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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十六章

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16-12.テニオン神との対話

※2017/10/20 誤字修正しました。

※2017/10/20 一部追加しました。


 サトゥーです。高校、大学、就活と何度もしているのですが、面接というのはどうも慣れません。どうしても、偉い人の前に出ると緊張するんですよね。





「伯爵様、こちらの儀式服にお着替えいただきます」

「ああ、分かった」


 儀式用の白い聖衣せいいというのに着替える。

 非常に薄手の服で、下着も着けないようだ。


 最初の儀式ではセーラ達とは別室で行われ、最後に王冠に見立てた金細工を被らされる。

 微妙に肌が透けているせいか、儀式の間中、女性神官達や巫女さん達からの食い入るような視線が集まっていて、ちょっと恥ずかしかった。


「王よ、こちらに――」


 現巫女長がオレを呼ぶ。

 この儀式の間は「(いにしえ)の王」と呼ばれるそうだ。


>称号「古代の王」を得た。


 現巫女長の横には巫女見習いリリーもいる。


「■■■■ 聖紋転写ホーリー・クレスト・トランス

「■■■■ 聖紋転写ホーリー・クレスト・トランス


 現巫女長と巫女見習いリリーの神聖魔法によって、聖衣に刺繍された紋章が身体に転写されたらしい。


 次はテニオン神と交信する儀式だ。


「王の入場――」


 オレは古代の王様に扮した姿で、聖域の儀式の間へと足を踏み入れた。

 儀式の間には、禊ぎを終えた巫女さん達が並んでいる。


 進行は現巫女長がするらしい。


「王よ、巫女の前に」


 オレが向かう聖域の中央には、神秘的な巫女服を着込んだセーラが待っていた。


 緊張している感じなので、目が合った時に微笑む。

 少しだけだが彼女の身体から余計な力が抜けた気がする。


 オレがセーラの前まで来ると、何人かの巫女さん達がオレとセーラの傍にやってくる。


「王よ、世俗の衣を捨てよ」


 ――へ?


 そんな説明なかったぞ?


 巫女二人がオレの衣装を脱がせた。


 まわりの巫女さん達やセーラが、オレの裸身を見て頬を染める。

 オレに露出趣味はないので、普通に恥ずかしい。


>称号「新しき目覚め」を得た。


 ――いや、目覚めてないから。


 オレが内心で称号システムに文句を言っている間にも儀式は進む。


「導きの巫女よ、世俗の衣を捨てよ」


 巫女二人がセーラの衣装を脱がせる。

 オレ同様に、一枚だけなので、すぐだ。


 ――おおっ。


 二年近く経っているせいか、黄金の猪王の一件で見たときよりも、かなり成長している。

 なかなか眼福だけど、これはちょっとマズい。


 オレは気合いを入れて無表情スキルの効果を意識し、口元が緩むのを阻止した。

 もちろん、身体の一部が元気になるのもだ。


>「肉体制御」スキルを得た。

>称号「不謹慎」を得た。

>称号「鋼の紳士」を得た。


 なぜこのタイミングかは気になるが、オレは取得したばかりの「肉体制御」スキルに、余りまくっているスキルポイントを割り振って有効化した。


 ――うん、なかなか便利なスキルだ。


 これでリラックスした状態で儀式を進めることができる。


「導きの巫女よ、王を導け」


 現巫女長の合図でセーラが両手を広げてオレを抱き寄せた。

 ふよよん、とした感触が素晴らしい。


 ――おっと、神聖な儀式中だったっけ。


 オレは全身全霊で煩悩を振り払い、儀式に集中する。


>称号「無欲なる者」を得た。

>称号「解脱者」を得た。

>「欲望制御」スキルを得た。


 丁度良いから、欲望制御スキルを有効化しておこう。


>称号「仙人」を得た。


 仙人になる気はないので、儀式が終わったら欲望制御スキルをオフにしておいた方が良さそうだ。


『――神よ』


 不意にセーラの言葉が聞こえてきた。


 声じゃない。

 密着した肌を通して、彼女の思念が伝わってくるようだ。


>称号「以心伝心」を得た。

>称号「心を通わせる者」を得た。

>「念話」スキルを得た。


 念話自体は眷属化したアリサとも使っていたんだが、あれは念話スキルとは別物なのだろうか?


 おっと、余計な事に気を逸らしたら儀式が失敗しそうだ。

 オレは儀式に集中するために、「メニュー」のAR表示を全てオフにする。


 公都にはリーングランデ嬢がいるし、王都にはヒカルやリザがいるから、不測の事態が起こってもなんとかしてくれるはずだ。

 それにアリサがいるから、どんな状況でも眷属通信ができるはずだしね。



 オレの腕の中で、セーラが天を見上げる。


『我らを見守る偉大なる神よ』


 セーラの呼びかけに応えたのか、空から静謐な光が降ってきた。

 なんらかの力がこもっているらしく、光に触れた肌がぴりぴりする。


 恍惚の表情をしていたセーラから表情が抜ける。

 トランス状態に入ったのだろう。


 <<<親愛>>><<<人の子>>><<<伝達>>><<<古王>>><<<言葉>>><<<請願>>>。


 セーラを通して言葉とイメージの羅列が流れ込んでくる。

 前に天から降る神託を聞いたときと同じような感じだ。


 神託スキルが手に入るかと思ったが、残念ながらログに表示されなかった。


 <<<伝達>>><<<古王>>><<<請願>>>。


 もう一度、同じようなフレーズが届いた。

 これは「願いを言え」って解釈でいいのかな?


