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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十五章

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15-22.謁見

※2016/10/3 誤字修正しました。

 サトゥーです。どこにでも腕力で決着を付けたがる人はいます。平和な現代日本でも少なくないのですから、異世界でその比率が増えるのも致し方ない事なのかもしれません。





「立派な回廊ですね」

「成金趣味なだけです」


 豪奢な宮城の回廊を歩きながら、ゼナさんが感嘆の吐息を漏らす。

 金銀や象牙のようなモノで飾られた回廊は手入れも行き届いていて、実に華やかだ。


 シガ王国とは文化が違うので、リザの言うように成金趣味にも見えるが、そういうモノだと割り切ればなかなか趣のある装飾だと思う。


 ここに来ているのはオレ達3人と付き添いのリートディルト嬢、それに先導役の侍女の5人だけだ。

 ザクガ護衛官は宮城に着いた途端、リートディルト嬢の同僚である宮殿騎士テンプル・ナイトに絡まれて排除されてしまっていた。

 なかなか酷い扱われ方だが、とくにフォローしてやる謂われもないので放置した。


 立像や柱の装飾についてゼナさんと話しながら歩いていると、不意に侍女が道を逸れた。


「おい、どこに行く。謁見の間はこのまままっすぐだろう?」

「申し訳ございません。この先の通路が、その、改装中でして……使用できないのでございます」


 問い詰めるリートディルト嬢の剣幕が怖いのか、侍女は目を伏せて理由を口にする。


 ――おや?


 手持ち無沙汰でなんとなくマップを見ていたのだが、この先の回廊で改装中らしき場所がない。

 マップを3D表示に切り替えてグルグル回してみても見当たらなかったので、空間魔法の「遠見」で回廊を確認してみた。

 その結果、侍女が嘘を吐いていることが確定したので、「戦術輪話タクティカル・トーク」の魔法でリザとゼナさんに、その旨警告をしておく。


「改装中か……大方、ギルゼムかダゼリムのバカが宮中で勝負したんだな。まったく度しがたいバカ共だ」


 リートディルト嬢は侍女の嘘を信じたようだ。

 もしかしたら、侍女はリートディルト嬢の「竜眼」に嘘を見破られないために目を伏せていたのかもしれない。


 警戒しつつ回廊を進むと、前方の柱の陰に怪しい者を発見した。


「よう、長耳」


 柱の陰から、三メートルくらいある細身の刀を担いだ巨漢のイタチ人が現れた。

 レベル70もある宮殿騎士団テンプル・ナイツのナンバー2だ。


 レベルだけでいえば、現在のリザと同格の強さだ。


「グァルバ殿か……悪いが陛下の勅命で行動中だ。手合わせなら今度にしてくれ」

「用があるのはお前ぇじゃねぇよ」


 リートディルト嬢を見下して、嘲るように告げた。


「俺様が用があるのは、そっちの勇者の従者の方だ」

「皇帝の客に剣を向けるのか?」

「なんだぁあ? 勇者の従者ともあろう者が怖いのか? こりゃとんだ臆病者だ」


 ――安い挑発だ。


「グァルバ殿! クロ殿は皇帝陛下の客人だぞ!」

「だから、どうした! 強えヤツが目の前にいるのに戦わずに済ますなんてできねぇえんだよ」


 リートディルト嬢の制止を、グァルバが戦闘民族みたいな理屈で撥ね除ける。


 他国との関わり合いがない鎖国国家だと、こういう問題を起こしてもなんとかなるのだろう。

 そんな環境で今までずっと生きてきたのなら、こういう性格になってしまうのも頷ける。


「これじゃお前の主も『勇者』じゃなくて『弱虫』とでも名乗った方がいいんじゃねぇか?」

「それで挑発しているつもりか?」


 これ以上言わせておくと、オレの後ろにいるリザがキレそうなので、冷え冷えとした視線で蔑むように告げる。


「はんっ! 主を侮辱されて牙も剥かないような従者なんざ、ゴミクズ同然だぜ」


 面白くなさそうに言うグァルバの眼前に、赤い烈光を湛えた魔槍の切っ先があった。


「な、なんだとぉお! いったい、いつの間にっ」


 グァルバが慌てふためいて、瞬動で後方に飛ぶ。

 その額の毛が光っているのは、冷や汗だろうか?


