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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十五章

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15-幕間8.遺跡探索

※2017/6/25 誤字修正しました。


※今回もサトゥー視点ではありません。

 探索者ヤサク一行が分からない方は後書きをご覧下さい。

 妙に長くなってしまいましたが、16章の前振り回なのでご容赦ください。

「落ちろ、カトンボ!」


 俺の放った矢が敵の眉間を射貫く。


「ヤサク、ハーピーは虫ではないぞ」

「そもそもー、カトンボっていう虫はいませんー」


 魔法剣士のタンの魔剣が至近に迫ったハーピーを切り裂き、神官キューラのポールメイスが地面に落ちたハーピーの頭を粉砕する。


 ――そうなのか?


 いや、王祖様の昔話で、空飛ぶワイバーンを落とすときのセリフにあったはず。


「そんなわきゃねーだろ。カトンボはいるんだよ」


 俺の言葉に反応したように、崖の上に陣取った複数のハーピーが声を揃えて囀る。


 ――LULULRRRUUULU。


「ヤサク、魅了(チャーム)が来るぞ!」

「応! ≪撹乱しろ≫、蒼魔弓」


 俺の手の中の蒼魔弓が赤い光を帯び、放った矢がハーピー達の魅了の声を粉砕する。

 まったく、こんな隘路で魅了された仲間と戦うなんて、ごめんだぜ。


「地図だとこの辺に遺跡があるはずなんだけど……」

「サボってねぇで手伝え!」


 ハーピーの群れに囲まれている状況なのに、雷魔法使いのシェリオーナは暢気に地図を広げてやがった。


「こういう時こそ、お前の派手な魔法の使い所だろうが!」

「あー、だめだめですー。ヤサクー、人の話はちゃんと聞かないとー」

「この峡谷の岩は可燃性だって言ったでしょ」


 俺の失言に、女二人が嵩に掛かって責めてきた。

 ハーピー達までが、一緒になってピーチクパーチク嘲笑ってきやがる。


「うっせー、うっせー、うっせーんだよ!」


 神業のような連射で、ハーピーを次々に始末していく。

 二十匹近いハーピーを蹴散らしたところで、ようやく残りの群れが逃げていってくれた。


「あー、つかれたー」


 俺は地面に尻餅をつくようにして座り、腰の水袋を取りだして生ぬるい水で口を湿らせる。

 峡谷の乾燥した風がすぐに汗を乾かしてくれるが、妙な異臭のせいで快適とはほど遠い。


 造水の魔法道具に魔力を通して、水袋に水を補充する。

 高価な魔法道具(しょうもうひん)だが、人里離れた場所を探索する時には欠かせない。


「まったく、ケルテンの旦那も、やっかいな探索を依頼してくれたもんだぜ」


 塩辛くて堅いばかりの干し肉を囓り、無味乾燥な食事を取る。

 ハーピーの肉を調理できればいいのだが、こんな場所で焼き肉をしようものなら、岩陰からどんな強力な魔物が現れるか分からない。

 そんな自殺行為をするのは、酔狂な貴族かうかつな初心者くらいなものだ。


「よく言いますねー」

「然り。この話に真っ先に飛びついたのはヤサクではないか」


 俺は過去の記憶を忘却の彼方に押しやり、雄大な峡谷を眺める。


 ここは迷宮都市の南南西に進んだ先、国王直轄領と碧領と大砂漠の境界にある大峡谷だ。

 俺達は王都のケルテン侯爵の依頼で、こんなへんぴな場所へとやってきていた。


 いい加減、迷宮都市に顔見せに戻らないと、旅先で野垂れ死んでいると思われそうだ。


「おかしいわね。地図だと、この辺りに遺跡への入り口があるはずなんだけど」

「何か目印があるんじゃねぇのか?」


 シェリオーナが肩から提げた鞄から、古文書を取りだしてパラパラとページを捲る。

 横から覗き込んでみたが、古代語の文字はさっぱり読めないのを再確認するだけで終わった。





「何か聞こえないか?」


 タンがそう呟いて、訝しげに周囲を見回す。

 耳を澄ますと、微かに「めぇええ」と山羊のような鳴き声が耳に届いた。


 崖の下を覗き込むと、かなり下の方にある岩の出っ張りに、立ち往生している子山羊を見つけた。