 その前に挨拶くらいはしておくか――。


『はじめまして、テニオン様。私はサトゥー・ペンドラゴンと申します』


 今回は「古の王」という括りで儀式を執り行なっているので、いつものムーノ侯爵家臣や伯爵というのは付けなかった。


 <<<喜>>><<<神>>><<<テニオン>>>


 なんとなく嬉しそうな波動が返ってきた。

 それにしても、暗号を読み解きながら会話をするのは疲れる。


 ――そういえば。


 スキル一覧に「暗号解読」があるのを思い出して、有効にしてみた。


 <<<伝達>>><<<サトゥー・ペンドラゴン>>><<<請願>>>。


 あんまり変わらない。

 なんとなく意味が分かるようになったくらいの違いだ。


『私の願いは神々との対話です』


 <<<笑>>><<<会話>>><<<既>>>。


 既に話しているだろうと笑われてしまった感じかな?


 なんだか天罰の神託の時と印象が違う。

 思ったよりも、テニオン神はくだけた感じの神様らしい。


『神々が科学技術を禁忌とする理由と範囲をお尋ねしたいのです』


 <<<難解>>><<<伝聞>>><<<理由>>>。


 伝えるのが難しいのか、伝えた後に理解させるのが難しいという感じだろうか?


 確かに、これだけ会話が通じにくければ、難しいだろう。

 神託を受け取ってその真意を為政者に伝えるセーラ達巫女さんは大変だ。


 ――待てよ。


 セーラ達からそんな話を聞いた事がない。

 何度か神託の話になったことがあるが、まるで普通に会話しているような感じだった。


 オレは精神魔法を使って、セーラの心に直接アクセスする。


 普通にやるとセーラの心を壊して廃人にしてしまうが、セーラに侵入するのではなく、双方向の精神的な架け橋(ブリッジ)を形成する事で、彼女の神託スキルによるフィルターを通してみようと考えたのだ。


 セーラとつながった瞬間、視界が白く染まる。





 輝きに満ちた白い空間にオレは浮かんでいた。

 たぶん、精神世界のイメージなのだろう。


 前方に眩い輝きで緑色の輪郭だけしか見えない白い光の塊がある。


『可能、なら、神界、招く、話す、ですが……』


 声は光の方から聞こえてきた。


 どうやら、あの緑色の輪郭をした白い光がテニオン神のようだ。


 途切れ途切れで、聞き取りづらいラジオのような感じは続いているが、神託フィルターが無い時の奔流のようなイメージの集合体よりは理解しやすい。

 少し脳内で補正して解釈しよう。


『招いていただけるなら、こちらから出向きますが?』

『あら? 急に言葉が届くようになったわ』


 白い光から、ころころと笑う貴婦人のイメージが届く。


 これだけ通じるなら神界に行く必要はないかな?


『少し話を戻してよろしいでしょうか?』

『ええ、構わないわ。でも、手短に。愛しい巫女の魂が壊れる前に』


 テニオン神から指摘されて気付いたが、確かにセーラの負担が大きい。

 なるべく手早く会話を進めよう。


『神々が科学技術を禁忌とする理由と範囲をお尋ねしたいのです』

『禁則事項です』


 どこかの未来人のようなセリフに聞こえたが、さすがにテニオン神がラノベを知っているはずがない。偶然の一致だろう。


『定命の世界の者達に教える事はできません』

『どうしても、でしょうか?』

『そうです。もし、どうしても、と望むのであれば、神界にある神々の園までおいでなさい。そこで神々に問いなさい』


 答えが返ってくるかどうかは、オレ次第って感じかな?


『分かりました。神々の園にお邪魔させていただきます』


 ザイクーオン神に付けたマーカーで神界の存在やおおよその座標は分かっている。

 ユニット配置は無理だけど、虚空のエーテル炉で得た莫大な魔力があれば異世界転移の応用でお邪魔できると思う。


『ならば、サトゥー・ペンドラゴンに試練を与えましょう。この世界の神殿を巡って、神々の証を手に入れなさい』


 ――ここに来てお使い系クエストか?


