15-23.禁断のカガク
※2016/10/15 誤字修正しました。
サトゥーです。「一を聞いて十を知る」という言葉がありますが、それを体現するには「千の学習と万の復習」が必要だと思うのです。何事も基礎がないと成り立たないと社会に出て気付かされました。
◇
「――皇帝、少し込み入った話がある。余人を余り交えず話したいのだが?」
「よかろう、もう数歩こちらに来い」
微妙に罠フラグ風にイタチ皇帝が言うが、罠感知スキルや危機感知スキルに反応がないので大丈夫だろう。
イタチ皇帝の指示通り数歩進むと、ガコンッと音がして玉座周りの地面が降下し始めた。
どうやら、玉座の周囲がエレベーターになっているようだ。
「不用心すぎないか?」
「心配無用。我が幸運の前に敵はない」
なるほど、イタチ皇帝は自分のユニークスキルに絶対の自信を持っているらしい。
このエレベーターはマップ外に続いているようだ。
たぶん、都市核の間に続いているのだろう。
降下速度はかなり遅いので、降下している間に禁忌について話す事にした。
「――科学、特に通信技術や鉄道が神々の禁忌に触れるという事は知っているか?」
「もちろんだ」
オレの確認に、イタチ皇帝が頷く。
「ならば――」
詰め寄るオレを、イタチ皇帝が片手を上げて制止する。
「準備ができたからこそ、始めたのだ」
「準備だと? 小国での実験の事か? それともブレインズの所にあった核兵器のことか?」
オレの言葉にイタチ皇帝が大笑いする。
「華僑を知っているか?」
笑い終わったイタチ皇帝が唐突な問いを発した。
イタチ皇帝は戸惑うオレをスルーして、話を続ける。
「世界に広がり、いかなる地でも自分たちの文化を失わず浸透していく」
「それがどうした?」
イマイチ、彼の意図が分からない。
「それこそが余の手本だ。我が一族は商人として世界に広がり、イタチ帝国が神の怒りで滅んだとしても、その血や文化は途絶えぬ」
オレの脳裏にシガ王国のみならず世界中で見かけたイタチ商人達を思い出す。
彼らはどこの国でも変わらず、独自の文化で商売をしていた。
「――滅びが前提なのか?」
「賢明な為政者は筋道をいくつも用意するモノだ」
イタチ皇帝の言葉に、イタチ帝国内で見かけたいくつかのイメージが脳裏を過ぎった。
「教区やデジマ島か?」
「そうだ。神が欲する敬虔な信徒や神職のみを集めた教区、カガクを持たず、我が帝国から離反したデジマ島は、神の天罰の対象外になる可能性が高かろう」
そのわりにデジマ島に征伐軍を送ろうと――いや、その為の無能な指揮官か。
でも、それでも人口比だと、帝国本土の一割も救えないはず。
「大多数の臣民を犠牲にしてか?」
「為政者が民を切り捨ててどうする。先ほどのは神に負けた場合の保険だ」
オレの批難を篭めた問いを、イタチ皇帝が一笑に付す。
「勝つつもりなのか?」
その問いに、イタチ皇帝が呪われそうな悪辣な笑顔を浮かべた。
どうやら、本当に神々に勝つ気でいるらしい。
「核を使っても神には勝てない可能性が高いぞ? それとも核で神を脅すか?」
「古代王の逸話だな。貴様も『真実の室』の石板を読んだのか?」
おっと、謎ワードが出てきた。
「真実の室?」
「太古の昔より、真実を刻み続ける聖上の記録庫だ」
なるほど、「聖上」とやらは誰あるいは何か知らないが、その「真実の室」とやらがイタチ皇帝の情報の源のようだ。
「神の禁忌も、禁忌に触れた文明がどのように滅ぼされてきたのかもすべて記録されている」
「それでもなお、神に抗うのか?」
「そうだ。人は神の『加護』という名の支配から自由になる時がきたのだ」
――自由か。
どうも、異世界に来てからは「自由」という単語に悪いイメージがちらつく。
魔王信奉者集団の「自由の翼」や「自由の光」の印象が強いせいだろう。
「図々しい願いを承知で頼む。その『真実の室』にある石板を読ませてもらえないだろうか?」
オレの知る神々の禁忌はセリビーラ迷宮の下層に住むムクロと「狗頭の魔王」との戦いで聞いた話がほとんどだ。
亜神モードのアーゼさんも、神々の禁忌については知らないと言っていたしね。
「ほう? 我が帝国の力の源と知ってそれを願うか」
オレの頼みに、イタチ皇帝が愉快そうに口元を歪ませた。
――これは相当な対価をふっかけられそうだ。
「貴様に望む対価は五つ」
イタチ皇帝が太く短い指を伸ばして告げる。
そういえば、いつの間にかエレベーターの降下が途中で止まっていた。
「人の頭ほどの大きさの聖樹石――『賢者の石』、巨大ロケットを重力の楔から解き放てるほどの闇晶珠、これで2つ」
イタチ皇帝が指を折りながら告げる。
「神々と我らの戦いが始まったら、貴様ら――勇者ナナシとその従者達は――」
ふむ、イタチ帝国に加勢しろと言いたいのだろう。
「――中立を保て」
「中立? 味方せよ、ではなく中立を望むのか?」
「そうだ。神の欠片を持つ者は神に逆らえぬ」
――何ソレ?
