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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十五章

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15-28.天罰(2)、カガクの力

※2016/11/13 誤字修正しました。


※今回は三人称視点です。サトゥーの出番はありません。

 <<<傾聴せよ>>>


 威圧感のある声が空から降ってくる。


「ついに始まったな」

「うむ、予想より早い」


 皇帝が指を組んだ手の上に顎を載せる。

 脂肪によろわれた身体では自前の手では届かないのか、女官達の手で代行していた。


 更に、なぜか妙に光を反射する丸いレンズのメガネを鼻の上に載せている。


 どこかで見たポーズだ、と考えた軍師トウヤが眉間に皺を寄せる。

 どうやら、思い当たったらしい。


「お遊びが過ぎるぞ」


 軍師トウヤは思う。


 転生者の魂の器の大きさとは、業の深さなのではないかと。


「そう目くじらを立てるな」


 皇帝が手摺りに置いた手を小さく振って話を終わらせ、謁見の間を見回す。


 ここには神の威光が届かないらしく、謁見の間にいる大臣達に不安は垣間見えつつも、大地にひれ伏すような様子はない。


「古代王国が残した耐神結界はなかなか優秀のようだ」

「これで遺跡探索で犠牲になった者達も報われるだろう」


 皇帝の言葉に軍師トウヤが頷く。

 海底に沈むという古代魔法帝国の遺跡は見つけられなかったものの、大陸西方の砂漠地帯にあった古代王国の地下遺跡で手に入れた秘宝(アーティファクト)は十分な能力を発揮した。


