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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十六章

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16-52.賢者の塔

※2018/6/17 誤字修正しました。


 サトゥーです。凡才が人生を賭けても解けない問題を解くのはいつも天才だと、大学時代の友人の一人が言っていました。

 でも、最後の一歩を踏み越えるのが天才だとしても、その一歩までの道を踏み固めるのは、私達凡才の不断の努力だと思うのです。





「わー、雪国ー」

「雪がワンワン降っているのです!」


 アリサとポチが雪を初めて見た子犬のように新雪に突撃した。


 オレ達はカリオン神の中央神殿がある都市国家カリスォークへとやってきていた。

 前回の試練までで、「神のバックドア」疑惑が考えすぎだと分かったので、今回は暇そうなメンバー全員で来ている。


 この都市国家カリスォークのある領域は冬のようで、都市の別名にもなっている「賢者の塔」はしんしんと降る雪に隠れて、今いる都市の外からは見えない。


「もう、アリサったら。風邪を引くわよ」


 雪に人拓を作って笑うアリサとポチを、困り顔のルルが窘める。

 その発言を受けて、二人に遅れて新雪に飛び込もうとしていたカリナ嬢が、バツの悪そうな顔で思いとどまった。

 まあ、飛び込んでいたら、システィーナ王女やセーラからのお小言タイムが待っていただろうけどさ。


「ミーア、雪兎を希望します」

「ん、任せて」


 新雪を両手で掬ったナナがミーアに雪で兎像を作るのを依頼している。


「ぬくぬく~?」


 オレに肩車されたタマが、オレの頭に抱きついてごろごろと喉を鳴らす。


「タマ、降りなさい。ご主人様のご迷惑です」

「ダメ~?」

「別にいいよ」


 リザに叱られて、しょんぼりとするタマが懇願してきたので許可してやる。


「サトゥー、王祖――ミト様はいらっしゃらないの?」

「ええ、午前中は用事があると言っていたので、午後から合流すると思います」


 周囲を見回すシスティーナ王女に答える。

 出がけにヒカルを誘ったときに彼女はいなかったようだ。


「サトゥーさん、お言いつけ通り出迎えの馬車はお断りしてきました」

「ありがとうございます、ゼナさん」


 先に飛行(フライ)の魔法で都市の正門までお使いに行ってくれたゼナさんが戻ってきた。


「では、セーラさんが来たら行きましょう」


 オレはそう言って、雪で遊ぶ子供達を愛でる。


「すみません、お待たせしました」

「いいえ、それほど待っていませんよ」


 しばらくして身支度を調えたセーラが飛空艇から降りてきた。

 彼女は寒いのが嫌いらしく、最初は着ぶくれた格好で出かけようとしていたので、オレの魔法で気温制御が完璧な事を伝えて身軽な冬服に変更してきてもらったのだ。


 雪の王国こと東方小国群のキウォーク王国の時は、雪国を満喫する為に使っていなかったけれど、着ぶくれた格好だと動きにくそうだったので、今回はこの魔法を使う事にした。


「それじゃあ、行きましょう」


 オレは皆に声を掛けて、雪原の向こうに見える正門に足を向けた。





「つらら~?」

「なんだか美味しそうなのです」

「あはは、後でイチゴシロップでも掛けて食べてみる?」

「ん、ブルーハワイ」


 子供達が家々の窓や屋根から垂れ下がっている氷柱に手を伸ばしながら笑い合う。

 ミーアは青いのが好きらしい。


「それにしても真っ白ですわ」

「こういうのを雪化粧というのですよ」


 システィーナ王女がカリナ嬢に答える。


「この季節は露店や市もないみたいですね」

「その分、お店は多いみたいだよ」


 扉や窓が小さいので民家のようにも見えるが、入り口には酒場や食堂といった絵が描かれた看板が下がっている。

 他の国より貸本屋が多めなのは、「賢者の塔」のお膝元だからだろうか?


