16-54.賢者の塔(3)
※2018/7/2 誤字修正しました。
サトゥーです。地球にある神話を紐解けば、古来から信仰されていた神様が後から布教された宗教で邪悪な存在へと堕とされたり、従属神へと変化したりする事は珍しくありません。
そして、それは神が実在する異世界でも例外ではないのでしょうか?
◇
「ナンパ? もしかして、ナンパっすか? いやー、照れるっすね! 一回りして十代になった甲斐があったってもんっすよ!」
「黙れ、116歳――」
下っ端口調の美少女がテンション高く恥ずかしがるのを、連れのイケメン青年が雑な感じで後ろに下がらせる。
「――見ない顔だが、異端審問官にも見えん。この若作りを本当に口説きたいなら止めんが、閨に入ってから青ざめたくなければ止めておけ」
オレと美少女の間に割り込んだイケメン青年が、酷薄な顔でオレを諭す。
「ひどいっすよ、ラケロ! じゅひょーちゃんに言いつけるっすよ」
「どうぞご自由に。師匠に小言を並べられるのはお前だぞ。それから、我が師『樹氷の森の魔女』様を、妙な名前で呼ぶのも遠慮してもらおう」
「それなら、あたしの事もお前じゃなくて『氷原の魔女』様って呼ぶっす!」
「お前など、お前で十分だ」
「酷いっす~。これでも『氷原の源泉』を支配する大魔女様なんっすよ、あたし?」
下っ端口調の美少女はAR表示によると、彼女は称号と名前が「氷原の魔女」になっている。
彼女の発言が正しいとすれば、彼女は源泉を少なくとも一つ支配する魔女という事なのだろう。
都市核も無しに源泉を支配する方法には少し興味がある。
「このコントって、いつ終わるの?」
「終わらないんじゃないかな?」
呆れ声のアリサにそう答え、女給の一人に声を掛けて彼らの分の料理と酒を追加注文してから、二人のコントに割り込む事にした。
なお、アリサとゼナさん以外はマイペースに食事を続けている。
「――失礼。立ち話も良いモノですが、よろしかったらご一緒しませんか?」
オレは女給さんが持ってきてくれた酒杯を二人に掲げながら空席に誘う。
「えへへ、照れるっすね」
なぜか下っ端口調の美少女――魔女さんがオレの膝の上に座る。
「むぅ」
「ギルティー!」
「そこはタマの場所~?」
オレが抗議するよりも早く、ミーア、アリサ、タマの三人から抗議の声が上がった。
「負――」
「ナンパというのは誤解です」
魔女が話を混ぜっ返すよりも早く彼女を隣の席へと移し、素早く誤解を解く。
時間を置くと、セーラやシスティーナ王女まで合流して収拾がつかなくなりそうだしね。
「そうなんすか?」
なんだか魔女さんが残念そうだ。
「ええ、先ほど話してらした『魔神こそが現代魔術の祖』という話を伺いたくて」
「興味があるっすか? 幾らでも話してあげるっすよ! でもでも、魔神様には敬意を込めて『様』を付けてほしいっす!」
自説を聞きたいと言われたのが嬉しかったのか、魔女が再びハイテンションになってオレの背をバンバン叩く。
見た目は儚げな美少女なのに、行動はどこかおっさんくさい。
魔女の向こう側に座ったイケメン青年は「物好きなヤツだ」と呟いた後、静かに酒杯を傾けている。
「全部話すと一晩じゃ済まないっす。とりあえず、何から聞きたいっすか?」
「『魔神こそが現代魔術の祖』と呼ばれる根拠を教えていただけますか?」
「うーん、いっぱいあるっすけど、一番有名なのは大昔の賢者がトキスォーク王国にある古代ララキエ王朝時代の遺跡で、魔神様が現代魔術をニンゲンに伝えたって書いてある石板を見つけたヤツっすね」
