16-18.太陽の国へ(3)
※2017/10/16 誤字修正しました。
※2017/10/20 一部修正しました。
サトゥーです。音楽には人の情動に働きかける力があると友人が主張していました。その友人はアニメのシーンで主題歌が流れた時を例に挙げていましたが、あれはどちらかというと刷り込みされたお約束的なモノではないかと思うのです。
◇
キラキラと魔法の光を付与された装身具が揺らめき、その光が褐色の肌に塗られた香油に反射して、艶めかしいラインを強調する。
さらに、踊り子の動きに合わせて、短い薄物がチラチラと舞い、本能的に視線を吸い寄せられてしまう。
――眼福、眼福。
「楽しんでおるか、ペンドラゴン伯爵」
「はい、サニア王」
謁見を行なった日の夕刻、オレ達はサニア王が開いてくれた宴で歓待されていた。
ふかふかの絨毯の上に、座布団サイズのサニア織りの敷物が敷かれ、そこに腰掛けているのだ。
車座になった敷物の上にはサニア王国の重鎮が並び、車座の中央にある広めのスペースでは、踊り子さん達の素敵な舞が披露されている。
この国は男女共に露出が少なめなのだが、彼女達は半裸のような扇情的な姿をしていた。
「実に見事な舞ですね」
「うむ、建国より続く我が国の伝統芸能だ」
――ほほう。素晴らしい文化だ。
「神殿の連中は下品と蔑むが、何も恥じることはない」
気弱な印象のサニア王だったが、この瞬間だけはちょっとかっこいいオーラが出ていた。
さすがは「文化の保護者」「伝統芸能の庇護者」という隠し称号を持っているだけはある。
――ん?
車座の向こう側、「剣の一族」が集まるあたりで歓声が上がった。
悪酔いしているような厭な雰囲気だ。
「どけどけ! 俺様が本物の舞を見せてやる」
大振りの曲刀を持った大男が舞台の中央に歩み出て、踊り子さん達の舞を中断させて中央のスペースから追い払った。
――なんたる暴挙!
無表情スキル先生の鉄壁の防御を義憤が貫いてしまったのか、対面にいた「剣の一族」の何人かが漏れ出た「威圧」スキルの影響を受けて失神してしまった。
どうせなら、暴挙に出た酔っ払いの馬鹿野郎君が受ければ良かったのだが、ちょうど視線が逸れていたので逃れたようだ。
上着を脱ぎ捨てた馬鹿野郎君が剣を抜いて踊り出す。
どうやら、剣舞らしい。
「け、剣聖ドリトの舞は当代一と評判だ。ペ、ペンドラゴン、伯爵も、きっと――」
サニア王が馬鹿野郎君をフォローする。
さっきの威圧スキルを少し受けてしまったのか、途中で尻すぼみになってしまった。
それにしても、あれが剣聖なのか――。
AR表示される情報によると、彼はレベル45もある剣士で「剣の一族」の当主の弟で一族のナンバー2らしい。
スキル欄にある「絶技:黄金剣」「秘絶技:太陽閃剣」というのが気になる。一度見てみたい。
それはともかく――。
さっきから、剣聖がドヤ顔でこちらをチラチラ見てくるのがうっとうしい。
剣聖の舞はともかく、伴奏はエキゾチックで聞き応えがある。
もともとは戦意向上のためのモノだったに違いない。
オレが無反応でいると、剣聖が伴奏が間奏に入ったところで舞を止め、獰猛な笑みを浮かべてオレの方に歩み寄ってきた。
抜き身の剣はともかく、筋肉質の身体を汗でテラテラ光らせながら、荒い息で見つめるのは止めてほしい。
「魔王殺し殿も剣術の達人と聞き及ぶ。共に舞を神に奉納しようではないか?」
剣舞でよくあるヤツかな?