 腕に仕込んだワイヤーじゃ届かないので、背嚢から長いロープを取りだして山側の岩に結びつける。


「酔狂なやつだ」

「いいじゃねぇか、シェリが古文書の手掛かりを探すまでは暇だろ?」


 それに小さいときに助けておけば、食べ頃になって帰ってくるかもしれないからな。

 腰にロープを巻き付けて崖を降りる。


 半ばまで降りた時、それは起こった。

 ガコッと重い音と共に、右手で掴んでいた出っ張りが外れたのだ。


「おわっ」


 悪い事は重なるもので、ほぼ同時に左足の足場がガラガラと崩れてしまった。


 俺は急斜面を滑落しながらも、必死に視線を巡らせる。

 少し離れた崖に手頃な枯れ木が生えていた。


「てぃ!」


 俺は右腕のワイヤーを枯れ木に向かって撃ち出す。


 ――外れ。


「こなくそ!」


 身体を捻って、左手のワイヤーを撃ち出す。


 ――またしても、外れ。


 ワイヤーは空しく枯れ木を通り過ぎる。


「■■■■ 立方体キューブ


 上からタンの声がし、俺の直下に透明な魔法の台座が生じた。

 俺は魔法の台座に着地し、なんとかしがみつく。


「助かったぜ、タン!」

「長くは保たん。早めに足場を見つけろ!」


 男前は仕事もできるらしい。

 俺みたいだ。


 そこからは苦労しつつも問題無く崖を降り、子山羊が右往左往する出っ張りへと辿り着いた。

 俺は深呼吸しつつ、出しっぱなしだった役立たずのワイヤーを巻き上げ、発射用の魔法道具に魔力を再充填してやる。


「……めぇ」


 子山羊が俺を見て怯え、弱々しく鳴きながら後じさる。

 そのまま岩棚から落ちそうだ。


「よーし、よし。動くなよ」


 猫なで声を出しながら近寄るが、今一つ効果がない。

 子山羊が足踏みするたびに、パラリパラリと小石や土が崖下へ零れていく。


「さもあらん、ヤサクの顔は肉食獣のそれだからな」

「街でもー、肉ばっかりー、食べてますからねー」


 崖の上からタンと神官キューラの茶々が聞こえてきた。


「やかましい!」

「めぇええええ」


 反射的に怒鳴った声に、子山羊が怯えて崖から足を踏み外した。


「んめぇええええ」


 断末魔のような子山羊の悲鳴が峡谷に木霊した。


「やべぇ!」


 俺は咄嗟に腕のワイヤーを撃ち出す。


「――ふう」


 三度目の正直で、ワイヤーはきちんと仕事をこなした。

 俺はワイヤーの錘が外れないよう慎重に手繰り、子山羊を岩棚の上へと引き戻す。


「……めぇ」

「まったく、世話焼かせやがって」


 震える子山羊を抱き締めながら、岩棚の上に寝そべる。


「なんだ、ありゃ?」


 背後の岩壁に違和感がある。


「ヤサク! 何かあったの?!」

「ちょいと待ってろ!」


 俺は子山羊を抱いたまま岩壁へと歩み寄る。


「岩から木の枝が生えてやがる……」


 伸ばした手が岩へと潜り込んだ。


「おわっ」


 慌てて引き戻すが、手袋に包まれた手はいつも通りだった。


 ――幻影だ。


 何度か往復させてから、意を決してその中に顔を突っ込む。

 その奥には浅い洞窟があり、丁寧に隠蔽された扉が隠されていた。


 どうやら、ここが俺達が探していた遺跡の入り口らしい。

 俺は岩棚に戻ると、大声で仲間達を呼んだ。





「ヤギ助、元気に親元に帰ったかな?」


 天井の暗がりから襲ってくる吸血蝙蝠を射落としながら呟く。

 遺跡の通路は天井が高く、タンの術理魔法「魔灯」では天井まで明かりが届かない。


「大丈夫ですよー。山羊をー捕食していたーハーピー達はー追い払ったんですからー」

「そうだな。ヤギ助は元気に山を飛び跳ねているよな」


 神官キューラと話しながら戦っていると、至近距離を電撃が走った。


「おいっ、気を付けろ!」


 雷魔法使いのシェリオーナに文句を付けると、いい笑顔で俺の背後を指差された。


「げっ、(ウォール)スライムか」

「まったく、初心者じゃないんだから、二人とも探索中はもっと気を引き締めなさい」

「面目ねぇ」

「ごめんなさーい」


 俺は鞄から取りだした火炎瓶を投げつけ、スライムを焼いた。

