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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十五章

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15-幕間1:ハヤト・マサキ

※2017/2/21 誤字修正しました。

※2017/2/21 一部修正しました。


※今回は勇者ハヤト視点です。

「パリオン神が世界を繋ぐ時間にも限りがあるみたいだ。そろそろ行くよ」


 天から降る優しい光が俺を包む。


 仲間達やサトゥー達が見守る中、オレの身体が宙に浮かび視界が光に呑まれていった。

 微かにリーン達がオレの名を呼ぶ悲痛な声が聞こえた。


 ――すまん、リーン。


 俺は心の中で仲間達に詫びる。


『感謝、勇者』


 チューニングの合わないラジオのように、ノイズ混じりの声が聞こえてきた。

 この可愛らしい幼い声はパリオン神のものだ。


 同時に流れ込んでくるイメージが、彼女の心を表している。


 どうやら、俺の魔王討伐に感謝してくれているようだ。

 白く染まった視界に幼女神の姿が見えないのが残念に思える。


『別離、謝罪』


 ――気にするな。選んだのは俺だ。


 パリオン神の申し訳なさそうな思念に首を横に振る。


『多幸、未来、祝福』


 ――ああ、別れたリーン達が心配せずに済むくらい幸せになってみせるさ。


 俺の言葉に、幼女神が笑顔のイメージを送ってきた。

 そうさ、子供は笑顔じゃなくっちゃな!





「ここは――」


 気がつくと、俺は石畳の上に立っていた。


 ――神社の境内?


 そうだ! ここは召喚された時にいた神社だ。


「帰ってきたんだ……」


 階段を駆け下りる。


 俺は朱色の鳥居の作るアーチを抜けて、排ガス臭い道路へと飛び出した。


「きゃっ」


 横手から、女の子の悲鳴が聞こえた。

 俺が飛び出したせいで、驚かせてしまったようだ。


「悪い――(たちばな)!」

「――え? 真崎(まさき)君?」


 ロリ顔の幼馴染み――橘ユミリを見つけた俺は、そのまま華奢で幼い身体を抱き締めた。


「やっ、ちょ、ちょっと、ハヤトちゃん! こういうのはもっとロマンチックな場所でっ」


 慌てる幼馴染みの言葉に、俺は懐かしさで嗚咽を抑える事ができずに泣き出してしまった。


「何? どっか痛いの? ねぇ、ハヤトちゃんってば」

「ユミリ、ユミリ、俺は帰ってきた。帰ってこられたんだ」


 みっともなく泣く俺を、ユミリは困惑しつつも優しく抱き締めていてくれた。





「はい、ペカリ。好きでしょ」

「ああ、ありがとう。また、ペカリが飲める日が来るとは――」


 差し出されたスポーツドリンクを見て再び涙のこみ上げていた俺の顔に、ユミリがハンカチを押し付けてくる。

 さっき抱き締めてしまったせいか、ユミリの頬が赤い気がする。


「――あれ?」

「こんどは何よ」


 ユミリが訝しげに眉を寄せる。


「どうして、セーラー服なんだ?」


 こいつにコスプレ趣味はなかったはず。


「あんたねぇ! さっきまで(・・・・・)一緒に学校にいたでしょうがっ」


 ――さっき、だと?