「申し訳ございません、ご主人様。すぐに、この雑魚を掃除致しますので、少々お待ち下さい」


 リザはグァルバに視線を向けたまま短慮を詫びる。

 キレそうな気配を感じた時点で、グァルバを蹴飛ばして気絶させておくんだった。


「分かった。交戦を許可する。大怪我をさせてもいいが、なるべく殺すな」

「承知」


 オレが許可を与えたのが予想外だったのか、リートディルト嬢が慌てて止めに入った。


「待て、クロ殿! グァルバ殿は性格や行動は最低だが、宮殿騎士団テンプル・ナイツ内でも団長以外が敵わないほどの達人だ」

「長耳! 俺様が団長より弱そうな表現をするんじゃねぇよ」


 口論するリートディルト嬢とグァルバに業を煮やしたリザが、両者の間に魔刃砲の小弾を撃ち込んだ。


「さっさと掛かってきなさい。身の程を教えてあげます」

「上等だぁああ、このトカゲめ!」


 すらりと鞘から解き放たれたグァルバの刀が、青い燐光を帯びる。


「――聖なる武器?」


 ゼナさんの口から驚きの声が零れる。


 彼女の持つ魔法の鞄にも聖なる小剣が入っているのに、律儀に驚いてあげるところがゼナさんらしい。

 やっぱり、素直可愛いところがゼナさんの良いところだよね。


「皇帝から下賜された聖刀モノフォーシ・ザォだ。下級魔物の部位で作ったようなまがい物の魔槍じゃ、一合も保たないぜ!」

「その汚い口を閉じなさい。ご主人様の作ってくださった魔槍ドウマが穢れます」


 魔槍の赤い模様が、リザの静かな怒りを受けてドクドクと脈打つ。


「挨拶代わりの斬鉄閃だ! 取りあえず逝っとけ!」


 瞬時に身体強化を果たしたグァルバが、瞬動と共に長大な刀を唐竹割りに振り下ろす。

 空気分子すら切り裂くような鋭利な斬撃が、リザの姿(・・・・)を斬り裂き、その余波が背後の石畳すら砕き去る。

 轟音と土煙が廊下の奥へと流れていった。


 ニヤニヤと勝利を確信したグァルバの表情が凍り付く。


「――大道芸の芸人にでもなるのですね」

「バ、バカなっ、俺様の斬鉄閃を避けた、だと?」


 うめくグァルバのノド元には、魔刃を帯びたリザの魔槍が突きつけられており、彼の足下にはアダマンタイト合金製のネックガードが真っ二つになって落ちていた。


 グァルバには瞬動と縮地を使い分けたリザの踏み込みが見えなかったようだ。


「囮の残像を残すくらい、私の仲間なら誰にでもできます」


 そう告げながら魔槍を引き、次の構えを取る。


「構えなさい。強者との戦いというモノを教えてあげましょう」


 勝ち誇るでもなく、リザが冷たく宣言する。





「お待たせ致しました」

「お疲れ様。それじゃ行こうか。皇帝も待ちくたびれているだろう」


 壁にめり込んだまま呻くグァルバを放置し、オレ達は侍女に先を促す。

 リザにプライドを粉々にされたようだが、死ぬような怪我じゃないし、あのイタチは放置で良いだろう。


「は、はいっ!」


 魂の抜けたような顔をしていた侍女も、オレに促されて職務を思い出したらしく、姿勢を正して返事をしたあと、怯えながらオレ達を案内してくれた。


「あ、あのグァルバ殿が、ああまで一方的に……」

「おそらく、同格あるいは自分より格上の相手とあまり戦った事がないのでしょう。隙や無駄が多すぎます」


 信じられないと呟くリートディルト嬢に、冷静な表情でリザが告げる。


 そりゃ、リザはタイプの違う戦い方をするポチやタマと実戦さながらの修行を毎日している上に、たまにオレやヒカル、それに黒竜ともスパーリングをしているんだから、強くもなるというモノだ。