「あれが中央神殿でしょうか?」

「カリオン神の聖印が正面の壁に刻まれていますから間違いないでしょう」


 ゼナさんの問いにセーラが答える。

 カリオン中央神殿は氷をイメージした建物のようだ。


 実際には本物の氷ではなく、水晶を土魔法で強化した建材で作られている。


「きらきら~?」

「トーメイなのです!」

「氷で作られた建物ですわ!」

「まあ、氷の宇宙船で銀河を渡った人もいるし、あるんじゃない?」


 アリサがスペースオペラに出てくる民主主義国家を樹立した偉人のエピソードを挙げながら言う。

 彼女自身は冗談で言っているようだが、ポチ、タマ、カリナ嬢の三人が本気にしてそうな感じだったので、水晶で作られているのだと教えておいた。


 仲間達と連れだってカリオン中央神殿の中に入る。


「神官ばっかりかと思ったけど、学者も多いわね」


 アリサが言うように、信徒は学者が多いようだ。

 中央神殿に出入りする人は、神官もそれ以外も灰色の外套を着ている人が多いので見分けが付きにくい。


「神殿の奥に神殿の図書館があるみたいだよ」

「へー、一般にも開放しているのかしら?」

「どうかな?」


 図書館の範囲をマップ検索したが、「賢者の塔」の関係者や学者以外は、学者の私塾に通う学徒達だけのようだ。


「ぴんく~?」

「どちらかというと朱色ではありませんか?」


 礼拝堂の中には朱色の岩塩で作られた像が並んでいた。

 タマにはあの像がピンク色に見えたようだ。


「異国の方、カリオン中央神殿へようこそ。治癒か祝福をお望みですか?」


 オレ達の方に、温和な感じの男性神官が寄ってきた。


「いえ、カリオン神の試練を受けに参りました」

「し、試練? 『真理の探究』図書館の閲覧をお望みですか? それとも『本来の意味』での試練を?」

「図書館の閲覧も許可頂きたいですが、今日お邪魔したのは『本来の意味』での試練を受けるためです」

「し、少々お待ちください!」


 男性神官が慌てて奥へ戻る。

 他の中央神殿では連絡が届いていたようなのに、このカリオン中央神殿には伝わっていなかったのだろうか?