「ふん。神代ララキエ文明後に興った古代文明の遺跡に遺されたラルケリア石碑やトロ・クロウの黄金塔で否定されているではないか」
魔女さんの説明を、イケメン青年が否定する。
「どう否定されているんですか?」
「ラルケリアでは王朝後期に配下の『狗頭の魔王』を操って世界中の魔術士を虐殺し、古い魔術士の系譜が滅んだところで、自分を信奉する者達に魔法スキルと魔法書を与えたのだと書かれてあった。トロ・クロウでは神官にも同じ事をしようとしたために、神の怒りを買って魔界の奥深くに封印されたとあったのだ」
イケメン青年が饒舌に語る。
彼も自分の知識を開陳するのが好きなタイプらしい。
「待つっす! 前から言ってるっすけど、トロ・クロウはねつ造臭いっす! サガ帝国の初代皇帝の自伝で、魔神様に会った記述があったはずっす! ラルケリアの方も世界中の魔術士を虐殺するような大事件なのに、同年代の他の遺跡でそれらしき話が全くないっすよ!」
今度は魔女さんが反論した。
歴史は難しい。
オレは激論を重ねる二人の会話に耳を傾けつつ、空間魔法の「遠話」を使う。
◇
『サトゥー!』
『お久しぶりです、アーゼさん』
遠話越しに耳に心地よい声が届く。
『旅先で「魔神が現代魔術の祖」という話を聞いたのですが、何かご存じありませんか?』
『現代魔術? ちょっと待って、記憶庫に繋がればすぐ分かると思う。少し待ってて』
『ありがとうございます。では、後ほどかけ直します』
オレは名残惜しい気持ちに耐えて遠話を切る。
未だに激論が続いていたので、別の生き証人に遠話を繋いでみた。
『――勇者様』
『やあ、レイアーネ』
レイアーネは天罰事件の時に、「神の浮島」ララキエを巡った一件で知り合った「半幽霊」という珍しい種族の娘で、先程から魔女さん達の話題に出てきた「ララキエ王朝」の最後の女王だった少女だ。
オレは近況を尋ねた後、本題に入る。
『魔神様ですか? すみません、成人の儀で七柱の神々と交神した事はありますが、魔神様や竜神様とは交神した事が無いんです』
一応、確認してみたが、魔術士の虐殺のような事件は知らないとの事だった。
原始魔法から現代魔術へと変遷した時期についても尋ねたが、芳しい答えは返ってこなかった。
『人伝で聞いた話ですが、魔神様は下界の人々と頻繁に交流していたそうです』
『交流ですか?』
『ええ、神々に多くの祈願や祈りを奉納する為に、下界の人々を増やす為に遣わされたと聞いた事があります』
――遣わされた?
『誰にですか?』
『どなたかまでは知りませんけど、七柱の神々のいずれかの御方だと思います』
魔神は七柱の神々にパシリのような扱いを受けていたらしい。
そういえばルモォーク王国の影城を調べた時に、アーゼさんが「神々から神力や権能と引き替えに浮遊城を作る事を請け負っていた」的な事を言っていたっけ。
このパシリみたいな案件も、同じような感じで引き受けたのだろう。
オレはレイアーネに礼を言って通話を切り、アーゼさんに再び遠話を繋ぐ。
『ごめんなさい、サトゥー』
いきなり謝られた。
口調からして、彼女は亜神モードのアーゼさんだ。
『現代魔術の始祖については、七柱の神々から情報制限指示を受けていて、誰にも話す事ができないの』
『謝らないで下さい、アーゼさん』
むしろ、神々が制限を掛けた事で、本当に「魔神が現代魔術の祖」である可能性がでてきた。
オレはアーゼさんに礼を告げ、後ろ髪引かれつつも通話を切る。
◇
「らからあ、魔神様は慈愛に満ちた御方なんっすよ!」
「やかあしい、魔神狂い。魔族や魔王で世界に恐怖と瘴気を撒き散らすような神のろこに慈愛があうと言うろだ!」