 白い光の方から、テニオン神のクスクス笑いが届く。


『神と相対してそこまで平常のままな者は初めてです』


 そういえば、セーラと精神的な架け橋(ブリッジ)を繋いでいるから、こっちの思考もダダ漏れになるんだった。


『さすがはあの方が認めた者ですね』

『あの方?』


 意味深なテニオン神の言葉への問いには、クスクス笑うイメージしか返ってこなかった。


 問い詰めたい気もするが、セーラの魂や身体が心配だ。

 たぶん、あの謎な「絵の中の幼女」の事だろうし、これ以上突っ込むのはやめておこう。


『証はどのように得れば良いのでしょう?』

『それぞれの中央神殿に向かいなさい』


 中央神殿か。

 その辺は巫女長達に尋ねればいいだろう。


『神殿で何をすれば良いのでしょう?』

『あなたはそれぞれの神殿で祀られる神に試練を課されるでしょう』


 つまり、それぞれの試練を果たしていけばいいわけか。


『どのような試練かは?』

『それは与える神しだいです』


 残念、ヒントは貰えないらしい。


『ですが、恐らく信仰心を集める為の何かになるでしょう』

『信仰心、ですか?』


 セーラのフィルターでは「信仰心」となっていたが、ノイズのように聞こえるイメージは「祈り」を始めとした雑多な感じだった。

 宗教的なモノ以外の祈りも含んでいる感じだ。


『ええ、そうです。先日の天罰で世界を守る神力に余裕がありません。神の許に届いた人々の信仰心は神力へと変わり、世界を守る殻となるのです』

『殻ですか?』


 何か人々には伝わっていない神様の役割があるのかな?

 この辺は神界にお邪魔したときに詳しく聞こう。


『序列に拘泥する神々もいるので、巡礼する順番には気を付けなさい』


 ――ヘソを曲げるのかな?


 オレの言葉にせずに考えた質問に、テニオン神から肯定のイメージが返ってきた。


『序列を教えていただけますか?』


 その質問には神々のイメージが順番に届く。

 ヘラルオン、ガルレオン、ウリオン、ザイクーオン、カリオン、パリオンの順番らしい。


『カリオンやウリオンは序列に厳しくありませんが、ウリオンはザイクーオンより後だと拗ねるでしょう。カリオンも最後は嫌がるかもしれません』

『テニオン様は?』

『私の証は今ここで授けます』


 小さな光がテニオン神の白い光から分離し、オレの掌に吸い込まれる。

 身体のイメージがないので、なんとなく掌あたりのイメージなだけだけどさ。


>称号「テニオンの証」を得た。

>称号「テニオンの認めし者」を得た。

>称号「テニオンの聖者」を得た。

>称号「神の試練に挑む者」を得た。


『お使い頑張りなさい……』


 クスクス笑いながらテニオン神の白い光が遠ざかっていく。





「そのフレーズが気に入ったんですか……」


 その呟きはオレ自身の口から漏れていた。

 どうやら、テニオン神との邂逅は終わったらしい。


 オレの腕の中で脱力するセーラは気絶していた。

 枯渇した魔力と気力をセーラへと注ぐ。


 死霊視、精霊視、瘴気視を併用して、セーラの魂の欠損を確認する。

 疲弊はしているが、目立った亀裂やヒビはない。


 ゆっくりと養生すれば元気になりそうだ。


「……サトゥーさん」

「ありがとうございます。セーラさんのお陰でテニオン神と話せました」

「良かった……」


 再び気を失ったセーラを、介助に寄ってきた巫女達に預ける。


 現巫女長に後を任せ、オレは巫女見習いのリリーと二人で聖域にある巫女長の私室へと向かう。

 未だに、ここはリリーが使っているようだ。


 盗み聞きする人はいないだろうけど、防諜用に隔離結界の空間魔法を使っておく。

 小鬼姫ユイカのユニークスキルほどではないが、隣で核爆弾が破裂しても気付かないほど強力な結界なのだ。


「テニオン神と話せた?」

「はい、神々を祀る中央神殿を巡礼せよと啓示を受けました」


 リリーの問いに神々の試練について話す。


「まるで神話に出てくる古代の英雄王のようね」


 そういえば絵本でも、パリオン神の眷属神になる為の試練に挑む勇者のお話があったっけ。


 少し話が横道に逸れた後、リリーから中央神殿のある国々の名前を教えてもらった。


「すべて大陸西方にあるんですね」

「ええ、フルー帝国崩壊時に、安全な西方へ避難したからだと伝わっているわ」


 なるほど、当時は世界最大の国家だったフルー帝国に中央神殿があったようだ。


 必要な情報収集が終わったので、テニオン神と会話した印象などを話のタネに、しばしリリーと雑談に興じる。


「――あら? もうこんな時間だわ。名残惜しいけど、そろそろ戻らないと先輩巫女のヒーナに叱られそうだわ」


 巫女見習いリリーとしての先輩指導員の名前を挙げて、「とっても厳しいのよ?」とおどけてみせた。


 オレは空間魔法の隔絶結界を解く。


 地震のような震動と建物が崩れるような轟音が聞こえてきた。

 どうやら、タイミング良く何者かが公都を襲撃していたようだ。


 オレは「メニュー」スキルの表示をオンに戻す。


 さて、久々に勇者の時間を始めるとしよう。



※次回更新は 9/10(日) の予定です。


※2017/10/20 称号「神の試練に挑む者」を追加しました。

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