相手が美女剣士や踊り子さんなら大歓迎だが、筋肉ダルマと踊るのはちょっと遠慮したい。
「それとも、舞とはいえ我が剣の前に身をさらすのは恐ろしいかな?」
剣聖がオレを見下したような顔で挑発してくる。
剣技だけなら自分の方が上だとマウントしたいのかな?
隣に座るリザの方から殺気を感じる。
どうやら、剣聖の態度がお気に召さないようだ。
「ご主人様、私が」
「私はマスターの盾だと告げます」
リザとナナが自分が踊ると言い出した。
「魔王殺しともあろう者が、女のスカートの陰に隠れるか?」
さらなる剣聖の挑発に、リザとナナが腰を浮かせた。
それを片手で制する。
二人に任せたら、身も蓋もなく倒しそうなので、オレがやる事にした。
「そこまで熱心に誘われては無下にもできませんね」
オレは無手だったので、サニア王の護衛から剣を借りて中央のスペースへ歩み出る。
剣の一族の方から剣聖に向けて大歓声が上がり、アウェー感が半端ない。
「――曲を!」
伴奏が始まったので、先ほどの剣聖の剣舞を思い出しながら無難に舞う。
剣聖の剣が何度か危うい位置に来る。
そのたびに「剣の一族」から歓声が、侍女や踊り子達から悲鳴が上がっていた。
リザやナナが剣聖に向けて殺気を放っていたので、空間魔法の「遠話」で大丈夫だと伝えておく。
特に誰も止めようとしない事から考えて、こういう際どい所を攻めるのが、この国の剣舞の流儀に違いない。
それなら、こちらも合わせないとね。
右に左に、上に下。
どんどん加速する剣舞。
つまんないかと思ったけど、意外に楽しい。
これはトランプのスピードに似た楽しさがあるね。
ハイスピードの剣舞にギャラリーが湧く。
伴奏も剣舞のスピードアップに合わせて、テンポがどんどん上がっていて場のヒートアップに貢献している。
その一方で、剣聖は脂汗や冷や汗をダラダラと流して必死の形相だ。
手加減をしてやる義理はないので、曲がテンポアップするタイミングで、もう一段階剣舞のスピードをアップしてやろう。
――あ。
目の前で剣聖が消えた。
いや、自分の汗で滑って転んだようだ。
剣の一族以外から笑いや歓声が上がり、大声で叫んでいた剣の一族の声がフェードアウトしていく。
「ぐぬぬ……」
「汗で滑りましたか?」
剣聖が脳溢血になりそうな赤黒い顔で床を見つめていたので、フォローしようと笑顔で手を差し出した。
「――いらん」
剣聖がオレの手を弾こうとしたので、軽く避けておく。
より一層赤黒い顔になった剣聖が、肩を怒らせながら退場していった。
シガ王国なら公職を追われそうな態度だが、この国では問題ないのか誰も咎めようとしない。サニア王さえもだ。
いや、サニア王は蒼白な顔で口をパクパクさせていたから、この国でも非礼な態度だったのかもしれない。
「ペンドラゴン伯爵様の見事な剣舞に祝福を!」
サニア王の側近がそう叫んで、重臣達や宴に残る人達に拍手を要求する。
すぐに明るい曲が流れ出し、先ほど追いやられた踊り子達の可憐な舞が再開された。
問題の多いサニア王国だが、如才ない人間もいるようだ。
「伯爵様、すごい剣舞でした」
「魔王殺しのお話を聞かせてください」
側近の指示でオレの傍らに踊り子衣装の美女や美少女が寄ってきて、密着状態でお酌をしてくれる。
安っぽい歓待の仕方だが、この子達に罪はないので素直に歓待された。
ふかふかでふわふわな一時を過ごし、たっぷり飲み食いしたあたりで顔色の悪いサニア王が退席したので、オレも宴の広場を後にした。
◇
「見事な庭だね」
