15-21.ぶれいんず
※2016/9/26 誤字修正しました。
サトゥーです。バカと天才は紙一重と言いますが、現実で天才に会ったことがないので真偽の程は不明です。もっとも、無数のバカの中から一人の天才を探すのは不可能な気がします。
◇
「面白みのない直方体の建物ですね」
「これが『ぶれいんず』の本拠ですか……」
リザとゼナさんがブレインズの本拠を見上げて呟く。
研究所かビジネスビルのような外観だ。
入り口には二人の宮殿騎士団所属の騎士がつまらなさそうな顔で立っており、こちらというか護衛官を睨み付けている。
護衛官の所属する内務省と宮殿騎士団は仲が良くないらしい。
「あー! 来た来た! ミコっち、アレックス来たよ!」
ガラス扉の自動ドアが開くのももどかしい様子で、ここ数日で見慣れた黒髪娘が腕をブンブンと振ってきた。
黒髪娘の後ろには紫髪の転生者が三人ほどいる。
そのうちの一人はオレをココに招いてくれたトミコだが、AR表示によると残り二人はここの所長と副所長らしい。
「へー、彼がシガ王国の使者の俳優さんか」
「所長、シガ王国は貴族への礼儀が厳しいと聞きます。あまりざっくばらんなのはおやめになった方が良いでしょう」
「えー、なんだか面倒だね」
白衣を着た所長が天使の笑みを曇らせる。
もっとも、幾ら美形でも所長は男性なので、美貌が曇っても心が動かされることはない。
AR表示される詳細情報によると人族の彼はレベル41で、驚くべき事にスキルを隠蔽しておらず、「万能製図」と「精密加工」というユニークスキルを持っていた。
他にも生産系のスキルを色々と持っているようだ。
副所長の方はスキルを隠蔽しているのでよく分からないが、腰に差した大小の日本刀からして近接系のスキル構成と思われる。
「シガ王国のクロだ。爵位を持たぬ只の使者ゆえ、我への畏まった敬語は不要だ」
普通に会話できる距離まで歩み寄ったところで、こちらから名乗りを上げる。
「あれ? さっきの聞こえちゃってた? 所長のケンジ・オーレリアンだ。なんだか偽名みたいだけど、今生のちゃんとした本名だから、そこんとこよろしく」
所長は思った以上に軽いノリの人らしい。
なお、AR表示される彼の名前は「ケンジ」となっていた。
それなのにオーレリアンという家名を付け加えるのは、転生後の家族を大切にしているからだろう。
軽くお互いの挨拶を交わしたあと、彼らに案内されながら館内を歩く。
なお、ザクガ護衛官は早々に隔離されてしまったので、ここにはいない。
「明るい――光粒を使っているのか?」
「いやいや、アレは『LED』だよー」
オレの問いに所長が軽い口調で答えてくれる。
「えるうぃーでぃ?」
ゼナさんの発音がなんとなく可愛い。
「カヅラさんがいなくなっちゃったんで、頑張って再現しないと補充できないんだよね」
「惜しい人を亡くしたものだ」
トミコの発言に、大して惜しくもなさそうに副所長が答える。
「レアメタルが合成できる便利なユニークスキルを持った転生者が見付かったら手っ取り早いけど、皇帝陛下の勅命で商人達が世界中を探しても新しい転生者発見報告はないから、もう無理かもね」
なるほど、イタチ帝国に転生者が多いのはそういうワケだったのか。
「材料さえあったら、ボクか佐伯さんなら作れるんだけどねー」
マップ検索で確認したが、佐伯さんというのは特にスキルを持っていないレベル一桁の人だったので、元の世界でLED関係の開発をしていた技術者なのだろう。
そうだ、一つ確認しておかないと――。
「LED照明という事は発電機があるのか?」
「うん? あるよー。でも、ガソリンはカヅラさん頼みだったから、今は電気亀や電気蛙が放電したのをバッテリーに貯めて使っているんだ」
「魔物に発電機代わりをさせているのか――」
納得しかけて、今の発言が冗談だと気がついた。
「――嘘だな? 蒸気タービンを回すだけなら、普通に石炭でもよかろう?」
「もー、気付くの早いよ。せっかく、見学者用のダミー発電室があるのにー」
頬を膨らませて怒る所長を、副所長と黒髪娘がうっとりとした顔で愛でている。
トミコだけはそんな三人を冷めた目で見ていた。
広い廊下の片側には幾つものガラスケースが並べられ、電子レンジや電話機など、色々なモノが陳列されている。
「珍しいモノがいっぱいですね」
「これはイタチの作った物ではなく、日本の品々のようです」
驚くゼナさんに、リザがシガ国語でそう答える。
オレがガラケーやアリサの話す品々を幻影魔法で見せていたおかげで、ゼナさん達よりもリザ達の方が日本文化に詳しい。
「その辺はカヅラさんが召喚した品物だねー。まだまだ再現は無理なモノがほとんどだよー」
所長が若干悔しそうに告げる。
彼のユニークスキルでLSIの設計図を作れたとしても、それを作るだけの設備がないのだろう。