 火炎瓶一個でこれだけの体積があるスライムを焼き尽くせるわけがないが、火を嫌うスライムは焼かれて、壁の隙間へと染みこむように逃げていく。


 罠や毒蠍なんかのありきたりの障害を乗り越え、細い通路を虱潰しに調べていく。


「釣り天井に落とし穴、ボタンを押すと電撃が出る通路、良くもまあこれだけ設置したもんだぜ」

「ここの設計者は罠作りが趣味らしい」

「連鎖罠とかーありましたもんねー」

「罠は別に良いわよ。ヤサクが解除するし――」


 良かねぇよ。


 一つ解除するのに、どれだけ神経使うと思ってやがる。


「――問題はここの魔法系施設が生きてるって事よ」

「伝説通りなら600年以上前の施設のはずだからな。固定化を維持する程度の魔力ならともかく、電撃罠のような魔力を喰うモノは普通停止しているはずだろう」

「魔物はー、通気口から進入してー、勝手に住み着いたー、みたいですねー」


 たしかに、ここまでに魔物にも出会ったが、どれも小型のモノかスライムばかりだった。


「下の方から魔力を感じるわ」

「タン、探知系の魔法を使ってみてくれ」

「承知」


 シェリオーナの感覚を信じ、術理魔法が使えるタンに精査を頼む。

 探索が得意な風魔法使いやレアな空間魔法使いがいれば楽勝なのだが、今回の場合のように魔力を手繰る系統は術理魔法でも遜色無い。


 詠唱を終えたタンが目を閉じて集中する。


「かなり深い」


 タンの横顔に一筋の汗が流れる。


「強い魔力だ」


 目を開けたタンが袖で汗を拭う。


「砦や大型飛空艇規模の魔力炉、あるいは強大な魔物がいる可能性がある」

「マジか――」


 死んだ遺跡じゃないのは嬉しい誤算だが、後者だった場合、シャレにならないレベルの魔物と戦う羽目になりそうだ。


「どうするの、ヤサク? 帰る?」

「ばーろー、行ってみるに決まってるだろ」


 ここで尻尾を巻いて逃げ出すようなら、探索者なんて商売をやっていない。

 そんなヤツなら迷宮探索で稼いだ大金で農地と奴隷でも買って、左団扇で暮らしているだろうさ。


「うむ、行こう。未知を求めて」


 タンが気負いなく言う。

 顔の良い奴が言うとイヤミに聞こえないのがすげぇ。


「それじゃー、いきましょー。シェリー、魔力の感じる方はー、どっちですー?」

「向こうよ」


 俺達はシェリオーナが魔力を感じる方へと進む。


「広いな、あの暗いところが縦穴になってるのかね?」


 俺はそう呟きながら、腰のポーチから取りだした松明に火を着けて、暗がりに投げ込む。

 緩い弧を描いた松明は一度だけ床で跳ねたあと、深い暗闇に向けて落下していった。


「かなり深ぇな。ロープが足りるかな?」

「どうやら、必要なさそうね」

「ヤサク、あれを見ろ」


 シェリオーナとタンの指差す天井方向に、昇降機らしきものが見えた。


 タンが術理魔法の「立方体」で昇降機までの足場を作り、なぜか俺がその足場を伝って昇降機に潜り込む羽目になった。

 まったく、リーダー使いの荒い奴らだ。


 手動の昇降機は、少し錆び付いていたモノの、力を篭めて回せば問題無く動かす事ができた。

 仲間が待つ場所まで昇降機を降ろし、交替で昇降ハンドルレバーを回して地下へと降りる。


「下まで来るとはっきり分かるわ」

「ああ、これなら俺でも分かる。この振動は魔力炉だな」


 最下層の三方に分かれていた通路の一つを進む。


 この通路も上の施設と同様に罠が満載だ。さっきと同じ苦労をしながら、進む。

 面倒なので、問答無用で発動する罠以外は、スイッチになる場所に印を刻むだけで横を通り過ぎた。


 途中に幾つもの部屋があったが、お宝の類いは全くない。

 やがて、俺達は巨大な扉の前へと辿り着いた。


「そろそろ何かでそうね」

「ああ、油断するな」


 その先には予想通り、稼働中の魔力炉があった。

 片側の壁が砕け、谷間と同じ色の岩がむき出しになっている。


 俺達が危惧していた強大な魔物はいないようだ。


「変ね」

「ああ――」


 シェリオーナの言葉に俺達は頷き、ごうんごうんと音を立てる魔力炉を見上げる。

 ここにあるのは魔力炉の中でも、特に出力の高いタイプだ。


 それはいい。


 魔力炉の過半数はこのタイプなのだから。