平行線を辿る魔女さんとイケメン青年の呂律が怪しくなってきた。
かぱかぱと酒杯を空けていた割に、二人とも酒に強くないらしい。
「ねぇねぇ、ご主人様。この二人の会話を聞いてたら、魔神って二人いたんじゃないかって思えてこない?」
「確かにね」
本気でそうは思っていなさそうなアリサの言葉に軽口で答えつつ同意する。
フィルターの掛かった視点で情報を分析したら、まったく違う像を結んでしまうのはよくある事だ。
幸い月に封印されている魔神の封印が解かれる気配もないし、それほど真剣に追究する必要も無いかも――。
――待てよ。
そうだ。
この世界の神話では「魔神は月に封印されている」事になっているはず。
オレは実際に月に行って、それがガセ情報である事を知っているが、それは一般的な知識じゃない。あの鼬帝国の皇帝やブレインズの連中だって知らなかったくらいだ。
なのに、彼女達は魔神が魔界に封印されていると言っていた。
もしかしたら、彼女達はオレの知らない魔神封印の正しい情報を知っているのかもしれない。
「魔女殿――」
問いかけようとした魔女とイケメン青年の二人は、既に赤い顔で仲良く寝息を立てていた。
酔い覚ましの魔法ですぐに覚醒させる事はできるが、幸せそうな顔で眠る二人を見ていると、自分の疑問を解消する為に叩き起こすのも躊躇われる。
オレは女給さんに、酔っ払い二人を寝かす事ができる部屋を二つ借りて押し込んでおく。
疑問の解消は二人が目覚めてからでいいだろう。
念のため、二人にはマーカーを付けておこう。
◇
「それじゃ、手分けして行動しよう」
酔っ払いの始末を終えたオレは、仲間達に未解決問題と狙い目の問題候補を伝えた後、五つの班に分かれて行動する事になった。
第一班はミーアとシスティーナ王女に、護衛のゼナさんを付けた三人。
彼女達は「無詠唱を実現するには?」という難問に挑む。
第二班はアリサに、護衛にリザを付けた二人。このチームには、後からヒカルに合流してもらおうと考えている。
彼女達は「原始魔法から現代魔術への変遷と相違」を調べてもらう。
この難問には先ほど知り合った魔女さん達にも力になってもらえそうだ。
第三班はセーラに、護衛のナナを付けた二人。
彼女達、というかセーラは「生物から不死生物への変遷と不可逆性の否定について」調べる予定だ。
上手くいけば、トキスォーク王国で吸血鬼になった子達を元に戻す事ができるかもしれない。
第四班はカリナ嬢、ポチ、タマの三人。
彼女達三人にはカリスォーク市の観光スポットの開拓を頼んだ。
遊びに見えて、一番重要な任務だったりする。
カリナ嬢は複雑そうな顔だったが、ポチ隊員もタマ隊員もやる気に満ちた気合い十分な感じだった。
「やっぱ、リザさんはカリナサマ達の監督役に付いてもらった方がいいんじゃない?」
アリサが小声でオレに囁く。
確かにあの三人だけだと、九割くらいの確率で騒動が起きそうな気がする。
だからと言ってアリサを護衛も無しに一人にするのは心配だ。
「ご主人様は相変わらず心配性ね。わたしに何かあったら『眷族ぅぱわー』ですぐご主人様に伝わるじゃない。すぐに助けてくれるんでしょ?」
「それもそうだな」
オレは首肯し、アリサの提案通りリザをカリナ嬢の班に移動する。
念のため、アリサには耐状態異常攻撃装備を手渡しておいた。
なお、オレは単独で『迷宮はなんの為に存在するのか?』と『迷宮の主はいかにして魔法の品々や魔物を生産しているのか?』を調べる。
いずれも「迷宮の主」であるオレの立場なら、比較的簡単に解けそうなヤツだ。
もっとも、オレの立場を明かせない以上、問題を解いても発表はできない。