「はい、フルー帝国末期に帝都から移設されたそうです」
独特なレリーフが施された柱が並ぶ回廊を歩きながら、花々が咲き乱れる南国の楽園のような中庭を眺める。
美しい中庭をもっと堪能したかったのだが、無粋な者はどこにでもいるらしい。
オレの視線の先、植え込みの陰に潜む二つの人影があった。
「ご主人様――」
リザの囁きに首肯する。
ナナがさりげなく、オレをカバーする位置に移動した。
どうやら、二人も人影に気づいたようだ。
暗殺者なら排除するのもやぶさかじゃないが、殺気があからさますぎるので、先ほどの剣聖が意趣返しに一族の者を放ったという感じだろう。
「何者ですか!」
隠す気もなく物陰から姿を晒した男女に、侍女さんが誰何の声を上げた。
月明かりに照らされた男女を見て、侍女さんが息を呑む。
「ザンザ様? ミュファ様? 『剣の一族』の方々が何用です」
どうやら、侍女が知っている人だったらしい。
「使用人風情に説明する気はない」
美青年剣士ザンザがそう言って侍女をスルーし、美少女剣士のミュファと一緒にオレの前に歩み出た。
ザンザ少年が背負うのは湾曲した魔物素材の片刃刀だ。
ミュファは同じ素材を使った片刃刀の二刀流らしい。
「叔父貴を下した魔王殺しの剣を見せてほしい」
剣舞の事かな?
「俺達は最強の剣士と戦いたい」
「もちろん、真剣で」
ザンザのセリフにミュファが付け加えた。
理知的な顔付きなのに、なかなか脳筋なヤツらだ。
「ご主人様、ここは私が」
「マスターの代わりに相手をすると告げます」
リザとナナがオレと少年少女の間に割り込む。
「この二人に勝てたら挑戦を受けよう」
「次期剣聖の俺に女と戦えって言うのか?」
「勝負を逃げるなら、話はこれで終わりだ」
不満そうな二人に交渉の余地はないと告げる。
今日は早く寝たい。鉄壁ペアがいなかったので、踊り子さん達との会話が盛り上がり過ぎて、少し疲れたのだ。
「分かった、さっさと始末してあんたを舞台に上げてやる」
ザンザ少年が偉そうな態度でそう言って、中庭を指さす。
こんな綺麗な庭で戦う気か?
「ザンザ様! この庭はサニア王国の――」
「黙れ」
窘めようとする侍女の諫言を、ザンザ少年が殺気を乗せた一言で遮った。
「庭に出るまでもない。この廊下で戦えばいい」
「ふん、いいだろう。どうせ俺の黄金剣の前では一太刀で終わる」
オレの提案に首肯したザンザ少年が、廊下でナナと対峙する。
ナナは妖精鞄から取り出したラウンドシールドと片手剣を構えた。
「いくぜ、絶技――《黄金剣》」
ザンザ少年の片刃刀が黄金の輝きを帯びる。
迸る黄金の輝きを帯びたザンザ少年が、瞬動の速さで踏み込む。
ナナが盾を軽く引くのが見えた。
次の瞬間轟音と悲鳴が廊下を満たす。
ザンザ少年が立っていた場所に、盾を突き出した姿勢でナナが立ち、廊下の果てで柱を砕いてザンザ少年が上下逆転状態で昏倒していた。
ナナの盾攻撃のカウンターを受けたザンザ少年は瀕死の重体だ。
手足が変な方に折れて、危ない色の血を吐いている。
「兄様!」
その惨状を目撃したミュファが悲痛な叫びを上げる。
さすがに放置したらマズそうなので、ザンザ少年に懐から取り出した中級魔法薬を振りかけてやる。
一応、彼の骨折した手足は、「理力の手」で継いでから癒やしたので問題ないはずだ。
「たわいないと告げます」
ミュファがキッとした顔で睨み付ける。
「戦いますか? と問います」
ナナの問いに、ミュファが青い顔で頷く。
「兄様の仇」