 どんなに大怪我をしても、孤島宮殿にストックしてある上級魔法薬やエリクサーを使えばすぐに状態復帰できるのも大きいかもね。


「こちらの扉の前でお待ち下さい」


 黒い謎合金製の扉の前まで来たところで、侍女が足早に扉前の近衛騎士の所に駆けていく。

 この騎士達はリートディルト嬢達宮殿騎士団テンプル・ナイツとは違う部署のようだ。


 オレはメニューを操作して、皇帝の情報を得る。

 レベルは40ほどで、さほど高くはなく、スキルも政治向けの交渉や折衝関係のスキルがほとんどで、警戒すべきは事前情報であった「強制ギアス」スキルくらいのものだろう。


 ――いや、マダある。


 皇帝のステータスに、「特殊能力(アビリティ)」欄を見つけた。

 彼の持つユニークスキルは「幸運招来(ラッキー・スター)」と「不運撃退リフレクト・アンラッキー」の二つだ。


 どうやら、イタチ皇帝も転生者だったらしい。


 なぜ情報を隠蔽していないのかは気になる。

 彼の「強制ギアス」スキルは有名だし、隠す意味がないのかもしれない。


 念の為、リザとゼナさんに精神魔法の「精神抵抗強化エンチャント・スピリッツ・プロテクション」を重ね掛けしておく。

 劣化ラカ制御による自動防御型のアイテムもあるけど、皇帝の「強制ギアス」対策にはこの魔法の方が強力な気がするんだよね。


「ここから先は武器をお預かりいたします」

「分かった」


 オレは腰にさしていた飾り用の魔銃を近衛騎士に手渡す。

 ゼナさんとリザは謁見室前の控え室で待たされるそうなので、武器はそのままだ。


「シガ王国の使者クロ殿、皇帝陛下の御前まで進まれよ」


 シガ王国の謁見の間よりも奥行きの深い広間へと足を踏み入れた。


 広間の奥には皇帝の権威を示すような巨大な玉座がある。

 その玉座に座る紫色の体毛をしたイタチ皇帝も、また巨大だった。


 ――主に横にだが。


 これまでに太った人は数多く見てきたが、イタチ皇帝はかつての同僚のメタボ氏はおろか、両国国技館で見た本物の力士と比べても遥かにヘビー級だ。


 少なく見積もっても、常人の三倍は横幅がある。


「――つまり、シガ王国はあやつの後ろ盾となるのだな?」

「肯定する。全てはその手紙に書かれてある通りだ」


 王弟からの独立宣言を読み終えた皇帝が周りに分からない程度の小さなため息を吐く。

 そして聞き耳スキルでも聞き取れないほどの小さな声で「やはり、そちら(・・・)選んだ(・・・)か……」と唇が動くのが見えた。

 どうやら、王弟が独立宣言をする事を、皇帝は予想していたらしい。


「なんと! シガ王国はデジマ島を切り取るつもりか!」

「おのれおのれ、かくなる上は無敵の飛空艇部隊でシガ王国の王都を急襲してくれるわ!」

「しかり! カガクを用いずとも、宮殿騎士団テンプル・ナイツを半分も投じれば、マキワ王国に現れた竜騎士が介入してこようと我らの勝利は動かぬ」


 謁見の間にいたイタチ人の大臣達が、デジマ島独立を聞いて色めき立った。

 どうも、国外のイタチ人達と違って、帝国内のイタチ人は短気というか頭に血が上りやすい人が多い気がする。


 なぜか、矛先がデジマ島を通り越してシガ王国に向いているのが面白い。

 もしかしたら、イタチ帝国の大臣達にはシガ王国へのコンプレックスでもあるのかもしれないね。


「プテポ将軍を呼べ」


 イタチ皇帝の言葉に、侍従の一人が足早に広間を出ていく。


 ――やはり、戦争は避けられないか。


「プテポ将軍だと?」

「家柄だけの無能に征伐を任せるおつもりか?」

「デジマ島の制圧だけなら、いかに無能とはいえ、可能であろうが……」


 なかなか辛辣な評価だ。


 しばらくして、慌てて礼服を着込んだようなチグハグな格好でプテポ将軍らしき人物が現れた。

 小太りで小物そうなイタチ人だ。


「陛下、お呼びにより参上いたしました」

「デジマ島が独立を宣言した。貴公の第三軍を鎮圧に向ける」

「王弟殿が反乱ですと! このプテポ、デジマ島全てを焼き払い、生ける者のない地獄にしてご覧にいれましょう」

「無用な殺生は不要だ。弟だけを確実に捕縛あるいは――討て」

「陛下のご下命、しかと承りましてございます」


 プテポ将軍が演技臭い大げさな動きで、イタチ皇帝の命を受ける。


「「待たれよ、陛下!」」


 声を揃えて謁見の間に入ってきたのは、宮殿騎士団テンプル・ナイツの礼服を着た獅子人と虎人の二人だ。


「ギルゼム卿とダゼリム卿か……」

「あの乱暴者の事だ。自分たちにも手柄を立てさせろとねじ込みにきたのだろう」


 暴力的なオーラに包まれた二人は、大臣達の陰口通りの雰囲気だ。


「無能な将軍にやらせて負けたら、陛下の威光に傷が付く」

「我らに任せれば子飼いの小隊だけで始末してみせる」


 獅子人のギルゼムと虎人のダゼリムが、筋肉をアピールするようなポーズで皇帝に訴える。


 きっと、イタチ帝国で流行のスタイルなのだろう。

 いやはや、異文化コミュニケーションは難しい。


 イタチ皇帝が再び周りに見えないように小さくため息を吐いて、「バカモノ共め」と小さく呟くのを「聞き耳」スキルが拾ってきた。


「余はプテポ将軍を信頼しておる。彼ならば余の希望通り(・・・・)の仕事をしてくれるはずだ」


 イタチ皇帝の言葉に二人の武人が渋面になり、プテポ将軍が自尊心を満たされて満面の笑顔になる。

 だけど――「希望通り(・・・・)の仕事」ね。

 勝つと明言しないあたりに、皇帝の思惑が見え隠れする。


「それにお前達、宮殿騎士団テンプル・ナイツには相応しい戦いがある。それまでは切磋琢磨して強さを求めよ」


 そう言って、イタチ皇帝が不満そうな二人をフォローする。


「郊外の人造迷宮に新たな区画を造った。お前達で攻略して改善点を洗い出せ」


 皇帝が指示すると、侍従が卵大の宝玉が載ったお盆を二人の前に差し出す。


 あれは「転移石」というアイテムのようだ。

 名前通りのアイテムなら、ぜひとも製法が知りたい。


「承知!」

「腕が鳴るぜ」


 嬉々として「転移石」を受け取った二人が、皇帝に敬礼をして謁見の間を辞した。


 さて、そろそろイタチ皇帝と面会しにきた本題に入ろう――。


 カガクと禁忌の話をしないとね。


※次回更新は 10/9(日) の予定です。



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