15-33.黄金騎士団出陣(1)
※2016/12/11 誤字修正しました。
※今回はサトゥー視点ではありません。
「おう、お前んとこももう上がりだか?」
「んだあ、ええ、エダマメが取れたから、あとでお裾分けしにいくだよ」
「わりいな。ヤクのチーズをウチのが燻製にしたのがあるから、ついでに持ってけ」
「そういつぁ楽しみだあ」
村人達が暢気な会話を交わす。
ここはシガ王国の霊峰フジサン山脈に連なるムーノ伯爵領の山々の一つ。
ムーノ伯爵領ブライトン太守が治める村の一つだ。
「こんど市までチーズを売りに行くだが、お前んとこも何か出すか?」
「干しイチジクでも売りに行くだか。太守夫人様が好きだって仰ってたおかげで高く売れるだよ」
「リナ様は太守様の奥方じゃないって話だぞ」
「そうだか? もう数年して成人したら嫁っ子に迎えるつもりじゃなかか?」
「器量よしだし、お隣の公爵様んとこの上級貴族のお嬢さんだって話だしな」
ブライトン市の太守は留守がちなため、リナ・エムリン子爵令嬢が代官として太守の仕事を代行している。
始めはお飾りだった代官職だが、今ではめきめきと才覚を現し、そのまま太守代理として問題なく治めることができるほどになっていた。
もっとも、太守であるペンドラゴン子爵に、ほとんど伝わっていないのが不憫である。
そんな暢気な彼らの日常を神の託宣が乱した。
滅多に姿を見せない魔物が、次々と村々を襲い始めたのだ。
だが、村人や家畜たちに被害はない。
「犬神様、ありがとうごぜぇやす」
「猫神様もありがとなぁ」
村を守るゴーレム達が、次々と襲い来る魔物達を始末し、祭りもかくやという焼き肉祭りが村々で開催された。
人々はゴーレム達を神と呼び、太守を大神と呼んで崇め祀る。
天罰による祈願を求めた神の意向から、この領地の人々はかけ離れていたようだ。
◇
「カリ――えーっと、クンフーキィイイイイイイイイック!」
白銀騎士クンフーの蹴撃が、ムーノ市を襲おうとしていた多頭蛇の胴にめり込む。
動きを止めた白銀騎士クンフーを四本の蛇頭が襲う。
度重なる特訓によって、彼女は「カリナキック」という本来の技名を封じる事に成功したようだ。
「しゃらくさい、ですわ!」
白銀騎士クンフーが胴から抜け出し、逆立ちの要領で開脚した蹴撃が蛇頭を薙ぎ払う。
千切れ飛んだ首の痕から、次の首が生えてきた。
「ポチやタマがいたら喜びそうですわ」
きっと「無限肉~?」「食べ放題なのです」と言って喜ぶに違いないと妄想する。
『白銀クンフー! 油断するな! 尻尾が来る』
猛毒を持つ尻尾が槍のように白銀騎士クンフーを襲うが、命中する直前に現れた鱗状の光の小片に阻止されて止まってしまう。
見る人が見れば、白銀騎士クンフーの正体がバレる所行だが、そもそもあまりに特徴的すぎる胸部装甲が既に身バレを促しているので、今更感はある。
「クンフー螺旋パンチ!」
青い光の渦が腕の周りに現れ、白銀騎士クンフーの拳が多頭蛇の胴を抉るたびに周囲の組織を再生不能なほど破壊していく。
やがて、巨大な多頭蛇も力尽き、ムーノ市の門前に屍をさらした。
彼女が倒した多頭蛇以外の魔物は、ムーノ伯爵領の軍隊が互角以上に戦っている。
部隊再編に尽力した領軍司令のゾトル士爵や副官のハウト士爵の指揮もさることながら、エチゴヤ商会から供与された魔力砲や改良型火杖銃、それに騎士達の持つ魔剣による装備のグレードアップのお陰もあるだろう。
「後は残敵掃討ですわね?」
そう呟く白銀騎士クンフーの前に、光船を小さくしたような小型次元潜行船が空間の狭間から現れた。
「お疲れ様です。白銀騎士クンフー様。次の戦場へ移動するので乗って下さい」