 ただし、このタイプは高出力を維持する為に、大量の魔核を湯水のごとく投入する必要がある。


 魔核貯蔵庫からの自動充填装置があったとしても、遺跡と呼ばれるほど古い場所に置くのに向いたものではない。


「最近再稼働させたみたいよ」


 装置の裏側で調べていたシェリオーナが告げる。

 自動充填装置に接続された魔核貯蔵庫は大型ではあるものの、今の規模で稼働させたら三ヶ月ほどで尽きてしまう程度だったらしい。


 また、装置の裏側に梯子が隠されていたそうだ。

 昇降機を見つけた階へ繋がっているのだろう。


「なら、お宝は持ち去られた後か……」

「それは分からないわ」


 意気消沈する俺に、シェリオーナが自信ありげに言う。

 視線を向けると、その理由を教えてくれた。


「持ち去るなら、貯蔵庫の魔核も回収していくでしょ」

「そうですねー、あの量ならー、けっこうな金額になりますしー」


 シェリオーナの言葉に神官キューラも同意する。


 小休憩を終えた俺達は二つ目の通路を選んだ。

 今度は魔力が一番低い方向だ。


「ここはハズレね」

「言わなくても分かる」


 巨大な倉庫らしき場所には、ガラクタや瓦礫が転がるだけで何もなかった。

 放置された作業用の足場からして、ここは大型飛空艇の発着場だったようだ。


 天井の閉ざされた発着用の門には、何かの木の根のようなモノが這っており、ここしばらくは開いた様子がない事が窺える。

 右手に物資搬入用らしき扉があったが歪んでいて開かず、その隙間から覗いた先の通路は岩石や土砂で埋まっていた。


「ダメだな。次に行こうぜ」

「はいー」


 手についた錆を払いながら、仲間達に声を掛ける。


 方角からして、あの物資搬入用扉の先は、最後の通路の先と繋がっているはずだ。





 そして、最後の通路。


 その先は居住区のようになっており、凶暴な先住民が待っていた。


「キューラ!」

「■■ 浄化(ターン・アンデッド)!」


 聖印を構えた神官キューラの神聖魔法を受けて、部屋の中にいた怨霊レイスが昇天していく。

 キューラが唱えると、発動句が「たーんー、あんでっどぉー」と間延びして聞こえる。


 あれで良く魔法が発動するものだ。


 既に30を超える部屋を探索しているが、どの部屋にもアンデッドが待ち構えていた。

 古臭い服装をしているのは共通していたが、各種スケルトン、ゴースト、ワイト、レイス、マミー(ミイラ)と多種多彩だった。


「魔力切れーですー」

「…… ■■ 連鎖雷撃チェイン・ライトニング


 通路を向かってくるワイトの群れに、シェリオーナの攻撃魔法が炸裂する。

 タンの術理魔法は対アンデッド向きじゃないので、魔刃を纏わせた魔剣で斬るのに徹しているようだ。


「ヤサクー、ポーション余ってませんー?」

「魔力回復薬なら一本だけだ」


 俺はそう言いながら、最後の中級魔力回復薬を手渡す。

 俺も魔力に余裕はないが、このアンデッドの巣窟を通り抜けるには、キューラの神聖魔法が最優先だ。


 その後、12の部屋を抜け、四人の魔力回復薬が尽きたところで、巨大な扉があるホールへと辿り着いた。


「いかにも、遺跡の主が待ってそうな扉よね」

「ああ、いそうだな」


 仲間達の顔を順番に見る。


 いい顔だ。

 誰一人ここで引き返そうなんて考えていない。


「いくぞ! 手伝え、タン」


 俺はタンと二人で大扉を押し開く。





「――あった」


 さっきの倉庫よりも広い場所に、それはあった。


「あれが伝説の……」


 いつも飄々としたタンの声が震えている。


「聖骸動甲冑」


 シェリオーナが呆けたような顔で呟く。

 王都の広場にある王祖様の像と同じお姿だ。


「おっきーですねー」


 キューラがいつも通りの口調で言う。

 案外、こいつは大物かもしれん。


「ああ、確かに、でけぇ」


 俺の10倍、王国軍の巨大ゴーレムの3倍はある。

 王祖様の伝説では俺の身長の2倍くらいの描写と、超巨大な天竜の首に跨がって軍を指揮する描写があって、歴史家達はいつもどちらの描写が正しいのかと言い争っていたが、どうやらその論争にも決着がつきそうな感じだ。


