16-17.太陽の国へ(2)
※10/5(木)に「16-幕間1.そのころの王都」を投稿しています。未読の方はそちらもどうぞ。
※2017/10/9 誤字修正しました。
サトゥーです。今も昔も、規模の違いはあれど、お家騒動というのはあるようです。個人的な見解を言えば、お家騒動の勝者となるよりも、その後始末をいかに如才なくこなすかが重要だと思うのです。
◇
「先ほど国賊と仰いましたが、私の見る限り、あれはサニア王国の軍船のはず。軍が反旗を翻して、国王を害したのでしょうか?」
オレは砂丘の向こうに姿を見せた黒い軍船を眺めながら、「杖の一族」とやらの長の娘ハイファとその侍女に詳しい状況の説明を促す。
「国王は騙されているのです。杖の一族なしに国は成り立たないというのに、剣の一族の甘言に乗せられて、わたし達『杖の一族』を牢に……」
国内の政権争い<物理>に負けた感じ?
「つまり、あなた方が彼らに捕らえられたら、『牢に入れられて処刑される』という事でしょうか?」
「いいえ――」
確認の言葉に、ハイファは首を横に振った。
「――先ほども申し上げましたが、わたし達『杖の一族』なしに国は成り立たぬのです」
成り立たない理由が気になるが、それは本題じゃないので、彼女の話の続きを待つ。
「それゆえ、牢に閉じ込められ、生きた兵器として戦場に立たされるでしょう。国が滅ぼうが愚王や無知蒙昧な民達が死のうが心は痛みませんが、家族を人質に取られては逆らうこともできません」
うん、彼女にとって家族だけが大事、というのは大いに共感できるが、言葉のはしばしに強すぎる自負というか尊大な感じが見え隠れしている。
選民思想にどっぷり浸かって育ったら、こんな感じになるのだろうか?
「国や民がどうでもいいなら、その『杖の一族』だけで他国へ出奔されてはいかがですか?」
「肉の壁役すら満足にできない『剣の一族』に背を見せろと仰るのですか!」
おおう、なんだか噛みついてこられた。
言葉は通じているのに、会話が成立しない感じ?
ハイファはたおやかで深窓の令嬢風な見た目なんだけど、けっこう独善的な激情家みたいだ。
「私の杖は国敵を討つための刃――」
ハイファが病的な昏い笑みを浮かべて杖に魔力を通す。
黄金で彩られた精緻な杖が赤い光を灯す。
「ですが、今日この時は主義を違えましょう。我が杖に討たれたくなくば、飛空艇で私達を運びなさい。このような場所で国賊に囚われるわけにはいかないのです」
今度は脅してきた。
うん、早めに別れよう。
付き合っていたらストレスが溜まりそうだ。
これも神が課す試練の一つなら困った事になりそうだけど、たぶん違うよね。
彼女達の味方をして内乱を収める気は毛頭無くなったが、だからといって彼女達が使い捨て兵器として使われるのが分かっていて軍船に突き出すのも気が進まなかったので、彼女達の脱出を協力する事に決めた。
けっして、面倒だからどこか遠くへ投げ捨てたいわけではない。
一応、建前上は脱出の協力だ。
「脅しだと思っているのですか? 私は本気です」
リザとナナが「制圧していいか?」と視線で問いかけてきたので、待つようにジェスチャーを返す。
オレはマップを開いて、軍船の攪乱に手頃な魔物を探す。
近隣を徘徊していたレベル30ほどの砂魔というワーム系の魔物がいたので、土魔法の『操砂』で捕まえて、軍船の近くに引っ張り上げる。
――でかっ。
砂上に出ている部分だけで、シロナガスクジラを補食できそうなサイズだ。
これがレベル30というのは詐欺も甚だしい。
「あ、あれは!」
ハイファが驚きの声を上げた。
「さ、……砂魔です。あなた、早くハイファ様を飛空艇に! 軍船が生け贄になっている間にはやく!」
侍女さんもナチュラルに殺伐とした事を言う。
「そうしたいのはやまやまですが、私どもは神の試練を果たさねばなりません」
オレは舞台俳優のように彼女に一礼する。
中型船を軍船とは違う方向に向け、船首方向に二枚の「加速門」を生み出す。
「あなた方があなた方の試練を果たすことを、陰ながらお祈りさせていただきます」
心のこもらないお祈りの言葉を告げ、中型船の前に出した「加速門」に向けて、風魔法「風圧」で船を押し出してやる。
急な風圧にハイファ達が顔や服の裾を押さえ、中型船の船長や船員達が大騒ぎしだした。
オレは速度を上げて「加速門」に向かう船から天駆で浮き上がり、リザとナナを「理力の手」で持ち上げる。
「ちょ、ちょっと! あなた何を――」
言葉の途中で加速門に到達した船が急加速し、風の音にハイファ達の声がかき消える。
追い払う時に魔法攻撃をしてくるかと警戒していたが、幸いそれは杞憂に終わったようだ。
オレ達は砂海上に浮かんだまま、小砂海の彼方へ消えていく中型船やハイファ達を見守った。
復権を目指して強く生きてほしい。
できれば、オレのいないどこか遠くで。
◇
「――かたじけない」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ」
軍船の船長が、砂魔から軍船を救ったオレに感謝の言葉を述べる。
我ながら自作自演が甚だしいが、目の前で沈みそうな軍船を放置するわけにもいかないので、介入したのだ。
この軍船の船長や士官は、なんとなくアラビアンテイストのある軍服を着込んでいる。
鋭い目をした船員が駆けてきて、小声で船長に耳打ちした。
さっきまで、手のひらサイズのミニガーゴイルを操っていたヤツだ。