 俺はユミリの瞳を見つめる。


「な、なによ」


 ユミリが身体の前で腕を交叉させてガードポーズを取る。

 挙動不審なくらい動揺しているが、俺がそれに気付いたのは家に帰った後だ。


 この時の俺には、もっと重要な事があった。


「今は何年の何月何日だ!」

「へっ?」


 戸惑うユミリの肩を掴んで問い掛ける。


「教えてくれ!」

「う、うん……2013年の3月3日、ついでに時間もいる? 12時15分よ」


 時間は覚えていないが、日付は間違いない。


 今日は(・・・)俺が(・・)召喚された日(・・・・・・)だ。


「時間魔法は存在しないはずなのに……」

「ちょっと、中二病は中学で卒業しなさいって言ったでしょ? またぶり返したの?」


 俺の呟きを聞き咎めたユミリが何か言っていたが、俺はそれに頓着せずに自分の顔をペタペタと触っていた。


「ほんと、大丈夫?」

「鏡! 鏡は無いか?」

「あるけど?」


 心配顔のユミリが差し出す鏡で、自分の顔を見る。


 ――高校生の時の俺だ。


「あれ? そういえばなんで背広なんて着ているの? アルバイトの面接?」

「話せば長くなるんだけど――」


 俺は幼女神のサプライズに、愉快な気分になりながら、ユミリに異世界での話をした。

 最初はまったく信じていなかったユミリだったが、俺が指の力だけで硬貨を四つ折りにして潰してみせたら納得してくれた。


 スキルは使えなくなっていたし、異世界勇者をやっていた時に比べたら筋力も悲しいくらいに下がっていたが、充分に常識外の力が残っていたので簡単に実演できたのだ。

 たぶんだけど、ちょっと訓練すれば超一流アスリートの仲間入りができる気がする。


「ふーん、大変だったんだねぇ。それで異世界に恋人とか妻子は残してきちゃったの?」


 言葉が軽い。

 どうやら、完全に信じてくれたわけでもないようだ。


 まあ、いいか。


 俺だって自分以外の誰かがこんな事を言っていたら一笑に付すだろう。


「いや、恋人も妻子もいない――」


 ――俺の心の中にはいつも。


 俺に見つめられたユミリが頬を染める。


 アリサ王女の事は黙っておこう。


「悪いユミリ、俺は家に帰って妹に『ただいま』の挨拶をしてこないといけないんだ」


 俺が真剣な顔で告げると、なぜか肩すかしをくらったようなユミリが、呆れ顔になって「バイバイ」と手を振った。


「うん、また明日」


 ユミリの何気ない挨拶に頬が緩む。


「ああ、また明日」

「じゃあね~」


 俺がそう返事をすると、ユミリが満足そうにしていた。





「一郎(にい)の友達?」


 サトゥーによく似た雰囲気の美女が、訝しげに俺を見つめる。


「はい、彼から託された手紙を届けにきました」

「あなた、おいくつ?」

「に――17歳です」


 危うく、異世界にいたときの年齢を答えかけた。


「なら、7歳の時に一郎兄と知り合ったの?」


 ――どういう意味だ?