ハッチから顔を覗かせた小柄なパイロットが白銀騎士クンフーを促す。
パイロットは近未来テイストの飛行服を着たブラウニーだ。
◇
「お疲れ様です、カリナ様」
「あ、ありがとう、ですわ」
孤島宮殿のリビングで戦いの疲れを癒やしていた白銀騎士クンフー――カリナの前に彼女の想い人が甘い黄橙果実のジュースを出してくれた。
「ムーノ市はいかがでしたか?」
「え、ええ問題無く倒せましたわ」
サトゥーは視線を彼女の持つ装飾品に向ける。
『都市に大きな被害はない。少し強めの多頭蛇どもはカリナ殿が倒した。領域の主クラスのやつは見かけなかった』
そう答えたのは装飾品――「知性ある魔法道具」のラカだ。
ラカの主人であるカリナは、消費した糖分の補充を優先したようだ。
充分に食べ終わったところで、彼女の持っていた腕輪がぴるぴると鳴る。
「次の戦場に着いたようですわ」
「夕飯は色々と作りますから、遅れないように気を付けてくださいね」
「ええ、楽しみにしていますわ!」
意気揚々と出立するカリナの脳裏にあったのが、サトゥーではなく夕飯の料理だったのはご愛敬だろう。
まだまだ色恋沙汰は彼女の中で一番手に来られていないようだ。
◇
「魔物達よ! ここは行き止まりだと告げます!」
「流石はナナの姐さん!」
「違うと否定します。黄金騎士ホワイトと呼称する事を推奨します」
セリビーラの迷宮から溢れる魔物をたった一人で食い止めるのは黄金騎士ホワイトだ。
決してチームペンドラゴンのナナ・ナガサキではない。
「え、でも、あのしゃべり方はナナの姐さんじゃ?」
そう呟く探索者の横腹を仲間が肘打ちして止める。
「バカやろう。空気を読め! ――頑張れ! 黄金騎士ホワイト」
「まったくだ――すごいぞ! 黄金騎士ホワイト」
どうやら、そういう暗黙の了解が探索者達の間になされていたらしい。
そして、動きの止まった魔物に対して、探索者達の怒濤の攻撃が始まった。
そして、それを見下ろす西ギルドの尖塔の上――。
「ミーア様! 碧領方面から大型の魔物が山を越えてきます」
「むぅ、黄金騎士グリーン」
「すみません、ミーア様。いえ、黄金騎士グリーン様」
迷宮以外からの侵攻を確認していた小さな黄金騎士グリーンに、各種妖精族の少年達が南の山を指差して報告した。
「大変です。北の山にもナーガや彩土竜が!」
「むぅ、難問」
南の次は北らしい。
まさかの魔物達による挟撃に、妖精族の少年達が顔面を蒼白にして怯える。
「ん、決定――」
眼下では彼女の同僚が自重無しの防御機能を披露しているので、自分も公開しても構わないと考えて、黄金騎士グリーンが精霊創造補助用の機能を発動する。
「――起動、『妖精の丘』」
黄金騎士グリーンを中心に虹色の精霊光が解き放たれる。
それは彼女の想い人の発する精霊光と同じモノだった。
「精霊充実。■■■■■■……」
満足そうに微笑んだ黄金騎士グリーンが詠唱を始める。
それは精霊魔法の秘奥義――ハイエルフ以外には使える者も限られた精霊創造の詠唱だった。
精霊視スキルを持つ者がその光景を見たら涙したかもしれない。
それほど、美しい精霊光と精霊達の輪舞が尖塔を彩っていた。
「…… ■ ■ 魔竜王創造」
光で編まれたようなティアマットが天空を舞う。
「魔物殲滅」
黄金騎士グリーンが指示すると、空を旋回していたティアマットから、二度のブレスが放たれ、遠くの峠ごと魔物達を消滅させた。
あまりの馬鹿げた威力に、兜の内側で少女の頬に冷や汗がたらりと流れる。
「おーばーきる?」
黄金騎士グリーンは地上で使うのは止めようと心に決め、早々にティアマットを送還してしまう。
