――。
伸ばした手が勇者メイコの身体をすり抜けるように空を切った。
彼女のユニークスキル「無敵の機動」と「先見の明」の合わせ技だろう。
それでも三度目の正直で彼女を捕まえる事に成功したが、その時には既に封印術式が完成し、オレ達は封印結界の中に囚われてしまっていた。
「離して! 私は一人でも魔王を倒すんだから!」
「一人じゃないぜ」
「セイギ?」
「まったく、友達の為に命を張るなんてボクの柄じゃないのに」
封印術式が完成する寸前に勇者セイギと勇者ユウキが術式の中に飛び込んできていたようだ。
仲が良くない感じだったけど、助け出すために危地に飛び込む程度には友達だったらしい。
「とりあえず、魔王を倒そうぜ」
「待て」
オレは勇者セイギの提案に待ったを掛けた。
「ここで倒したら、さっきみたいに魔王討伐の結果がパリオン神に届かなくて、帰還オファーが来なくなるかも知れない」
「それはまずいわね――って、さっき帰れなかったのはあんたのせいだったの?」
「すまない」
勇者メイコの糾弾を甘んじて受ける。
「待って、メイコ。先にここから脱出しよう」
勇者セイギが取りなしてくれた。
「メイコのユニークスキルで斬れないかな?」
「やってみる」
勇者メイコが青い光を帯びた聖剣で結界に斬り付けると、すぱりと術式の一つを真っ二つにした。
だが、近隣の術式が協力して瞬く間に修復してしまう。
「――ちっ。勇者を舐めるなぁあああああああああああああああ!」
勇者メイコが絶叫を上げながら連続で術式を斬りまくるが、相互に補完し合う完璧な封印結界だ。
中年巫女の言っていた「魔神すら逃れられない」という言葉も、あながち眉唾ではなかったのかもしれない。
◇
「それで、あんたならここから出られるの?」
肩で息をする勇者メイコがオレを睨み付ける。
「封印結界を壊す魔法を何種類か使ってみたけど、普通に壊しただけじゃすぐに修復されて無理みたいだったよ。もちろん、転移系もダメだった」
この封印結界はオレの転移魔法や忍術でも脱出できず、アリサとの眷族通信すら不可能だった。
「無限収納や無限武器庫は使える?」
「それはどっちもできる――あれ?」
勇者メイコが首肯する途中で言葉を止めた。
「魔力が回復していないわ」
言われてみれば、オレの魔力も回復していない。
源泉からも隔離されているので、魔素の補充ができず、この場にある魔素でやりくりするしかないようだ。
「こんな場所で飢え死にはいやだぞ」
「そんなの、あたしだってごめんよ」
「こんな事なら助けになんてこなければよかった……」
「誰も来てなんて言ってないでしょ」
「ちょ、ちょっと! メイコもユウキも喧嘩なんてやめろよ」
勇者達が口げんかするのを横目に、封印結界の術式の動きを見つめる。
「なんだか余裕だけど、なんとかなるの?」
「ああ、たぶんね」
この術式は魔法や物理的な手段では絶対に破壊できない。
オレは勇者達に手を伸ばす。
「――何?」
「手を出して」
オレは勇者達の手を掴む。
ついでに結界壁を死に物狂いで壊そうと躍起になっている魔王ザーザリスにも、「理力の腕」を伸ばして捕まえる。
――ユニット配置。
◇
「「「ご主人様!」」」
「「「セイギ!」」」
「「「ユウキ様!」」」
幾つもの声がオレ達を呼ぶ。
オレ達は封印結界の外へと移動したのだ。
勇者メイコのユニークスキルが通じていたから大丈夫だとは思ったけど、なかなかハラハラした。
まあ、ユニット配置が失敗しても、各種結界をスルーできるオレの謎特性でも脱出できそうな気はしていたんだけどさ。
「そ、そんな! 聖者様の封印から逃れるなんて!」
なんだかボロボロになった中年巫女がオレ達や魔王を見て叫んだ。
たぶん、勇者の従者達にボコボコにされたのだろう。
――次元杭。
どさくさ紛れに逃げようとしていた魔王ザーザリスを地上に縫い止める。
「とりあえず、魔王を倒そうか」
オレはそう提案して、勇者達と一緒に魔王を倒した。
「――出たぞ! 今度は揉めるなよ!」