「初耳だ」
「過去に事例がある。パリオン神の勇者は、パリオン神の要請を撥ね除けることはできぬ」
イタチ皇帝の言葉を鵜呑みにするわけにはいかないが、「神の欠片」がバックドアのようなものなら、ハッキングくらい簡単なものだろう。
たとえば、オレのメニューに表示される情報を恣意的に操作できるのならば、状態「憑依:魔王」のような情報を付け加えるだけで、その相手を警戒するだろう。
だが――。
オレの脳裏に狗頭戦で見た「絵の幼女」が過ぎる。
――あの無関心そうな娘が、外部から人を操作するような面倒を行うとも思えない。
もちろん、あの子がパリオン神と言ったのは狗頭なので、本当にパリオン神だったのかは分からないけどさ。
「中立を約束しよう」
本当に神々との戦いが始まったら、アリサやヒカルと一緒に孤島宮殿に引っ込む必要がありそうだ。
「残り二つはなんだ?」
「我らが神々との戦いに入れば、それが原因で諸国の我が同胞が迫害されるだろう。その時にキサマらの腕の届く範囲で構わん。我が同胞を保護してやってほしい」
「分かった」
ずいぶんと同胞想いの発言だ。
エチゴヤ商会の全国支店に保護指令を出しておけば良いだろう。
「そして、最後に――」
イタチ皇帝の最後の要望は少々不穏な内容だった。
◇
「――どうだ?」
「分かった。この先で何を見ても破壊活動を行わぬと約束しよう」
この先の別マップに鬼が出るか蛇が出るか分からないが、いたとしても例の軍師くらいだろう。
もしかしたらネズミ魔王やイタチ魔王に続く第三の魔王を隠しているかもしれないが、危なそうなのは狗頭、黄金の猪王の二者に並ぶ「ゴブリンの魔王」くらいのはずだ。
復活中のザイクーオン神が封印されていたら驚きそうだが、特別思い入れはないので余裕でスルーできると思う。
「一応聞いておくが、人体実験場や拷問遊戯場などではあるまいな?」
社会的弱者がそういう目にあっているのを目撃して、暢気に会話できるほどオレは超人ではないので念の為に確認した。
破壊活動を行わなくても、救助活動はできるしね。
「そのような合理性のない趣味は持ち合わせておらん」
「ならばいい」
イタチ皇帝の言葉に頷き返すと、再びエレベーターが降下を始めた。
なぜか、イタチ皇帝はオレに「強制」スキルを使ってこない。
こんな風に念を押すくらいなら「強制」スキルを使えば簡単そうなのに不思議な話だ。
もしかしたら、安易にスキルに頼らないように自戒しているのかもしれないね。
そんな事を考えているうちにも降下が進む。
◇
レーダー表示が未知のエリアに入ったと報せるのと同時に、エレベーターの片方の壁が透明になり、地下の大空洞が視界に飛び込んできた。
シガ王国の王都地下にあった大空洞と同じくらいだろう。
岩盤が剥き出しになった大空洞の中央に、天井まで届くガラスの筒がある。
筒の中には緑色の液体が満たされ、白灰紫色の肌をした巨大な生き物がホルマリン漬けの標本のように浮かんでいた。
どうやら、死体標本ではなく眠っているだけのようだ。
「巨人の胎児――いや、違う」
――トロールだ。
それも尋常ではないほどの巨躯に、雄牛のような暗紫色の角を備えている。
凶貌からはみ出た牙は鋭く、黒竜の強靱な鱗さえ貫きそうだ。
――それも、トロールの魔王だ。
たしか、狗頭との戦いの時に名前が出ていた気がする。
狗頭がトロールの魔王から何か有用なユニークスキルを奪ったと言っていたっけ。
「そうだ。彼の魔王こそが、聖上と呼ばれる『真実の室』の記録者だ」
イタチ皇帝が魔王のステータスを見ろとばかりに、顎をしゃくってオレを促す。
AR表示される称号は「魔王」を筆頭に「聖上」や「真実の記録者」という隠し称号がある。
レベルは109と高く、魔法系スキルが充実していた。