地上での激戦は続いているが、自分の出番は当分ないと判断した黄金騎士グリーンは、ハチミツ味の魔力回復薬を飲み干した後、戦意向上の曲をリュートで奏で始めた。
勇壮な曲に励まされ、探索者達や迷宮方面軍の兵士達は果敢に魔物達へと立ち向かっていく。
◇
「平和ですね」
「は、はひ、ルル様」
「ソウデスネー」
黄金騎士ブラックこと、ルル・ワタリが平和な町並みや再生迷宮の入り口を見下ろす。
なぜか随伴するブラウニー達が挙動不審だ。
「エ、エチゴヤの支社にも確認を取りましたが、迷宮内から魔物が現れる兆候はないようです」
「もともと魔物が枯渇気味だったそうなので、再生迷宮よりも近くの魔物の領域の方を警戒した方がいいかもしれませんね」
飛空艇で一緒に来たブラウニー達が、ルルに並んで収集したばかりの情報を開示する。
「魔物さんもあまり来ないですね」
しばしの沈黙が場を支配した。
どうしたのかと、ルルが可愛く小首を傾げる。
お互いに目配せし合っていたブラウニーの一人が、意を決したように口を開いた。
「いやいやいや、それは視界に入るなり、ルル様が狙撃しているからですってば!」
先程から、ルルは山陰から姿を見せたワイバーンや蛇竜を、気負いなく狙撃用加速銃でサクサク倒していた。
あまりに自然体であっさり倒すので誤解しそうになるが、有り体に言って神業の類いである。
なんと言っても、20体も載せてきた素材回収用のガーゴイルが足りなくなるほどのハイペースだ。
しばし黙考していたルルだったが、今一つ問題点が分からず、先ほどと同じ言葉を繰り返した。
「平和ですね」
「エエ、ソウデスネ」
少しくらい、ブラウニー達の口調がぎこちなくても、きっと仕方のない事だろう。
◇
「お茶会のお誘い?」
「ええ、メルティナ様やボンテーニュ様からのお約束までもうあまり時間がありません」
システィーナ王女が孤島宮殿からシガ王国王都にある私室から出ると、ほっとした顔の女官に捕まった。
少し思案して、システィーナ王女は自分が異母姉や第二王妃から、お茶会に招きたいと誘いを受けていたことを思い出した。
いつもなら必ず断るお茶会の誘いに、なぜ自分が承諾したのか悩んだシスティーナ王女だったが、希少な魔法書の鑑定を理由に誘われて断り切れなかったのだと思い出した。
着替えを問う女官に、このままで構わないと告げてお茶会のサロンへとスタスタと歩き出す。
そんなシスティーナ王女を、女官や侍女達が慌てて追いかけていった。
「システィーナ様、ペンドラゴン卿はまだお戻りにならないのかしら?」
「ええ、残念ながら、砂糖航路の国々を回ってからお戻りになられるそうですわ」
予想通りの質問に、システィーナ王女は用意しておいた答えを返す。
「変わった魔法書ですのね? これは古代語かしら?」
「ええ、そのようですね。博識なペンドラゴン卿なら読めるのではないかしら?」
システィーナ王女は「神代語すら読み解くサトゥーなら確実に読める」と確信しつつも、「さあ、どうかしら? 一度見せてみない事にはわかりませんわ」とお茶を濁した。
読めないまでも、タイトルの文字だけを絵として暗記し、後で確認してみようと心に決める。
「魔王殺しだなんて、王祖ヤマト様に次ぐ功績ですわ」
「ええ、勇者ハヤト様の従者達のようなパリオン神の加護や護符もなしに、偉業をこなしたのですもの」
「システィーナ様も、素晴らしい殿方を射止められましたわね」
ペンドラゴン卿との婚約を聞いた彼女達が、「成り上がりの子爵に下賜される行き遅れ」と陰で嘲笑していた事は完全に棚に上げ、羨ましそうにシスティーナ王女を妬む。
「そのドレスもペンドラゴン卿に贈られたのかしら?」
