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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十五章

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15-26.神の息吹

※2016/11/30 誤字修正しました。

 サトゥーです。砂山の砂を崩すように、ジェンガの一本を抜くときのように、終わりは雪崩のように襲ってきます。予見できたからと言って防げるとは限らないのは、災害と同じですね。





「クロ様、イタチ帝国からお戻りになっておられたんですね」


 エチゴヤ商会に戻ったオレを素早く見つけたのは、怜悧な美貌を持つティファリーザの透明な笑顔だった。


「ちょうど戻ったところに、連絡があった。何かあったのか?」


 緊急通信じゃなかったから、切羽詰まった内容じゃないとは思うが、定期報告以外で伝える必要があると彼女が通信を入れるくらいだから、それなりに重要な案件に違いない。


「はい、マキワ王国の――」


 オレ達が竜騎士に扮してイタチ帝国のカガク兵器から守った国の名前が出てきた。

 難民達の支援や復興で問題でも起こったのかな?


「――ピピンから連絡がございました」


 ピピンは元怪盗で現エチゴヤの奴隷諜報員だ。


「確かピピンは……」

「はい、ケイ様とシャルルルーン殿のバックアップ要員として同行しております」


 オレが思い出すよりも早く、ティファリーザが補足してくれた。

 元偽使徒の転生者ケイには彼女の視野狭窄とユニークスキルで被害を出した過去を振り返る旅をさせていたのだ。


「ケイかシャルルルーンに何かあったのか?」

「はい」


 オレの問いにティファリーザが首肯する。


 彼女の回答を待つ間に、マーカー一覧で二人の名前を探した。

 大丈夫、二人とも怪我も無く無事だ。


「ピピンの話では、ケイ様に神聖魔法が発現したとの事です」

「へー、それは良かったね――」


 気のない祝いを口にしてから、オレはその言葉に隠された本当の問題点に気付いた。


「――事実か?」

「はい、ピピンが見たそうです」


 オレの質問にティファリーザが即答する。


「ちょっと、マキワ王国に行ってくる」


 オレは背中にティファリーザの「行ってらっしゃいませ」という見送りの言葉と、支配人のモノらしきバタバタとした足音を受けながら、エチゴヤ商会を後にした。





 ケイ達がいるマキワ王国内の一番近い自陣へとユニット配置で移動し、オレは姿を変えるべきか迷う。

 彼女を祝うならサトゥーの方が適任だが、神出鬼没のクロみたいに前触れなく他国の奥地にあるダザレス市を訪れるのは問題があるからだ。


 ――まあ、いい。


 もうすぐ、そんな些細な(・・・)事を問題にする者もいなくなる。


 オレは早着替えスキルでサトゥーの姿に戻り、転移拠点の山小屋から外に出る。


「嵐が来なければいいんだけど――」


 未来を暗示するかのような、空を覆う雲を見上げながら、オレは一人呟く。


 眼下には、復興半ばのダザレス市が見える。


「ケイ達は城近くのザイクーオン神殿にいるみたいだ」


 オレは魔素迷彩を使った状態で、人気ひとけのないザイクーオン神殿の裏手へと空間魔法で転移する。


「ザイクーオン神の御名に栄光を!」

「さあさあ! 今日はお祝いだ!」

「祭りだ! 今日は皆で踊ろう!」


 神殿前には人だかりができており、人々が熱に浮かされたように口々に神を祝福している。


「これで信者さん達が戻ってきますね!」

「うむうむ、この神殿もようやく修繕できる」


 聞き覚えのある声が人々の間から聞こえた。


「――ケイ」

「サ、サトゥーさん?!」


 オレが声を掛けると、ザイクーオンの神官服を着たケイがこちらを振り返って驚く。


「ケイの知り合いかな?」

「はい、神殿長様。ペ、ペペン――えっと、貴族のサトゥーさんです」


 どうやら、彼女はオレの家名を覚えていないようだ。


