15-幕間5.ジョンスミスの旅路
時系列的には天罰発生前となります。
※2017/5/10 誤字修正しました。
※2017/5/9 一部修正しました。
「ヨンフミフ、我々が送ってやれるのはここまでだ」
「ありがとう、ホルプヘウプ。ここからは別の商隊を探すさ――後、俺の名前はジョンスミスだ」
俺は鹿人族の男性に礼を告げる。
シガ王国を北に抜けた俺は、中央小国群を西に向かった。
小国群の街道はシガ王国と比べて酷いモノで、デコボコな上に途切れている場所も多かった。
一番参ったのは魔物の討伐が甘いことだ。
お陰で、何度か死にそうになった。
その度に偶然通りかかった商隊や流れの冒険者に助けられた。
始めの内は自分の幸運を誇りもしたが、助けてくれる相手が「石の狼」や「動く木彫りの熊」になったところで、さすがにおかしいと気付いた。
恐らく、俺にこの腕をくれたヤツの差し金だと思うが、その目的がよく分からない。
接触してくるわけでもなく、行動を制限されるわけでもないのだから……。
「●●● ●!」
「あー、わりぃ。この辺の言葉はまだよく分からないんだ」
褐色の肌をした色っぽい物売り女性をスルーして、西へ向かう商隊を探す。
シガ王国語かサガ帝国語が分かるヤツじゃないと交渉もままならない。
チート能力とは言わないが、普通の鑑定や言語理解くらいは欲しかったぜ。
「そこのノッペリ顔のオニサン、リウチ国名物の焼き飯食べないカ?」
「ノッペリは余計だ――」
横合いから掛けられた声に振り向いて絶句した。
そこには塗り壁に苔を生やしたような不思議なヤツが立っていた。
テーマパークにいたら人気が出そうだ。
「オニサン、苔人を見るは初めてカ?」
「ああ、ジロジロ見てわりぃ――焼き飯は幾らだ?」
ほこほこと湯気の上がる焼き飯には、よく分からない肉や野菜の間に干しブドウのようなモノが見える。
俺の知るチャーハンとは違うが、なかなか美味そうだ。
「この椀一杯で、銅貨一枚ね」
「椀二杯分くれ」
俺はシガ王国の銅貨ではなく、中央小国群で手に入れた歪な銅貨を差し出す。
多少の大小はあるが、銅貨は概ねどの国でも使える。
ただし、銀貨など上の貨幣に替える時にレートが違うので、銅貨で請求された時は比較的価値の低い中央小国群のを先に使うようにしている。
「椀と匙は食い終わったら返しておくれヨ」
「ああ、分かった」
受け取った特盛りの焼き飯を早速味わう。
少し塩辛いが美味い。
いや、長旅で汗をかいていたせいか、この塩辛さが堪らなく美味い。
中に入っていた謎肉も、事前に下味を付けてあったのか、単調な味になりがちな焼き飯に深みを与えてくれる。
俺は匙の勢いを緩めることもできずに、バクバクと焼き飯を喰らう。
いい加減塩がキツく感じ始めた頃に、柔らかな甘みが舌に広がった。
――さっきの干しぶどうか。
甘みでリセットされた舌に、再び刺激的な塩味と謎肉の旨みが波のように打ち寄せ、鮮烈な味を楽しませてくれる。
塗り壁みたいな顔のくせに、この店主の腕は凄い。
まるで、シガ王国で噂になっていた「奇跡の料理人」ってヤツみたいだ。
「美味いな。この甘みは干しぶどうか?」
「それはナツメヤシだヨ」
ナツメヤシ――デーツか?
「気に入ったなら、あっちの店でイトコが篭売りしてるネ」
「そうか、後で買いに行ってみるよ」
「行くなら、ナツメヤシ屋の手前に運試しの店があるから行ってみるといいネ」
ふーん、サイコロ博打か鼠レースあたりかな?