「さっきの魔力炉はあれの為かしら?」

「ああ、多分そうだろう」


 聖骸動甲冑を囲むように金属の櫓が組まれ、脈打つような魔力光を帯びた管が天井から聖骸動甲冑へと繋がっている。


 俺の耳に、のんびりとしたキューラの声が届いた。


「おかしーですねー」


 キューラの視線は聖骸動甲冑の右側の空間に向いていた。


「ああ、あの空間はなんだ?」

「たしかに、変ね」


 タンとシェリオーナが言うように、聖骸動甲冑の右側にはもう一機分が置けそうな空間が空いていた。

 まるで、そこに聖骸動甲冑がもう一機あった(・・・・・・・)かのようだ。


「さて、どうする、ヤサク?」

「どうするもなにも――」


 タンの言葉に応えようと、周囲を見回す。


 この巨大な整備倉庫は地下四階分の空間を吹き抜けにしてあり、俺達はその三階部分にいるようだ。

 あたりまえだが、聖骸動甲冑は最下層の一階にある。


 そうして、視線をさまよわせていると、二階部分の出っ張りに、いかにもな場所を見つけた。


「タン、あそこの魔法装置怪しくないか?」

「そうだな。いかにも操作してくださいと言わんばかりだ」


 怪しげな光る球体が浮かんでおり、その周りにイスや操作板が並んでいた。

 幸い人影はない。


「あそこから降りられるみたいだ。行ってみようぜ」


 俺達は作業用の梯子を伝って下の階に降りる。


「とろとろしてねぇで、とっとと降りてこい」

「ちょっと! 上を見ないでよ!」

「生娘みてぇな事を言ってんじゃねぇ!」

「女性はみんなー、何歳になってもー、乙女なんですよー」

「人を年寄り扱いすんな!」


 俺達は油断しすぎていたのかもしれない。

 バタバタと音がして、俺達と魔法装置を結ぶ通路の床板が剥がれて、角張った蟹型のゴーレムに変形していく。


「なんじゃ、こりゃあ!」

「聖骸動甲冑は無数のゴーレムを使役したと歴史書にある」

「なんで、そんなに冷静なんだよ」


 言い合っている間にも、床板ゴーレムの数は増えていく。


「て、撤収! 何十匹いるかわかんねぇゴーレム相手に戦えるかっつーの」


 慌てて梯子を登るも、シェリオーナのでかいケツが邪魔でつかえる。

 殿(しんがり)のタンが術理魔法の「自在盾」で、ゴーレム達が梯子を登るのを邪魔しているおかげで追いつかれずに済んでいる感じだ。


「ちょっと、お尻を触らないでよ」

「ばーろー! そんな事を言ってる場合か!」


 俺は後ろから押してサポートするのを諦め、蒼魔弓でタンの援護をする事にした。


「タン、自在盾の隙間を空けろ――≪撹乱しろ≫、蒼魔弓!」


 鏑矢のような音を響かせながら、蒼魔弓から放った矢がゴーレム達の間を通り抜ける。

 内部魔力を攪乱されたゴーレム達がビクリと震えて、梯子からバランスを崩して落ちていく。


「へへん、追いかけてくるのが人造魔物(コンストラクト)系で良かったぜ」

