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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十五章

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15-37.天罰(6)、勇者メイコ

※メリークリスマス!


※2016/12/26 誤字修正しました。

※今回はサトゥー視点ではありません。

「まーったく、わざわざ片田舎までイタチの懲罰に出向いてきてやってんのに、その途中で神様が先に天罰落とすなんて、どーなってんのよ」


 サガ帝国の戦列砲艦の貴賓展望室では、勇者メイコ・カナメがぼやいていた。

 彼女の周りには乙女ゲームもかくや、という美形の騎士や神官達がはべっている。


 元々はイタチ帝国の帝都を攻め落とすべく編成された戦列砲艦七隻からなる打撃艦隊だったのだが、その途上で神による託宣があり、五隻がサガ帝国へと引き返してしまった。


「しかたありません、神の御心は我ら定命の者には計り知れないのです」

「ふんっ。ケータイみたいな『護符タリスマン』があるんだから、メールの一つも入れなさいってのよ。まったく長生きなくせにホーレンソーもできないんだから」


 勇者の不敬な発言に、イケメン神官が頬を引きつらせる。

 ちなみに、元の世界で中学生だった勇者は、「ホーレンソー」が報告・連絡・相談の略だとは知らない。なんとなくニュアンスで知っているだけだ。


「こんな乗り心地の悪い船じゃなくて、あの銀色の宇宙船みたいのに乗りたかったわ」

「申し訳ございません。警備の者達が不甲斐なかったばかりに、勇者様にはご迷惑をお掛けします」


 子犬系の美形文官が勇者に詫びる。


 勇者の御座船ともいうべき「次元潜行艦ジュールベルヌ」は、黒い上級魔族の襲撃で整備工房ごと半壊してしまったのだ。


「あんたのせいじゃないでしょ」


 謝る文官に向けて無造作に手をパタパタさせ、気にするなと告げる。


「天罰執行の確認なんて、随伴艦のおばさん達に押し付けたいわー」


 ぼやく勇者の無聊を慰める為、長耳族の青年がリュートで勇者の好きな曲を奏で始める。

 それが女性向けアイドル物アニメのオープニングだとは、勇者以外の誰も知らなかった。





「メリーエスト殿下、調査部隊が帰還いたしました」


 勇者の乗る戦列砲艦に随伴する別の戦列砲艦の貴賓室で、勇者ハヤトの従者をしていたメリーエスト皇女が艦長の報告を受けていた。


「さきほど発見した墜落飛空艇ですが――」


 艦長の報告に耳を傾けるメリーエスト皇女の眉間に皺が寄っていく。


「そう……今回も生存者はいなかったのね」

「はい、遺体が全て塩と化しておりましたので、遺体や遺品の回収もできませんでした」

「わかりました。下がっていいわ」

「失礼いたします」


 艦長が去ったのを確認し、メリーエスト皇女が重い吐息を漏らす。

 彼女達がイタチ帝国の領域に入ってから、墜落していた大型飛空艇の残骸や塩になった都市を幾つも見かけていた。


 そして、その全てに生存者が皆無だったのだ。


「飲みなさい、メリー」

「リーン」


 沈んだ顔の友人に、リーングランデが赤ワインの入ったグラスを差し出す。

 メリーエスト皇女が香りを楽しむ事もなく乱雑にグラスを傾け、渋く深みのある赤い液体を一気に飲み干す。