ちょっと覗いてみるのも面白そうだ。
俺は店の方向を覚え、椀を苔人の店主に差し出す。
「もう一杯頼む」
旅の美味いモノは一期一会。
次に喰えるとは限らない。
三杯目はゆっくりと味わって喰うことにした。
◇
「――ルービック・キューブ?」
五列ずつの立方体だから別の種類かもしれないが、俺の知るルービック・キューブに似たおもちゃが露店に並んでいた。
「よう、兄さんも運試ししていかないか?」
「運?」
「おうよ! この四角いのはこうやって回せるんだ」
露店の店主が綺麗に整えられた髭をしごきながら声を掛けてきた。
立方体を持ち上げてくるりと回したあと、色とりどりの立方体を回転させて、一面を同色に揃えた。
「これを二面以上揃えられたら、こっちの豪華景品が手に入るってぇわけさ」
露店主が自分の背後に陳列された品々をみせる。
防犯の為か、五面と六面の賞品は実物ではなくお品書きだった。
「サガ帝国語か――『鑑定の宝珠』? もう一つは『通訳の耳飾り』?」
ニセモノだろうけど、四面を揃えた時の金貨一〇枚は魅力的だ。
軍資金が心許なくなってきたので、丁度良い。
これでもルービック・キューブは得意なんだ。
でも、その前に――。
「ところで主人、六面体の色を揃えるなら、五面だけが揃う事はないだろ? どうして五面の報酬があるんだ?」
俺が気になっていた事を質問したら、店主が大きく溜息を吐いた。
「あんたみたいに学のあるヤツばかりじゃないってことさ」
「いや、学も何も、当たり前じゃないか?」
「そうでもないのさ。五面を抜かして書いていたら、『五面は商品がないのか?』って聞いてくるヤツが多くてね。五面が揃った時に六面が揃わないわけがないって、理解させるのが面倒で五面の商品も書く事にしたんだよ」
なるほど……。
「それじゃ、五面の報酬は無いのか?」
「うん? 六面が揃えられたら、副賞でつけてやるよ」
店主がパタパタと手を振りながら、揃えられるモノなら揃えてみろと言いたげな顔で告げた。
そういう態度をされると燃えてくる。
本題の質問に入るとしよう。
「時間制限はあるのか?」
「この砂時計が落ちるまでさ。落ちきっても、銅貨一〇枚払う度に裏返してやる」
「何度までだ?」
「金が続く限り、何度でもさ」
なるほど、よく考えている。
これならギャンブル耐性の低いヤツなら、有り金をつぎ込みそうだ。
俺は懐の金を確認する。
さすがに一回で揃えきるのは無理だ。
でも、銀貨四枚、いや五枚あれば最後まで揃えられるはず。
「最初は銅貨五枚だ」
「一面揃えた状態から始めていいのか?」
「初心者へのサービスさ」
俺が立方体を動かし始めると同時に、店主が砂時計をひっくり返した。
数度回すだけで、簡単に二面目が揃う。
「おおっと、こいつぁ、期待の新人だ! もう二面揃えちまいやがった! どうだ? ここで止めたら小銀貨一枚だ」
もともと、二面目を揃えやすくしてあったくせに、よく言う。
止めさせる気のない笑顔で店主が大声を上げ、その声に引かれたギャラリーが周囲に集まってきた。
注目されるのが苦手な俺だが、この状況で「埋没」は使えない。
心の中で「あれはカボチャ」「こっちはキャベツ」と唱えながら、立方体に集中した。
「ああっ! あいつ四面を揃えたくせに崩しやがったぞ!」
「き、金貨一〇枚が!」
「やばいよ、あいつ」
ギャラリーの声を聞き流し、俺は必死に手を動かす。
手持ちのサイフは空だ。
なんとしてでも、最後の砂時計の間に全面揃えてやる!
「ほらほらほら、もうすぐ全部落ちきるぜ」
店主が殊更に俺を焦らそうと実況中継してくれる。
「ああっ、やばいやばいやばい」
ああ、もう。
ヤバイ女がうるさい。
「あと、3、2、1――」
――揃った!