「初めまして神殿長様。私はサトゥー・ペンドラゴン子爵と申します。こちらは些少ですが、神殿に喜捨させていただきたく持参いたしました」


 オレは金貨20枚ほどが入った小袋を神殿長に手渡す。


「これはこれは――なんと信心深い」


 小袋の隙間から見えた金色の輝きに神殿長が相好を崩す。


 オレとケイはホクホク顔の神殿長に応接間へと通されて、とっておきのマキワ茶を出された。

 出がらしのような色が付いただけのようなお茶だったが、無表情スキルの助けを借りて無難に乗り越える。


「神殿長! お客様です」

「わ、分かった。しばらくお待ちいただけ」


 今日は(・・・)訪問客が多いらしく、オレと話す短い間にも次々に訪問客が訪れている。

 神殿長によると、ケイは養い親の老神官から教えてもらった「調合」スキルを駆使して、ダザレス市の復興と信者獲得に貢献していたそうだ。


「神殿長様、それが――」


 神官の顔色を見る限り断りにくい客らしい。


「私はそろそろお暇致します」

「そ、そうですか。あまりお構いもできず申し訳ありませんな」

「もう少しケイと話してもよろしいでしょうか?」

「ええ、勿論ですとも」


 恐縮する神殿長に見送られて応接室を出る。


「あら、先客を追い出してしまったようですね」

「いえ、丁度退出するところでしたから」


 先ほどの神官に先導されて廊下を歩いてきたのは、現ダザレス侯爵代理のシェルミナ・ダザレス嬢だ。

 過労気味らしく、目の下の隈を化粧で隠している。


「侯爵閣下!」

「違います。私は叔父が戻るまで代理を務めているだけです」


 神殿長の驚きの声に、シェルミナ嬢が渋い顔で否定する。


 シガ王国から、外交チャンネルで放火魔貴族こと彼女の叔父のドォト・ダザレス侯爵が故人だと伝えたはずなのだが、対外的にはまだ告知していないようだ。

 きっと、ある程度ダザレス侯爵領が復興してから発表するのだろう。


「侯爵代理殿でしたか。私はシガ王国のサトゥー・ペンドラゴン子爵と申します。私の知人がこちらでお世話になっている縁で寄らせていただいていました」

「シガ王国の?!」


 オレの名乗りにシェルミナ嬢が驚きの声を上げて、ちゃんとした名乗りと他国の貴族への礼を取ってくれた。

 難民を運ぶのに大型飛空艇を出したシガ王国に対して、非常に感謝しているとオレの手を取って語り始めてしまった。


「さすがは勇者王ヤマト様の興された国だけあって、シガ国王も高貴な人物なのですね」


 あの時はエチゴヤ商会を名乗って協力したのだが、彼女はシガ国王が非公式に手助けをしたと思っているようだった。

 結局、立ち話もなんだという事で、オレはケイを連れて彼女と共に応接室へと戻る羽目になった。


「先ほど、使者殿から聞いたが、事実か?」

「もちろんでございます」


 オレとの話が一段落したシェルミナ嬢が神殿長に確認をした。


「本当だよ! ■ 祝福ブレス

「な、何を――」


 嬉しそうに立ち上がったケイが神聖魔法を唱える。

 ケイの唐突な行動にシェルミナ嬢が顔を引きつらせる。


 領主候補であるシェルミナ嬢の頭上に、キラキラとした祝福の光が降り注ぐ。


 ――マズイ。


 オレは短距離転移並の速さでテーブルを飛び越え、シェルミナ嬢を押し倒す。

 事情の分かっていない周囲が驚きの声を上げた。


>「神聖魔法:ザイクーオン教」スキルを得た。


 やはり、復活は事実のようだ。


「失礼。緊急時故、無礼を許してください」

「た、助かった(・・・・)。貴公の英断に感謝する」


 この場で唯一オレの行動を理解できるシェルミナ嬢が青い顔でそう口にした。


「離れろ! この無礼者め!」

「やめよ! 子爵は私の恩人だ」


 激昂する護衛騎士をシェルミナ嬢が叱りつける。


「え、あの? 神様の祝福は嫌い?」


 戸惑うケイの頭に、コツンと軽く拳骨を落とす。

 善意でもやってはいけない事があるのだ。


 ――領主は都市核(シティ・コア)を支配する必要がある。