しばらく廊下を進むと、左側の壁が一面ガラス張りとなり、さっき彼が言っていたような電気亀と電気蛙が発電する場所を通った。
「ここは研究のパトロン達に説明する為の部屋だよー。ヘタに火力発電を見せちゃうと、蒸気機関車を改造して発電するヒトも出てきそうだからさー」
イタチを侮っているのかと思ったが、彼はイタチ人族をそれなりに警戒しているようだ。
「建造中の大型の火力発電所が動いたら、イタチ帝国は現代日本みたいに夜も明るい場所になるよ。電線や電話線を通すのは大変だから、都市毎に発電所を作る必要があるけどねー」
「素晴らしいです、所長。帝都全体が科学の恩恵を受けるのですね」
副所長がマジメな顔つきのまま、パチパチと小さく拍手する。
「神々の禁忌については知っているか?」
「うん? もちろんさー」
オレが小声で所長に問い掛けると、彼は平然とそう答えた。
笑顔で前を向く彼の目だけが笑っていない。
「あそこの黒い建物が見えるかなー?」
所長が小さい窓から見える隣の大きな建物を指差す。
オレが首肯すると、「あそこにはニューでクリアな兵器があるんだよ」と告げた。
マップ検索したところ、建物の中には各種現代兵器――驚くべき事に原子力潜水艦まで存在していた。艦内には核マークの付いたSLBMまであるようだ。
たぶん、イタチ魔王のユニークスキルで召喚したヤツだろう。
メンテナンスをどうやっているのか気になるが、おおかた固定化の魔法で現状を維持しているに違いない。
「核で神を脅すのか?」
「地上に太陽を作れるくらいの攻撃ならなんとかなるでしょー」
オレの脳裏に聖剣で傷一つ付かなかった「神の欠片」が過ぎった。
「無駄だ。神に物理攻撃は効かない」
「へー、まるで戦った事があるみたいじゃない?」
所長が目を細めてオレに向き直る。
いつの間にか、トミコと黒髪娘がいなくなっていた。
どうやら、オレと所長の会話に気付いた副所長が二人に用事を言いつけて追い払ったらしい。
「我が主の話では、魔王すら斬り裂く聖剣でも『神』に干渉すらできなかったそうだ」
「ふーん、シガ王国の勇者ナナシはなかなかロックな人生を歩んでいるんだねー」
所長が微妙に哀れみを込めた声で言う。
オレとしても、できれば暢気に観光だけをしていたいよ。
「まー、それはともかく、神様関係はトウヤさんがなんとかするっしょー」
「軍師トウヤと親しいのか?」
「あははー、冗談でも止めてよね」
オレの問いに、所長が笑いながら答えるが、冷え冷えとした彼の瞳が雄弁に両者の関係を物語っている。
「あの人は正面から正々堂々ってタイプでもないし、神様を倒すために君の主人や名前を出すのも嫌がられるアレをぶつける気なんじゃないかなー?」
所長が小さな窓から空を見上げながら告げる。
アレってどれだろう?
サガ帝国の新勇者でもないだろうし、「名前を出すのも嫌がられるアレ」という言葉から連想できる神々に対抗できる存在と言えば――なるほど、アレか。
所長の見上げる昼の空には、白い月が微かに浮かんで見えた。
◇
「――あれは?」
「加速器のモックだよー」
中庭に作られた円環状のオブジェについて問うと、そんな答えが所長から返ってきた。
「あれはね。魔素の正体を知るための研究に使うんだ」
――魔素の正体?
「ボクはね。未知なモノが許せないのさ。魔素が分かったら次はスキルやレベルなんて非科学的なモノがある理由を調べて、最後は――」
所長がマジメな顔でそう告げ、オレの耳を引き寄せて「神の正体を調べたいんだ」と最後の言葉を告げた。
「今のはみんなにはヒミツだよー。まだ誰にも言った事無いんだからさー」
所長が冗談めかして告げると、彼の後ろに静かに控えていた副所長からどす黒い怒気が巻き起こった。
怒気に反応して、副所長を威圧し返すリザの肩を叩いて自重させる。
それにしても……。
魔素の正体の研究といい、所長は本当に科学者らしい。
エンジニアのオレとは考え方の根本が違うようだ。
「でもねー、この世界には邪魔が多くて実験も大変なんだよー」
加速器のモックを眺めながら彼が告げる。
「あの加速器は全長10キロメートルくらい必要なんだけどさ、地上だと魔物が多くてすぐ壊されちゃうんだよね」
「煙車のレールはもっと長いだろう?」
「あははー、クロさんてば面白いねー。機関車のレールくらいだったらすぐに直せるけど、加速器はそういうワケにはねー」
所長が笑顔で軽蔑の視線をオレに向ける。
「発射実験をしているロケットが静止衛星軌道まで上げられるようになったら、後はすぐなんだけどねー。幸い、仲間に無限収納持ちがいるから部品を宇宙にあげてもらったら打ち上げ回数も少なくてすむし。こういう所はファンタジー世界のいいところだよね」