勇者セイギが魔王の死骸から出てきた暗紫色をした二つの光――「神の欠片」を指さす。
『……』
『……』
さっきの「神の欠片」と同様に、この二つも無言でふよふよしている。
「「「神授のお守りよ! 邪悪を『封印』せよ!」」」
紫色の光を青い格子が包み、勇者セイギと勇者メイコの従者が持つ一回り大きなお守りに吸い込まれていった。
魔王の死骸が黒い靄になって消えるとき、三人の勇者達に天から青い光が降り注ぐ。
勇者ハヤトの魔王討伐後にも見た光景だ。
おそらく、勇者達はパリオン神と会っているのだろう。
しばらくして、青い光が消えた。
「――帰れるのは明日だって」
勇者メイコが晴れ晴れとした顔で涙を流す。
よっぽど元の世界に帰りたかったのだろう。
「ボクは残るよ。こっちも地球と変わらないくらいクソゲーな世界だけど、灰色な元の世界より、こっちの方がよっぽど刺激的だしね」
「俺も残るぞ。こっちの方が悪が分かり易いし、裁く方法もシンプルだからな」
勇者ユウキと勇者セイギは残るらしい。
涙を拭いた勇者メイコがやってくる。
「手伝ってくれてありがとう。さっきの失敗はチャラにしてあげるわ」
勇者メイコと握手を交わす。
「それにしても、あんたって規格外よね」
「実体のない魔王を掴んで引き裂いてたもんな」
「魔法も馬鹿げた威力だったし」
失礼な。
「こっちの現地勇者や竜王もたいがいだったけどね」
勇者セイギの言葉に、ポチとリザの尻尾が得意げに揺れる。
オレの影でタマが「にんにん」と淋しそうに呟いた。
どうやら、忍びすぎて勇者達に気付いてもらえなかったようだ。
◇
「じゃあね、セイギ、ユウキ。フウに会ったら、たまには太陽の光を浴びなさいって言っておいて」
「分かった。手紙頼んだぞ」
「分かってる。ユウキは本当に手紙を届けなくていいの?」
「うん、いらない。元の世界でボクを必要としている人は誰もいないから」
「そう。でも、私は覚えてる。気が向いたら帰ってきなさい」
勇者達が別れを告げるのを待って、勇者メイコの方へ行く。
勇者メイコと関わりのあったポチも一緒だ。
バットケースに入った純金の塊とエリクサー数本を土産に渡し、オレも勇者メイコと握手を交わす。
「これは?」
「お土産だよ。向こうの世界で役に立つと思う」
外側は近代アートな感じに塗装してあるから、警官に職務質問されても大丈夫なはずだ。
ポチは秘蔵のジャーキーセットを手土産に渡していた。
「またね――」
勇者メイコは最後にそう囁いて、青い光の中に消えた。
「……そんな……パリオン様……」
聞き耳スキルが気になる呟きを拾ったので、声の方を振り返ってみた。
離れた場所で勇者メイコの帰還を見送っていた中年巫女が、地面に手を突いて項垂れている。
この時は分からなかったが、二日ほど空けてサトゥーとして訪れた時に、その意味を知った。
「サガ帝国の旧都にあるパリオン神殿ですか?」
「そうです。口惜しい事ですが、聖都の大聖堂がこの有様では、パリオン神に降臨していただくのは不敬にあたります。ですから、一時的に。そう、あくまで一時的にサガ帝国のパリオン神殿に、中央神殿の代わりを果たさせてあげる事になりました」
頭の血管が切れそうな顔で、中年巫女が神託で受けたという言葉を語ってくれた。
オレはパリオン神の伝言を伝えてくれた中年巫女に、「復興の一助に」と言って常識的な額の寄付をしておく。
「どうしたのご主人様? なんだか釈然としないって顔してるけど」
中年巫女が伝言を受けたのは、勇者メイコが去ったあの時だと思うけど、あの時に中年巫女の方から神々しい気配を感じなかった気がするんだよね。
まあ、勇者メイコを送還する為の神力が濃かったから、そのせいで気付かなかっただけだと思うんだけどさ。
「いや、なんでもないよ」
「ならいいけど。心配事があるなら、いつでもアリサちゃんに相談するのよ――もちろん、夜這いだって大歓迎――」
馬鹿な事を言い出したアリサの頭をポカリと叩き、オレは飛空艇の進路をサガ帝国の旧都へと向けた。
※次回更新は、9/30(日)の予定です。