「素敵ね、翡翠絹に似ているけれど、もっとしなやかで、それに――もっと神秘的な光沢だわ」
「まるで……お伽噺に出てくる妖精絹のよう」
システィーナ王女のドレスは、お伽噺にしか出てこない妖精絹を、森の妖精エルフ達や家妖精のブラウニー達が丹精込めて仕立てた逸品だ。
いかなる権力があろうと、国を買えるほどの財貨があろうと決して手に入らない。
ねっとりと見つめる王妃や王女達の視線が不快になってきた頃、忠臣山脈から魔物の群れが現れたという凶報が入った。
これ幸いとお茶会から脱出できたものの、残念ながら彼女の出番はなかった。
それらの魔物は彼女のゴーレム軍団が手を下すまでもなく、エチゴヤ商会経由で情報を受けたリザとタマ――黄金騎士オレンジと黄金騎士ピンクの二人に撃滅されていたのだ。
現場には人の手によるモノとは思えないほどの破壊痕と、おびただしい血の海が残されていたらしい。
不思議な事に魔物達の死骸はただの一体も残っていなかったそうだ。
斥候達からの報告を偵察用ドローン・ゴーレムで受けたシスティーナ王女は、今日の肉料理は素材を確認してから食べよう、と心に決めた。
◇
「セーラ、具合が悪いの?」
「巫女長――いえ、リリー様。なんでもありません」
公都のテニオン神殿にある聖域で、二人は向かい合っていた。
静謐な聖域にいると、それだけで心が優しく癒えていく。
だが、彼女の想い人が教えてくれた話だと、ここでの会話はテニオン神に筒抜けになる可能性が高いそうだ。
ここでは迂闊な話ができない。
「神々は人に何を望んでいるのでしょうか」
故に彼女が紡げる言葉は無難な内容となる。
『神が望むのは、人々の敬虔な祈り、幸せな日々への感謝――でも、人はそんな些細な事も忘れてしまう』
「リリー様――」
突然語り出したリリーに声を掛けようとしたセーラだったが、すぐにその言葉が、リリーを通したテニオン神の言葉だと悟って口をつぐんだ。
『そして、より豊かな日々を求め、他者を妬み、最後には自らの欲望の奴隷となる』
リリーから神威ともいうべき神々しさを感じ、セーラはともすれば畏怖に変わりそうな畏敬の念に、瞬き一つできなかった。
『禁忌がなにゆえ禁忌なのか。人々を愛する神がなにゆえ無慈悲な行いをするのか。愛しき巫女よ、優しき娘よ、自らの心に問いかけ、答えを求めよ』
やがて、聖域を満たしていた神威が去り、金縛りのように動かせなかった身体が、自分の意思通りに動くようになる。
「テニオン様――」
気を失い脱力するリリーを抱き寄せ、自らの悩みに指針を与えてくれた神に、セーラは深い感謝の念を抱いた。
※新刊発売前カウントダウン更新中です。
12/10(土) 15-34.黄金騎士団出陣(2)、セーリュー市の少年騎士
12/11(日) 15-35.黄金騎士団出陣(3)、小さな勇者
(タイトルはあくまで仮のものです。予告無く変更になる場合があります。12/10の更新時間は正午の予定なのでご注意ください)
今回のお話は少し駆け足風味だったので、活躍の少なかったキャラの内、誰か一人か二人のお話を幕間でやろうかと思います。
※完全書き下ろしの新刊、「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」第九巻の公式発売日まで、あと1日!
早売りのお店や専門店ではもう発売されていました。
(電子版は公式発売日までお待ち下さい)
※活動報告に12/10(土)発売予定の新刊の見所や書影を掲載しているので、ご興味のある方もない方も是非ご覧下さい。
新刊に関する書き込みは帯も含めて「デスマ9巻の感想(ネタバレok)」にお願いします。







