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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十五章

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15-幕間3.ムーノ伯爵領にて

※短めです。

「お父様、それは鉢植えの――お野菜、ですか?」

「違うよ、ソルナ。これは盆栽という勇者様の国の文化なんだ」


 ムーノ城の家族だけの居間で、エチゴヤ商会から贈られた盆栽を剪定する。

 勇者様の出身世界の紳士の嗜みというだけあって、実に雅で奥が深い。


 ソルナにもよく見えるように、盆栽をテーブルの上に置く。

 盆栽を眺めながら、久々の娘との団欒を楽しむ。


 そんなゆったりとした空間に、ドタバタと大きな足音が飛び込んできた。


「大変だよ!」


 部屋に飛び込んできたのはニナ執政官だった。


 ――珍しい。


 彼女が血相を変えるようなできごとは少ない。

 何があったか、私にも簡単に予想できる。


「また、サトゥー君が何か功績を挙げたのかい?」

「功績? そんな生やさしい功績じゃないよ」


 ――おや?


 セリビーラの迷宮で階層の主を倒し、このムーノ伯爵領では、強大な魔物に支配された都市をたった半日で解放してみせた彼だ。

 そんな彼の事を知るニナ執政官をここまで動揺させるなんて、どんな事をしたのか、聞かされる前からワクワクしてくる。


「どんな功績か教えてくれるかい?」


 心構えはできている。

 今更何を聞かされたって、驚かずに聞けるよ。


「サトゥーと仲間達が魔王を倒した」


 ま、まおう?


 マオウヲタオシタ?


 倒した? マオウを?


 マオウマオウ、まおう、マ王……ま、魔王?!


「な、なんだってー!」


 私は心の底から絶叫を上げた。


 ソルナに背中をさすられ、メイドに冷たい水を貰って、ようやく意識が戻ってきた。


 それにしても、心構えはできていたつもりだったが、これには驚かざるを得ない。

 まさか、そんな世界中の歴史に残るほどの偉業をなしたなんて――。


「ど、どうしよう、ニナ?」

「お、落ち着きな」


 ニナ執政官も私と同じように動揺をかくせないらしい。


「サ、サトゥー君の手紙には勇者様の陣中見舞いに行くとあったのだが、倒したのは勇者様ではないのかね?」

「そこまで詳しい情報は入ってないよ。王都から都市核の端末持ちに全通知で届いてる。アンタは見てないのか?」

「すまない、見落としていたようだ」


 そういえば、盆栽の枝を剪定しているときに何か鳴っていた気がする。


 ちなみに、ソルナは「まあ」と小さく驚いただけだった。

 家族で一番大物かもしれないね。




◇ニナ視点◇



 都市核の端末を確認していたムーノ伯爵が、とんでもないことを言った。


「――陛下からの召喚状?」

「そうなんだ。サトゥー君の偉業に対してお褒めの言葉をくださるそうだよ」


 事の深刻さを分かっていないムーノ伯爵の笑顔に、頭痛を覚える。


「分かっているのかい?」

「ああ、とても光栄なことだね」


 違う。


「陛下の思惑だよ」

「思惑?」


 オウム返しにするムーノ伯爵に嘆息を一つ。

 本当に、この一家は物事の裏を読むのが苦手だね。


「陛下の話は、あんたを伯爵から侯爵に陞爵させてやるから、サトゥーを国王の直臣に寄越せってトコだろう」

「ええっ?!」


 あたしの予想に伯爵が驚きの声を上げた。


 寂しいが、サトゥーの栄達を考えたら、その方がいいんだろうね。


「こ、断れないかな、ニナ」


 この昼行灯は何を言ってやがる?


「だ、だって、私はサトゥー君に爵位を与える時に、彼と彼の家族を守るって約束したんだ」


 おいおい、サトゥーの為に国王に逆らうつもりか?

 いくらなんでも、相手が悪い。


「これを断れば、あんたの代で侯爵への陞爵はない。たぶん、孫の代でようやくその話が出るくらいのはずさ」


 オリオンが有能なら、あの子の代でもあるかもしれないけど、人付き合いが下手だからムリだろう。


「それでも構わない。今の伯爵という地位だって、サトゥー君の尽力あればこそだ」


 伯爵が男前な表情で言う。

 確かに、普通なら10年、あたしの目論見でも、次の代で伯爵への陞爵を上奏できるていどの復興ができたら御の字って感じだったからねぇ。


「まぁ、決めるのはアンタだ」


 あたしにできるのは助言し、ムーノ伯爵の決めた事を実現するだけさ。

 その結果、どんな窮地に陥ったとしても、サトゥー達と一緒なら、それはそれで楽しい気がするよ。


 もっとも、執政官としては領主を諫めるべきなんだろうけどさ。





「伯爵、手紙だよ」


 あのシガ王国を揺るがす報せから10日が過ぎた頃、グリフォン便による手紙が到着した。

 もちろん、こんな高そうな手段で手紙を送ってくるのはサトゥーくらいだ。


 あたし宛ての手紙には魔王討伐の詳細はなかった。

 デジマ島での勇者一行との宴会が楽しかったとか、お土産にデジマ島の珍しい物を色々と仕入れたから楽しみにしていてほしいとか、実にどうでも良い事ばかりだ。


 だから、何か書いてあるとしたら、伯爵への手紙にだろう。


 あたしは手紙を読み進める伯爵の表情を眺める。

 のほほんと手紙に視線を落としていた伯爵が、突然驚いた顔になって顔を上げた。


「た、大変だよ、ニナ!」

「こ、今度は何をやらかしたんだいアイツは!」


 慌てて、伯爵の横から手紙を覗き込む。


「サガ帝国の古都に行こうって書いてあるんだ」

「――は?」

「皇女殿下のお招きで、パリオン神殿の勇者召喚の間を見学できるんだよ!」


 伯爵が力説する。


「な、何を言って……」


 ワケガワカラナイ。

 勇者召喚の間を見学?


 わざわざバカ高いに違いないグリフォン便を使ってまで伝える事か?

 ましてや、魔王討伐の話よりも優先するような事とはとても思えない。


 だけど、それは私だけだったらしい。


「お父様、素晴らしいですわ!」


 ソルナ殿が伯爵と一緒になって喜んだ。

 まったく、似たもの親子だよ。


 結局、伯爵の手紙にも詳細は載っていなかった。

 一緒にって事はサガ帝国に行く前に、この城に寄るって事だろうから、そのときにサトゥーから詳しい話を問い詰めようと思う。


 まったく、あいつは自分の成した偉業に無頓着すぎる。


 あたしはサトゥーが城に戻った時の事を考えてニヤリと口元を緩めた。

 あいつには驚かされた分のお返しと、これからムーノ伯爵領に降りかかる厄介ごとや政争の火種についての繰り言と、そして――。


 ――ムーノ伯爵領をあげての盛大なお祭りで、サトゥーの偉業を祝おう。


 パレードなんかもいいね。

 ハデな事が嫌いなサトゥーの困った顔を想像しながら、メイド達に祭りの準備を指示する。


 さて、覚悟して帰っておいで、サトゥー!

※次回更新は 4/9 です。


※この後に到着したサトゥー達と和気藹々とした団欒シーンを入れる予定でしたが、時間切れでここまでしか書けませんでした。申し訳ない……。





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(4/6~4/13 10:59 まで、期間限定で一巻相当分まで公開との事です)

http://comic-walker.com/jp/contents/detail/KDCW_FS02000014010000_68/




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