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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十五章

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15-41.天罰(10)、終幕

※2017/1/22 誤字修正しました。

※2018/5/21 一部修正しました。


 サトゥーです。ハリウッドの単純明快な洋画が大好きです。深く考えるとツッコミ所が多いのですが、分かり易い苦難の連続の後のカタルシスがたまりません。やっぱりハッピーエンドが一番だと思うのです。





「ふう、これで津波はおおかた片付いたかな?」


 海王から少女二人を救い出し、狗頭の眷属という小島サイズのロック鳥「空王」や炎を帯びたティラノサウルスみたいな「炎王」を退治し、南洋を飛び回って津波を片付けた。


 途中で浮遊島を浮上させた古代のアンデッドや幽霊船団なんかも始末するはめになって大変だったよ。


 なんていうか、南海は魔境過ぎると思う。


 そんなボヤキを口にした時、視界内に一つの真っ赤なウィンドウがAR表示された。


 ――レッドアラート?


「げっ、マズイ!」


 オレはユニット配置で孤島宮殿へと戻る。


「ヒカル! ガニーカ侯爵領沖の後始末を頼む」

「うん、分かった――」


 オレは孤島宮殿で待機していたヒカルにそう告げて、空間魔法でイタチ帝国へと転移する。


 本当ならヒカルも外に出したくないが、今はアリサの方がヤバイ。

 ヒカルにはパリオン神だけじゃなく、彼女の祭神の「天之水花比売(あまのみずはなひめ)」の加護もあるから大丈夫だと信じたい。


 ゲートが開いた先では途中まで融解したアリサの杖艦が不時着しており、その周辺には獣娘達や魔王化したイタチ皇帝、青い光をまき散らして危ない感じの勇者メイコがいた。

 リュリュやリーングランデ嬢は遠くの大型飛空艇にいるようだ。


 上空を見上げると、七つの光の球が浮かんでいるのが見えた。

 表示が「UNKNOWN」となっているから、神か神の眷属のいずれかだろう。


 光の輪が極彩色に光る渦へと変わる。


 ――危機感知。


 アレはヤバイ。


 オレは手の届く範囲にいる者達へ「理力の手(マジック・ハンド)」を伸ばす。


 チリチリとした危機感知に背中を叩かれながらも、なんとか――掴んだ。


 ――マズイ。


 上空から何かが降ってくる。


 ――ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。


 オレは間一髪でユニット配置を叩く。


 上空から降ってきた白い光に触れる――寸前、なんとか発動が間に合った。





「ふう、久々に焦った」


 自陣の砂漠空間へと移動し、一息をつける。


 ――おっと、まだだ!