「高いワインなんだから、もう少し味わいなさい」

「――そうね」


 リーングランデが苦笑しながらそう窘めると、メリーエスト皇女の口元がようやく笑みの形を作った。


 しばしの休息の後、艦隊がイタチ帝国の帝都近傍へと到着したと報告があり、二人は艦橋へと向かった。





「白いわね……まだ雲の中にいるみたい」


 メリーエスト皇女が天罰によって白塩化した帝都を見下ろして、呆然とした様子で呟く。


「メリー! あれっ!」

「あれは魔王? それも沢山……」

「中央にいるのは何か分からないけど、魔王と戦っている。神の使徒かしら?」

「まるでハヤトがハルマゲドンって言っていた神と悪魔の最終戦争みたいだわ」


 黄色い巨人が紫色の光を帯びた魔王達と戦っている。

 たった一体で、勇者ハヤトや自分達が苦戦した魔王達と善戦する黄色い巨人に、メリーエスト皇女とリーングランデは畏怖にも似た感情を抱いた。


「殿下、進路はこのままでよろしいですか?」

「いいえ。このまま突っ込んでも、いたずらに勇者や戦列砲艦を失うだけ――」


 問い掛ける艦長に、メリーエスト皇女が首を横に振る。


「――引き返しなさい。神魔の戦いにわたし達が介入するのは不可能よ」


 人の身であの戦いに参加するのは自殺行為だと言外に告げる。


「メリー! 勇者の乗る旗艦が!」


 窓外を見ていたリーングランデが叫ぶ。


「勇者様の乗艦から発光信号! 『マオウミユ、ワレニツヅケ』です」

「――あのバカ!」


 通信士の報告に、リーングランデが悪態を吐く。

 勇者に対して極めて不敬な発言に同意しつつも、艦橋の人々は賢く沈黙を貫いた。


「メリー達はこのまま引き返して! あのバカは私が首に縄を付けて引き戻す」

「待ちなさい!」


 艦橋を飛び出そうとするリーングランデが扉の所で振り返る。


「メリー、シガ王国に向かって! 勇者ナナシやサトゥーと協力態勢を!」


 そう一方的に告げると、足音高く廊下を駆け抜け、非常ハッチから飛翔木馬に乗って飛び出した。


「パリオン神にタリスマンを返納していなければあの尻軽勇者を呼び戻せるのにっ」


 その愚痴は上空の風切り音に掻き消されて、誰の耳にも届かなかった。





 ――GRRWLLOMAOOOO!


 魔王の一体が咆哮し、ザイクーオン神に不可視の音波砲を叩き込む。

 上級風魔法の攻撃にも拘わらず、ザイクーオン神をよろめかせただけで、大したダメージを与えられなかったようだ。


 ――ZAZZZZZAYEEE。


 一方で神を包む黄色い光に触れた上級魔族達は、黒い靄に変じ腕や足を失った。

 あまりに一方的な戦いだったが、皇帝の与えた「幸運」の加護のお陰か、致命傷には至らず、自らの手足を再生させる。


 もっとも、それだけの力を持つ黄色い光も、魔王達を包む紫色の光を侵食する事はできないようだ。

 この場にはイタチの大魔王だけでなく、腕を剣にした狐人の魔王、下半身が蛸のような蛇頭の魔王、背中に翼を生やした虎人の魔王、雄牛の角を生やしたヒトガタの魔王の五体がいる。


 だが、魔王達はバラバラにザイクーオン神に挑み、連携が取れていない。

 大魔王の指示に従うのは剣魔王のみのようだ。


 ――ZAZZZZZAYEEE。


 神の黄色い光が瞬くと、複数の光の矢が生まれ、轟音を上げて魔王達を襲う。

 光の矢は魔王達の紫色の光さえ穿ったが、多くの魔王達は二本目以降の光の矢を避けてみせた。


 ――NWOLLWYWEEEEE!


