15-31.黄金騎士団出陣、準備(1)
※2016/12/4 誤字修正しました。
※2016/12/4 一部修正しました。
サトゥーです。冒頭に「これは●●です」と作品名を断っているマンガを見たことがあります。あれは注釈を書いておかないと、別の作品だと誤解する人がいるからなんでしょうか?
◇
「ご主人様、凄く激しいの! このままじゃ、壊れちゃう」
オレの腰に細い足を絡みつかせ、豊満な双丘をオレの顔に押し付ける。
「コ、コア・ツー」
「ご主人様、ご主人様、ご主人様」
狂おしいまでにオレを求めるコア・ツーの背を優しく撫でる。
「「「ぎるてぃ」」」
アリサとミーアがオレからコア・ツーを引き離す。
「ご主人様、ご主人様、ご主人様」
ヒカルとルルに羽交い締めにされながらも、コア・ツーが必死にオレを求めて手を伸ばす。
オレは困惑気味にそれを見つめ返す。
ユニット配置で孤島宮殿に到着するなり、コア・ツーの激しい抱擁を受けたので、彼女がどうしてこんなにオレを求めているのかが分からないのだ。
「どうした、コア・ツー?」
「ご主人様、ご主人様、ご主人様」
有意な答えが返ってこないので、オレは彼女の手を握ってやりながら、仲間達に現状を教えてもらう事にした。
「どういう事か分かるか?」
「さあ? ブラウニー達から、コア・ツーの様子がおかしいって言われて海釣り大会を中止して集まったばかりだから、よくわかんないわ」
「デジマ島のダンジョンで何か起こったんじゃない?」
アリサに続いて、ヒカルがもっともな意見をくれた。
「そうだね、ちょっと見てくるよ」
オレはユニット配置で、デジマ島の迷宮にある『迷宮の主の部屋』へと移動する。
「――なんだ?」
迷宮核が激しく明滅し、部屋の中を赤や青に染めている。
「現状を報告しろ!」
『ご主人様、何者、かが』
帰ってきたコアの言葉は、途切れ途切れで聞き取りにくい。
『外部から、わ、私に、か、介入して、います』
どうやら、ダンジョンがハッキングのようなモノを受けているらしい。
コアがホログラム表示してくれているウィンドウには、現在の迷宮の情報が表示されている。
「魔物が迷宮の外にスタンピードしようとしているのか」
表示されている情報から、オレはそう推測する。
「たいへん~?」
「これはぴんちでぺんちなのです」
聞き覚えのある声の方に視線を向けると、オレの影からこちらを見上げるタマとポチの姿があった。
オレと目が合うと、「見付かっちゃった」みたいな顔でにへりと微笑んで、目元まで影に沈む。
どうやら、タマの影渡りで一緒についてきたようだ。
――そうだ。
「タマ隊員、ポチ隊員! 緊急ミッションだ!」
「あい!」
「なのです!」
オレがそう告げると、影から飛び出てきた二人がシュピッのポーズで指令を待つ。
「迷宮の入り口から溢れる魔物を殲滅せよ!」
「あいあいさ~?」
「らじゃなのです」
オレは迷宮の近くにある祠に、二人をユニット配置する。
迷宮と迷宮島はオレの支配領域なので、移動も簡単だ。
よし、これで魔物の方は大丈夫。
『ご主人、様、し、支援、を、ををを』
「分かった」
オレは迷宮核に触って、コアの意識と直接接続する。
『<<<従え>>>――マスターの命令に反します』
何者かの意思とせめぎ合うコアの様子が流れ込んでくる。
意識内では「ご主人様」ではなく「マスター」らしい。
『<<<従え>>><<<天意>>><<<従え>>>――し、従えま、せん』
たしかに、コア・ツーの言うように、迷宮核に多大な負荷がかかっているようだ。
「コア、オレに外部接続してくる者を回せ」
『<<<従え>>><<上位>>><<<従え>>>――イエス・マスター』
軽い頭痛のようなモノを感じた後に、先ほどの偉そうな声がダイレクトに脳に届くようになった。
視界の一角に「上位者より要請がなされています。従いますか?」と文字のついたYES/NO選択画面が出る。
もちろん「NO」だが、まだ選択しない。
何かのマンガかアニメで言っていた――。
『ハッキングしていいのは、ハッキングされる覚悟のあるヤツだけだ』
――って、ね。
ちょっと違ったかもしれないが、概ねそんな感じの言葉だったと思う。
オレは竜脈に浮かぶ魔素の微かな流れを遡る。
かなり遠い。
いくつもの魔力溜まり、瘴気窟、源泉を経由し、さらにその先から流れてきている。
まるで、いくつものネットワーク・サーバーを経由して攻撃を仕掛けてくる電脳犯罪者のようだ。
『<<<不遜>>><<<従え>>><<<禁忌>>>』
逆探知されているのを感じたのか、干渉元から脅すような意思が流れ込んでくる。
マキワ王国で聞いた神の託宣と似た印象を受ける。
不遜な言い方をすれば「神臭い」感じだ。
「うっとうしい」
脳裏でざわつく不快なノイズをその一言で払拭し、クリアになった思考で追跡を再開する。
――セリビーラの迷宮?
