16-47.ザイクーオンの試練(2)
※2018/5/14 誤字修正しました。
※16-46を少し加筆してあります。読まなくても問題ありませんが、気になる方はご覧下さい。
サトゥーです。最近のゲームは親切設計が基本ですが、昔のゲームは碌な説明もなく始まるモノが多かった気がします。試行錯誤は楽しいのですが、単純に解かせる気のないとしか思えないゲームも多かったんですよね。
◇
「――おっ」
ザイクーオン神に連れてこられた白い空間に、オレを中心とした黄色い光の輪が現れ、地面に触れると黒い線になった。
だいたい半径500メートルほどの円だ。
それに併せて白い空間にぼんやりと色が付いて、天と地が区別できるようになっていく。
足下は雲の上にいるような不思議な感触のままだ。
「お相手かな?」
オレから100メートルほどの地点に、小さな立方体が現れた。
立方体はカシャカシャと音を立てて変形しながら巨大化し、だんだんと人型に近い形になっていく。身長3メートルくらいだ。
AR表示によると「正体不明」と出ているので、おそらくはザイクーオン神の使徒だろう。
『使徒と戦い、勝利せよ』
威厳のある声が背後から聞こえた。
声の主は巌の巫女だ。
だが、少し様子がおかしい。
不自然なほど表情がなく、操り人形のように生気がない。
AR表示によると「交神」という状態だった。
彼女は儀式によるトランス状態が継続しているらしい。
『勝利条件はなんでしょう?』
『使徒を倒す事。円から出ぬ事。巫女を意図的に攻撃せぬ事』
巌の巫女がそう言うと、黄色い燐光を放つ光球に包まれて浮かび上がり、円の外側にふわっと移動する。
それを目で追うオレの耳に、カシャカシャという音が届いた。
使徒の手から離れた立方体が変形し、斧槍のように変わった音らしい。
どうやら、接近戦がお好みのようだ。
ここで魔法欄から、ノータイムの空間魔法禁呪「神話崩壊」を撃って瞬殺するのは、喝采よりも不興を買いそうなので自重する。
「アイテムボックス、<開け>」
オレは声を出してアイテムボックスを開き、そこからお手製のオリハルコン製の聖剣を取り出した。
シガ八剣の「雑草」ヘイム氏にプレゼントした魔剣ヘイムと同様に、聖剣デュランダルを模した魔法回路が搭載された長剣で、「永遠の刃」という合言葉で鋭さを取り戻す機能がある。
どんな攻撃をしてくるか分からない相手には最適だろう。
『――はじめよ』
オレが聖剣を抜くのを待って、巌の巫女が開始の合図を告げる。
――ZWAEEEE。
使徒が耳が痛くなるような音を放つ。
それと同時に、黄色い光の波紋が使徒の表面を流れた。
アリサがユニークスキルを使う時に出る紫色の波紋にそっくりだ。
――速っ。
ポチの瞬動並みの速度で、使徒が眼前に迫る。
高い上背から繰り出す振り下ろしの一撃がどの程度重いのか興味があったが、少し厭な予感があったので回避しつつ使徒の足を斬り付ける。
――ん?