「お、お待たせいたしました」


 しばらくして、先ほどの男性神官が厳格な顔をした神殿長を始めとした高位神官達と妙齢の巫女を連れて戻ってきた。


「はじめまして、『神の試練に挑む』方。私はカリオン神に仕える『神託の巫女』マイヤーと申します」

「シガ王国、サトゥー・ペンドラゴン伯爵です。巫女マイヤー殿にお会いできて光栄です」


 巫女マイヤーがキリリとした顔で挨拶をする。

 なんというか、女教師ファッションが似合いそうな、きつめの顔立ちの巫女さんだ。





『――神よ。我らが崇める思慮深き神よ』


 今までと変わらない感じの手続きの後、オレは神託の巫女マイヤーの導きでカリオン神と交神を行なっていた。


 巫女の呼びかけに応え、天から明るい光が降ってきた。

 心地よい朱色の光だ。


 恍惚の表情をしていた巫女から表情が抜ける。

 トランス状態に入ったようだ。


『……めんどう』


 子供のような性別不詳の声が脳裏に届く。

 カリオン神の声だとは思うが、その一言と同時に交神が解けた。


 倒れ込んでくる巫女を受け止め、オレは急いでログを確認した。


>称号「カリオンの証」を得た。

>称号「カリオンの認めし者」を得た。


 失敗かと少し焦ったけど、どうやら問題ないようだ。


「……ペンドラゴン伯爵」


 滝のような汗を流す巫女さんが上気した顔でオレを見上げる。

 なかなか色っぽい。


「カリオン神のお告げは(おもむき)深いでしょう?」


 巫女が同意を求める視線を向けてくるが、首肯し辛い。

 さすがに「めんどう」という言葉に、趣深さを感じるほどカリオン神に傾倒していないからね。


「先ほどの御言葉は『試練を求める者達に与える試練はただ一つ。同じ言葉を繰り返すのは時間の無駄ゆえ、神殿の記録を紐解け』という意味なのです」


 巫女が蕩々と言葉を紡ぐ。

 交神を終えたばかりにしては元気な巫女だ。


「そして、試練とは『賢者の塔に赴き、100年以上解けていない未解決な問題の中から一つを選んで解け』というモノです」


 それはちょっと楽しそうだ。


 もう証は貰ったから、別に試練は果たさなくても良い気もするけど、後で難癖を付けられても困る。

 カリオン神は先払いのつもりで証をくれたのかもしれないしね。





「閣下、あれが賢者の塔です」


 キラリとメガネに光を反射させながら、巫女マイヤーが石作りの巨塔を指し示す。

 巫女に賢者の塔へと案内してもらっているのだが、なぜか巫女の衣装が「神託の巫女」から「女教師ファッション」へと変わっていた。しかも、三角メガネ付きだ。


 なんでも、賢者の塔の建設に尽力した過去の勇者が伝えた伝統ある衣装らしい。


「いくらなんでも、キャラ付けが濃すぎよね~」

「ん、過剰」


 アリサとミーアがオレの後ろでそんな会話をしていた。

 まあ、わりと同感だが巫女マイヤーはタイトスカートが非常に似合っているので、キャラの濃さに苦言を呈する気はない。

 下手に口にするとアリサ達がコスプレしそうだしね。


 巨塔の基礎部分にある建物に入ると、エントランスホールや通路のそこかしこで学者や学徒達が意見を交わし合っている光景があった。


『フルー帝国時代の書物によると、火杖に組み込む魔法陣は――』

『現代の魔力砲と魔導王国ララギにある魔砲は魔力供給量の他に重要な違いが――』

『禁忌とされる死霊術を用いれば、人的資源を消費せずに魔物の領域を切り開く事ができると私は主張したい!』

『砂漠地帯での水石による効率的な産水を行うには、触媒として水馬(ケルピ)の鬣を――』


 学問の園の割に、軍事に使える技術の議論が多い。

 たぶん、魔物の脅威に晒されているから、都市の防衛力を強化する為の軍事技術は、現代と違った意味で身近なのだろう。


「ぴんく~」

「ここにも像があるのです!」

「神殿にあった像とは違うみたいですね」


 タマ達が目敏く見つけたように、エントランスホールのそこかしこに岩塩像がある。


「ここから先は学士の皆様方の研究室があるので、最小限の人数でお願いしたいのですが――」


 エントランスホールの最奥にある螺旋階段の前で、巫女マイヤーがそう切り出した。

 研究向きのアリサ、ミーア、システィーナ王女の三人だけが同行し、残りのメンバーには賢者の塔の周りにある学者や学徒向けの美味しいお店の開拓を頼んだ。


 オレ達は巫女マイヤーの先導で、塔の上部へと繋がる螺旋階段を上る。

 アリサ達が途中で疲れを訴えてきたので、術理魔法の「自走する板フローティング・ボード」で作った板に乗せて運んだ。


 そして、登った塔の上部に目的の部屋があった。


「巫女マイヤー、君がここへ来るという事は彼が?」

「はい、賢者カリュー。こちらのサトゥー・ペンドラゴン伯爵がカリオン神の試練を受けられた方です」


 人の好さそうな白い髭のお爺さんが賢者さんらしい。


「ようこそ、サトゥー君。君が未解決の問題を解いてくれる事を期待しているよ」


 賢者カリューはそう言って、笑みを深くした。


 さて、100年単位で解けなかったという未解決の問題っていうのはどんなモノなのかな?

 できれば、時間を掛けずに解けるのがあるといいんだけどね。



※次回更新はたぶん 6/24(日) の予定です。

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ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
[一言]  今までと変わらない感じの手続きの後、オレは神託の巫女マイヤーの導きでカリオン神と交神を行っていた。 事例の多寡で、巫女を通じての神との対話は、交信よりも交神が正しいようだ。 サトゥーやシ…
[一言] アリサたちのレベルで塔を登るのに疲れを訴えるほど疲労するかな? 前にレベル上がってそういうことがなくなったような描写があったような サトゥーに甘えただけか
[良い点] >「あはは、後でイチゴシロップでも掛けて食べてみる?」 「ん、ブルーハワイ」  子供達が家々の窓や屋根から垂れ下がっている氷柱に手を伸ばしながら笑い合う。  ミーアは青いのが好きらしい。…
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