「クロ――いや、勇者ナナシは?」

「『識者』カナに探させたが、従者を残してどこかへ消えた。従者達の身柄を押さえる為に宮殿騎士テンプル・ナイトの小隊を一つ送ってある」


 帝国の常識であれば、たった二人の従者を捕縛するには過剰な戦力にも拘わらず、皇帝は当然といった顔で「そうか」と頷くだけだった。


「神託にあわせてか……やはり(・・・)あの者(・・・)は――」

「ああ、恐らくそう(・・)だろう」


 憂い顔の皇帝の言葉を、軍師トウヤが途中で受け取った。

 皇帝の言葉を遮る不敬を咎める者はこの場にはいない。


 大臣達の多くは空から見える薄明光線を見上げている。


「クリパスキュラーレイズか」

「あれだけの景色はそう見えぬ。もっと雅に天使の梯子とでも言え」


 軍師トウヤの言葉を皇帝が咎めた。


「その表現は適切ではあるが、縁起でもない」


 薄明光線の一つを指差して、軍師トウヤが告げる。


「見ろ、天使――いや、神の使徒のお出ましだ」

「あれが使徒か……翼もなければ人の姿でもない」


 銀色の円錐という姿をした使徒が、薄明光線の中を静かに降りてくる。

 降下場所は帝都ではなく、その外側にあるカガク兵器工場付近のようだ。


「天使の輪はあるようだな」


 円錐の頂点付近に、無限記号のような形の明滅する金色の光の輪がある。


「ではこちらも始めようか?」

「許可する。神を名乗る搾取者どもを始末しろ」


 皇帝の勅命に、軍師トウヤは錫杖を掲げ、将軍や大臣達に指示を伝える。


「将軍、カガク特車隊およびカガク飛行隊を円錐迎撃に向かわせろ」

「承知した!」


 やる気に満ちたイタチ人族の将軍が、胸に付けた勲章を揺らしながら部屋を飛び出ていく。


宮殿騎士団テンプル・ナイツは宮殿に集合せよ」

「軍師殿! 我らにも円錐迎撃の許可を!」

「ならぬ! 貴公らの相手は直に現れる」

「まさか――」


 団長の言葉を手を上げて制し、軍師トウヤが頷く。


「保安局長、帝都内の衛士達の指揮権を委ねる。迅速に最寄りの地下避難壕に退避させよ」

「承知した。臣民達の安全は任されよ」


 悪人顔の人族の男性が軍師トウヤに敬礼し、任務を果たすべく走っていく。


「軍師殿、地下で大丈夫であろうか? 相手は神とその眷属――」


 軍師トウヤの前に現れたのは貴族院の重鎮達。

 その顔に浮かぶのは卑屈な媚び。その心にあるのは保身――自分と血族達の身の安全だろう。


「帝都の空港に大型の飛空艇を三隻用意してある。貴公の親族と有力貴族達を乗せてサガ帝国あたりに避難させよ」


 だが、軍師トウヤは準備は万端であると重鎮達に告げる。


「さすがは軍師殿!」

「こんな場合も想定しておられたのですな! では妃殿下達も?」

「貴公らの親族でしたな。ならばご一緒に行かれるのがよいでしょう。時は一刻を争う。急がれるが良かろう」


 亡命政権を建てる気満々の重鎮達に頷き、彼らを追い立てるように帝都脱出を促す。


「何人、サガ帝国に辿り着ける事やら……」

「構わん。これで戦いに邪魔な者も消える」


 近衛騎士隊長の言葉に、軍師トウヤは首を横に振って些事を脳裏から振り払う。


「さて、我らの手を何枚まで食い破ってくれるかな?」


 そう言って、軍師トウヤは仮面の下で不敵に口を歪めた。





「あれが陛下の敵か!」


 疾走する戦車の上部ハッチを開いて、車長が空に浮かぶ銀色の円錐を睨み付けた。


「何か光ったぞ!」


 横を併走する部隊長の言葉が終わる前に、光魔法の「光線(レーザー)」のような光が走り、遠くに見える城砦のような兵器工場の一つを薙いだ。


「へん、そこらの城塞都市より分厚い鋼鉄製の防壁を破れるもんか――」


 車長の言葉の途中で、兵器工場から轟音と炎が上がり、先ほど光が薙いだ地面も遅れて赤く燃える土煙を噴き上げた。


「す、すげぇ、なんだありゃ」


 車長が呆然とした顔でその光景を見つめる。

 彼らの乗る戦車の装甲と比べる意味がないほど分厚い兵器工場の外壁が一瞬で破られたのだ。彼らの乗る戦車の装甲など無いも同然。戦意を喪失しても仕方がないと言えるだろう。