「ゼ――」
ゼロと言う寸前の店主の眼前に六面を揃えきった立方体を差し出した。
店主の顔が驚愕に凍り付いている。
「すっげぇえええ!」
「初めてみたぜ、本当に揃うんだな」
「●●●●●!」
「●●●! スゴイゾ!」
ギャラリーの間から様々な言葉の驚愕と祝福の声が沸き起こった。
俺は照れくさくなりながら、店主の反応を確認する。
こいつが逃げ出そうとしても、俺が払った金くらいは回収しないといけない。
「ああ! 箱が!」
「なんだ、アレ?!」
「砂に?」
俺が突き出した立方体が、キラキラと光る六色の砂となって崩れていく。
砂の中から零れた黒曜石の指輪らしきモノを店主がひったくる。
「ははは、これだ! これこそが『万理の立方体』がその内に隠す秘宝! 良くやってくれた小僧! これは約束の報酬だ。受け取れ!」
狂喜する店主が、アイテムボックスらしき黒い断面から、宝珠とイヤリングを取りだして俺の方に投げ渡してきた。
「こっちの金貨と銀貨の袋もやるよ。残りの品は欲しいヤツが持っていけ! ■■■■……」
店主から受け取った品と金の袋を受け取って、懐に入れる。
「…… ■ 飛行」
店主が空に舞い上がり、高笑いしながら南西に向かって飛んでいった。
さっきのセリフといい、なんとなく悪巧みする中ボス的な感じがするから、南西方面には近寄らないようにしよう。
◇
「――ない?」
旅の保存食にデーツを買い求め、西方諸国の中でも商業が盛んなガルレオン同盟へと向かう商隊の砂船に乗船する契約を交わした。
商隊が明日出発すると聞いた俺は、さっきの絶品焼き飯を晩メシにしようと屋台の場所まで戻ってきたのだが、そこはもぬけの殻になっていた。
「すまん、ここの屋台は朝はいつくらいからやってるんだ?」
「あん? そこのヤツなら今日初めてだ。さっき猫人と犬人のガキが迎えにきてたぜ」
「ふーん、明日もやるのかな?」
「さあな」
気のない返事をするオヤジの店で、砂鼠の肉串を買う。
――マズイ。
下拵えが雑なのか、口の中で砂がジャリジャリする。
それでも日本にいた頃と違って、そのまま捨てたりはしない。
俺は味を無視して口の中に詰め込み、向かいの店で売っていた濁り酒で喉の奥に流し込んだ。
そして、翌日――。
昨日の焼き飯屋を探して露店街に行ってみたが、やはりそこに苔人の姿はなく、イトコの店だと言っていたデーツ屋も店を出していなかった。
たぶん、どこかの商隊の小遣い稼ぎだったのだろう。
「縁があればいつか会えるさ」
俺は自分でも信じていない言葉を呟いたあと、同乗させてもらう商隊へと合流し、この都市を出た。
「ナニそれ綺麗だね」
「止めなよ。その子は西方諸国語なんて分からないよ」
同乗していた褐色の美少女達の声に振り返る。
「宝珠だよ」
「ほーじゅ?」
「あら? あんた西方諸国語が分かるんだね」
美少女の一人が感心したように言う。
昨日手に入れた「通訳の耳飾り」は正真正銘の本物だったのだ。
なので、この「鑑定」の宝珠も本物の可能性が高い。
だけど、これだけの宝珠だと、自分で使うよりも売却して商売の元金に使った方が良い気もする。
悩ましいところだ。
「砂豚が出た! 弓を使える奴は準備しろ!」
「出番だ~」
「あんたも、こっちに来な! 鉄板の陰に隠れてないと砂豚の吐く礫は板なんか簡単に貫通するよ!!」
豊満な美少女に抱き着く形になって砂船の鉄板の陰に転がり込む。
「硬い! 小弓の矢が効かないよ」
「いいから射ろ! それが牽制になるんだよ」
牽制でいいのか。
美少女に抱擁されるラッキーな状況からは離れたくないが、このままだと危なそうだ。
俺は断腸の思いで、美少女の腕を解く。
「ちょ、ちょっと!」
「牽制なら、俺のショットガンは適任なんだ」
俺は銃に巻いた布を解き、銃弾を籠めた。
砂上を泳ぐ砂豚に狙いをつける。
この距離だと当たらないし、当たっても大したダメージはない。
でも、轟音と砂の表面を叩く衝撃はなかなかのモンだと思う。
揺れる船上で、絞り込むように引き金を引く。
――当たった?
ラッキーヒットが砂豚の目に掠ったようだ。
「やるじゃない! あたしはミジー、射手兼踊り子よ」
「あらら、ミジーにしては手が早いじゃない。私はロウリー、あんたは?」
美少女二人から称賛の籠った瞳を向けられる。
「俺はジョンスミス。ただのジョンスミスだ」
俺としてはイケてる自己紹介のつもりだったんだが、美少女二人には受けなかったようだ。
今度同じようなシチュエーションになったら、発明家とか冒険野郎とか言ってみよう。
俺はミジーの健闘を称え、砂豚出現時のロウリーの親切に礼を言いつつ、背嚢から取り出したデーツを献上した。
異世界でも甘味は正義らしい。
笑みを浮かべる美少女に囲まれながら、俺達の乗る砂船はガルレオン同盟への航路を進む。
そこに待つのは平穏か波乱万丈か。
異世界TUEEEEへの道は遠く険しい。
苔人の正体は不明です。もちろん、苔人を迎えに来た猫人と犬人の正体も不明なのです。
苔人の勧めた運試し屋さんは初出です。彼が今後の物語で登場するかは未定となります。
※2017/5/9 ルービックキューブの五面の賞品がある理由を気にする方が多かったので、「でも、その前に――」以降に理由を加筆しました。