 イタチの大魔王が叫び、淡い紫色の光が魔王達を包む。

 彼の使う「幸運」のユニークスキルだ。


 それに呼応して魔王達が己のユニークスキルを発動した。

 只でさえ個の力に優れた魔王達が、お互いのユニークスキルで更に強くなっていく。


 不意にイタチの大魔王が空を見上げた。


『無粋な……』


 そこには雲間を割って、サガ帝国の戦列砲艦が姿を現すところだった。

 どうやら、イタチの大魔王は未だに、イタチ皇帝だった頃の人格を維持しているようだ。


宮殿騎士団テンプル・ナイツに始末させろ。それでも突破されるようなら、お前が行け』

『――GWYお、御意DEゴザル』


 大魔王の命令に、剣魔王が頷く。

 彼女はユニークスキルの使いすぎで、自我が失われつつあるらしい。





「なんだってのよ!」


 爆音が響き渓流の木の葉のように揺れる艦内で、勇者メイコの怒声が轟く。

 今までと明らかに違う揺れに、勇者メイコの強気な態度に怯えが混じる。


「右舷魔力炉に被弾! 推力低下!」

「右舷に侵入者あり! イタチ帝国の宮殿騎士テンプル・ナイト達です!」


 艦橋の乗組員達が必死に報告を叫ぶ。


「サガ帝国の勇者に刃向かおうっていうのね」


 勇者メイコが自らの怯えを振り払うように獰猛な笑みを浮かべた。


「イタチのくせにナマイキだわ」


 両手で頬を叩いて気合いを入れた勇者メイコが立ち上がる。

 それにタイミングを合わせたかのように、艦橋の扉が外側から爆破された。


 四人の宮殿騎士テンプル・ナイト達が煙を突き破って艦橋へ突入してくる。


「ここは俺達に任せて!」

「メイコ様に良いところを見せないとね」


 勇者の従者達が魔剣を片手に、宮殿騎士テンプル・ナイト達を迎え撃つ。


 だが――持ちこたえたのは数合のみ。


 先頭に立つ四本腕の宮殿騎士テンプル・ナイトが手にする白い剣が、従者達の聖鎧や魔法の鎧を紙のように斬り裂いた。

 血を吐き動揺する従者達を、残りの宮殿騎士テンプル・ナイト達が聖剣や魔剣で蹂躙する。


「まったく、だらしないわね。格好いいのは顔だけなの?」


 奮闘する従士達の不甲斐なさに失望しながら、勇者メイコが青い聖光に包まれる。

 勇者メイコの持つユニークスキルが発動した証だ。


 第一のユニークスキル「無敵の機動あたることなし」はあらゆる攻撃を避ける。


「この勇者は回避系だ!」

「避けるだけの隙間なく弾幕を張れ!」


 サガ帝国内に内通者でもいたのか、勇者メイコのユニークスキルは宮殿騎士団テンプル・ナイツ側に知られているようだ。


 宮殿騎士テンプル・ナイト達が腰に下げた魔法道具を取り出し、一斉にサブマシンガンのような杖から火弾の雨を放った。


 勇者メイコが再び青い聖光に包まれる。


 第二のユニークスキル「先見の明さきよみ」は10秒先までの未来を高精度で予測する。


「無駄だ! 先読みしようと、どこにも逃げ場はない!」


 宮殿騎士テンプル・ナイトの一人が勝ち誇ったように叫ぶ。

 彼が目論んでいた通り、どこにも逃げられない重厚な弾幕だ。左舷にも隙間はない。


 第三のユニークスキル「無限武器庫はてなきつるぎ」が発動し、虚空から聖剣が現れる。

 それは先代勇者ハヤトの持っていた聖剣アロンダイトに酷似していた。


 聖剣で弾幕を斬り払うつもりか、と宮殿騎士テンプル・ナイトの脳裏に疑問が浮かぶ。


「勇者を舐めるなぁあああああああああ!」


 勇者メイコが裂帛の気合いで叫ぶ。

 火杖の火線が自分から勇者を避けるように軌道を変えた。


 勇者メイコのユニークスキル「無敵の機動あたることなし」による奇跡だろう。


「バカな!」

「メイコ・カナメ、それがアンタが負けた人間の名前よ」


 聖光の輝きに包まれた勇者メイコが、防御しようとした相手の聖剣ごと宮殿騎士テンプル・ナイトを真っ二つに斬り裂いた。


 彼女の最後のユニークスキル「最強の刀きれぬものなし」はあらゆるモノを斬り裂く。


 二人目と三人目の宮殿騎士テンプル・ナイトが相打ち覚悟で、手に持つ魔剣を勇者メイコに叩き込む。


「なん、だとっ?」

「バカな……」


 二人の魔剣はメイコの身体を素通りする。

 幻と入れ替わったのだという宮殿騎士テンプル・ナイト達の予想は裏切られ、彼らの身体に当たった勇者メイコの聖剣が二人を真っ二つに斬り裂いた。


 その剣先には僅かな迷いも慈悲もない。


「へー、やるじゃん」


 勇者メイコが感心したように呟く。


 三人目を斬り捨てたところで、初めて彼女の剣を受け止める者が出た。

 白い剣を持った四本腕の宮殿騎士テンプル・ナイトだ。


 数合を打ち合って満足したのか、一際勢いよく勇者メイコが聖剣を白い剣に叩き付ける。

 青と白の光が艦橋を満たし、澄んだ音を残して双方の剣が砕けた。


「聖剣を失った今、貴様に勝機はない」

「あんただって、ご自慢の白い剣が折れちゃったじゃない」


 宮殿騎士テンプル・ナイトが、足下に転がっていた同僚の聖剣と二本の魔剣を拾い上げる。