変な感触だ。
水を斬ったみたいに手応えがない。
AR表示によると、使徒の体力ゲージは僅かしか減っていない。
詳細をチェックすると、今の使徒は「無敵戦士」という強化状態らしい。
レベルやスキルは見えないままだが、このへんの支援状態やゲージは普通に分かるようだ。
「――おっと」
背後からの突きをジャンプして躱す。
そこに斧槍が分身したように見える連撃を放ってきた。
使徒本体と違い、使徒の斧槍は聖剣で捌けるようなので、丁寧に受け流していく。
斧槍の速さはリザやポチ並み、隙を突くタイミングはタマ並みなので、わりと捌くのが大変だ。
明らかに鼬帝国で宮殿騎士団が戦っていた使徒よりも強い。たぶん、「無敵戦士」というユニークスキルまがいの強化状態が、使徒をブーストしているのだろう。
向こうが攻撃するタイミングなら、こちらの攻撃が通じるかと思ったが、こちらの聖剣は使徒にほとんどダメージを与えられないようだ。
鼬帝国での戦いを見る限り、竜牙粉を用いた白剣や砲弾で使徒を倒せたようだから、ストレージに保存してある鹵獲品の白剣を使う事にしよう。
「アイテムボックス、<開け>」
オレは聖剣を左手に持ち替えて、右手に白剣を取り出す。
交換しなかったのは、鼬帝国製の白剣が自作聖剣に比べて脆いからだ。
瞬間移動まがいの速度で右に左に移動しつつ攻撃してくる使徒の猛攻撃を聖剣で受け流し、適当なタイミングで白剣を叩き付ける。
――ZVWAEDDDE。
効果は抜群だ。
一撃で使徒の体力ゲージが三割ほど減った。
今の感じからすると、使徒は魔族換算でレベル60前後くらいのようだ。
――ZWAEEZWAEE。
カシャカシャ音を立てながら使徒の身体が変形し、腕が六本に増えた。
武装も斧槍が二本に、盾二枚、曲刀二本へと増加している。
まあ、虚仮威しだね。
手数は増えたが、自分の腕や武器が邪魔をするのか、さっきよりも隙が多くなった。
オレは縮地で使徒の足下に飛び込み、使徒の足首を白剣でなぎ払う。
使徒は足を上げて回避しようとしたが、オレの斬撃の方が速い。
足首を切断された使徒が、斧槍の突きと盾による押しつぶしを同時に仕掛けてきたが、縮地で死角に回り込み、今度は使徒の膝裏を白剣で突いた。
使徒の体力ゲージはほぼゼロなのだが、それ以降は何度斬り付けてもダメージが入らない。
――ZWAEEZWAEE。
使徒が叫ぶと黄色い燐光が瞬いて体力が全回復してしまう。
まあ、回復系は神聖魔法のお家芸だし分からなくもないけど、ちょっと面倒だ。
なにより、このままだと白剣の使用限界がきて壊れてしまう。
ストレージ内にある竜牙系の武器は、なるべく温存したい。
「さてと――」
オレは使徒を見据える。
使徒を倒すには、クリティカルな場所を攻撃しないといけないらしい。
オレは使徒の攻撃を回避しつつ、弱点らしい場所を考える。
普通に考えたら頭や心臓だが、神の使徒ともあろう者が、そんな単純な弱点なはずがない。
きっと同時にやらないとダメとか制限があるに違いない。
「――モノは試しだ」
オレは天駆で身長による不利を是正し、武器破壊スキルや武器奪いスキルを頼りに使徒を武装解除してみせる。
オレの眼前に、使徒が無防備な頭部と胸を晒す。
――閃光螺旋突き。
勇者ハヤトの必殺技を連続で二発放ち、使徒の無防備な頭部に風穴を開けてみせた。
閃駆で使徒から距離を取り、使徒の反応を窺う。
「これで終わってくれたら楽だけど――」
さすがに神の使徒がこの程度では終わらないだろう。
そんなオレの思考は杞憂だったようで、使徒が乳白色の粉になって消えていく。
――黄色い光?
地面で小さな山を作る乳白色の粉から、黄色い光が現れてふわふわと天へと昇っていく。
まるで、魔王を倒した時の「神の欠片」のようだ。
恐らくザイクーオン神の欠片だと思うのだが、AR表示は相変わらず「正体不明」としか表示してくれないので、確定ではないが可能性は高いと思う。
黄色い光が消えると同時に足下の黒い線が消えた。
◇
『第二の試練』
巌の巫女が淡々と告げると、先ほどのと同じような黄色い光の輪がオレを中心として現れ、地面に半径20メートルほどの円を描いた。
先ほどの試練に関する勝利宣言などはないらしい。
今度はインファイトかな?