いや、まだ先がある。
オレはその先に追跡の手を――。
◇
「逃げられたか」
唐突に回線が途切れた。
追いかけていた痕跡がそこで完全に消え去っている。
経由地に使っていた竜脈か源泉を物理的に消し去ったのだろう。
『マスター、ご尽力に感謝いたします』
「いや、このくらい大した事じゃないよ」
この分だと、他の迷宮でもスタンピードを強制されている可能性が高い。
「コア、迷宮の主権限で、竜脈との接続を解除。オレが許可するまで再接続を禁止する」
『接続を遮断しました。魔素が尽きるまで、16日です』
ふむ、拒絶されるかと思ったけど、コアは予想以上に従順なようだ。
「魔素が尽きるとどうなる?」
『迷宮核は休眠状態に移行し、すべての迷宮活動を停止します。これには火山活動抑制も含まれます』
そういえば、ここの迷宮はそんな事もしていたっけ。
『火山活動抑制を中断すれば721日まで延長可能です。火山活動抑制を中断しますか?』
「いや、中断しない」
ここの火山活動が再開したら、迷宮島は人が住めなくなるだろうし、近くにあるデジマ島の農作物や湾内の漁業に大きく影響が出るはずだ。
オレは少し思案する――。
「空間魔法で別の場所から魔素を持ってくる。ちょっと濃くて勢いが強いが我慢してくれ」
『イエス・マスター』
頼むから、無機物のくせに恥じらいを思念に混ぜるのは止めてほしい。
虚空にある属性石精製工場で集束している魔素の流れを、空間魔法で接続し、一気に「迷宮核」へと流し込む。
『マスター、凄いぃ、マスター、マスター、もっと優しく、マスター、壊れます、マスター』
艶っぽい思念で懇願するコアの声を聞くと、コアとコア・ツーは同じ個性を持っているんだと納得できてしまう。
少し嗜虐心を掻き立てられる声だったが、意地悪してもかわいそうなので、勢いを半分くらいに抑えてやる。
ついでに、供給を忘れていた魔力貯留用聖剣へのチャージも行う。
魔力圧が低い代わりに魔素量がたっぷりなので、100本ほど並べて同時にチャージしていこう。
自分の手で供給していた頃よりはだいぶ楽になった。
もっとも、そのせいでチャージするのを忘れていたりするんだけどさ。
「おわった~?」
「ミッション完了なのです」
魔力チャージを始めてすぐくらいに、タマとポチが戻ってきた。
「お肉少なめ~?」
「ここの魔物はカナノモばかりで嬉しくないのです」
カナノモ? 金物の事かな?
確かに、ゴーレム系や非実体系が多いから、食料にできる種類は少ない。
「ひとかげ~?」
「ポチは迷宮ワニを獲ってきたのです」
部屋が狭くなるほどの魔物を床に並べ、タマとポチが「褒めて」と言いたそうな顔でこちらを見上げてくる。
「大きな獲物だね。今日のお昼ご飯は迷宮ワニと火蜥蜴のハンバーグでも作ろうか?」
「ぐれいと~?」
「すごくすごく嬉しいのです!」
二人の頭を撫でながら、そう提案すると、二人は飛び上がって喜ぶ。
ここのチャージは放置していても良いように、空間魔法によるチャージの切断はコアからできる設定にしておく。
「コア、魔力を必要なだけ充填できたら切断しておけ」
『は、はい、マスター、ああ、マスター、はぁはぁ、マスター』
なんだか、コアの返事が艶っぽい。
「魔力が半分まで減った時点で、コア・ツーを通して連絡するのを忘れるな」
『イエス・マスターぁあ』
本当に大丈夫だろうか……。
念の為、セーフティー用の術式を設定しておこう。
なんだか、壊れるまで魔力をチャージしそうな危うさがあるんだよね。
◇
「おかえり、サトゥー」
「公都のセーラから、帰還要請がきてたわよ」
孤島宮殿から戻ると、微妙な顔の仲間達がオレを出迎えてくれた。
アリサは床のオブジェから目を逸らすように、事務的に報告してくれる。
ルルやリザは顔が赤い。
システィーナ王女に至っては、真っ赤な顔で目を回している。
たぶん、床のオブジェこと、事後のような表情で浅い息をするコア・ツーの痴態を見てしまったからだろう。
迷宮核と接続していて、向こうの感覚をダイレクトに受信してしまったに違いない。
魔王シズカは女性のこんな姿も守備範囲なのか、少しだらしなく口元が緩んでいた。
変な嗜好が仲間達に向かない事を祈りたい。
「むぅ?」
よく分かっていない顔で、コア・ツーを介抱していたミーアの頭を撫でて、コア・ツー以外をリビングルームへと連れていく。
コア・ツーの介抱は経験豊富な既婚ブラウニー達に任せよう。
「向こうはどうだったの?」
「待って、その前にセーラさん達をこちらに呼び戻すよ」