「怯むな! すぐに魔喰いが発動する!」


 腰の引けた車長に、併走する車両に乗った部隊長が激励する。

 その言葉の意味を理解した車長の瞳に生気が戻った。


「来た! 魔喰い鳥達だ!」


 円盤のような魔喰い発生器を搭載した双発の飛行機が彼方から姿を見せた。

 プロペラを回すエンジン音に重なって、魔喰いの発動する異音が戦場の空に響く。


「おおっ、円錐野郎が傾いたぞ!」


 空中で静止していた使徒が姿勢を乱し、落下を始めた。


「全車停止! 砲撃準備、第一斉射後、再照準し、徹甲弾三連射。その後、榴弾を準備して待機!」


 無線から隊長の声が各車に届く。


「通常弾装填、完了!」

「こちら三番特車、通常弾装填、完了!」


 装填手からの報告を受けて、無線手が隊長車両に伝達する。

 それと、外を覗いていた車長の視界の向こうで、使徒が地上に落ちるのは同時だった。


「全車、砲撃開始」

「撃てぇえええ!」


 特車の主砲が火を噴き、鉛の砲弾が使徒の周囲に着弾し、土煙を巻き上げる。


「仰角下に三、左に一、少し右に戻せ――停止。照準完了」

「徹甲弾装填完了」

「撃てぇえええええ!」


 特車から放たれた徹甲弾が次々と使徒に吸い込まれていく。





「物理攻撃がここまで効くとはな」


 眼前の光景を眺めながら、皇帝が呟く。

 魔喰いで使徒の攻撃を封じ込め、戦車砲弾の連射で使徒を引き裂く作戦は上手くいっているらしい。


 光魔法使いと空間魔法使いの宮廷魔術師達が、謁見の間に控える人々の前に戦場の姿を映し出している。

 魔喰いの効果範囲外から映像を拾ってくるために、普段は仲の悪い宮廷魔術師達が協力しているようだ。


「鉛や鉄は魔力による干渉が低い。それに特車隊の徹甲弾にはアレを使ってある」

「ふん、ファンタジーにはファンタジーか」


 皇帝の脳裏に、白骨の下級竜と徹甲弾の白い弾頭が過ぎる。


「陛下! マギュバ市から電信! 使徒が現れたそうです!」

「同じくモゲィバ市より、『銀の円錐出現。市の三分の一が白塩化』との事です」


 次々と同様の報告が届く。


「陛下! 帝都の反対側から使徒の侵攻を確認! その数――」

「どうした、言え」

「――12。12体の使徒が現れました!」


 絶望を帯びた通信官の言葉に、謁見の間の人々の視線が縋るように皇帝と軍師トウヤに集まる。


「向こうも本気のようだ」

「だが、こちらの本気もまだまだある」


 皇帝と話していた軍師が、不安そうな人々に向き直る。


「『魔喰い鳥』の残りを出せ。宮殿騎士団テンプル・ナイツの出動を許可する。D装備を忘れるな!」

「承知」


 軍師の命令を受託した団長が、皇帝に向き直る。


「陛下への忠誠を! 帝国に勝利と永遠の栄光を!」


 白い槍を掲げた団長が、騎士の礼を皇帝に取り、宮殿騎士テンプル・ナイトに号令して部屋を出ていく。


「『目覚めの鏑矢』は?」

「材料を得たばかりだ。さすがにそんなにすぐには作れぬよ」


 人の少なくなった部屋で、皇帝と軍師トウヤが言葉を交わす。


「はっはっは! キサマと一緒にするなよ、軍師!」


 人の数が減り、静寂が支配する謁見の間に足音高く一人の男が姿を現した。

 宮殿に不似合いな白衣を着た紫髪の男は、ぶれいんずの所長だ。


「所長か? 何をしに現れた」

「陛下に報告があってね」


 軍師の問いを受け流し、皇帝の前へと歩を進める。


「『目覚めの鏑矢』の準備が完了してるけど、計画通り打ち上げる?」


 皇帝を前にしても、ぶれいんずの所長のタメ口は変わらない。


「もちろんだ。邪魔の入らぬうちに進めろ」

「おっけー! 即断即決! そこに痺れる憧れる~ってね」


 ぶれいんずの所長はおちゃらけた顔でウィンクを返し、胸元から携帯式の無線機を取り出して「目覚めの鏑矢」の発射を指示する。


「こんな短期間で、どんな魔法を使った?」


 軍師が自分の横を通り過ぎようとする所長の肩を掴んで引き留め、カラクリを問いただす。


「魔法なんて使ってないさ。ヒトの知恵だよ。こんな事もあろうかと、中核になる闇晶珠と燃料代わりの賢者の石さえ嵌め込めば良いところまで作っておいたんだ。デスマーチに陥らない為には前倒しで作業しておくのが一番なのさ」