 だが、それには幾つか条件があり、神の祝福を受けている者は条件に反するのだ。

 もちろん、裏技として神の祝福を取り除く儀式魔法もあるのだが、それには莫大な費用と時間が必要となるらしい。


「ケイ、相手の同意もなく祝福してはいけないよ。他の神様に信仰を誓っている人もいるのだから」


 オレの代わりに神殿長が分かり易く諭してくれた。


「やり方はともかく、神聖魔法が発現するのは見ました。あの聖印は確かに――」


 服装の乱れを直したシェルミナ嬢が、こほんと咳払いをして告げる。

 どうやら、ケイの軽率な行動は不問にしてくれるようだ。


「――神殿のモノと同じ。ザイクーオン神が(・・・・・・・・)復活した(・・・・)のは事実のようですね」


 オレが口にするのを躊躇っていた言葉を、シェルミナ嬢が明確に述べる。


 そう、ケイには元々神聖魔法スキルがあった。

 ただし、その神聖魔法はケイが正しく呪文を唱えても発現する事がなかった。


 なぜなら、神聖魔法の源となるザイクーオン神が死んでいたからだ。


 そして、今。


 ケイが神聖魔法を使えるようになった。

 つまり、神聖魔法の源となるザイクーオン神が復活した、という事だ。


 それにしても――早い。


 かつて、亜神モードのアーゼさんが言っていた。


「この世界にきたばかりの頃に、ザイクーオン神やガルレオン神が竜神に挑んで殺されましたが、千年ほどで復活しています」


 だが、この言葉が事実なら30年ほど前に死んだばかりのザイクーオン神が蘇るのは早すぎる。


「では、施療院に神官を派遣していただく代わりに、神殿への布施を現在の倍額まで戻しましょう」

「今の倍額ですか――」


 シェルミナ嬢の言葉に神殿長が渋い顔をする。


「せめて、30年前の額まで戻していただけないでしょうか?」

「残念ですが、今は復興が最優先なのです」


 神殿長の懇願にシェルミナ嬢が首を横に振る。

 国王からの援助がほとんど無いらしいので、資金繰りが厳しいのだろう。


 適当なタイミングで、エチゴヤ商会経由の資金援助を行うとしよう。





「ペンドラゴン子爵は神殿に滞在されるのですか?」

「いいえ、ケイの顔も見られた事ですし、今日中にダザレス市を発とうと思っています」


 ケイに「おめでとう」と言いに来ただけだし、ザイクーオン神の復活も確認できた。

 ここに長居する必要はない。


 ――ん? レーダーに赤い光点が映った。


「そんな! ペンドラゴン子爵の為に歓迎の宴を開こうと思っていたのですが……」


 シェルミナ嬢が残念そうに告げる。


 だが、それでもオレを強引に引き留めようとはしない。

 他国の上級貴族を歓迎する宴なんて開いたら、財政が厳しいだろうしね。


 彼女と会話しながら、マップを開いて赤い光点の正体を確認する。


 大した相手じゃない。


 レベル20ほどの雑魚で、特筆するポイントとしては「魔人薬の過剰摂取」状態にある事と「共食い蛇」という犯罪ギルドに所属している者達だという事くらいだ。


 確か「共食い蛇」といえば、マキワ王国の難民を扇動して、隣のスィルガ王国にテロ活動をしていた連中だったはず。


「――子爵様! 右手、黒外套、子供の後ろ!」


 雑踏の向こうから、ピピンの声が聞こえた。

 さっきから、レーダーに映る赤い光点の主を警告してくれたようだ。


「――ちっ」

「うわぁあああ」


 子供を盾にした黒外套の男が、黒い刃の短剣でシェルミナ嬢を襲う。

 シェルミナ嬢を庇おうとした護衛の横合いから別の男が体当たりで邪魔をした。


 どうやら、神殿を囲む群衆に紛れていたらしい。


「シャル!」

「――呼んだかしら?」


 ケイの絶叫に、屋根の上から飛び降りた美女が黒外套の背中に着地する。

 オレがクロとしてケイの随員に付けた元怪盗義賊で現エチゴヤ商会員のシャルルルーンだ。


 潰れた男の背後から、別の茶色の外套男がベコベコと変形しながら襲いかかってきた。


 シャルルルーンの短剣が、魔物と化した茶外套男の爪を受け止める。


「魔物?」

「うわぁあああ、ま、魔物だぁああ!」