オレはセーラに確認してから、公都派遣組の三人をユニット配置で呼び戻した。
「ただいま、戻りました」
「お疲れ様」
オレは三人がソファーに腰掛けるのを待って、話を進める。
「先に報告を聞かせて下さい」
「はい、先に結論を申します。神々は『イタチ帝国に神罰を与え、周辺諸国にはイタチ帝国の監視を怠った罪――」
セーラの「監視を怠った罪」というところで、アリサやヒカルからブーイングが出た。
オレも同感だが、話が進まないので黙らせる。
「――に対する懲罰を与える』との事です。更に懲罰の内容を伺ったところ、『魔物を一つ所に抑える加護の効力を失わせる』という神託が返ってきました」
「『魔物を一つ所に抑える加護』とは何かと問います」
オレと同じ疑問を感じたナナが代わりに質問してくれた。
「魔物の領域や迷宮の奥から魔物が出てこないように、神の威光で封じ込める加護です」
「それって、加護なの?」
「はい、一般にはあまり知られていませんが、神殿ではそのように教わりました」
アリサの問いにセーラが聖職者の顔で答える。
「魔物が各々の領域や迷宮から出てこないのは、瘴気濃度が理由ではありませんの?」
「うん、私の時代の学者さんも、そんな論文を出してたよ」
システィーナ王女とヒカルが、神殿の常識に異を唱える。
「そ、そんなはずは――」
教義的なモノを否定されて、セーラが咄嗟に反論しようと立ち上がる。
「落ち着いて、セーラさん。セーラさんが嘘を言っているとは思っていませんよ」
「サトゥーさん」
セーラを落ち着かせて着席させる。
「強い魔物が瘴気が濃い場所を好むのは確かだと、オレも思う。でも、瘴気の濃さで言えば、人口密集地帯やスラム、墓場なんかも充分に濃い」
瘴気視スキルを得てから知った事だが、たまに迷宮内のように淀んだ場所があるくらいだ。
「墓場にはアンデッドが湧く事もあるから一概に言えないけど、瘴気の濃い場所と魔物のいる場所は、必ずしもイコールで結べない」
オレは皆が言葉を咀嚼するまで待ってから、話を続ける。
難しい話で眠そうなタマ、ポチ、カリナ嬢の三人は除いて、他の子達はちゃんと理解してくれたようだ。
「つまり、魔物達を迷宮や魔力溜まりに引き寄せる力は存在すると思う」
神の加護かどうかという議論は別として――。
「そして、神々がその力をなんらかの手段で消したのなら、各地でスタンピードが発生する可能性が高い」
――各地でスタンピードが起こるのは確実だろう。
ただし、ダンジョンコアをハッキングして、スタンピードを促したのが神々かどうかは確定していない。
すごくグレーではあるけどね。
「大変!」
「なのです!」
スタンピードという単語にタマとポチが反応し、ソファーの上に立ち上がる。
リザの「お口チャック」のジェスチャーを受けて、二人が同じアクションをしてから、静かにソファーに座り直した。
なぜか膝を抱えて丸まる「貝のポーズ」付きだ。
「当然、黄金騎士団も出動するのよね?」
「もちろんだ」
「よっしゃー!」
アリサの質問に即答すると、さっきのタマとポチのように椅子の上に立ち上がって、天に向けて拳を振り上げた。
「――アリサ」
「ちゃうねん」
悲しい目をするルルの視線に負けたアリサが、タマとポチの横で貝のポーズで反省を表した。
なんとなく、カリナ嬢が一緒にやりたそうにしているが、妙齢の淑女がする事ではないので、自重してほしい。
「さて、黄金騎士団の派遣の前に、オレが見てきたイタチ帝国の話をしておこうと思う」
オレがそう口火を切ると、皆が真剣な顔になって居住まいを正した。
もちろん、貝になっていた三人もね。
※次回より4話連続で、新刊発売前カウントダウン更新になる予定です。
12/8 (木) 15-32.黄金騎士団出陣、準備(2)
12/9 (金) 15-33.黄金騎士団出陣(1)
12/10(土) 15-34.黄金騎士団出陣(2)、セーリュー市の少年騎士
12/11(日) 15-35.黄金騎士団出陣(3)、小さな勇者
(タイトルはあくまで仮のものです。予告無く変更になる場合があります。12/8~10の更新時間は正午の予定なのでご注意ください)
※活動報告に12/10(土)発売予定の新刊の見所や書影を掲載しているので、ご興味のある方もない方も是非ご覧下さい。
新刊に関する書き込みは「デスマ9巻の感想(ネタバレok)」にお願いします。
※2016/12/4 「神の加護かどうかという議論は別として」の辺りを少し加筆しました。