彼の研究には少し興味があるし、オレが協力すればすぐにでも実験可能なのだが、明らかに神の禁忌に触れる事をしそうなので、自重して申し出る事はしなかった。
――どうして自重するの? やりたいならやればいいのに。
そんな悪魔の囁きが脳裏に聞こえた気がしたが、曲がりなりにもこの世界を作り上げた者達の決めたルールを逸脱する気はない。少なくとも自分自身や親しい仲間達の為以外では。
それに――。
「えええーっ! 宇宙にも魔物がいるの?!」
「エルフ達は怪生物と言っていたが、大怪魚トヴケゼェーラ級のが沢山いるそうだ」
「マ、マジかー……くそう、神は死んだ!」
所長の怨嗟の声に、思わず二柱ほど死んでいると言いかけたが、彼はそんな答えを望んでいないだろうから、彼を慰める役は副所長に任せる。
そこにトミコ達が戻ってきた。
「所長、どうしたの?」
「少しショックな事があったみたいだ」
気分が悪くなったと言って自室に戻った所長に代わって、以後の案内はトミコ達がしてくれた。
くせ者は所長だけだったようで、他の所員は町工場のお爺さんやくたびれた中年エンジニアなどの普通の人達だった。
「――元の世界に帰りたいかって?」
オレの問いが意外だったのか、食堂で歓迎会を開いてくれていた人達がシーンとしてしまった。
「冗談でも止めてよ」
「だね。来た時にも問われたけど、あんな世界に戻るのはゴメンだ」
「こっちはご飯も美味しいし、贅沢もできるし、家も自家用車も、なにより定職もあるからな」
「嫁はマダだけど、綺麗で甲斐甲斐しいメイドさんやまだ見ぬエルフや猫耳娘もいる世界から帰るなんて考えたくもないよ」
どうやら、イタチ帝国で召喚された人達は召喚時に意思確認があったらしい。
ここにいるのは好待遇に喜ぶ人達がほとんどで、帰る気のなさそうな人達ばかりだ。
「そういう問いはスラム街に堕ちていったヤツらに聞いた方がいいんじゃないか?」
中年エンジニアの話では、ここで必要とされる技能やアイデアもなく、雑用も拒否した若年層の人達がスラム街の炊き出し頼りの路上生活をしているらしい。
ここを飛び出した日本人の多くは、街での暮らしにも馴染めずにそのコースを辿る者が多いそうだ。
「あいつらは自分を哀れんでいるだけだから、関わらない方がいいぞ?」
そう言われたが、一応自分の目で確認する事にした。
◇
「――神の天罰は近い! 人々よ! 神に祈り、慈悲を請うのだ!」
スラム街までやってきたオレの耳に、そんな説法の言葉が飛び込んできた。
そちらに視線を向けると、枯れ木のようなイタチ人の老神官が狂気に満ちた目を爛々と輝かせながら声を張り上げていた。
口から炎でも吐きそうな感じだ。
「あの聖印はザイクーオンのモノです。ご命令戴ければ、始末して参りますが?」
リザが嫌悪感を隠さずに、老神官を睨み付ける。
セーリュー市でザイクーオンのデブ神官に痛めつけられた記憶が蘇ったのかもしれない。
「いや、その必要はない」
オレが指差す方向から、数人の官憲が走ってくる。
「ボドラゾーグ尊師、皇帝の手先が!」
「転進するぞ! 敬虔な若者達よ、我に続け!」
老神官が10人ほどの若者を引き連れて路地裏に身を翻した。
彼と一緒に逃げ出した若者の中に、オレが探しに来た転移者がいる。
どうやら、スラム街で炊き出しを待つのではなく、宗教に傾倒してしまったらしい。
なかなか業の深い事だ。
もちろん、宗教に傾倒せずに路上生活をしていた転移者も何人かいたが、無気力過ぎる彼らとは会話が成立せず、意思確認以前の段階で躓いてしまった。
オレがボランティア精神溢れる人格者なら、ここに通って彼らが心を開くまで待つのだろうが、残念ながらオレは偽善的な凡人なので、これ以上付き合う気は無い。
もちろん、彼らの方から頼ってきたら別だけどさ。
そして戻った屋敷にはリートディルト嬢が訪れていた。
「クロ! 皇帝陛下のお召しだ! 宮城へ向かうぞ!」
リートディルト嬢がオレの腕を掴んでぐいぐいと引っ張る。
鎖国しているせいだと思うが、いつもながら彼女には国外の要人への配慮というものがないようだ。
「これからすぐか?」
「そうだ! 陛下をお待たせするわけにはいかん。そのままの格好でいいからついてこい」
思ったよりも皇帝はせっかちらしい。
さて、皇帝との謁見と行きますか――。
※次回更新は 10/2(日) の予定です。
※ComicWalkerのコミック版デスマも更新されているようです。
ナナ達姉妹が登場している回なので宜しかったらご覧下さい。
※核物質が気になってしかたない人は「11-16.地下帝国の戦争」をもう一度読むと幸せになれますよ。
※2016/9/27 ゲーム化するようです(RPGゲーム制作ソフト「RPGツクールVX Ace」により制作)
http://kadokawabooks.jp/1stAnniversary/