 続けてリュリュ達を救いに再転移を行う。


 ――LYURYURYUUU。


 オレを見つけた白竜が嬉しそうな声を上げて、ポチのように飛びついてくる。


 ――げっ。


 リュリュの背後、墜落した大型飛空艇の向こう側から白く光る津波が襲ってくるのが見えた。

 さっき、オレ達に降ってきたアレの余波だろう。


「おいおい、帝都の外どころか、ここは隣市との中間地点だぞ――」


 オレは呆れて呟きながら、リュリュと大型飛空艇を「理力の手(マジック・ハンド)」で掴んで、先ほどと同じ場所へと搬入した。


「ご主人様! 勇者の子を助けてあげてほしいのです」


 オレ達を見つけたポチが飛びついてきて懇願する。


 たしかに、口や目から青い光を噴出させながら暴走する勇者メイコは、破滅一歩手前に見える。

 オレは影魔法で素早く勇者メイコを縛り上げ、ポチにブラッドエリクサー改を手渡す。


「これを飲ませて様子を見てくれ」

「はいなのです!」


 これで治ればいいが、それで無理なら禁断の「神酒ネクター」を飲ませる必要がある。

 神酒ネクターは色々と問題が多いので人任せにできない。


 ただ、今は勇者メイコをこれ以上構っている訳にはいかない。


 勇者メイコよりも先に、さっきの白光津波を解決する必要がある。あっちは放置したら、教区やデジマ島まで呑み込みそうだからね。

 一度会っただけの知り合いよりも、大災害を解決する方が先だ。


「アリサ、変」


 半壊した杖艦のコクピットの上でタマが叫ぶのが聞こえた。

 オレは考えるよりも早く、杖主席へと閃駆で駆けつける。


 デジマ島へのユニット配置準備をキャンセルしてしまったが、この時のオレは気にも留めていなかった。


「アリサ! 大丈夫か!!」

「だいじょブ」


 兜のバイザーを閉じたままのアリサが、妙なアクセントで答えた。

 彼女の黄金鎧の隙間から、薄紫色の燐光が漏れている。


 ――魔王。


 アリサの称号にそんなのが増えていた。


 オレは死霊視、魔力視、瘴気視、精霊視を発動し、処理能力を少しでも上げる為にメニューを非表示に切り替える。


 無茶が過ぎるのか、目の奥が痛い。

 だが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。


 アリサのひび割れた魂の器から魔力が漏れ、その隙間を瘴気が広げている様子が見える。

 紫色の何かが器の間から溢れ出てきそうな感じだ。


 ――落ち着け、サトゥー。


 焦る心を必死に抑え込む。


「大丈夫だよ、アリサ。大丈夫だ」


 なかば自分に言い聞かせるように呟きながら、瘴気をほぐして剥がし、砕けた魂の器を優しく元の形へと戻していく。


「よし、あと少し――」


 マスターキーでアリサの黄金鎧を強制解放(パージ)する。


「見ないで」


 アリサが口元を両手で隠して、コクピットの座席で丸くなる。


「大丈夫、多少姿が変わったくらいで嫌いになんかならないよ」

「ほんと?」

「ああ、もちろんさ」


 オレはアリサに安心させるように呟いて、顔を上げさせる。


「これを飲んで。魂の器が元の形を保っている間に」

「うん、わかった」


 アリサに「神酒ネクター」を飲ませる。

 オレの手持ちの中では、これとブラッドエリクサー改の二つだけが、重篤な魂の破損を癒やせる。


 ただし、ブラッドエリクサー改で癒やせるのは一時的なものだ。

 ここまで魂が傷付いていると、最終的には「神酒ネクター」を飲ませないと破綻してしまうだろう。


「――ああ、ご主人様が入ってくる」


 こんな時でもアリサはアリサだ。

 戯れ言を聞き流し、魂の器が修復されていく様子を見守る。


 やがて、永遠にも感じる長い体感時間を経て、アリサの魂が元の形へと戻った。


「――ふう、良かった」

「ごめんなさい」


 オレは謝るアリサの頭を撫でる。

 十分反省しているようだし、お仕置きはアリサが無茶をした理由を聞いてから決めよう。


「もうあんな無茶はしないでくれよ?」

「うん、何があったか全部話す――」


 見つめ合うアリサとの中間地点に、再び緊急表示がAR表示された。