「竜牙粉ほどではないが、濃縮した竜血にも不条理は宿る」


 意味不明な言葉を漏らしながら、赤い血の入った瓶を傾け、手に持つ三本の剣に垂らした。


「ふーん。なら、こっちも」


 無限武器庫はてなきつるぎの虚空から、新しい聖剣の柄が現れる。

 今度の聖剣は勇者ナナシが持つ最強の聖剣エクスカリバーに酷似していた。


「倉庫からの射出機能がないなんて、タイマンだわ」


 ぼやく勇者の聖剣が三本の剣と交差する。

 赤と青の光が艦橋を染め、光が掠めた機材が砕けて飛び散っていく。


「レベルに差はないはずだ」


 宮殿騎士テンプル・ナイトの腕が一本減った。


「剣の技量とてこちらの方が数段上――」


 二本三本と減っていく。


「――なのにどうして?」


 片足を失って地面に転がった宮殿騎士テンプル・ナイトが、悔しそうに呟いた。


「魔王に与する悪人に、パリオン神の加護がある正義の味方が負けるわけないでしょ!」


 ――勇者とは不条理を体現する者だ。


 かつて、軍師トウヤが彼に言った言葉を思い出す。


「無念、ここまでか」


 軍師トウヤから与えられていた小型魔法爆雷のスイッチを入れる。

 そこに描かれた黄色地に黒の扇形が意味するモノを、彼は知らない。


「なっ、核兵器?」


 戦術核の閃光と共に戦列砲艦が消し飛ぶ。


 キノコ雲から一つの影が飛び出した。

 勇者メイコだ。


 あり得ないほどの大爆発を至近距離で受けながら、生存を果たしている。

 さすがに鎧は砕け、服も無残に破れているが、まだ乙女の尊厳を保てる程度には布面積が維持されていた。


「自爆オチなんてサイテー!」


 勇者メイコがぼやきながら、無限収納(インベントリ)から取り出した新しい飛翔靴で空中に立ち、ストックされていた魔法薬で傷を癒やす。


「つーか、痛すギ。死ぬかと思っタわ」


 普通の人類は戦術核を至近で受けたら死ぬ。


 たぶん、同じ攻撃を受けて無事なのはペンドラゴン子爵くらいのものだろう。

 彼を「普通の人類」枠に入れて良いのであれば、だが。


 勇者メイコはユニークスキル「無敵の機動あたることなし」を重ね掛けして難を逃れたようだ。

 呂律が回っていないのは恐怖の為か、上空の冷風の為か、それとも――。



「さてと、魔王でもサクサク倒してこようかシらね。雑魚いのを一匹でも倒しておケば『真の勇者』にランクアップして、二匹目以降も余裕のはズだし、あいつら(・・・・)との差を広げるにはそれがベストよね――」


 独白する彼女を無数の光弾が襲った。


「――来タわね」


 どうやら、第二ラウンドが始まるようだ。




◇◆◇ おまけ ◇◆◇



「――ガニーカ侯爵領沖で津波?」

「はい、南洋のララギ王国の支店から報告がありました」


 セーリュー市から孤島宮殿へと帰還したオレを待っていたのは、そんな緊急事態発生報告だった。

 このララギ王国は南洋最大の砂糖の産地であり、さらにサトウキビを餌にした絶品の牛を育てているので、是非とも守る必要がある。


 オレはユニット配置で、エチゴヤ商会ララギ王国の支店へ移動しようとメニューを開く。


 そんな時だ――。


「わわんわーわわん、わわんわーわわん、わんわんわわん」


 ――ポチ?


 ポチの黄金鎧に付けたラカ・クローンからの竜脈通信を受けて警報が鳴った。

 このボイスは緊急度2の軽いヤツのはず。


 命の危険がないなら、津波で滅亡しかけている国々を救う方が先だ。


「わーにんぐ~?」

「警報じゃん!」

「アリサ! ポチに何があったか調べてくれ!」

「おっけー!」


 オレはアリサにフォローが必要か確認するように頼み、ユニット配置を実行した。

 もしオレが行かないと危ない状況なら、アリサから「無限遠話(ワールド・フォン)」が届くはずだ。


 まずは津波を消す為に奔走しよう。


 派手すぎる「大陸防御コンティネント・ガード」の魔法は最後の手段だが、ポチが危なそうならためらいなく使おう。


 ちょっとばかり、周辺の竜脈が魔力欠乏を起こすから、無闇に使いたくないんだよね。


※次回更新は 1/1(日) の予定です。


※今年の更新はこれが最後です。

 読者の皆様、良いお年を~




※活動報告に「アニメ化、声優予想」というページを作りましたので、宜しかったらご覧下さい。

 声優好きの願望と妄想を炸裂させましょう!

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ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
[一言]  彼を「普通の人類」枠に入れて良いのであれば、だが。 さり気なく、地の文にもディスられて人外扱いされているペンドラゴン子爵……。 三大魔王を、禁呪は疎か上級魔法まで落として、欠損とか後遺症…
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