「ヤサク、今のうちに登るぞ」

「応ともさ」


 わずかな時間稼ぎにしかならないが、自由に戦えない梯子から逃げ出すには十分だ。





「ヤサク、追いついてきたぞ!」

「まったくしつこいヤツらだぜ」


 アンデッド達の居住区を抜けた辺りで追いつかれた。

 なぜか昇降機が上に戻ってなくなっていたので、俺達は隠し梯子を使うべく魔力炉の部屋へと向かっている。


「はあー、はあー、もーダメですー」

「私も、もう、無理」


 俺とタンはともかく、魔法使いのシェリオーナと神官キューラが息切れを起こしてきた。

 このままだと、追いつかれたときに魔法が使えない。


 その時、あるモノが俺の目に入った。


「――ヤサク?」

「先に行け!」


 俺は仲間達を先に行かせ、カチャカチャと音を立てて迫ってくる床板ゴーレムの群れをにらみつける。


「これでも喰らいやがれ!」


 俺は壁に描いた「罠の印」を殴りつける。

 落ちてきた天井が床板ゴーレムの群れを押しつぶす。


「へん、人間様の知恵を舐めるんじゃねぇ――よ?」


 床板ゴーレムを押しつぶしていた分厚い天井板が揺れる。

 押しつぶされても、まだ壊れていないようだ。


「マジか!」


 しかも、通路の奥から第二波の床板ゴーレム達が接近している。


「あーばよ!」


 俺は通路に向かって蒼魔弓の矢を放ち、仲間達の後を追った。


「ヤサク! こっちよ!」


 魔力炉の部屋の上の方から仲間達の声が聞こえた。

 梯子の上にある隠し扉の前で手を振っている。


 どうやら、梯子の上に登って待っていてくれたようだ。


 俺は錆びた不安定な梯子に飛びつき、追いついてきた床板ゴーレム達から必死で逃げる。


 ――げっ。


 メリメリと悲鳴を上げていた梯子が、俺の目の前で折れた。

 そのままバキバキと音を立てながら後ろに倒れていく梯子の上に必死で登り、壁に残っている梯子に腕のワイヤーを発射する。


「よっしゃぁあああ!」


 ワイヤーの錘は見事に梯子に絡まり、俺は床板ゴーレムがうじゃうじゃと蠢く床に落ちずに済んだ。

 俺はやるときはやる男なんだ。


「ヤサク、急げ!」


 タンの言葉に振り返ると、床板ゴーレム達が自分達を足場にして上がってくるのが見えた。

 俺は必死で手足を動かして梯子を登る。


「まずいな、このままじゃ追いつかれる」

「タンの術理魔法で隠し扉を固定したら?」

「ダメだ。あの数なら壁ごと破壊される」

「困りーましたねー」


 俺は魔力炉部屋に視線をさまよわせる。

 諦めなければ、起死回生のネタはドコにでもあるんだ。


「シェリ、お前の魔法で魔力炉を誘爆させたらどうだ?」

「そんな事したら、私達も死ぬわよ」

「タンの魔法でー、隠し扉を固定したらー?」

「間に合わん」


 なら、何か別のモノを使って誘爆させたら――あれだ!