 そういえば、デジマ島や教区がピンチだったっけ。





「――間に合った」


 オレは生存者がいる中で、帝都に一番近い距離にあるデジマ島へとユニット配置で移動した。


 丁度、目の前でレテ市が白光津波に呑まれて消滅していくところだ。


 脳裏に、猫耳族の転生者から記憶消去のユニークスキルを使われた時の思い出が過ぎる。

 彼女達は他の転生者と一緒に保護してあるし、暇ができたら会いにいってみよう。


「さて、見てないで対処しないとね」


 オレは魔法一覧から上級土魔法「巨壁(グレート・ウォール)」を選ぶ。


「万里の長城ならぬ、ナナシ山脈出現って感じかな?」


 山よりも高い巨壁が何百キロメートルも隆起していく。

 結構ハデだけど、これでも「大陸防御コンティネント・ガード」よりはローコストで地味な魔法なんだよね。


「さて、サクサク続けていこう」


 オレは有視界ユニット配置で移動しながら、「巨壁(グレート・ウォール)」をつなげていく。

 途中で魔力が足りなくなったが、急速充填済みの聖剣が何本かできあがっていたので、そこから補充した。



「まさか北側が鼠人族領域まで届きそうになるとは思わなかったよ」


 おそらく、この天災級の白光津波が、本物の天罰だったに違いない。

 最初の都市単位での白塩化が使徒や一柱の神による天罰で、さっきのが七柱の神による大規模天罰だったのだろう。


 道理で聞く相手によって、微妙に天罰の条件が違ったはずだよ。





「ふむ、クレーターと渦巻き状の溝が凄いね」


 オレは空間魔法の「千里眼エクストラ・クレアボヤンス」で安全を確認してから、転移魔法でイタチ帝都跡へと移動した。


 神々は天罰を落として満足したのか、すでに帝都上空にその姿はない。


 トロールの魔王が封印されていた「真実の室」を、オレが保有する異界から元の場所へと復活させる。

 元の場所にはバカみたいに強固な結界を張っておいたので、バレていなかったはずだ。


 その結界も神々の天罰で消えてしまったらしい。

 おそらく結界そのものではなく、結界の基点にしていた岩盤が先に消えてしまったに違いない。


「あの空間の揺らぎはなんだろう?」


 視界の隅に、ちらちらと蜃気楼のようなモノが見えた。

 亜空間への避難カプセル的なものかな?


 それは割れていて、中には誰も生存者が――いた。


「生きているのが奇跡だね」


 塩に埋もれた顔見知りを引っ張り上げる。


 ――うわっ。


 下半身や片腕が塩となって崩れてしまっている。

 頭部と心臓なんかの最重要臓器が無事なのが奇跡だ。


 オレは固定化の魔法で彼女を包み、ユニット配置で孤島宮殿の研究所へと移動した。


「洗浄はなしでいいや」


 オレは呟きながら、宮殿騎士テンプル・ナイトのリートディルト嬢をナナ用の培養槽へと漬ける。


「末端の欠損ならともかく、臓器まで再生するのは無理かな?」


 さすがに「神酒ネクター」は危険すぎるので、ブラッドエリクサー改をドボドボと培養槽に流し込む。


 あとは培養槽の自動再生モードでなんとかなるだろう。





「勇者はどうなさいますか?」

「そうだね。勇者メイコ達はエチゴヤ商会で看病させよう。動けるようになったら、サガ帝国の大使に引き渡せばいいだろう」


 リーングランデ嬢は実家に戻した方が良さそうな気もするが、当分はエチゴヤ商会の客間で良いと思う。

 セーラに看病を頼んだので、すぐに元気になるはずだ。


 勇者メイコは「神酒ネクター」を飲ませたらなぜか血を吐いて危篤状態に陥りかけたので、ブラッドエリクサー改で暴走状態から引き戻すだけで治療を止めている。


 彼女の身体に浮き出ていた青いスジは、外科手段で除去後に上級魔法薬で癒やしておいた。


 ――少し後に知る事になるのだが、研究好きのベリウナン氏族やブライナン氏族のハイエルフ達に調べてもらったところ、結晶化した青液に近い成分だと分かった。

 以前、リザの「カマドウマの黒槍」に魔力を流しすぎて「魔槍ドウマ」へと進化したときも、槍の表面に魔液のような結晶が浮き上がった事があったので、それと同じような現象だったのだろう。