この二つを調べ終わったら、アリサやセーラの班に合流しようと思っている。
◇
「『迷宮はなんの為に存在するのか?』ですか?」
オレは孤島宮殿でコア・ツーを回収後、デジマ島の「夢幻迷宮」最下層にある「迷宮の主の部屋」に来ていた。
先ほどの問いを発したのは、明滅する迷宮核だ。
「ああ、そうだ。分かるか?」
「不明です」
「そうか――」
迷宮核が知っていたら簡単だったのだが、そこまでイージーモードではないらしい。
「マスターは『人族がなんの為に存在するのか?』分かるの?」
コア・ツーの問いに「確かに分からないね」と返事する。
「マスター、先ほどの問いの答えは『不明』ですが、候補を推測する事は可能です」
「そうなのか?」
「はい、『潤沢な魔力と瘴気と魂魄を用いた生産工場』『地上の瘴気を回収する掃除機』の二つが迷宮の役割ではないかと、前マスターが呟いていました。私もその推論を支持します」
前者は同意だけど、後者については意識した事がなかった。
「迷宮には地上の瘴気を回収する機能があるのか?」
「いえ、直接回収する機能はありません。迷宮内の瘴気を回収する機能の副次的な効果によるものです。前マスターは鼬帝国で行われていた瘴気の回収アイテム、『邪念壷』や『呪怨瓶』は迷宮にヒントを得た物ではないかと推測していました」
迷宮核の言葉に首肯する。
魂魄値さえどうにかできれば、瘴気回収魔法でも作って迷宮を工場化できるんだけどね。
難問の二つ目、「迷宮の主はいかにして魔法の品々や魔物を生産しているのか?」は先ほど迷宮核が言っていた「潤沢な魔力と瘴気と魂魄を用いた生産工場」という言葉で材料については概ね説明されている。
「コア、魔力と瘴気と魂魄を用いてアイテムや魔物を生産する仕組みについて説明できるか?」
「可能です」
「では、頼む」
意外と簡単に済みそうだ。
「迷宮核の理論回路の中にある創造炉に、潤沢な魔力と瘴気と魂魄をレシピ通りに流し込む事で、仮想工場が目的の品を生産します。生産工程を確認したい場合、迷宮核の制御盤を操作して、理論回路をご確認下さい」
あまり詳細ではなかったが、検索キーワードが分かればあとは簡単だ。
オレは迷宮核が教えてくれた通り、制御盤を操作して理論回路を読む。
頑張って読む。
なかなか複雑だ。
それになにより、回路面積が凄まじく広い。
半田付けでラジオを作ったばかりの中学生が、最新CPUの回路図を読むような無力感を感じる。
知力値がカンストしたオレでも、全てを読み解いて把握するには最低でも数ヶ月、もしかしたら一年くらいかかりそうな規模だ。
でも、それだけの労力を掛ける価値は十分にあるので、回路図のダウンロードだけして暇を見つけて解析していこうと思う。
◇
「さてと、解答を伝えるのはやっぱり無しだな……」
難問の答えとしては、さっき迷宮核が言っていた説明で十分な気がするけど、ちょっとばかり問題がある。
迷宮がアイテムを作るのに魂魄が必要だと伝えてしまうと、欲に塗れた権力者が無辜の民や異人種を迷宮に生け贄として差し出す事案が発生しそうなんだよね。
そこまで行かなくても、新人探索者の死亡率を意図的に上昇させようとする人間が出てきそうで怖い。
オレは一つ嘆息し、孤島宮殿でヒカルを回収した後、都市国家カリスォークへと戻る。
その直後、オレの足下からタマとポチの焦った声が聞こえた。
「大変大変~?」
「ご主人様、大変なのです!」
※次回更新は 7/8(日) の予定です。
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