「そうか――」


 軍師の手を振り払い、歩きながら白衣によったシワを伸ばしていた所長の耳に、軍師の言葉が届く。


「――これで陛下(・・)の目的も一歩進む」

「あん?」


 軍師が呟いた言葉の真意を問いただそうと、所長が足を止めて振り返る。

 だが、軍師は黙して語らず、彼の耳に届いたのは、熱に浮かされたような皇帝の独り言だけだった。


「さあ、往け! 月の魔神の封印を砕き、眠れる神を呼び起こせ」




「大変だ! 往月船の操船ゴーレムが起動しない!」

「どうする? 発射シーケンスを止めるか?」

「だが、今から新しいゴーレムを用意するのは無理だ。『ぶれいんず』の予備を組み上げるなら最速でも三日はかかるぞ」


 ロケット発射台の近くにある管制塔で、「ぶれいんず」の所員達が荒々しく議論を交わしていた。


「オレ達の連日の徹夜作業の果てがコレかよ」

「何がカガク万能だ。いつも偉そうに講釈を垂れていたんだろ? 何か妙案を出してみろ!」

「オレ達がいがみ合ってどうする! まだ何か手があるはずだ!」


 発射台の近くに、戦車砲でボロボロになった使徒が迫ってくる。


 おそらく、最初から使徒の狙いは兵器工場とロケット発射施設だったのだろう。

 このままだと、戦車が使徒を倒す前に、ここに到達してロケットを破壊してしまうに違いない。


「私が行きます!」


 管制官見習いの少女が、紫色のポニーテールを揺らして宣言した。

 この場にいる中で、宇宙船に乗り込めるのは小柄な彼女だけ。


「これでも前世は宇宙飛行士になるのが夢だったんです」

「だめだ! 往月船の燃料は片道だ。オマケに到着後は核が爆発する。絶対にダメだ」

「構いません。皇帝陛下ほどじゃないけど、私は幸運なんです」

「――すまん」


 空元気を振りまく少女に反対した責任者だったが、少女の揺るぎない瞳に負けて最後には許可を出した。


「整備部! 『魔法の鞄』にありったけの食料と水! それから酸素ボンベを詰めろ! 加工で余った闇晶珠の欠片も全部だ! 試作の重力推進器も忘れるな!」


 献身的な少女の生還率をコンマ1%でも増やす為に、責任者が無線機に向かって指示を飛ばす。


「何だ、あれ? ……ヤバイ! 誰か、ロケットに取り付いているぞ」

「神官服? ――まさか!」


 管制塔にいた一人が警告を発し、双眼鏡で覗いた責任者が叫びを上げた。





「教主様、あと一歩です。魔王信奉者達の陰謀を打ち砕くのはザイクーオン神の信徒たる者の義務。もうすぐ義務を果たしてみせます」


 神官服を身に纏った長い紫髪の青年が、熱に浮かされたように呟く。

 混乱に乗じ、仲間達と侵入したロケット発射場で、ここに辿り着けたのは彼一人だけ。


「くひ、くひひひっひ。手、手が震える……か、神のクスリを飲まねば」


 青年は懐から取り出した小瓶の蓋を開けようとするが、指が震えて開けることができず、最後には蓋に噛みついて歯で開ける。

 小瓶の中の液体を飲もうと傾けるが、痙攣し震える手では上手く飲めず、口の周りに零しながら流し込む。


「くひ、くひひひっひ。くひ、KUHIHHHIくひHIHI」


 青年の身体の震えは止まるが、その口から漏れる言葉は人らしからぬ異音が混じる。


「そこのヤツ! 止まれ!」


 銃を構えた警備兵に誰何(すいか)され、振り向いた青年の瞳が紫色の光を帯びる。


「ジュウか、JJJじゅGUGGGGUUUNNNNN」

「ば、ばけもの!」


 警備兵が銃の引き金を引くよりも速く、彼は下半身をその場に残して地に伏した。

 青年の紫色に染まった影から延びる刃の仕業だ。


「もう、もうSUGU、教主SASASAMAMAAAMMMM」


 ロケットの側面を昇り始めた青年の背中が、別の生き物を内包するかのようにボコボコと波打ち始める。





「ま、魔王――」


 丘の上に立つ神官服の男達の一人が、ロケット発射場に現れた紫色の巨人を見上げて呟く。

 ロケットは脆くも砕かれ、炎に沈む発射場や倒れ往く管制塔が見える。


「ベベンベ神官、それは違うぞ。彼は偉大なるザイクーオン神に帰依した聖王だ。禁忌にまみれたこの地を浄化する為に活躍してくれる聖戦士なのだ」

「教主様」


 狂信者の青年を死地に送り込んだ教主が、もっともらしく建前を告げる。

 内心で紫髪の転生者達を蔑んでいる事など、彼の情婦以外は誰も知らない。


「我らには我らの役目がある。行くぞ」

「はい、教主様」


 教主達が丘の陰にあった地下祭儀場の狭い階段を降りていく。


「諸君、今日まで良くついてきてくれた」

「「「教主様」」」

「これより最後の儀式を行う。ザイクーオン神に栄光を」

「「「ザイクーオン神に栄光を」」」


 教主達が唱えるのは過去に滅んだ神聖ザイクーオン教国の司祭王だけに伝えられてきた最奥の秘術。


 ――神霊光臨インヴォーク・デイティー


 それは、偉大なる神をその身に降ろす技。

 たとえ術が成功しても、唱えた者達の命も魂も全て消滅する禁忌の儀式魔法だ。


 今までに成功例の極めて少ない秘術が成功するかは誰にも判らない。


 だが、もし成功すれば――。


 イタチ帝国に、また一つ危機が訪れようとしていた。


※次回「15-29.天罰(3)、サトゥーの正体」は 11/20(日) の予定です。



※管制塔にいた人達の運命はもう少し先で語られるかもしれません。

※活動報告に本作「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」のゲーム版に関する情報を掲載しました。宜しければご覧下さい。

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 発売日:2025年12月9日
ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
[良い点] いいねー、神を信仰してる者も、科学という神の敵対者側も、どんどん混沌として来ていて… イタチ帝国だけで収まってくれることを願っちゃいますよ。
[気になる点] 警備兵が銃の引き金を引くよりも速く、彼は下半身をその場に残して地に伏した。 前後を読めば、警備兵と彼は同一人物だが、この文だけでは彼の方は誰何された青年とも読める。 むしろ「彼は」を…
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