「これで天罰は終わりなのかしら?」

「うん、たぶんね。迷宮や各地の魔物の領域からの連鎖暴走(スタンピード)も終わったようだ」


 ヒカルの問いに首肯する。


 被災地のケアは各地の国家に任せようと思う。

 シガ国王経由で支援要請がくれば、大量に死蔵されている保存食や医薬品を放出する予定だ。





「ご主人様、ポチは悪い子なのです」


 一通りの作業が終わったところで、神妙な様子のポチが執務室に現れた。

 付き添いはリザとタマだ。


「罰を与えてほしいのです」

「ポチは何か悪い事をしたのかい?」

「ポチはご主人様に言わずに、勝手に持ち場を離れちゃったのです」


 言いつけを破ったのは事実だが、ポチに何かあったのに気付きながら、後回しにしたオレの方が責任は重い。

 夜遊び1ヶ月禁止くらいじゃ足りないから、ヒカル辺りに何か考えてもらおう。


 さて、自分の反省はともかく、今はポチの話だ。


「どうして、持ち場を離れたんだい?」

「小さい女の子に呼ばれたのです」


 ポチの説明だとよく分からなかったが、黄金鎧の戦闘記録器(バトル・レコーダー)の粗い画像を見た限りでは、絵の幼女になんとなく似た容姿の女の子が映っていた。


「名前は名乗っていたかい?」

「名乗らなかったのです。でも、ポチの事を『真の勇者』だって、言っていたのです」


 ふむ、その辺りの事を知るのはオレ達だけ――いや、「トロールの魔王」の書き出す石板にポチが勇者になった事は記されていた。

 ポチたちがネズミの魔王を倒した事も載っていたから、本物の神様以外だったとしてもイタチ帝国関係者なら知っていてもおかしくない。


 だが、まあパリオン神の方が可能性が高いだろう。


 セーリュー市からイタチ帝国帝都までゲートを開けるのは、大陸中でもオレとアリサを除けばハイエルフ達くらいのものだ。

 遠距離転移のユニークスキルを持つ転生者が突発的にシガ王国に現れたなら別だが、そんなイレギュラーな事態まで想定するのは疑心暗鬼が過ぎるだろう。


「それで?」

「女の子が『私の勇者が悪い魔王に殺されるから助けて』って言ったのです」


 なるほど、「私の勇者」か――時系列的にみても、「絵の幼女」ではありえない。

 ポチを嵌めた「パリオン神(仮)」と「絵の幼女」は別の存在と考えていいだろう。


 続けて、ポチからイタチ帝国であった事を色々と聞いた。


「では、ポチ隊員への罰を告げる」

「あい」


 オレの言葉にポチが居住まいを正す。


「報告無く持ち場を離れ、自身を危険に晒した罪は軽くない」

「あい」

「故に罰として肉抜き10日が相応しい」


 ポチの耳がペタンと伏せられ、その顔が下を向く。

 横にいたリザとタマも「肉抜き10日」という厳罰に、心胆を寒からしめるといった風に青くなっている。


「だが――」


 ポチの耳がピクリと動く。


「――女の子の命の危機を訴えられ、それを救うべくして飛び出した勇気と慈愛によって、肉抜き3日を減じる」


 ポチの顔が上を向いた。


「さらに、転移先で遭遇した魔王と無闇に戦うのではなく、ちゃんと善悪を判断してから交戦した慎重さを評価して、さらに肉抜き3日を減じる」


 ポチの耳が元の位置に戻る。


「そして、瀕死の重傷を負っていた勇者メイコやイタチ皇帝を癒やし、リーングランデ嬢を救った功績を讃えて、さらに肉抜き3日を減じる」


 ここで超有名魔法学院物語ならプラスまで転じるんだろうけど、完全に肯定するのもマズイ。


「だから、肉抜きの刑は今日だけだ。同じ事をしないように注意するんだよ」

「はいなのです! ポチはもっと色んな事を学びたいのです!」

「うんうん、偉いぞ、ポチ」


 ポチが戦闘と食、それから趣味の小説以外に興味を持ってくれた事が嬉しい。

 オレはポチの頭をぐりぐりと撫でる。


「タマも学ぶ~?」


 反対側からタマも抱きついて宣言したので、「タマも偉いぞ」と褒めてやる。

 さっそくポチに釣られて、タマも影響を受けたみたいだ。



※次回更新は 1/29(日) の予定です。



※2017/2/3 「絵の幼女」付近を少し分かり易く変更しました。

※2017/2/3 話の流れが前後してしまうので、ラストのアリサとの会話を15-43へ移動しました。

※2018/5/21 かつてエリクサーでシン少年を助けた事があったので、「魂の破損を癒やせる」の行を少し修正しました。

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