ミュファが被害者ぶって叫び、戦いがスタートした。
待ちの姿勢で構えるミュファに、ナナの盾攻撃が放たれる。
ザンザ少年の轍を踏まないとばかりに、その攻撃をジャンプで避けたミュファが華麗な宙返りでナナの頭上を越える。
越える瞬間に双刀でナナの頭を狙うが、魔刃を帯びたナナの魔剣で軽々と破壊されてしまう。
「剣がっ!」
驚愕するミュファが着地するより早く、二度目の盾攻撃がミュファの身体を打ち抜く。
男女差別をしないナナの攻撃は、ミュファをザンザ少年と同じコースへ導いた。
「無防備なジャンプは悪手だと告げます」
決めポーズをしながら、ナナが淡々と勝ち誇る。
たしかに、二段ジャンプくらいできないと、良い的だよね。
ミュファをザンザ少年と同じように癒やし、気を失ったままの彼らを放置して寝室へと向かう。
レーダーに彼らの従者が映っていたから、勝手に回収してくれるだろう。
オレに割り当てられた寝室には、ハニトラ要員らしき全裸の踊り子さん達が待ち構えていた。
「ギルティと告げます」
オレの後から部屋に入ってきたナナが、妙に嬉しそうにそう言って、踊り子さん達を退場させていた。
たぶん、アリサやミーアのように「ギルティ」と言ってみたかったのだろう。
◇
「ナガサキ師匠! 昨夜の無礼を詫びる。俺を弟子にしてくれ!」
「私も弟子入りをお願いします! 師匠の技に自分の未熟さを痛感しました」
翌朝、ザンザ少年とミュファの二人組が、ナナの弟子になりたいと押しかけてきた。
「幼生体以外の弟子入りは不可だと告げます」
「よ、幼生体?」
「そんな事をおっしゃらずに!」
この兄妹はなかなかしつこい。
朝食の席こそ静かだったが、何度断っても食い下がってくる。
いつも無表情なナナがうんざりした感情を浮かべるほどだ。
ラクダ馬車に乗る俺たちの後を、ラクダに騎乗して追いかけてきた兄妹だったが、オレ達がヘラルオン神殿の玄関で降りると複雑な顔を見合わせた。
妹のミュファが「神殿は嫌い」と言ってラクダの首を巡らせると、ザンザ少年も妹の後を追って神殿を離れた。
そういう意味ありげな行動は止めてほしい。
まあ、お邪魔虫がいなくなったと肯定的に受け止めよう。
「マスター、神殿のマークが太陽のようだと告げます」
「それにしても大きな神殿ですね」
「ああ、そうだね」
中堅国家にあるにしては非常に巨大で立派な神殿だ。
AR表示によると、太陽のシンボルは色ガラスや宝石だけでなく、光石や光晶珠が埋め込まれていて、神秘的な輝きを放っているらしい。
夜中に見物に来たら、今よりもっと感動的な建物だろう。
オレはメニューの交流欄を開き、称号を「神の試練に挑む者」に変える。
入り口の長い階段を上ると、上で立派な法衣を着たヘラルオン神殿の神官が待ち構えていた。
「お待ちしておりました――」
神官が慇懃な感じの口調で言う。
なぜか、微妙に敵意がある。
「――神の試練に挑む者よ」
神官が刺さりそうな視線でオレを睨め付ける。
ここの神官に睨まれるような覚えはないんだけど。
オレが名乗ろうと口を開くよりも早く、神官が「ついてこい」と言わんばかりの態度でオレに背を向けて、後ろを振り返りもせずにスタスタ神殿の中へと入っていく。
ここで見送っていてもしかたないので、軽く肩をすくめてからリザとナナを連れて彼の後を追った。
さて、ここの試練はなんだろう?
※次回更新は 10/22(日) の予定です。
※2017/10/20 称号を「神の試練に挑む者」に変更する行を追記した。