そして、彼のユニークスキルは「竜脈接続」「無限記録」の二つを持っていた。
恐らく「竜脈接続」で得た情報を「無限記録」でどこかに記録しているのだろう。
「見ろ、次の石板が産まれる」
イタチ皇帝の言葉に視線を彷徨わせると、魔王の眠るガラス筒から薄紫色の石板が生えているのが見えた。
あの透明な筒はガラスとは別物らしい。
石板が生え終わると、そのまま自由落下する。
そのまま硬そうな床に当たって割れるのを想像していたが、途中から落下速度が低下し、カタンッと硬質な音を響かせただけで終わった。
そこに白衣を着た覆面の男達が集まって石板を回収し、作業台のようなものの上に置いて何かの作業を始めるのが見えた。
「あれが情報源か?」
「見ての通りだ」
オレの確認に、イタチ皇帝が首肯する。
やはりイタチ皇帝の知識の源はあのトロールの魔王らしい。
道理で、「この先で何を見ても破壊活動を行わない」と約束させられたはずだ。
「トロールの魔王の情報操作に陥れられているだけじゃないのか?」
オレがそう問い掛けると、「フンッ」と鼻で笑われた。
「国を預かる者が、その程度の裏取りも行わぬと思うのか?」
それもそうか、懸かっているのは自分の命だけじゃないもんね。
「少なくとも過去700年分の情報については、間違いが記載されていないと確認が取れている」
イタチ皇帝が自信ありげに、ドヤ顔で告げる。
ようやくエレベータが停止し、フロアとの間の空間に術理魔法風の疑似物質で造られた橋が架かる。
「――そこからは私が話そう」
その橋の向こうから、深紫色の外套を着た男性が現れた。
目深に被ったフードの隙間から、能面の「翁」を模した仮面が顔を覗かせている。
その姿を見た途端、言い様のない不快感や嫌悪感が湧き起こった。
だが、その不快感と嫌悪感は、すぐに沈静化してしまう。
その不自然な沈静化が気になってログを開いたところ――。
>「嫌われ者の仮面」の効果に抵抗した。
――と表示されていた。
どうやら、嫌われる為の仮面らしい。
もちろん、それだけではないようで、普通の鑑定では彼の「トウヤ」という名前と「軍師」「嫌われ者」「孤独者」という称号、それにレベル55という情報しか見えない。
これは転生者の持つ「技能隠蔽」よりも隠蔽度が高い。
オレの持つ「盗神の装具」ほど完璧じゃないが、なかなかの性能だ。
「軍師トウヤか」
「その通りじゃ。シガ王国の使者クロ――」
爺のような声に重なって、少年のような澄んだ声が聞こえる。
この仮面は声も偽装してくれるようだ。
そして、声の偽装を打ち破った事からも分かるように、偽装情報に重なって本当の情報が二重写しでAR表示されている。
彼のスキルは「技能隠蔽」で隠されて「不明」となっているが、それ以外はすべて判明している。
驚いた事に彼はオレの知る名前を持っていた。
「――そして、その正体は」
軍師トウヤがもったいぶって言葉を止めた。
「シガ王国の勇者ナナシ」
翁の仮面の下でどや顔をするエルフの顔が思い浮かぶ。
恐らく半眼で口の端をくいっと上げたような顔だろう。
「よく分かったな、軍師トウヤ」
そう、彼の種族はエルフ。
そして、彼の名は――。
「それとも、エルフの賢者トラザユーヤと呼んだ方がいいか?」
※次回更新は 10/16(日) の予定です。
※2016/11/13追記、サトゥーは全く気にしていませんが、「神の欠片を持つ者は神に逆らえぬ」と言ってる(転生者の)皇帝が自分たちを除外して考えている理由は後の方のお話で登場する予定です。
※2016/10/10 4億PV突破記念SSを http://ncode.syosetu.com/n9902bn/493/ に割り込み投稿しました。
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