 周囲に潜んだ「共食い蛇」の構成員が、大声で周りのパニックを煽った。


 ――マズイね。


 オレはシェルミナ嬢の腕を引いて危地から遠ざけ、こっそりと毒短剣で襲ってくる小男を蹴飛ばす。

 そのまま魔法欄から精神魔法の「平静空間(カーム・フィールド)」を発動して、周囲のパニックを収める。


 続けて、隠密性の高い精神魔法の「失神手(スタン・ハンド)」で「共食い蛇」達をスタンさせていく。

 レベル差がないと抵抗レジストされやすい欠陥魔法なのだが、オレが使う分には欠陥にならない。


「ペ、ペンドラゴン子爵。た、助けてくれたのは嬉しいのですが、そろそろ手を離していただけないでしょうか?」


 オレの腕の中でシェルミナ嬢が真っ赤な顔で懇願する。

 おっと、抱き寄せたまま忘れていた。


「シェルミナ様! この入れ墨は『共食い蛇』に間違いありません」

「叔父様が壊滅させたはずなのに、まだ残党がいたのですね」


 シャルルルーンが最初に倒した男を検分していた護衛が、そう告げた。


「ペンドラゴン子爵、それにそちらの女性も助力を感謝いたします。後ほど改めてお礼をさせていただきます」

「礼なんていらないよ。私はケイを助けただけだからさ」


 シェルミナ嬢の言葉に、シャルルルーンが素っ気なくあしらう。

 その態度に気分を害した護衛がシャルルルーンを睨み付ける。


 悪くなった場の雰囲気を感じ取ったケイが、何かに気付いたような顔をして空を指差す。


「見て見て! 木漏れ日!」


 ケイの指差す先では、分厚い雲の合間から綺麗な光が差し込んでいるのが見えた。


「空も神様の復活をお祝いしてくれるみたい」


 場を和ませるために、ケイが不自然なほど明るい口調でおどけてみせる。

 笑顔のケイに釣られて、皆が微笑む。


 どこからともなく神秘的な鐘の音が聞こえてきた。


「綺麗な音ですね」


 深く静かに響く音色からは、鐘職人の卓越した技量を感じられる。


 孤島宮殿の鐘も作ってもらえないだろうか?


 そんな事を考えながら、シェルミナ嬢に尋ねてみた。


「お城の鐘ですか?」

「い、いいえ、私もこんな綺麗な音色は聞いた事がありません」


 なのに、シェルミナ嬢からはつれない返事が返ってきた。


 ――はて?


 生まれた頃からダザレス市で暮らしているであろう彼女が知らないなら、この鐘はどこから聞こえてくるのだろう?


 オレの疑問はすぐに解けた。


 最悪の形で、だ。



 <<<傾聴せよ>>>


 威圧感のある声が空から(・・・)降ってくる(・・・・・)

 幾つもの種類の言葉が重なって聞こえてくるようだ。


 土の音と衣擦れの音の合唱が耳に届く。


 オレ以外の人達が地面に平伏し、額を地面に押し付けている。

 領主代理であるシェルミナ嬢も例外ではない。


 <<<傾聴せよ>>>


 再び、空から声が降ってきた。


 どうやら、始まってしまったようだ。



※次回更新は 11/6(日) の予定です。



※気になる方へ

 作中のアーゼのセリフは12章の「幕間:新年の挨拶」を参照してください。

 ザイクーオン神が30年前に死んだという話は「14-3.迷宮都市にて(2)」を参照してください。


※ケイが「木漏れ日」と発言していますが、これは表現として正しくありません。

 彼女の語彙ではこれが精一杯だったのです。「薄明光線」および「天使の梯子(ヤコブ梯子)」という正しい語句を感想欄で指摘して戴いていますが、ケイらしい間違いとして記載しているので誤字として修正される事はありません。


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― 新着の感想 ―
[一言] これのために、ザイクーオンは復活したと言うことでしょうか? 一方で、都市核と祝福の一件は、伏線を丁寧に仕込む本作にしてはいきなりの印象がします。 「6-幕間6:領主の秘密」あたりで、王か…
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