「閣下、あの漂流船はベルベ達を潜入させておいた砂賊です」
「やはりか、それでベルベ達は?」
「生存者の中にはおりませんでした」
「では、やはり先ほどの中型船にハイファ殿達がいたと考えるべきか……」
聞き耳スキルが彼らの会話を拾ってきた。
会話を終えた船長が、オレの方に向き直る。
「伯爵閣下、あの砂賊に襲われた砂海船は――」
「乗っていた女性が杖を振り回していましたから、なんらかの魔法で砂魔から逃走したようですね」
杖を振り回していたのは飛空艇に乗せろと主張していたからで、「なんらかの魔法」を使ったのはオレだが、特に嘘は吐いていない。
先ほどの鋭い目をした船員がウリオン神のギフト「断罪の瞳」を持っているので、なるべく嘘は避けている。
嘘判別はできないギフトだと思うが、そういったギフトで犯罪者を見極めてきた人間の勘を警戒したのだ。
「ハ――『杖の一族』にあんな秘術があったとは……」
「お知り合いだったのですか?」
オレの問いかけに船長が言葉を詰まらせた。
船長が名前ではなく一族名に言い換えていたが、あまり意味はないと思う。
「いえ、国宝の杖を強奪した一味ではないかと部下が申しておりまして……」
あの時、ハイファが持っていた杖は「杖の一族」の所有物だったようだから、彼の言葉は正しくない。
もちろん、「杖の一族」が権勢によって国宝の杖を手に入れた可能性もあるけどさ。
「そうでしたか、それは大変ですね」
オレは他人ごと感溢れる言葉を返しておく。
「あの船を追跡されるなら、私達はお邪魔ですね。すぐにお暇しましょう」
「お、お待ち下さい」
厄介事に首を突っ込みたくないから、さっさと退散しようとしたのに、軍船の船長がオレを引き留めた。
「なんでしょう?」
「このたびの助力感謝いたします。サニア王国においでのさいは是非とも、剣の一族をお訪ね下さい。一族を挙げて歓待させていただきます」
この船長さんは「剣の一族」の直系らしい。
「それは楽しみですね」
行くとは約束しない。
だって、トラブルが起こりそうな気がすごくするんだよね。
オレは飛空艇から垂らされた縄梯子を登り、彼らの船から去る。
そのとき、一体のミニガーゴイルが、サニア王国の都の方に向かって飛んでいくのが見えた。
伝書鳩ならぬ伝書ガーゴイルらしい。
◇
「マスター、キノコの家が並んでいると報告します」
「むしろ、巻き貝のような感じですね」
ナナとリザの感想ももっともだ。
辿り着いたサニア王国の都は、独特な特徴を持つ建物が並んでいた。
「ご主人様、飛行物体がこちらに来ます」
絨毯の上に座椅子を付けたような魔法装置に乗った男達がこちらに向かって飛んでくる。
魔法の絨毯っぽいが、どちらかというと未来の猫型ロボットが乗る時間旅行機みたいな印象だ。
魔法の絨毯は飛空艇の近くまで来ると、敵意はないとジェスチャーした上で並走してきた。
「シガ王国、ペンドラゴン伯爵様の飛空艇とお見受けいたします。先導いたしますので、お続き下さい」
どうやら、ミニガーゴイルの報せを受けた者が迎えを寄越してくれたらしい。
できれば王都一周の遊覧飛行を終えてから来てほしかった。
もっとも、本当に遊覧飛行を実行していたら、その最中に魔法や魔力砲で攻撃された可能性が高いんだけどさ。
「先導を感謝する」
オレはそう叫び返して、操縦担当のブラウニーにその旨を伝える。
「あそこから、誰か見てる~?」
「本当なのです。ギラギラアイな感じなのですよ」
いつの間にやら、飛空艇の手すりにタマとポチがぶら下がっていた。
手をわきわきさせながら二人に声を掛ける。
「タマ、ポチ?」
「ち、違うのですよ?」
ポチがブンブンと首を横に振った。
ほっぺぐにぐにの刑は嫌らしい。
「休み時間~?」
ペタンと耳を伏せたタマが、こちらを窺うように言う。
ふむ、休み時間ならいいか。
納得していいのか少し迷ったが、タマとポチの指摘が気になったので、件の方向に視線をやる。
王都の中央に宮殿があり、その宮殿内に建てられた尖塔の一つにハイファと似た容貌の少年少女がいた。視線の主は彼ららしい。
たぶん、彼女の親族だと思うが、双子かクローンかというほど似ている。
視線の強さからして、ハイファと似たような性格だと推測できるので、なるべく関わり合いにならないようにしようと思う。
◇
「――神の試練、とな?」
風通しの良いサニア王国の宮殿で、オレは国王と謁見していた。
まだ30歳代なのに、初老の雰囲気を漂わせた気弱そうな国王だ。
むしろ、謁見の間を固める「剣の一族」の武官達の方が偉そうに見える。
先ほど国王に贈った手土産よりワンランク落とした品を、「剣の一族」とやらにも贈っておいた方が良さそうだ。
「はい、サニア王。私はヘラルオン神殿で神の試練を受けるため、このサニア王国に参りました」
特に隠す必要もないので、用向きは正直に告げている。
「どのような試練なのだ?」
「それは神の御心のままに。ヘラルオン神殿で神から啓示されることでしょう」
だから、さっさと解放して下さい。
「長旅で疲れておろう。神殿には使いを出しておく、今宵は朕の宮殿でゆるりと骨休めされよ」
まあ、そうなるよね。
「サニア王のご厚情、このペンドラゴン感涙の極み」
国王の古めかしい言葉遣いにつられて、オレまで変な口調になってしまった。
しかたないから、今日は宮殿で歓待されよう。
変なフラグが立たないことを祈りたいね。
※次回更新は 10/15(日) の予定です。