「――いや、違うみたいだ」
オレから500メートルほど離れた場所にも半径20メートルほどの円が描かれ、そこに立方体が出現して、先ほどと同じくカシャカシャと音を立てて使徒へと変形した。
『勝利条件に変更はない』
つまり、遠隔攻撃で使徒を倒せって事らしい。
オレは崩壊寸前の白剣をアイテムボックスに収納する。
『――はじめよ』
――ZWAEEEE。
開始の合図と同時に、使徒が高周波な音を発する。
それと同時に使徒の体表を黄色い光の波紋が流れた。
――ZWAEEEE。
AR表示される詳細情報によると、「至高術士」と「征遠弓士」という二重の強化状態らしい。
試しにアイテムボックスから取り出した光晶銃を撃ってみる。
光晶銃から放たれたレーザーは使徒の身体を貫通したが、なんのダメージも与えられていない。
一応、オレの光魔法「光線」単発くらいの威力は出せるはずなんだけど、使徒には普通の魔法系攻撃は届かないようだ。
――ZWAEEEE。
お返しとばかりに、使徒が弓に変形した腕から黄金色の矢を放つ。
目にも止まらない速度で飛来した矢を、お手製聖剣で弾き飛ばす。
けっこう重い一撃だ。
「……オリハルコンの矢か?」
手が痺れるほどじゃないけど、上手く弾かないと、聖剣が傷みそうだ。
二矢、三矢と放たれる矢を剣で捌きつつ、アイテムボックスからエメラルドグリーンの長杖――世界樹の晶枝で作った杖を取り出す。
「■■■……」
雨のように矢継ぎ早に放たれる使徒の矢を聖剣で捌きつつ、オレは呪文詠唱を始める。
――ZWAEEEE。
オレに合わせた訳ではないと思うが、使徒が杖に変形した腕を天に伸ばして何やらヤバそうな魔法陣を描き始めた。
もちろん、矢の雨が緩む事はない。
人の事は言えないが、なかなか器用なヤツだ。
魔法陣が黄色い稲光を帯び、徐々にその煌めきが増えていく。
オレの詠唱が完成するよりも遥かに早く、使徒の魔法陣が完成し白色の光線を放ってきた。
――城塞防御。
ペンドラゴンチーム標準装備の非常用の防御アイテムを使用し、光線を受け止める。
フォートレスの防御フィールドの表面で、激しい火花が上がった。
術理魔法系の疑似物質が白濁し、凄い速度で崩れていく。
フォートレスは複数層の防御壁からなる防御システムなので、穴が空く前に別の防御板が補強し、使徒の魔法攻撃が途切れるまで耐えてみせた。
――ZWAEEEE。
使徒の腕が増え、七本に増えた杖腕が七つの魔法陣を生み出す。
さすがにさっきの七倍の攻撃に晒されたら、「城塞防御」では防ぎきれないだろう。
でも、まあ――。
オレは長杖を使徒に向けた。
――ZWAEEEEZWAEEEE。
使徒が焦ったように高音を発するが、もう遅い。
「■■■ ■■ ■ 煉獄の白焔」
白い閃光が空間を満たす。
ともすれば無差別に広がろうとする広域殲滅系の禁呪を、使徒のいる空間だけを薙ぐように力でねじ伏せる。
轟音と熱波が閃光に遅れて、鼓膜と肌を叩く。
光量調整スキルのお陰ですぐに回復した視界に、どこまでも続く赤黒く溶けた大地と黒煙が映る。
そこに使徒の姿はない。今の禁呪で消滅したようだ。
ログにも「ザイクーオンの使徒を倒した」と表示されているので、間違いないだろう。
もちろん、巌の巫女は無事だ。
「――やっぱりか」
使徒がいた少し向こうに、黄色い光の玉が二つ現れ、ふらふらと天に昇って消えた。
やはり、あの黄色い光は「ザイクーオン神の欠片」のようだ。
まさかと思うけど、使徒がユニークスキルの使いすぎで暴走して、魔王的なモノにならない事を祈りたい。
◇
『第三の試練』
巌の巫女がそう告げると、白い空間が狭まっていき唐突に色を取り戻した。
それと同時に、雑然とした喧噪が耳に届く。
先程までの雲の上にいるような足裏の感触が、大地を踏みしめた確かなモノに変わる。
どうやら、ここは闘技場らしい。
「――サトゥー?」
「それにザイクーオンの巫女さんじゃん?」
声に振り返ると、ルススとフィフィが立っていた。
ルススとフィフィの足下には、気絶した「カリオンの魔法戦士」達が転がっている。
決勝戦の決着が付いたシーンに出現してしまったようだ。
もしかしたら、最後の戦いは彼女達を倒す事なのだろうか?
※次回更新は 2018/5/20(日) の予定です。
※2018/5/12 活動報告にアニメSPイベントに関する記事を追加しました。