「いえ、2年ほど前です」


 そう答えた瞬間、彼女の顔から表情が消えた。


「そう――」


 能面のような表情の美女が、「帰って」と言って玄関の奥に踵を返した。


「ま、待ってください。手紙だけでも」

「イタズラなら、どこか余所でやって――」


 冷たい声でそう告げられ、目の前でピシャリと玄関の扉が閉じられた。


「あら? うちに何かご用?」


 後ろから掛けられた声に振り返ると、サトゥーによく似た中年女性が買い物袋を片手に立っていた。


「鈴木一郎さんのお母さんですか?」

「ええ、そうですけれど?」


 俺は名乗った後、先ほどの彼女に告げたのと同じ事を彼女に話した。


「息子が10年前に行方不明になったのはご存じなかったのかしら?」

「10年前、ですか? 一応、名刺も預かっていたのですが――」


 俺はサトゥーから貰った名刺を彼女に差し出す。


「たぶん、人違いよ。あの子は大学在学中に行方不明になったの。どこにも勤めた事はないはずよ」


 彼女の話で、サトゥーが言っていた「世界が違うかもしれない」という言葉を思い出した。

 俺は彼女に騒がせた事を詫び、鈴木家をお暇した。


 鈴木家を離れてしばらくして、俺はさっきは気付かなかった違和感に思い当たった。


「――どうしてサトゥーの家族は、あいつが生きているかも、って考えなかったんだろう?」


 二人はサトゥーを嫌っている様子はなかった。

 にもかかわらず、彼女達はサトゥーが生存している可能性をまったく考慮していないような印象を受けた。

 もう一度、彼女達に話しに行くか少し迷ったが、なぜか(・・・)俺は近くのポストにサトゥーの手紙を投函するだけで家路についてしまっていたのだ。





「ハヤトにぃ、あにしてう?」


 3歳になったばかりの妹の愛香(あいか)が、つたない言葉で俺に話しかけてくる。


「犬小屋を作っているんだ」

「いう! いうかうお?」


 愛香が俺の背中によじ登りながら、嬉しそうに問い掛ける。


 今日も実に愛らしい。

 まさに天使だ。


「そうだな。飼うか」

「わーい」


 愛香が嬉しそうに、ぴょこんと飛び跳ねる。

 俺の背から転げ落ちそうになった愛香を素早く支えて、芝生の地面に下ろしてやった。


「いうのせにのうの!」

「そうかそうか。それじゃ、大きな犬を飼わないとな」

「あい!」


 犬の背に乗るプリティーな妹の写真がライブラリに増えそうだ。

 愛香はその後しばらく俺の犬小屋作りを見ていたが、途中でウトウトとし出したので、居間のソファーに寝かしつけてきた。


「――よし、完成」


 俺は最後に、「サトゥー」と書かれたネームプレートを犬小屋に打ち付ける。


 このネームプレートは鈴木家から送られてきた品だ。

 あの日の帰宅後に、サトゥーの実家へ失礼を詫びる手紙を出しておいたお陰だろう。


 彼の家族からの手紙にはサトゥーからの伝言が添えられていた。

 今一つ意味が分からないが、犬小屋を作ってこのネームプレートを貼ってくれという内容だった。


「まあ、あいつの願いだから、何か意味があるんだろうけどさ」


 俺は一つ伸びをしながら、独り言を呟いた。


 パンパンッと手を打ち合わせ、木屑や埃を払う。


「ハヤトちゃんいるー?」


 玄関先から幼馴染みの橘ユミリの声が聞こえてきた。


 この間の再会から、彼女は俺の事を「真崎君」ではなく、昔のように「ハヤトちゃん」と呼ぶようになった。

 学校では散々からかわれたが、なんだか失われた青春を取り戻せたようで嬉しかったので、からかわれるのに任せていたら、いつの間にかからかいも下火になっていた。


「いるぞー!」


 犬小屋を自慢してやろうと、庭からユミリに声を掛ける。


 その時、背後に気配が生じた。


「こんにちは、ハヤト様。お久しぶりです」


 振り返った俺の視界の先には、三十路手前くらいの男性が犬小屋から出てくるところだった。


「まさか、サトゥーか?」

「はい、お久しぶりです」


 雰囲気はそのままに歳を重ねた友人がそこにいた。

 どうやって世界を渡ったのか分からないが、サトゥーなら軽々とやってしまいそうだ。


「よく来てくれた。久々に会えて嬉しいよ」

「はい、私もです」


 俺にとっては数ヶ月ぶり程度だったが、サトゥーの方は10年ぶりくらいだろう。


「サトゥー、あの世界で何があったんだ――」


 オレは再会の抱擁を交わしながら、世界を渡って現れた友人の目的を尋ねた。





「ハ、ハヤトちゃん? お姉さん、びーえるはいけないと思うの!」


 再会の抱擁を交わす俺達を見たユミリが、頓珍漢な事を言い出した。


「ハヤトさんのお姉さんですか?」

「い、いえ、私は真崎君の幼馴染みでクラスメイトの橘ユミリです」


 サトゥーが如才なくユミリに話しかける。

 ユミリの名前を聞いたサトゥーが「橘?」と呟いていた。


「私は以前、ハヤトさんに大金の入った鞄を拾っていただいた事があるんです」

「鞄ですか?」

「ええ、そうです。あの鞄が見付からなかったら――」


 サトゥーは一流の詐欺師になれそうだ。

 あっという間に言いくるめられたユミリは、「大した用事じゃないから、明日学校で話すよ」と言って帰っていった。


「誤解が解けてよかったです」

「ああ、全くだ」


 俺は安堵の吐息を漏らしてから、改めてサトゥーに問い掛けた。


「それで、向こうの世界で何があったんだ?」


 ――もし、俺の力が必要なら、尽力は惜しまない。


「ちょっとアリサに頼まれて」

「マイハニーに――すまん」


 おっと、もうサトゥーの嫁さんになって子供もいる頃だ。


「いえ、呼び方はご自由に」


 サトゥーは相変わらず笑顔だ。

 なぜか、安物のインスタントコーヒーを妙に美味そうに飲んでいる。


「それで、どんな用事なんだ? 俺で力になれることならなんでも言ってくれ」

「それじゃ、近くのドラッグストアかスーパーまで案内していただけますか?」


 ――どらっぐすとあ?


「アリサがインスタント食品を食べたいと言っていたので、色々な種類を買い求めようと」


 ――はあ?


 開いた口が塞がらないとはこの事だ。

 まさか、神々でさえ軽々にできない世界間転移をしてきた目的が、インスタント食品の買い出しだったとは!


「お前は変わらないな……」


 オレは嘆息しつつ、友人の願いを叶える為に町を案内する。


「免許証なんて持っていたんだな」

「ええ、身分証明書がないと換金できませんからね」


 サトゥーは貴金属買い取りのお店で黄金の謎オブジェクトを売却して資金を用意していた。

 換金後、路地裏に入ったサトゥーが、見慣れた15歳くらいの姿へと変わる。


「こっちの世界だと幻影魔法は効果が短いですね」


 どうやら、向こうで15年経過していたのではなく、免許証の姿に合わせて老けた顔にしていただけのようだ。

 何箱分ものインスタント食品を買ったサトゥーは満足そうに、異世界に帰っていった。





 その後も、何ヶ月かに一度遊びに来るようになった。


 幼い姿に若返ったリーンを連れてきた時は驚いたが、今はユミリや愛香達と仲良くやっている。

 こちらの戸籍はサトゥーが用意していた。

 相変わらずのチート性能で、実に頼もしい。


「サトゥー、向こうはどうだ?」

「ええ、こっちの世界と同じく、とっても平和ですよ」


 庭で遊ぶ妹たちを眺めながら、サトゥーに問う。


「なあ、アレってお前が何かしたのか?」


 こっちに戻ってきた時にテレビを賑わせていた戦争や大災害が、サトゥーが遊びに来る度に減っていた。


 サトゥーはにっこりと笑って答えない。


 まったく、どの世界にいてもサトゥーはサトゥーのようだ。


※次回更新は 2/26(日) の予定です。


※2017/2/21 サトゥーの家族の反応、および犬小屋のネームプレートのあたりを少し修正しました。


※本編の展開によっては◆以後が変化するかもしれません。

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ISBN:978-4040757025



― 新着の感想 ―
今の世界にこそサトゥーが必要だ! ウクライナ、中東があまりにもきな臭い
[一言] サトゥーのチート具合が1話進む度にものすごい勢いで上昇しているw
[良い点] この話、エピローグみたいな味わい深さがあってとても良い。
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