「シェリ、岩を魔法で撃て!」

「岩ー?」

「ヤサク?」


 いつもは頭の回転の早いこいつらにも飲み込めていないらしい。


「この岩は谷の岩と同じだ」

「そうか! 可燃性!」

「ヤサクー、珍しくー、冴えてますねー」

「珍しく、は余計だ!」


 合点がいったシェリオーナが攻撃魔法を唱え、タンも術理魔法を詠唱して待機する。


「…… ■■ 連鎖雷撃チェイン・ライトニング


 蛇のように蠢く雷撃が岩を嘗める。

 小さな火花とともに轟音と閃光が魔力炉の部屋に満ちる。


 直ぐさま隠し扉を閉ざし、タンの施錠魔法が固定した。

 さらに神官キューラの神聖魔法が、隠し扉の周囲を強固な防御魔法で補強する。


 耳が痛くなるような轟音と震動が俺達を襲った。

 狭い通路の天井から埃が降り注ぎ、通路の継ぎ目がギチギチと嫌な音を響かせる。


 断続的な轟音が続き、天井が落ちてきそうになるのを支えていると、ようやく静寂が訪れた。

 隠し扉は熱くて触れなかったので、俺達は隠し通路を進み、最初のフロアへと戻る。


 地上でケルテン侯爵へ遺跡発見を報告する為の鳩型ゴーレムを飛ばし、翌朝、魔力が回復するのを待って、もう一度、遺跡の中へと舞い戻った。





「すごいですねー」

「残骸の山ね」


 昇降機が壊れていたので、俺達は別の経路を探して最下層に来た。

 魔法使いのシェリオーナと神官キューラが言うように、地下通路には床板ゴーレムの残骸や壁材の残骸が足の踏み場もないほどに転がっていた。

 中には大して損傷のない床板ゴーレムもあったので、念の為、タンと二人で手足を壊しておく。


「大丈夫みてぇだな」

「そのようだ」


 聖骸動甲冑の部屋に入っても、制御装置の場所に行っても、新しい床板ゴーレムが生まれる様子はない。

 魔力炉を破壊したせいで、聖骸動甲冑や倉庫の自動防衛機能が停止したのだろう。


「それで、どうやって聖骸動甲冑を運び出すの?」


 シェリオーナの問いに天井を指さす。


「天井の扉が開くみたいだ」

「どうやって?」

「魔力炉から供給される魔力で動くんじゃないか?」


 ――あっ。


 そう答えてから気がついた。

 床板ゴーレム排除の為に、魔力炉を破壊したんだった。


「……詰んだ」


 ケルテン侯爵に報告して、運搬を依頼するしか無いだろう。

 俺達は予備の鳩型ゴーレムを飛ばす為に地上へ戻る。


「めぇええええ」


 崖の上で親と一緒に草を喰っていたヤギ助が、俺を見て楽しそうな声を上げた。

 そのヤギ助親子が急に空を見上げた。


 釣られて見上げた空には、分厚い雲と雲の間から幾筋もの綺麗な日の光が差している。


「何かしら、この音?」

「綺麗なー音ですねー」

「どこから聞こえてくるのだ?」


 雲間から神秘的な鐘の音が聞こえてきた。


 <<<傾聴せよ>>>


 威圧感のある声が空から(・・・)降ってくる(・・・・・)

 俺は思わず膝を突き、頭を垂れてしまう。


 どうやら、それは俺だけじゃなく、仲間達も同じだった。


 天から降る声に耳を澄ます。

 それは天罰を告げる神の声だった。


「波乱の時代がきそうだ」

「ええ、そのようね」

「私達ならー、どんな場所でもー、どんな時代でもー、大丈夫ですよー」


 王祖様の遺物を発見して、王都で左団扇の日々を送るのはお預けのようだ。


 まったく――。


「やれやれだぜ」


 俺はひとりごちて、二体目の鳩型ゴーレムを空に放った。



※次回更新は 7/2(日) の予定です。

 お待たせしました。今週からは毎週更新に戻り、来週から16章本編がスタートします。


【ヤサク一行の登場回】

4-幕間:ある主従の会話

8-19.闘技場での戦い

9-幕間:プタの街の災難[後編]

12-22.混乱の王都

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  原作:愛七ひろ
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 発売日:2025年12月9日
ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
[気になる点] 遺跡の中でスライムに火を放っているが、突き出た岩は可燃性と後述もある。 スライムを焼き払うのは危険な行為だと思う。
[気になる点] 誤変換:終えた >小休憩を負えた俺達は二つ目の通路を選んだ。
[一言] カトンボってガガンボの別名だった気がするが、弱い虫だしこの世界では淘汰されて存在して無さそうだなw
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